タイトル:ロッタとカメラ小僧マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/12 10:12

●オープニング本文


「最近何か見られている気がするのです」
 西暦二千八年十月、ロッタ・シルフスはいつもどおり購買の商品を整理している最中で視線を感じていた。ここ数日毎日である。当初は入学式が終われば妙な視線も感じなくなるだろうと安易に考えていたロッタであったが、入学式は延期、そのためか授業が始まっても視線を感じない日はなかった。
「おかしいのです‥‥」
 ショップで働いていた間でも視線を感じることはあった。大規模作戦ともなれば、ほぼ常にお客様と対峙することになる。だが今感じているものはそんなものではなく、悪寒の走る類のものであった。
 そこでロッタは一計を案じる。罠を張って捕まえようというものであった。購買の死角にビデオカメラを設置、敢えて気づかない振りをしつつ、犯人の姿をとらえようというものだった。結果、一人の男が購買部の影からカメラのフィルター越しに覗いていることが明らかになったのである。
「これで何とかなるとおもうのです」
 カメラを構えているため顔こそははっきりわからないが、カンパネラ学園の制服、170弱の身長、やや細めの体格、あまり手入れのされていないのだろうと思われるぼさぼさの髪型、それにおそらくは写真部だろうということからかなり範囲が絞られるからである。
 しかしそれほど事は簡単には進まなかった。ロッタの調べで、問題の男が写真部に在籍していないことが判明したからである。おそらくはモグリの写真好きということなのだろう、該当人物はそれほど多くない。だがロッタは購買部とULTのショップ定員を兼任しているということもあり、それほどの時間の余裕はなかった。それにロッタ自身がこれ以上動けば、警戒される可能性も高い。
 そこでロッタはこっそりとULTを通じて依頼を出したのであった。

●参加者一覧

漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
チェスター・ハインツ(gb1950
17歳・♂・HD
ドリル(gb2538
23歳・♀・DG

●リプレイ本文

「なんだ、あの男女は」
 購買部近くの柱の影で、一人の男が声にならない叫びをあげた。例のカメラ小僧である。本来ならばロッタ・シルフス(gz0014)だけしか眼中に無かった彼であるが、今日ばかりは勝手が違う。いつもは愛しのロッタ一人が店番をしている時間に、見慣れぬ男もとい筋肉女が立っているからである。ロッタと同様にエプロンをしているところを見ると、新しく雇われたバイトなのだろう。だがあんなプロレスラーのような女が雇われたという情報は男の下には届いていない。何かロッタの身に危険が迫るような自体がおこったのだろうか? だが思い当たるものはない。
 思考を切り替え、カメラを構える男。カメラを何とか写真の枠に入らないようにできないものかと色々とアングルを探すが、チャンスになる度に女がロッタに近寄ってくる。うざいとしか言い様がなかった。
「バイトなら、その内いなくなるはず」
 舌打ちをしながらも、カメラ小僧は我慢強くチャンスを待つ。そんな彼に好機が訪れた。神が彼の願いを聞き入れたのか、筋肉女がエプロンを脱いだのである。バイト終了ということなのだろう。
「神は俺を見捨てはしなかった」
 待った甲斐があった、思わず舌舐めずりをするカメラ小僧。愛用のカメラを構え、ロッタにファインダーを合わせる。だがそこに映ったのはまた見たこと無い男だった。親しそうにロッタと話している、これもバイトなのか? カメラ小僧は再び男の顔を確認するが、やはり見覚えがない。最も男なんかに興味はないため、顔を見たことがあっても覚えている可能性はここ一週間の献立を覚えるよりも難しい。最もこの一週間カップラーメン以外口にしていないわけだが。
 やがて学校が閉まる時間となる。ぎりぎりまでシャッターチャンスを待っていた男だが、結局機会が訪れる事は無かった。
「また明日がある」
 自分にそう言い聞かせて、男は寮へと戻るのであった。

「確かに付きまとっている人がいましたね」
 仕事終わりの購買部バックヤードで、ロッタは依頼に参加した能力者達とお茶を交えつつ作戦会議を行っていた。
「ボクも視線を感じたね。姿を見せようとしないからこっちから出て行こうとすると、向こうも巧みに逃げるんだ。専門家か筋金入りのストーカーだとボクは思うね」
 ドリル(gb2538)の言う専門家というのは、拉致誘拐のプロという意味である。このカンパネラ学園にそんな類の人物が存在しているかどうかは不明だが、今回依頼主であるロッタは世界に名だたるULTの会長の孫である。拉致誘拐をするとなれば当然かなりのリスクを背負うことになるわけだが、対象がロッタとなれば十分なリターンを期待できる。特にバグアに売り飛ばせば、脳内に納められているであろう情報を引き出すだけでなく、洗脳あるいは憑依することでバグアの一味として敵対する可能性もあるのだ。
「でも自分が調べた限りでは、どうもストーカーの線が強そうですけどね」
 周防 誠(ga7131)はそう言うと一枚の写真を取り出した。そこには購買で働く普段のロッタが写っている。正面から撮られた綺麗なものではあったが、面白みという点では欠ける。ただロッタが撮られた写真、それだけの代物だった。
「体育館裏で売られていましたよ。結構細かく値段が付けられて、それなりに売れているみたいです。ちなみにそれが一番安いもので1000C、後は横顔で笑顔だったものが1200C、背伸びしている写真が1500C、体操服姿が一番高くて5000Cでした」
「つまりストーカーというよりパパラッチの仕業ですか?」
 チェスター・ハインツ(gb1950)が尋ねると、周防が軽く首を横に振った。
「そういうわけでもないらしいのです。ちょうど自分がその写真を買いに行ったときに売り手と買い手で口論が起こっていました。買い手は一番高い体操服姿を購入するものの、もっときわどい商品を要求したんです。でも売り手は公的良俗に反する写真は撮らないと反論していました」
「随分律儀なパパラッチだな」
「プロ意識というものがあるのでしょう。自分が人間相手に剣を振るわないのと同じようなものかと思います」
「‥‥同類にされるのもどうかと思うがな」
 周防の買って来た写真を手に取り、難しい表情を浮かべる漸 王零(ga2930)。写真は確かに良く撮れているとは思う、だが自分はあくまで武術一族の当主であるという誇りとこのパパラッチの誇りが同類と言われると釈然としないものを感じていた。
「だが先程の話を聞く限りでは、それなりに組織立って活動しているということか」
「そういうことになりますね」
 周防は売り子の言葉を思い出しながら答えた。売り子自身が撮影者であるという可能性も考えたからである。だがしばらく考えた上で漸の考えに同意した。
「ですがそれほど大人数というわけでも無いと思います。客も多く無かったし、値段もそれほど高いわけじゃない。せいぜい二三人で回しているでしょう」
「売り手の顔は覚えているか?」
「勿論」
 当然と言わんばかりに答える周防、それを確認して席を立つ漸。だが二人を止めるようにチェスターがロッタに一つ質問を投げかけた。依頼内容にも関わる、犯人達の処遇に関する質問である。
「捕まえたとして、犯人達はどうします? 拉致誘拐を計画しているとなると、ロッタさんだけの問題ではなくなりますし」
「そうですねー」
 手に持っていたお茶をしばらく眺め、ロッタは答える
「写真なら撮られても問題ないですけど、誘拐とかになっちゃうとここだけの問題じゃなくなりますからね」
 ロッタは言う。
「それ相応の対応をお願いするのです」
 能力者達はそこで席を立ち、既に閉校準備の始まった学園を後にした。

