●リプレイ本文
験の悪い事はどうも続く傾向があるようである。
李一族は上海で名家の類に入る為公式訪問の際にそれなりの服装が要求される。
カメラクルーなら‥と思ってしまったのが二人の失敗だろうが、つなぎ/榊兵衛(
ga0388)とだぼTシャツ/ミルファリア・クラウソナス(
gb4229)が、先ずエントランスで止められた。
「俺、セーフ?」とドキドキするブレザー/フォルテ・レーン(
gb7364)。
老執事の対応は丁寧であるが、絶対譲れないという態度が現れていた為にミルファリアは服と髪を整え、兵衛は取材中は調理場で待機をするならば。という条件の下、邸内に入る事を許された。
が‥‥この依頼、どうも傭兵が行方不明になったりと。始めから験が悪いようである。
手荷物検査でも──
(「借りモンだってのに、傷ついたらどうすんだよっ!」)
カメラを容赦なく弄繰り回す警備員をハラハラ見つめるフォルテ。
逆に(「出番なしだな」)と苦笑いをするのはオルランドである。
いざという時は、不審そぶりで目晦まし役をするつもりだったが、警備員達の注目を集めているのは女装姿のアジド・アヌバ(gz0030)である。
アジドの女装をフィルト=リンク(
gb5706)は「違和感がなさすぎ」と評価し、
OZ(
ga4015)は「カマ野郎の引っ掛けついでに金庫のありかと番号も聞きだしてよ♪」と笑い、
「いや〜派手などっきりになりそうだな」とフォルテが感心する程だったが、
既にぐったりとしているアジドを見ると「あれで大丈夫か?」と心配になってくる。
「今日のお仕事は、NGなしで行きたいね」
「『本人』を確認するまでは頑張ってもらうしかないだろうな」
オルランド・イブラヒム(
ga2438)は言いながら十字架を玩びながら答えた。
「‥居場所を再利用とは不謹慎極まりない俺に比べればマシだろう」
***
「こちら『中継車/3班』、聞こえますか?」
中継車両に偽装した指揮車で待機する番場論子(
gb4628)が、マイク感度を確認する。
『‥‥問題なく聞こえる』
アルヴァイム(
ga5051)である。
『どうやら、妨害電波とかなくて安心したよ』
「状況はどうです?」
『とりあえず、超豪華なトイレに感動しているよ』
どうやら入り込んだ1班はトラブルもあったが、ここまでくれば腹を括るしかない。とリラックスしているようである。
『こちらは2班、リュウセイ(
ga8181)。スタンバイOKだ』
3班は指揮車/中継車、突入部隊、屋敷の外壁を壊す車両、監視(Loland=urgaを含む)らによって構成され、導入されている人数は準備期間を含めれば延べ1000人を越えている。
李には国家背任罪の他、多数の容疑が掛かっているのでしょうがないのかもしれないが、それ故に難しい部分も有る。
(「気を引き締めて頑張りましょうか‥‥」)
●
上海政府が用意した調印書面内容を秘書が内容を確認した後、李に書類を手渡す。
その様子をカメラが追いかける。
映像を元に行った顔認証の確率は98%だったが、骨格は76%と低い。
これでは背格好の似ている人物を整形手術した偽者であっても見分けが付かない状況である。
「声紋鑑定をします。李にインタビューしてください」
マイクから拾われる音声をコンピュータが判別する僅かな時間が長く感じられた──。
「結果が出ました。1班の前にいる人物を李、本人と確認。各人、タイミングに注意してください」
GOサインである──
先ず、李邸の裏に位置する通りで偽装事故が起こった。
