●リプレイ本文
●午夜車道
暗い山道をヘッドライトを照らして走るワゴンが3台、隊列を作って走る。
「この道で本当にいいのか?」
「地図と無線を信じればな。済南潜入‥‥今回の手間を考えれば意味の大きい作戦なんだろう」
杠葉 凛生(
gb6638)の問いに緋沼 京夜(
ga6138)が答える。
「しかし‥‥やっぱ、汚ねえ仕事には英雄気取りは寄ってこねえか」
何て言う俺もそうなんだけどね、と湊 獅子鷹(
gc0233)が集まった傭兵達の顔を見回し苦笑いをする。
「‥‥随分と大掛りだしな。追手まで付いて、訳アリってことか」
助手席の窓から凛生が煙草を投げ捨てる。
「こんな時期にわざわざ済南へご出張ねぃ」
ま、お上の都合とかもあるんだろうけど、ご苦労なこったねぇ、と楽(
gb8064)が言う。
「俺らに似合いの汚れ仕事ってわけだな‥‥」
待機していた傭兵らに合流地点の変更が告げられたのは、これで4度目である。
「灯台下暗しというのだろうな‥‥」
刑務所から50kmも離れていない合流地点であると知った終夜・無月(
ga3084)がポツリという。
「無駄な衝突や消耗は避けたいさね。外とも、中でも‥‥」と言いつつも、流石に疲れを隠せない。
「さて、賑やかになりそうだが」とUNKNOWN(
ga4276)は言いながら、今日何本目かの煙草に火をつけた。
合流地点には、先にスパイらを乗せた車が止まっていた──。
車を守っていた護衛らが傭兵達を確認すると車の中から20代〜40代の9人の男女が降りてきた。
「あら、半日ぶりね。ダンディさん」
「ふむ。また二重スパイかね?」
UNKNOWNが夜来香を見つけ、声を掛けた。
「二重‥‥だった覚えはないけど。どんな女は、愛と嘘で出来ているのよ」と微笑む夜来香。
「アノ男とは逢わなくていいのかね?」
内緒、と笑う夜来香。
「歌の報酬は貰ったし、ね。まあ、止めはせんが‥‥そうだな、私からは1つだけ、だ。
――意地汚くとも、生き延びたまえ。生きていれば未来を見れる」
人生とは簡単なモノなのだ、とUNKNOWNが言う。
「さあ乗りたまえ」
スパイ達を男女グループに分けて車に乗せる。
済南での引継ぎ場所と時間が傭兵らに教えると、スパイらを運んできた車が闇に消える。
(「こいつら一体何か隠してやがる? それに後ろで誰が手回ししてんだ?」)
OZ(
ga4015)が大人しく用意された車に座っているスパイらを眺めて思う。
偽装とはいえ刑務所をMaha・Karaが襲撃し、スパイらを脱獄させるという大係りの芝居を売っているのも係わらず、つけっぱなしのラジオから流れるニュースでは脱獄の一件は、たった1局が取り上げただけある。
何れにしても裏に隠れる思惑はロクでもないことが明白である。護衛につく傭兵らとてハイエナのようにスパイらが指示された任務に興味があったり、イザと言う時にコネクションを作っておきたいに他ならない。
だがスパイらは、貝のように押し黙ったままである。
「──少し臭いな」
吸殻入れから溢れる煙草の臭いに少し窓を開けるUNKNOWN。
冷たい新鮮な空気が車内に流れ込んでくる。
それに今まで石のように身じろぎもしなかったスパイらが体を少し、振るわせた。
「少し話をせんかね?」とUNKNOWNが言ったのを皮切りに、情報を引き出すためならばと──OZがラビアという20歳の女スパイに声を掛けた。
普通の方法ではスパイらの関心は引けぬと──
「済南に着いたらてめーは、可愛がってやるよ」
「なんだって?!」
何を寝ぼけた事を言うと女がOZを睨む。
「どうせ、体で近付くんだろう? 勿体付けんなよ」
