●リプレイ本文
「いいゲームだったな、ワンド・エース」
「俺はそんな柄じゃないですよ。言ってるのも俺じゃない」
「名は体を表す。別に自称であろうと他称であろうと関係はないのだよ」
本戦開始前、ヴィンセント・ライザス(
gb2625)はクラブ・エースことボブを始め他四人と一戦を交えていた。実際の戦闘ではない、ポーカーでの勝負である。本当ならそれほどの時間が取れないのではないかと考えていたヴィンセントであったが、予想以上に時間がかかることになる。決戦方法に関してヨネモトタケシ(
gb0843)とハイン・ヴィーグリーズ(
gb3522)から戦闘拡大の申請があったからである。
「ですから五十×五十メートルでの戦闘をお願いしたいのです」
「それだと彼らにとって不利になる。これはあくまで本戦でもなければ練習でもない。いわば彼らが自分自身の力を示すための試験だ」
試験官を任される事になった南条・リックはヨネモトの意見に二の足を踏んだ。戦闘フィールドの拡大は戦闘のやり方そのものを変える。特に長距離での攻撃を得意とするスナイパー、あるいはソニックブーム使いが参加者の中にいるとなると、まだ経験不足であるドラグーンでは対応できないと考えたからである。意見の食い違いから話し合いは長引き、その結果ポーカーを一戦丸々やる余裕が生まれたわけだ。
結局堂々巡りとなった議論であったが、最終的には待機場となった教室に顔を出したボブ達が他人事のように「構わない」と答えたことにより以前の戦闘フィールドと拡大した戦闘フィールドで二回戦闘を行う事となった。
「それで調子はどうです? ワンド・エース」
「あんたですか、また俺に変な名前をつけたのは‥‥」
「いい名前じゃないか」
「まぁ別にいいんだけどね」
本から僅かに顔を出して言う早坂冬馬(
gb2313)の言葉に、ボブは面倒そうに髪を掻きむしりながら答えた。その様子を見て同じく苦笑する早坂、その隣では今まで昼寝に興じていた風花 澪(
gb1573)が起き上がり様に笑顔を向ける。
「今度戦うことになった風花澪でーす♪ 年下で女の子だからって手加減とかいらないからね?」
手を差し出す風花、だが視線は早坂の方を向いていた。
「相手間違えるんじゃないぞ?」
「間違えてないよ」
意味ありげな表情を浮かべる風花、だが信用ならないといった表情をしたまま早坂は再び本に視線を戻す。それと同時に一人の能力者が彼らに近寄ってくる。緑川安則(
ga4773)だった。
「かなり派手に暴れたそうじゃないか。ええ? ほんと、面白いやつらだな」
「やりたくてやったわけじゃない。向こうがやるから応じただけだ」
「教師の方も同じ答えをしそうだな。ところで二戦連続でやることになったが、経験はあるのか?」
「ない」
即答する四人、それを聞いた緑川は小さく微笑んだ。
「本当に面白い奴だな。まぁお手柔らかに頼むぞ」
そう挨拶して去っていく緑川。一方でアグレアーブル(
ga0095)は南条にルールを確認していた。
「試合はバトルロイヤルということですが、完全に個人戦にするのです? それともボブさん達と私達のチーム戦です?」
「完全に個人戦でお願いしたい。そうすれば彼らにも多少勝機があると思う」
「勝たせたい?」
「厳密には経験をつませたい、だな。いずれアイツ等も戦場に立ち、君達と肩を並べることになるだろう。その時に実力や経験という意味でも肩を並べていなければ足を引っ張る事になると思ってな」
「なるほど」
言葉少なにアグレアーブルは答える。別に学生の中に入ることには興味が無かった彼女であるが、学園自体に興味が無かったわけではない。学生もいずれを共に戦う仲間として、彼らの実力を知っておきたいという気持ちもあった。
残るアブド・アル・アズラム(
gb3526)はまもなく始まる戦闘の参考にするために、全員の動きを観察しつつ戦い方を練っているのであった。
初戦は当初予定されていた十五メートル四方での戦闘だった。リック曰く、五十メートル四方のフィールドは準備にしばらくかかるという。おのおの思い思いの武器を手に取りフィールドへと入る能力者達、後に続いてボブ達四人も戦闘準備に入る。
「手加減はしないので本気で来てくださいね」
「そうは言われてもな」
サブマシンガンを構えながら静かに言うハイン。無表情での言葉だったが、ボブ達はお互いに顔を見合わせて小さく笑った。
「コイツ、大物手しか狙わないのに本気なんて出せませんよ」
「別に大物を狙っているわけじゃない、好きな物を集めているだけだ」
仲間の言葉に反論するボブ、場慣れしているのか特に緊張している様子は見られない。
「そんな事言って油断させるつもりだろ」
ボブが後ろを振り向くと、緑川とヴィンセントが笑っている。特にヴィンセントは意味ありげな顔を浮かべていた。
「さっきそれでやられたからな」
「という話を聞かせてもらっていたところだ」
「あちゃー」
頭を抱えたボブ、だがまもなく試験官である南条により試験開始が伝えられる。
「派手に逝きますよ」
開始と共にサブマシンガンの弾をばら撒くハイン、ボブ達は一気に四散してそれを回避する。それを狙ってヨネモトが飛び込み居合い気味に流し斬りを打ち込む。だが同時に獲物を狙って飛び込んだ緑川と緊迫、その隙をサイエンティストであるジョージは後退して回避する。同士討ち三人の様子をみていたアブドが介入、二人の武器を止める。
「やはり狭いか」
「まぁ仕方ない」
