タイトル:消えた兄弟マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/29 23:52

●オープニング本文


 西暦二千八年十二月、勝手にロッタ親衛隊を名乗るエドワーズ兄弟は自室で写真を元にフィギュアの作成を行っていた。先日の依頼の料金立替の変わりにロッタからもらった写真である。十二月という季節に合わせて、サンタの衣装をまとったロッタの写真だった。
「兄者、塗料の準備は大丈夫か?」
「まぁまて弟者、急いては事を仕損じるぞ」
「流石だな、兄者」
 とはいえフィギュア作成は初めてな二人。元々興味はあったため多少の知識はあったが、実際に作ってみるためには材料も技量も無かった。悪戦苦闘しているところに、誰かが訪れてきた。
「まさかロッタちゃんか?」
「兄者、それは妄想しすぎだ。良くて教師か友人だと思うぞ」
「ならば賭けるぞ弟者、俺はロッタちゃんに100万C」
「流石だな、兄者」
 出迎えに行く弟者、だが扉を開けた先にいたのは教師でもなければ友人でもなく、そして当然ロッタでもなく、見覚えはあるが名前も知らないクラスメイトだった。
「どうした、弟者?」
 不審に感じた兄者も顔を出す。だが兄者も来客の事を知らなかった。不審な目で見つめる兄弟、その視線に怯えながら来客は話を始めた。
「あ、あの、その、君達、神様を、信じますか?」
 女なら多少扱いを考えただろう、だが相手は残念なことに男である。二人は蹴り飛ばしてその客を追い出すことにした。

 そして翌日、サンタ服の基調となる赤の塗料が無くなり購買部へと連絡を入れる兄弟。ロッタに確認を取ると在庫があるということだった。
「よし、いくぞ弟者」
「まて財布を忘れているぞ兄者」
「その財布は前回の依頼金で空になった。今はこのロッタモデルの財布がマイブームだ」
「流石だな、兄者」
 喜び勇んで自室を出る二人。だがそこで待っていたのは、昨日蹴り飛ばしたはずの男だった。
「君達、神を、信じますか?」
「ウルサイ」
 昨日同様蹴り飛ばそうとする二人、だが男はその瞬間、金色の光に包まれた。
「理解してもらえないなら、力づくでも」
 向けられた兄弟の足を掴み、男は二人を投げ飛ばす。そして二人を連れ去っていった。

 一方、購買部ではロッタがエドワーズ兄弟の到着をいまや遅しと待っていた。しかし日が傾くまでまっても兄弟が来る様子は無い。気になって購買部を閉めた後に自室に行ってみると、ロッタの刺繍をあしらった財布が落ちていた。幸か不幸か現金やカード類、学生証も残っている。学生証から持ち主がエドワーズ兄であることは間違いなかった。
 嫌な予感がしたロッタは捜索のために依頼を出すのであった。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
ロジャー・ハイマン(ga7073
24歳・♂・GP
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
諸葛 杏(gb0975
20歳・♀・DF
フィリア・IS(gb3907
13歳・♀・DF
佐渡川 歩(gb4026
17歳・♂・ER

●リプレイ本文

「肉体だけの救済なんて意味が無い。精神を救ってこそ本当の救助じゃないかしら?」
 それが聞き込みを行っていた白鐘剣一郎(ga0184)、周防 誠(ga7131)が言われた言葉だった。

「まずは地図と通信機、それとルミノール試薬を用意してもらいたい」
 まだ人気の無い早朝ののカンパネラ学園、シャッターを開けたばかりの購買部に能力者達は集まっていた。依頼人であるロッタ・シルフス(gz0014)から現状の把握、道具の申請を行うためである。だがロッタもそれほど詳しいわけではない。エドワース兄弟と電話で話したこと、血痕らしきものがあったことの確認に留まった。ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)に頼まれた地図、通信機、ルミノール試薬の三点、フィリア・IS(gb3907)から申請のあった兄弟の部屋の合鍵を渡すだけとなった。
「二人は何をしているのかしら」
「携帯電話の番号とか分かりませんか?」
 諸葛 杏(gb0975)、佐渡川 歩(gb4026)がそれぞれに疑問を口にするが、ロッタは首を横に振る。
「ごめんなさい、わからないのです。こんなことが起こるなんて、ロッタも考えてなかったですから」
「仕方ないですよ」
 周防が慰める。だがその傍らでホアキンは別のことを考えていた。
「この学園は呪われているのか?」
「呪い、ですか」
「そうだ。あるいは管理体制を見直したほうがいいかもしれない」
「そうですね」
 兄弟のいる寮は古い部分もあり、合鍵の作製が容易らしい。ロッタの持っているものも兄弟から渡されたものだった。加えて空室は入学希望の見学者のために鍵がかけられていないと言う。
「ちょっと寮監督の先生とも相談してみるのです」
「その方がいいかもしれないな」
 聴講生としては退屈しないが、喉元まで出掛かった言葉を飲み込むホアキン。何かしら進展があることを期待するしかないわけだが、同時にこれで一つ面白みがなくなるのかという一抹の寂しさもあった。
「とりあえずその話はロッタに頼む。俺達は兄弟を探そう」
 白鐘の言葉に促され、能力者達はその場を後にする。残されたロッタは、一人ホアキンの言葉を反芻していた。