規制線が引かれ、横転したトレーラーを引き起こす為のクレーン車と火災に備えたポンプ車が駆けつけた。野次馬が遠巻きにする中、ポンプ車から壁に向かって放水が始まり、クレーンのフックが李邸の壁に食い込み引き倒した。
それを合図に横転したトレーラーの後部から武装した部隊が現れ、内部へと突入を開始する──。
●
高い壁と樹に囲まれた李邸内にも外の騒ぎが聞こえていた。
そ知らぬ顔をして「なにやら騒がしいですね」とインタビュアー/オルランドが呟く。
警備から連絡を受けた秘書が李に耳打ちをする。
「どうやら事故らしい。君らも他社にスクープを取られないように早く取材を終えたいかな?」
プロデューサー/アルヴァイムが合図を言う。
「気にならないといえば嘘になりますが‥では、本日の取材はこれにて──」
「私から質問が1つだけ」
記者/UNKNOWN(
ga4276)が手を上がった。
「緊張するが‥‥タバコはいいかね?」
一瞬身構えるボディーガード達を気にした様子もなくタバコを咥え、火をつける。
「──個人的な興味だが‥‥」
(「さて‥面倒な演技は終わりですわ‥」)
AD/ミルファリアが、逃げ道を塞ぐ為静かにドアの方へと移動する。
「それは後で話そう──」
UNKNOWNが目を瞑ると同時に閃光弾のような激しい光が部屋を包んだ。
網膜を焼く激しい光がボディーガード達の動きを遅らせる。
樫の大机を一気に踏み越え、フォルテの肘がボディーガードの鳩尾に深く突き刺さり、アルヴァイムが本で殴りつけた。
「本にしちゃぁ随分頑丈だな。覚醒が遅れたら頭が飛んだぜ?」
グキグキと首を鳴らし、アルヴァイムに吹っ飛ばされた男が立ち上がる。
体を低くしたまま一直線に李に進むUNKNOWNを止めたのは、秘書の女だった。
「驚いた?」
「いや‥」
UNKNOWNを軽々とフォルテに投げつける女。
ボディーガードの腕をねじ上げていたミルファリアが叫ぶ。
「すぐに応援が来ます。投降しなさい!」
「予想内よ。もっとも予想以上に大掛かりなのには驚いたけど」と女が笑った。
女の一閃が壁を切り裂く。
「逃げるわよ」
「わ、私の家が‥!」
「クズのクセに、ごちゃごちゃ言っていると殺すわよ」
「彼らに李を殺されたら終わりですわ!」
人類側の手で李を逮捕もしくは殺害する事に意味があるのだ。とアジドが繰り返した事を思い出し、ミルファリアがパラソルを手に前に出る。
「収録内容、変更かよ!」
開いた片手で衝撃波を放つ女。天井が抜け、2Fの床、調度品と共に李の邸宅で寝泊りする男女が悲鳴をあげて落ちてきた。思わず扇でカメラを庇うフォルテ。
「貴様ら、それでも人間か!」
「クズに集るしか能が無い奴なんてカスよ。でもカスでもこういう時は役に立つのよね」
「私達が情に流されると思っているのか?」
「何処までその強がりが通じるか楽しみにしているわ」
瓦礫から這い出てきた少女の腕を斬り落す女。
耳を覆いたくなるような悲鳴が上がる。
「ここにはカスが50人近くいるから‥‥」
女が短く口笛を繰り返し、どこかにいるキメラを呼ぶ。
「3日程、エサを抜いているから最高に凶悪よ」
「貴様らを倒して、キメラを倒す。それだけだ」
調理場で張り付く警備員をなぎ倒してきた兵衛である。
「‥ダメージは与えられずとも、足止めくらいは出来るのでな。しばらく俺とのダンスに付き合って貰うぞ」
おたまを構える兵衛を見て、馬鹿にしたような笑いを浮かべる女。
「格好は悪くとも最低限の仕事はさせて貰おうか」
「さっきは本。今度は傘におたま‥あんた達ってやっぱり理解不能だわ」
「悪いが‥槍しか使えないような修行は積んできていないのでな。覚悟してもらおう」
●
時間は少し戻る──。
「臭い‥‥ですね‥‥」
