●リプレイ本文
●各自的想法
ユリア・ブライアント(gz0180)とキースが会う約束をした埠頭近くの公園に片手に土産袋を提げた観光客を装って下見にやってきた麻宮 光(
ga9696)と星月 歩(
gb9056)、ウォンサマー淳平(
ga4736)。
園内に動植物園や遊具もあり、観光施設でもあるとは聞いたが──小さいジェットコースターや観覧車があったりと予想以上に大きかった。
「まあ、カップルや観光客が多くていいけどね」
入り口で光・歩、淳平と二手に分かれ園内を捜索する。
調べる場所は広範囲である。
出入り口や2つある駐車スペース、
公安が保安上設置した監視カメラの位置、
待ち合わせ場所の東屋を中心にキースがやってくるだろうルート、
鳴神 伊織(
ga0421)らが指摘した埠頭周辺の状況や逃走ルート、
そして第三者介入を想定して自分達と同様に下見に来ている者や罠がないか等、盛りだくさんである。
「まず観覧車からですね♪」と光の腕を掴む歩。
「おい、歩。俺達は依頼で来ているんだぞ」
「怪しい人がいないか上から確認です。お兄ちゃんは作戦のことで頭が一杯ですから、今日は、私が園内の隅々までフォローします」
マーカーを手にガサゴソと園内の案内地図を広げる歩だった。
──時間は、少し戻る。
上海市内にあるユリアのアパート──
ユリアは今回、キース確保について友人らに連絡をした訳ではない。
あくまでもULTへ依頼である。
「そこがそもそも可笑しいです。それにシンの件を考えると何処か違和感を感じるです」というシーヴ・フェルセン(
ga5638)に空閑 ハバキ(
ga5172)が頷く。
シンというのは、ユリアとキースと同じ組織に所属していた男であったがバグアの裏切り者としてキースが殺した男であった。
「ユリアはキースと連絡が取れたって言ったけど、キース『から』連絡が来たんじゃないんだよね」
ずっとユリアはキースを探していたが、キースからは一度もユリアに連絡が無かった。
「会えるのなら‥今度こそユリアの傍へ帰ってきて欲しいです」
「ユリアは何か隠している‥‥背負い込んでいなきゃいいけど」とハバキが言う。
ユリアがお茶を煎れにキッチンに立っているのを確認してシーヴが言う。
「それに──今のキースは正気を失ってやがるのかも」
ナタラージュの事、
以前接触していた李という親バグアの邸宅で薬物を投薬されていた姿を見た事、
異常行動が薬物影響の可能性がある事、
「あと‥キースの傍にゃ誰かの影を感じるです。李邸でシンを殺す為にキースは兵士と一緒に行動してやがったです」
シーヴやハバキ、天原大地(
gb5927)らは、邸内の混乱に乗じて突入する迄、李邸の外に待機をしていた。
これを踏まえるとキースに協力する第三者がいる可能性が高い、と話すシーヴ。
「今回、何か訳ありだとは思っていましたが‥」と伊織。
「しっかし、そこまで色々捨てて手に入れなきゃなんないのかね、ソレは」
「本当よ。ナタラージャだかなんだか知らないけど、女の子を泣かすような子にはお仕置きしないとね」
淳平の言葉に冴城 アスカ(
gb4188)が頷くが──
「上を目指す‥それって‥‥そんなに‥いけない事‥ですか?」
盆にカップを載せて戻ってきたユリアが言う。
「たしかに‥ナタラージュ‥‥舞踏王の選定‥方法は‥‥時代錯誤‥だと‥思います。‥‥‥でも‥上を‥目指したい‥って思う‥気持ちや‥‥‥仲間達を‥纏めたい‥って‥思う‥‥キースの気持ちは‥‥本物‥でした‥」
棚に置かれたフォトフレームを見つめる伊織。
そこには楽しげに笑うユリアとキースの姿があった。