「やはりフィギュアを作っていたんですね」
「そういう話だったからな。嘘じゃなかった程度にしかいえないが」
「それでも裏はとれた、とでも言うんですけどね」
「そうだな、赤の塗料が足りない。これも聞いた話どおりだ」
 諸葛とフィリア、佐渡川の三人は行方をくらましたエドワース兄弟の部屋を確認していた。何か襲撃があると身構えて鍵を開けた三人ではあったが、何かが潜んでいる気配はない。調べてみても特に変わったところはなかった。
「何か特におかしなところは無いわね」
「そうですね。フィギュアも大丈夫なようですし」
 佐渡川は机の上に置かれているフィギュアを眺めていた。話で聞いていた通り塗装がまだ終わっていないが、髪やエプロンの縫い目など丁寧に作られている。
「僕ならこれを真っ先に狙いますけどね」
「フィギュア?」
「後で一つ作ったもらいたいです」
「あと二年程待ったほうがいいですね。色むらもあるし、細かいところが甘いです」
「なるほど」 
 表情を変えずに答えるフィリア。そんな素直にフィギュアを評論する二人の傍らで諸葛は壁に耳を当てていた。 
「何か聞こえます」
「はっきりとは分かりませんが、何かいます」
 静かな声で諸葛が言うと、彼女に習うように他の二人も壁に耳を当てた。
「確かに聞こえますね」
「ですね」
 控えめの声で話をする三人、ほぼ同時に思い浮かぶのは隣は空室ではなかったのかという疑問だった。
「行ってみるしかないですね」
 運良く廊下にはルミノール検査を行っているホアキンがいる。窓はあるものの物音を立てずに出ることは難しい。三人は息を殺し、そっとエドワース兄弟の部屋を後にした。

「最近変わったこと? 特に無いと思うけど」
 その頃、白鐘と周防は別の階で聞き込みを行っていた。朝早くからの聞き込みだったが入寮者は基本学生、そのためか人はそれほど残っていなかった。
「一度出直すか?」
「そうですねぇ」
 不完全燃焼という事なのだろう、周防はどっちつかずの返事をする。白鐘にとっても不満が残るのだろう、すぐに動こうとはしない。どうしようかと考えあぐねていると、一人の女性が
通りかかる。学園の制服を来た女性だった、手には購買部の袋を持っている。一度見合わせて、二人は女性に近づいていった。
「すみません、この寮の人ですか?」
「そうですが‥‥」
 見知らぬ人の登場に女性は身構える。慌てて手を振り勘違いを訴える周防、その隣で白鐘が事情を説明する。
「先日エドワースという兄弟が行方不明になりまして、彼らについては何か知りませんか?」
「あぁ、そういうことね」
 納得したのだろう、女性は安心した表情を浮かべる。だが彼女も兄弟の失踪は知らなかったらしく、首を傾げていた。
「ごめんなさい、力になれなくて」
「気にしなくていいですよ」
「なら何か最近変わったことはありませんか?」
「変わった事、変わった事‥‥」
 少しでも情報を得ようと質問をする二人。祈るような気持ちで女性の返答を待っていると、
やがて思い出したように話してくれた。
「そういえば最近、人の入れ替わりが激しい気がするね」
「‥‥入れ替わりですか?」
「そう。理由までは分からないけどね」
 重要かどうか微妙だったが、白鐘がメモを取る。
「いつの間にか私の隣も空室になってたし、普段そんなに珍しいとも言えないことなんだけどね」
「どれぐらいのペースかとか分かりますか?」
 軍学校である以上、寮から人がいなくなることは他の学校と比較すれば多い。女性の気のせいなのかどうかを確かめたいところだったが、そこまでは分からないということだった。
「確認してみたいなら寮監督の先生のところに行って見たら?」
「それはいい考えですね」
 思わず声を上げる周防。
「確かロッタさんも連絡入れてくれると言ってましたし、一度連絡していって見ましょう」
「そうだな」
 二人は女性に礼を言い、その場を後にする。そして残りの能力者達とロッタに連絡を入れた。