いきり立つラビアを30近い女が嗜める。
「ベットの中じゃ男も女も隙ができるわ。枕探しは基本でしょ?」
尤もそれで相手に本気になったらスパイ失格だけど、と女が口を歪めて笑う。
どうやら夜来香騒動をこの女は知っているらしいが、嫌味を言われた当の夜来香が沈黙を守った為にその話はそれでお仕舞いとなった。
●暗中悪鬼隠藏
中国公安の指揮する武装警察の追撃をなんとか躱した傭兵らは、暫く走った所で当初乗っていたワゴンから呉運送が用意した幌付きトラックに乗り換える。
これで多少は時間が稼げるだろう。
獅子鷹が見張りに立つ間、傭兵らも役割に応じて必要な者は服を着替えていく。
タバコや酒、日用品、燃料が山積みされた荷物の隙間にスパイらを隠していくが‥‥
「あれ? 目くらまし用の死体は?」
1、2人なら兎も角、この短い期間に大量には用意できないと呉運送の呉 大人がOZの注文に文句をつける。
「確かに腕が欲しいといえば、競合地域の貧民街で家族の腕を買ってくれ言う奴が何十人も出てくるアルが、腕や足だけで誤魔化されるほど公安も馬鹿じゃないアルね」
「となると『善意』で車を貸してくれた運転手ごと吹っ飛ばすか?」
「多くを救う為に必要だと綺麗ごとを言うつもりはないが、できれば親バグア以外は殺したくないというのが本音だな‥‥」と京夜。
「彼らが美空たちの前に立ちふさがるのなら、美空が彼らを撃つのにためらいはないのであります」と美空(
gb1906)。
「楽さん弱虫さんだから、自分の安全のためなら口封じもなんとも思わないよん★ でも必要以外に不必要に暴れる必要もないさね。楽さんたちは善人じゃないけども、愚者でもないさ」
そう言って肩を竦める楽。
「楽さんたちの目的は殺しじゃないさー」
●検問強襲
「またまた検問、発見です」
先行していた美空からの連絡が入る。
済南へと近付く度に検問所の数が増えていく──。
「ここがこのルート、最大の検問所らしいな」
三重に掛けられたバリケードに装甲車2台にパトカー5台。自動小銃を構えた兵が立っている。それに守られるように警官が1台づつ車を止めてチェックをしている為に渋滞が起こっていた。
「強行突破ですか?」
「そうだな──」
「強行突破しようぜ。新しい車はその辺で調達すればいいじゃねぇか」
さくっと眉間をブチ抜けば簡単だしよ、とOZが言う。
地図によれば道一本越えれば競合地域である。
そちらに逃げ込めば警察も早々追いかけてこない可能性が高い。
「まあ、それは最終手段だな」と苦笑いをする京夜。
「袖の下もまだあるし、まずは様子見だ」
地方になればなるほど検問に袖の下は、今だ有効手段である。
ヤバそうになれば美空のリンドヴルムが目くらましに突っ込むのもいいだろう、とトラックから数台離れた後ろ、検問を待つ車の列かラ外れた場所で懐に閃光手榴弾を忍ばせた美空が待機する。
そして、それぞれが銃のセフティを静かに外す。
「何があったんですか〜?」と助手席の楽が身分証の提示を求める警官に愛想の良い笑顔を浮かべて尋ねた。
「この近くでキメラを連れた強化人間が暴れたんでね」
積荷は何んだ? と警官が尋ねる。
「日用雑貨と‥‥まあ、人ですねぇ」
「人?」
「この先なんですがね。崩れた建築現場への土木作業員とお姉ちゃんらの補充を頼まれたんでね」
「お姉ちゃん?」
「慰安要員のホステス♪」
「そうっすよ。この辺ってちょっと行けば競合地区じゃないですか。俺達は工事現場で雇われた用心棒って訳っ」
幌を上げ、荷台を覗き込む警官が女達に懐中電灯の光を当てる。
「ふん、本当にホステスなのか怪しいもんだな」