カールセル、イアリス、カイキアスの盾と防御を固めていた緑川はダメージを押さえ込む。それを確認したのかヨネモトも無言で離脱、元々バトルロイヤルという方式である以上誰が誰と戦っても問題ないことであるが、やはり想定外に誰かを傷つけることには戸惑いがあるのだろう。小さく一礼して一足飛びで離れる。それを確認して緑川も一時離脱、ジョージは隅で腰を抜かし小さく溜息をついていた。
それを見たスナイパーのカインは防御を固めていると判明した緑川からヨネモトに狙いを変えアサルトライフルを発射。だが如何せん経験の差のせいだろう、殺気を感じたヨネモトはソニックブームにより弾丸を相殺する。技量の差を見せ付けられたカインも力なく両手を挙げて降参の意を表明した。
一方、ファイターのフランクはアグレアーブルに狙いを定めていた。全体の中から一番弱そうと判断したのだろう、実際アグレアーブルは回避を優先し積極的に前に出ようとはしない。それをもとに実力に自信の無いと判断したフランク、だがアグレアーブルとしてはそれは好都合だった。肌で相手の実力を感じることができたからである。
「まだまだかな」
数回の太刀筋を見て、彼女はそう判断した。
「ちょっと力任せ。何故私を選んだのか分からないけど、それじゃあたらないわ」
相手がまだ若い事もあるのだろう、上段に構えて一撃必殺を狙ってきていた。だからこそ至極読みやすい。大きく振りかぶったところに当身をいれ、アグレアーブルはフランクを気絶させた。
残るボブは隠密潜行しつつ全体の状況を見定めていたヴィンセント、そしてハインと対峙していた。
「やはり逃がしてはくれませんか」
「あなたが一番要注意だと思っていますので」
「ヴィンセントさまに同意します。それに先ほどの話も聞かされましたし」
「カードやったのは失敗だったかな」
お互いの腹を探るように言葉を交わしながら、三人はそれぞれの距離をとっていた。その距離およそ二メートル、相手の不意をつければ必中、そして必殺と言える間合いだった。だが逆にそこから推察される事は相手の不意を突く暗器、だからこそボブもそれ以上は間合いに踏み込まず二人に注意を払っていた。だが他の三人が降参するのを見てボブも降参する。それでバトルロイヤルの第一線は終了となった。
「まぁ無理ってものだよ。第一俺達人数も実力も勝てない」
待機場に戻ってきて、ボブはそう感想を漏らした。
「だから武器の振るえない四隅にまとまることにする予定だったのに、始めから崩されましたからね」
「私のことか?」
「開始早々サブマシンガンでバラバラにされるとは思いませんでしたよ」
「集団は散らす、それが戦闘の鉄則だからな」
ボブとハインの言葉に緑川が意見を挟む。
「おかげで回復役と思われるサイエンティストと他三人を引き離す事が出来た。そこで六割ほど勝負が決まったとも言えたからな」
「だなぁ」
力なくボブ以外の三人も呟いた。
「俺、回復専門だし」
「絶好のタイミングで撃たれた弾が斬られたし」
「女に負けたし」
口々に自分勝手なことを言う三人、だが何か気に入らない事があったのか風花が尋ねる。
「僕も女だよ? 何で僕じゃなかったの?」
風花は試合中、友人である早坂を狙っていた。一度本気でやりあってみたかったという気持ちもあったからである。結局引き分けに終わったわけだが、やはり自分が狙われなかった事は釈然としなかった。
「小さいからとか年下だからとか、そんな理由じゃ許さないからね!」
怒気を発しつつ言う風花、そして風花の気性を承知している早坂も微笑を浮かべながらフランクの反応を待っている。しばらく言おうか言うまいか悩んでいる様子を見せたフランクだったが、最後は諦めたように答える。
「アンタの方が怖かったからだ」
「怖かった?」
「上手く口にできないけど、賭けに誘われているような気分になった。だからやめた」
「さすがカード仲間だな」
早坂の表情が微笑から苦笑に変わる。だが風花は物足りなさそうな表情を浮かべていた。
「何はともあれもう一戦ある。治療は万全にしてもらえ」
そんなアブドの言葉で念入りに治療を受ける一同。実際それほど広くない空間でサブマシンガンが連射されたわけなので、兆弾した可能性も含めての確認が行われて第二戦が行われる事となった。
結局第二戦はボブ達のぼろ負けとなった。武器が十分に振るえないという彼らにとっての利点がなくなった事、一戦目で明かされなかった風花の暗器、ヴィンセントとハンツの隠し持っていたナイフが四人を襲った事が原因である。再び待機室に戻り治療を受けるボブ達、だが第一線で戦っている人々とやれたためか表情は晴れやかだった。
「中々楽しかった。記念というわけじゃないが一本どうだ」
もう腰も起こせない程疲れているボブ達に声をかけたのは緑川だった。手にはいかにも高そうな煙草の箱が握られている。
「ラストホープのショップの看板娘、ロッタちゃん進呈の高級煙草だ。普通の煙草よりいいものだぜ。カンパネラ学園を出てラストホープにくるなら是非あってみるといい。かわいいしな」
「そうですねぇ」
ボブは目配せをすると、南条は複雑な表情で一つ咳払いをした。元はと言えば今回の依頼は煙草から始まったようなものである。普段なら多めに見る南条だが、公然と吸われると流石に喧嘩を売られているような気分にもなっていたからである。
「一人前になったら取りに行きますよ。それまでお預けってことでお願いできます?」
「了解だ、待ってるよ」
緑川の友人であるヴィンセントも嬉しそうに笑っている。一方、今回の依頼の中でワンド・エースの意味、小アルカナでいう出発点を自ら見つけたことに早坂も満足そうに笑うのだった。