「了解、こちらもそっちに向かう」
 通信を切ると、ホアキンも寮監督の部屋へと移動を開始した。二つの疑惑を抱えていたからである。一つはルミノール反応が下の階へ続いていたこと、二つ目に空室であるはずの隣室の扉が閉まっていた事である。鍵を誰が持っているのかロッタに確認したところ寮監督の先生が持っているらしい。そのためホアキンには諸葛、フィリア、佐渡川も同行している。
「鍵は渡してもらえるのでしょうか?」
「手続きに時間がかかると困りますね」
 多少足を急がせつつ、四人は階段を降りる。ホアキンの調べていたルミノール反応も階段の途中で消滅、ミスリードの可能性もあったが血の跡でわざわざ細工をするようにも思えなかった。
「足元には気をつけてくれ」
 寮監督室に行けばモニター等もあるだろう、そこから不審人物を特定すれば捜査の足しになる。ホアキンがそう今後のと展開を考えている時だった。無線が響き、助けが求められる。寮監督室にいる白鐘と周防からだった。

「その対応の仕方は2人に非がある‥‥が、それは君が彼らに信仰を強要する事を正当化しはしない。ましてこんな形で拉致・監禁する言い訳にもな」
 扉越しに訴える白鐘、だが扉は開こうとしない。周防がどこか抜け穴が無いかを探していたが、まだそれらしきものは見つけきれてはいなかった。
「どうしたんです?」
 佐渡川が話しかける。
「寮監督の教師がその地位を利用し、キメラの研究をしていたんだ。だが研究していく内に心の方がやられたらしい」
「理解できません」
「信仰に賛同する振りを見せて話は聞かせてもらいましたが、俺にも理解はできませんでしたよ」
 周防が掻い摘んで説明する。
「彼によると寮監督は研究をやるうちにキメラを切り刻むことに精神の呵責を感じるようになったらしいですよ」
「ハッピートリガーみたいなものだろう」
 白鐘がそう補足説明するが、やはりまだ理解はできないのだろう。
「別に理解しなくていい。今はまずエドワース兄弟の無事を確認することの方が重要だ」
「ですね」
 やっと状況を飲み込めたのだろう、フィリアが答える。
「それでエドワーズは今どこに?」
「あの中です。実験体にするとか何とか言っていました」
「つまりあの扉をこじ開けなければいけないわけですね」
 それぞれ武器を取り出す能力者達、周防が注意を促す。
「恐らくですけど、彼は実験機材を扉に押し付けて塞いでいます。どんな機材かまではわかりませんが、破壊はしないほうがいいと思います」
「面倒ですね」
「ですが部屋の中が分からない以上、深入りできませんから」
「仕方ないな」
 ロッタから後で請求書が渡されるのではないか、そんな思いを振り切るように扉を叩き壊す能力者達。奥に障害物があるため特殊能力を使わずに攻撃しても、扉を破壊するのは苦ではなかった。機材の山を掻き分けて進むと、そこには縄で両手首を縛られたエドワース兄弟がいた。先ほどの物音で目が覚めていないところを見ると睡眠薬の類を嗅がされたと思われたが、外傷らしきものは兄の鼻血ぐらいであった。
「大丈夫ですか?」
 諸葛、フィリア、佐渡川が駆け寄る。周囲には問題の寮監督の姿は無かったが、他の能力者達はまだ緊張を維持していた。
「エドワース兄弟は確保した。意識が朦朧としているようだが、今佐渡川が治療している。おそらく大丈夫だ。問題はこれからだが、どうする?」
 ホアキンが視線を兄弟に向けたまま、依頼人であるロッタに確認をとる。
「寮監督の先生、ハーディン先生って言うんですけど、他にも寮内の生徒を無断移動したり、寮内を改造したりしていたことが分かったのです。だから更迭して後任で南条・リック先生にお願いすることにしました」
「そのハーディン先生の確保はどうする?」
「どんな改造がわかるかまでは深追いは危ないと思うのです。その部屋にはキメラの実験も行われていたみたいですし、何がでてくるかわかりませんし」
「それもそうだな」
 通信中も白鐘、周防、フィリアが周囲を確認していたが、再び襲ってくる様子は無い。
「俺の言葉が届いたと考えたいが、虫が良すぎるか?」
「望みは捨てないほうがいいと思いますよ」
 白鐘の言葉に周防が笑顔で答える。その傍らでは佐渡川が兄弟にフィギュア作製を依頼しているところだった。
「根の深そうな事件ですけど、だからこそ私達の出番でしょう」
「それもそうだな」
 フィリアの言葉に納得する白鐘、その後ロッタの到着まで無事を喜び合う兄弟を眺めていた。