「この女たちも商品なんでね、怖がらせんでほしいね」と凛生が、警官の上げた幌を慌てて下げる。
「まあ、大っぴらにできない商品だし、生ものなんで先を急ぐんだわ‥‥これで大目に見てくれんかね」
箱の中から煙草を1カートン取る凛生。
「いや、賄賂は受け取らんよ。禁止されているからな」
「賄賂なんて、な。お手間を取らした礼だ」
下卑た笑いを浮かべて凛生が今度は吸い掛けの煙草を取り出し、警官の目の前でパッケージの中にリングを落とし込む。
「これなら吸い掛けで、安心だ」
そう言って警官のポケットに煙草をねじ込む。
「たまには嫁さんに花でも買ってやってくださいな」
●盈富
「あの車‥‥まだ着いて来るであります」
バグアとの戦闘で高速道路や国道の多くが分断され通れる道が限られているとはいえ、トラックの後ろについてくる乗用車が4台、検問所から着かず離れずの距離を保っている。
ハンドルを握るUNKNOWNが何回か急な右左折を繰り返してみたが、執拗にトラックの後について来ていた。
「軍でしょうか?」
ミラーを見ながら美空が言う。
このエリアは競合地域下であり、バグアが占領している基地とは目と鼻の先である。
「軍にしては装備が薄すぎると思うよ」
反バグアの過激派だろうと辺りをつける傭兵達。
「美空のバルカンなら数秒で鉄くずです」
「メンドクせえし、いっその事皆殺しにしちまった方がてっとり早いか?」
多少死体の数が増えても誰も気にしないだろう、と獅子鷹。
「親バグア派以外は気が引けるが、仕方がないか」
荷台に座る京夜が刀と盾を持って立ち上がる。
「無理するなよ‥‥緋沼」と凛生が声を掛ける。
「俺も行きましょう。どうせ‥‥過激派なんていう組織は、親・反関わらず誰かを不幸にしている奴らです‥‥」
無月も明鏡止水を手に立ち上がる。
敵は運転手をあわせて20人。
地図によればこの先に袋小路がある。
「そこで待ち伏せするのも良かろう」
停止しているトラックを見て、乗用車から過激派のメンバーらが武器を手に降りてくる。
獅子鷹らが投げた火炎瓶が割れ火の手が上がる。
「綺麗な花火だな」
それを合図に傭兵らの一斉射撃が始まった。
傭兵達から攻撃される事を想定していなかった過激派らは大きく混乱していた。
「悪いね‥‥仕事なんだ」
SMGに撃たれ、仲間が倒れるのを見て慌てて車に戻ろうとする過激派たちの目の前で美空の攻撃を受けた車が激しく爆発する。
「襲撃ならばもっと慎重に行動するべきだな」
無月が明鏡止水で一薙ぎすると後衛を務めていた男が吹っ飛ぶ。
「命が惜しければ抵抗を止めろ」
相手の銃を足で踏み折る無月。
そのまま倒れる男を掴むと後ろから忍び寄る別の男に叩きつける。
と、敵を無視して車の前に立つ。
豪力発現を発動させ車を真っ二つにする。
「逆らえば手加減しない‥‥それでもいいなら、来いっ!」
だが過激派らも反撃衝撃から立ち直り、草陰に身を潜め応戦を始める。
トラックの方に飛んできた手榴弾をそのまま盾で押さえ込む京夜。
「‥‥っ!」
爆発の激しい衝撃が京夜を遅う。
凛生が弾を撒き散らし、京夜を立たせる。
「大丈夫かっ!」
「ああ」
大型火器類はないようであるが、敵は軍横流しの手榴弾を大量に持っているらしかった。
「投擲手の腕を狙う」
「はあぁ?」
「私は弱い男なのだよ」
「ぶっ殺した方が簡単じゃねぇか」と言いながらも付き合いが長いUNKNOWNの援護をするOZ。
「俺も協力するぞ」
凛生がシングルバーストに切り替えSMGを構えた。
「あ、1人逃げるよー」
イザと言う時、スパイらを逃がす為にトラックでスタンバイしていた楽が叫ぶ。