「キツイ言い方ですが、それは‥‥目の前の問題。キースさんを先ず捕まえてから確認すればいい事です」と伊織が言う。
ユリアの言うようにキースが長期間AIのメンテナンスを受けていないとすれば、精神だけではなく命の危険もある。
「それに第三者が‥バグア側の介入ではないと言い切れないのが問題です」
上海は李一派を逮捕以降、一気に治安が正常化に向かっている。
──が、一部の専門家によれば表面的に現れていたものが一気に地下に潜っただけだと言う。
「暗殺や爆弾等の知識がある能力者がバグアに走る事があるなら‥‥」
伊織の言葉の意味に静かに微笑むユリア。
「キースに‥ああいう事を‥‥させたくない‥です‥」
もしもの時の覚悟は出来ていると言う。
「ユリアを守る為に逃がしたキースのコト、信じ続けてくれです」
本当のキースを一番知るのはユリアだと言うシーヴ。
「シーヴ‥ありがとう」
「そんな事は絶対させない」
大地の言葉に頷くユリア。
「シーヴも二人が一緒にいられるよう頑張らねぇと、ですね」
でもユリアは突っ走らないように。と念を押すシーヴ。
「正体不明ですから、ユリアは無茶しねぇようにです」
「裏で何が動いているか分からないけど、そのために不幸になる必要はないよ」
とユリアの頭を撫でる淳平だった。
●惡意的槍口
深夜一時──キースとの待ち合わせ時間である。
外灘から離れているが、静かな公園は隠れたデートスポットなのだろう。
カップルが数組現れたが、淳平や光、歩が適当に丸め込んで追い払っていた為に東屋周辺には、関係者しかいなかった。
そんな中、外套の光を避けるように深くフードを下げ、背を丸めた小柄な男がユリア達の方に歩いていく。
『‥キースらしき人影を発見。そちらに向かっています』
光からの通信である。
「‥‥こちら淳平、黒塗りの車が駐車場に停まっているけど確認した?」
『私の方からは見えませんが‥車が停まっているんですか?』と歩。
歩と光の位置からは駐車場の様子は直接見えない。
『フォローします?』
「頼む。窓もスモークでちょっと怪しいから」
お互い目視が出来る距離を保ちながら周辺警戒に当たっている3人。
東屋を離れるのは気が引けたが、万が一が在っては困る。
それぞれが距離を保ちながら車へと歩いていく。
上着の武器を何時でも抜けるように確認し、淳平が注意しながら車の窓を叩く。
「こんばんは〜。どちらに行かれますか? この先で撮影をしていまして‥‥」
スッ──音もなくガラスが下がる。
(「うわっ、ヤバっ!!」)
瞬速縮地で慌てて飛びのく淳平に激しく銃弾が浴びせられる。
「痛て、痛て、痛てっ!」
旧中国陸軍が採用していた自動小銃である。
淳平に効果がないと分かると全身を黒で纏めた男が2人車から降りてきた。
そこにシャドーウオーブを装着しながら光が瞬天速で走りこんできた。
そのままスピードを殺さずイキシアの蹴りが奥の男に、
「んにゃろ、やられてばっかり行くかよ!」
淳平が先手必勝を発動し、手前の男にソードブレイカーを叩き込む。
──が、フォース・フィールドの赤い閃光が刃と蹴りを止める。
「バグアか、厄介だな」
歩も到着し、機械巻物「雷遁」を取り出し構える。
「キースさんを確保するまで足止めできればいいですよね?」
「勿論!」
「目立つ行動は避けたかったが‥仕方が無い。ここから引き離すぞ!」
光の言葉にS−01を抜く淳平。
誰かが通報して公安が来ればバグアも引くだろうと判断する3人。
●守護的事,相信的事
(「バグアは偶然? それとも──」)
ユリアがシーヴの手を強く握り、シーヴも強く握り返す。