判っていても、つい言ってしまったのはアリエーニ(
gb4654)。
「下水がこんなに臭いなんて聞いていない〜。プレスの連中に比べてなんか不公平だよね」と狐月 銀子(
gb2552)が言う。
「少しは匂いが気にならなくなりますわ」
そう言ってハーブティーを勧めるInnocence(
ga8305)。
ちっとも優雅ではないティータイムである。
「何でもいいから早く始まらないですかね‥‥なんだか本当に臭いが染み付きそうで‥ハァ‥」
「帰ったらお風呂ですっ! じっくりゆっくりたっぷりお風呂なのですっ!」
待機が始まってから続くグチのルーチン──
それを断ち切ったのは、論子からの無線である。
『1班の前にいる人物を李、本人と確認。各人、タイミングに注意してください』
「ほら、GOサインですよ」
「待ってました」
「いくよ、ノーリ。頼りにしてるっ」
アリエーニが愛機を撫で、inoccenceが小さく拳を握って気合をいれる。
突入のカウントダウンが始まる──
「唸れ、俺のドリルっ! 壁を貫くドリルとなれぇぇぇぇっ!」
ドリルナックルと一撃が下水道と李邸内へと続く秘密の通路をつなぐ外壁を崩し、大量の埃を撒き散らす。
穴を押し広げ、入る2班の前に広がる薄暗い通路は、左右に続いていた。
公安の調査が正しければ左は邸内へと続き、右は未調査エリアである。
お宝があるなら右だろうと、右を選らぶOZ。
「私も右。キメラを取り逃がせば多くの命が犠牲になりかねないから‥突入は任せるよ?」と皇 流叶(
gb6275)。
「‥‥迷子になったらどうしましょう‥‥」
ルクレツィア(
ga9000)の服の裾をしっかり握ったInnocenceが不安そうに言う。
「私が‥探査の眼でしっかり‥みますから‥大丈夫です‥」
「一緒にAU−KVに乗れば迷子にならないから、大丈夫♪」と銀子が言う。
「俺は左。AU−KVの3人は先に行かなきゃならないからな」とリュウセイ。
左:リュウセイ、Inoccence、ルクレツィア、銀子、アイエーニ、フィルト
右:OZ、流叶
プロテクト形態からバイク形態にAU−KVが変化し、タンデムシートに徒歩の3人をそれぞれ乗せる。
「飛ばしますよっ! 舌噛まないで下さいねっ?」
人手が足らなくなったら応援を呼ぶ事を確認し、左右に分かれて進んでいった。
●
「すげぇ‥‥流石の俺様もこれには、ちっと及ばない感じだぜ」
OZ達が見つけたのは、原形を留めない遺体の山に埋め尽くされた部屋である。
備え付けられたプールは赤黒く淀み、犠牲者達の血で出来た池のようである。
覚醒により流叶の口調が変わった。
「そう遠くに入っていないはず‥邪魔者は此方で対応する‥いいか?」
「それはいいけど‥なぁ、俺達が入ったドアは何処に行った?」
「何を馬鹿な‥」
OZの示す方向には壁があるだけである。
「『何もない』場所に‥部屋や通路がある可能性があるな‥」
ズル‥ ズル‥
後ろで何かを引きずる音がする。
振り向くOZと流叶の目に飛び込んできたのはオオサンショウウオに似た体長4mの生き物だった。
「‥潔く御出ましかい? だが、悪いね? ‥暫し、付き合って頂こう」
刀を振るう流叶、それに対して弾をばら撒くOZだったが、モドキは体表がヌルヌルしている為か効果が薄い。
怒ったモドキが酸を吐き出し、部屋の内部に異臭が立ち込める。
「ったく、生意気な両生類だぜ」
「此処は任せて先へ‥襲撃が此れ一つとは限らん!」
「んじゃあ、お言葉に甘えて‥って言いたいけど、出口を作ってくれよ」
「手間が掛かる人だな」
「それはバグアか李に言ってくれ」
「‥判った、次で決める。援護を‥」