指差す方向に草を掻き分け男が逃げて行くのが見えた。
「俺が追う!」
獅子鷹がそういって追いかける。
逃げる男をタックルし、押し倒す。
ナイフを男の喉に押し付ける獅子鷹。
「暴れるなよ‥‥‥死にたくなければな」
頷く男から離れる獅子鷹。男にゆっくり立つように命令する。
「判った‥‥」
──だが、男は隠しナイフで切りつけてきた。
獅子鷹のナイフが男の喉を切り裂いた。
血を吹き立たせ倒れる男を見て、
「何だ、思ったより‥‥要するに慣れか」
と溜息を吐く。
血を男の服でふき取り、ナイフを仕舞う。
トラックの方に戻ってきた獅子鷹に声が掛かる。
「どうした?」
「済んだ」
「こっちもな」
生きている過激派らは一纏めにロープでくくられて座らされていた。
道路を塞ぐ形になっている過激派の車に美空のバルカンが砕く。
瓦礫と化した、まだ熱い鉄クズをトラックのタイヤが轢いていく。
「まあ‥‥こんな場所で放置されれば野生動物かキメラの餌がいいところだろうが‥‥彼らには良いお灸です」
小さくなっていく炎を見ながら、無月がポツリと言った。
●生命是玩遊戲
スパイらの受け渡し場所に男が一人立っていた。
「遅刻だ」
「途中色々あったんだよ」
「まあ、いい。‥‥荷は揃っているのか?」
「ああ‥‥」
目の前に立つ男が、本物かどうかは夜来香にしか判らない。
傭兵らに促され、夜来香が荷台から降りた。
男は一分の殺気を持たず、滑らかな動きで懐から銃を取り出すと、そのまま夜来香に1発、銃弾を撃ち込んだ。
反動で夜来香が地面へと倒れこむ。
男が合図をすると離れた所に隠れていた男達が飛び出して来た。
(「敵かっ?!」)
色めきだつ傭兵らを無視して銃を持った男は、そのまま倒れた夜来香に銃弾を続けざまに叩き込む。
一人の男の手にハンディビデオが握られていた。
ピクピクと痙攣する血みどろになった夜来香の死体を舐めるように撮っていく──
「もうちょっと血糊、多かったほうがそれらしかったかな?」と尋ねた。
「‥‥こんなモノでいいと思うけど?」
銃弾を受けた夜来香が、むっくりと起き上がる。
「偽装工作か‥‥」
夜来香が服を素早く着替えていく。
と、別の男達が大きな黒い袋を運んできた。
中身は背格好が酷く夜来香に似た女であった。
男達は夜来香が倒れた時の映像を確認しながら死体を地面に横たえた。
「あんたらが殺したのか?」
「人を潜入させる為には、中の人数を減らすの当然だろう?」と男は言った。
親バグアの女である。何れは死ぬ運命だったのかもしれないが、この女が寿命を縮めたのは夜来香のせいなので文句は夜来香に言ってくれ、と言う。
「きみ達の人生さ。意見する気も、とめる権利もないさ。やりたいようにやればいいさね」
「そう、それでいい。君達は、ただの運び屋だ」
リーダーらしい男は言った。
傭兵らの見守る中、セダンに夜来香の服を着た女の死体が運び込まれ、火がつけられた。
──燃え上がる炎が天を焦がす。
ふと気がつけば傭兵達が乗ってきた車も運んできた他のスパイらの姿がない。
燃える炎を夜来香と傭兵達、ビデオを持った男だけが残っていた。
「行くかね?」とUNKNOWNが夜来香を見る。
「行くわ‥‥」と答える夜来香。
「必要なら連絡をすればいい」と連絡先を教えるUNKNOWN。
「‥‥そうね。気が向いたら電話するわ」
そういって闇に紛れて消える夜来香。
そして、カメラを回していた男がくるりと傭兵らを振り返ってこういった。
「──さて。あんたらは俺とこれから青島までドライブだ」
「帰ってこれんのかねえ? 連中」
「さあね?」
獅子鷹の問いに男はあっけらかんと答えた──