(「ユリア‥キースのコト、信じるです」)
少し離れた位置に待機する伊織と大地。
大地がポケットの中で激熱の感触を確かめる。
覚醒はキースの覚醒を確認してからである。
外灯に浮かび上がったのは、猫と人が混じったものであった。
「ゆ‥り‥‥あ‥」
ノドも大きく変化しているのだろう。
だとたどしく猫人が喋る。
駆け出しそうなユリアを押し留めるシーヴ。
アスカがキースの退路を絶つように回りこんで行く。
言いたいことは山ほどあったが開口一番飛び出したのは、
「キースの‥ば かッ!」
ハバキと大きく叫ぶ。
キラリ──一瞬、何かが反射したと思った。
慌ててユリアの前に飛び出したシーヴが腕を押さえる。
「っつぅ‥」
ざっくりと斬られた腕から鮮血がこぼれる。
アスカの回し蹴りを避け、一歩下がるキース。
背筋の凍るような瞳がユリアに注がれる。
「キースはユリアを傷つけちゃダメ、です。‥キース自身も傷つくですから」
ユリアを背に庇ったままシーヴが言う。
「シーヴ‥駄目‥‥ユリアは‥」
「駄目じゃないです。ユリアは、キースに呼びかけるです!」
「させないわよ!」
アスカの蹴りが、弾丸のようにキースに注ぐ。
サマーソルトと共に飛び出してきたナイフを意にせず間合いを詰めるキース。
蹴り出された足を掴まれバランスを崩したアスカが倒れ込む。
グキリ──鈍い音がして関節が外れた。
すばやく超機械を振り、アスカからキースを引き離す伊織。
間合いに気をつけるように皆に声を掛ける。
「暗殺の技術は、効率的に急所を狙いますので」
鳩尾や顎を狙う大地に対して、キースの拳は正確な急所狙いである。
ましてや暗器が何時飛び出してくるか分からない。
手足を掴まれればそのまま、関節や靭を狙ってくる。
伊織も突き出される腕を払い、隙を見て腕に超機械を突きたてる。
だが痛みを感じないのか一向にキースのスピードが落ちない。
「目を瞑って!」
閃光手榴弾が続けざまに炸裂した。
目を襲う激しい光に、獣のように叫びつつけるキースを数人がかりで押さえつける。
体を覆う毛に手が滑る。
「キース‥‥お前を今、闇の底から引きずり上げる!」
戻って来い! とキースを羽交い絞めにした大地が叫ぶ。
頭を激しく振り、大地に頭突きを食らわせるキース。
「俺はお前を絶対離さないぜ! ユリアの願いを叶えてやれるのは、世界中でお前だけだろう!」
最早、猛獣を抑えているのと変わりない。
「拉致があかないわね」
アスカが首に超機械を押し当てたのを見たユリアが瞬速縮地で割り込んできた。
「やめてっ!」
機械の先を握り締めたユリアから短い悲鳴が上がる。
焼け爛れた手を押さえ倒れ込むユリア。
その瞬間、キースが大地を弾き飛ばし、アスカへと襲い掛かる。
馬乗りになるとそのままぎゅうぎゅうと喉を締め上げた。
それを引き離し、必死に手足に手錠を掛ける。
「いい、ガッツよ。ユリアさんが危険になると一瞬だけど正気に戻るのね」
ゴホゴホと咳き込みながら立ち上がるアスカ。
「私もユリアさんに怪我をさせるつもりは、なかったんだけど」
ユリアの手を手当てするアスカ。
暗い空にサイレンの音が響く──
撤退するバグアを確認すると大急ぎで公園に戻ってきた光、歩、淳平の3人。
押さえつけられたままフゥフゥと荒い息を上げるキースに自身もボロボロな淳平が言う。
「ぼろぼろの体を治療するんだ。俺たちは敵じゃない」
「大変、痙攣しているわ。舌を噛みそう」
慌ててアスカがキースの口にタオルをねじ込む。
「こっちへおいで。大丈夫、俺はキースを傷つけない、から」
ハバキがキースの頭を抱き、子供をあやすように言う。
「一緒に帰ろうね」