「OK」
OZがモドキの気をひきつけている間、集中する流叶。
「‥外さない。神の炎‥伊達でない事を─知るが良い!」
●
AU−KVが、走る何かを追い越した。
「なに、あれ‥」
カバのような大きな口にワニのような歯がびっしりと生え、サイのようにくるくると動く耳と硬い皮膚、そして不似合いな小さなつぶらな瞳を持つ奇妙なキメラがいた。数tはありそうな巨体を揺るがせ走ってくる姿は笑えるが、トラックに追いかけられるのと変わらない。
「‥あいつ、どっから出たのよ?」
ここまで途中分岐が1つあったが、それ以降、数箇所角はあったが一本道である。
「私達が知らない隠し通路があるかもしれませんね?」
フィルトの心配が的中したようである。
途中で更に「何か」と遭遇する可能性があるが、ここで戦うべきか? と顔を見合わせる。
論子が中継する1班の状況は熟練者が揃っているのにも係わらず、強化人間らが平然と弾除けに民間人を使う為にかなり悪い。
リュウセイ、Inoccence、ルクレツィアがAU−KVから降りた。
「1班の連中が待っているっ、後は任されたぜ!」
「皆、任せるわよ。また後でね〜♪」
見るからに頑丈そうなキメラを分析したルクレツィアがこう告げる。
「眼は余りよくないようです‥‥どうやら鼻や耳で‥私達の位置を‥判断していると思います」
これではペイント弾での攻撃は余り効果がないだろう。
「ですが‥逆を言えば、眼と鼻をつぶせば‥自爆の可能性があります‥」
戦闘経験の少なく緊張するInnocenceに「気楽に行こう」と言う2人だった。
***
先を急ぐAU−KV組の行く手を遮ったのは、B1Fへと続く部屋での戦闘であった。
その部屋を通り抜けなければ邸内に入り込めないのだが、別目的で入り込んだ傭兵らと強化人間が戦っていた。
どうやら行方知れずになっていた傭兵もいるようである。
予定外の戦闘であるが避けて通れない以上、やるしかない。とプロテクト形態へと変形する。
アリエーニが閃光手榴弾のピンを抜き、部屋に投げ込む。
「目を瞑って!」
光が部屋を覆う中、一気になだれ込む3名。
所詮多勢に無勢。強化人間を一気に倒す。
負傷者がいる事を論子に伝え、1班との合流を更に急ぐのであった──。
●
簀巻き状態の李を公安に引渡した傭兵達が風呂待ちの為にミーティングルームに戻ってきた時、部屋の中では押収品の分析が始まっていた。
「『そちら』は駄目でしたか──『次』を考えましょう」
そう言って通話を切るアジド。
OZと流叶の証言の下、地下通路を重点的に調べた結果、新たに通路と部屋が発見された。
そこで発見されたものは、大量の遺体、そして違法薬物や横流しと思われる武器だけであった。
バグアと関わりあった証拠はキメラと強化人間の死体だけ。
優秀な弁護士がついた場合、親バグアを立証するのは難しくなってしまったが、通常刑で有罪にできる証拠が確保でき、捕まった傭兵も救出できたのだから、これで『良し』としなくてはいけなのだろう。
実際、逮捕に協力したメンバーらは予想外の事態を乗り越えよくやったのだから──。
「‥はい、アジドお兄様もどうぞですわ♪」
絶対、持って帰る。と駄々を捏ねるフォルテから裁判提出証拠だと取り上げた取材テープとOZがちょろまかそうとした押収品を横目にInnocenceに礼を言い、ハーブティを受け取るアジド。
「あの‥1ついいですか?」
ルクレツィアとアリエーニの2人が真面目な顔をしてアジドに尋ねる。
「なんですか?」
「「あの‥‥アジドさんは、男の方‥ですよね??」」
UNKNOWNからの借り物(チャイナドレス)に噴き出すアジドであった。