キースの首が、ガクリと落ちた。
練力を使い果たし、気絶したのである。
能力者達が大急ぎで公園を離れていく様を埠頭に停まる船舶から静かに見つめるものがいた。
船から飛び立つ小さな影が能力者達の車を追いかけていく──。
●正在在黒暗凝視的眼
ユリアがキースを連れてきたのは非合法の病院であった。
AIのメンテはできるの? と尋ねるハバキにNOと答えるユリア。
「キースのAIもユリアと同じで、通常の登録番号がありませんから」
上海でAIのメンテナンスを受けるのは不可能だという。
「容態が安定したらLHに行ってAIを外してもらいます」
魘される度、体を動かす度に覚醒と非覚醒を繰り返す為に手錠に繋がれたままのキース。
素人目にも分かる異常さ、AIの暴走である。
手の痛みに耐えキースが体を捩る度に腕から点滴が外れるをユリアがずっと抑えているのだ。
「キーボード、弾けそう?」
「多分‥大丈夫‥‥でしょう‥って」
クスリと笑うが、そのまま顔を顰めるユリア。
「ここは俺に任せてユリアは寝なよ」
「でも‥」
「ユリアが倒れたら何んにもならないでしょ♪ キースはダチ‥と少なくとも俺は思っているから頑張っちゃう」
何かあったら起こすといって無理やりベッドに寝かすハバキ。
疲れていたのだろう。
すぐにスースーというユリアの寝息が聞こえ始めた。
(「ユリアを殺させない。キースも殺させない。俺の待てるラインはここまで」)
「俺はキースに生きて欲しいから、これ以上は行かせられない」
起きているんだろう? とキースの耳元で囁くハバキ。
ぱちりと開いた目は、先程とは異なり知性があった。
「‥‥お節介焼き‥の‥大ボケ‥‥の無鉄砲‥‥人の事を‥いつも‥馬鹿呼ばわりして‥‥お前の方こそ‥大馬鹿だ」
立て続けに罵声を浴びせるキースにあっけに取られるハバキ。
「さんざん待たせて、無茶して‥それ?」
「なんで俺が、お前を待たせるんだよ」
「俺はちゃんと連絡先を渡したよね。俺はちゃんとキースからの連絡を待っていたよ!」
「あんなもん、とっくに失くしたに決まっているだろうが!」
「キースの、馬鹿っ!」
「この野郎〜っ。また人の事、馬鹿って言いやがったな」
「怒っているのは、こっちなんだからね。何度だって馬鹿って言うよ」
「‥う‥‥ん‥」
苦しげなユリアの寝息に慌ててお互いの口を塞ぐハバキとキース。
再び安定した寝息が聞こえ始めるとお互いの顔を見て、ふっと微笑む。
「‥‥だけど‥一瞬でもユリアを殺そう思った俺はもっと大馬鹿野郎だ」
「キース、それが地?」
「俺は元々こういう男だ」
キースの言葉に大笑いをするハバキ。
「‥頼みがある」
「何?」
「俺が死んだら‥」
「死ぬって‥ユリアはどうする?」
何を馬鹿な事を言うんだとハバキ。
「ユリアが健康のために太極拳を始めたって知ってる?」
二人で太極拳をすればいい。
時々、俺も参加させて貰えたら嬉しい──。
「俺の計画は、どうなるんだよ」
「確かにそいつは最高の計画だな‥でも多分無理だ」
何処までも静かな青い瞳がハバキを見つめる。
「俺は李が扱っていたバグアの薬を調べていた」
元から常習性の強さや体に与える悪影響も分かっていたが、近づくために投薬を受けていた。
人類の科学では、バグアの合成したクスリに対抗することは出来ず、医師が出来るのは、ないよりマシの医療用麻薬の投薬で痛みを取るしかないのだが、それも一時的な処置でしかない。
「とんだミイラ取りになっちまったけどね」
「ハバキ‥」
「何んだよ‥」
「──俺にユリアを殺させないでくれて‥‥‥ありがとう‥」
キースは、そういって静かに目を閉じた──。