「大変なことになったぞ」 
「どうしたの、兄さん?」
 一方その頃、学園某所では二人の男が密談を交わしていた。一人は問題となっているカメラ小僧、そしてもう一人はカメラ小僧より多少老け顔の男だった。
「今聞いた話なんだがな、我等愛しのロッタ様が何者かに狙われているらしい」
「えっ、本当?」
「今まで兄ちゃんが嘘付いたことあったか?」
「‥‥」
 カメラ小僧は兄とカメラを交互に眺めつつ、どっちつかずの反応を示していた。今一歩足りないということなのだろう、長年の経験から兄は悟る。
「それでだ、俺に一つ考えがある?」
「‥‥何?」
「ピンチの所を俺達がロッタ様を助けるんだ。そうすれば彼女のハートをゲットできる」
「!!」
 カメラ小僧の眉が動く。思わずそのまま身体を動かし、兄の方を睨む様に見つめた。
「何か手がかりあるの?」
「ある」
 自信たっぷりに兄は答える。
「今日、俺達とは違う匂いの男がロッタ様の写真を買っていった。俺と客のやりとりに聞き耳を立てて、状況を探っていた様子がある。あいつが犯人グループの一人だ」
「どんな人?」
「爽やか系の優男だった。飄々とした感じで我関せずって感じだったな。あと学園生じゃないから結構目立つはずだ」
「わかった。気をつける」
 二人は静かに闘志を燃やし始めた。

「来たな」
 お互いがお互いを探すという事は、概して迷宮入りしやすい。だが逆に運さえあれば、比較的容易に見つけやすいものである。周防が売り手であるカメラ小僧兄と再び対峙するのは、それほど難しいものではなかった。
「お前達の目的は分かっている。ロッタ様を誘拐し、身代金を要求するつもりだろう? そんな事、神が許しても俺が許さない」
 カメラ小僧兄は制服の上着を裾の端をすっと見せる。そこには白木製の鞘が納められていた。
「できれば無用な血は流したくない。ここで引いてくれれば全ては水に流す」
 真剣な顔で前口上を語るカメラ小僧兄。だが周防にも身に覚えが無い。どうやら誤解が生じていると判断した周防だったが、相手が武器を構える以上手抜きをするわけにもいかなかった。
「こちらとしても無用な血は流したくないんですけどね」
 無駄と思いつつも、一応言い訳の言葉を呟く周防。だが相手に引く様子は見られない。重心を前に落とし、突撃の構えを見せる。居合い系の使い手なのだろう、周防は相手の様子を見ながらそんな事を考えていた。突撃は攻撃重視であるため、まともに喰らえば大打撃になることは間違いない。だが反面防御が弱いという欠点もある。
「行くぞっ」
 突撃を欠けるカメラ小僧兄、だが直後に剣閃が彼の首筋を襲う。背後に隠れていた漸の峰打ちだった。 

「やっと見つけました。今更逃げるなんてないですよね?」
「ひぃぃ命だけはお助けを」
 一方その頃購買部前では、ドリルのボディプレスがカメラ小僧を襲っていた。逃げようとするカメラ小僧の進路をチェスターが妨害、そこをドリルが押さえつけたという形だった。自分の身よりカメラを守ろうとした姿勢だけは認めていた二人であったが、先の発言にドリルはどう反応しようか悩んだ。一度殴ってやりたいという気持ちもあった。だが今ここで話を逸らすのも躊躇われる。今は受け流すことにした。
「別に取って喰おうなんて思っていませんし、牢屋に監禁するつもりもありません。ただあなたが何の目的で写真を撮ろうとしているのか、それだけははっきりさせてもらいます」
「君がロッタさんを誘拐して、ULTを乗っ取ろうとしているという人もいます。その場合は相応の処罰が必要になりますが、理解していただけますよね?」
「‥‥ぁ?」
 間の抜けた声を上げる男、それもそのはずだろう。自分が聞いたのは、学園生らしからぬ人物がロッタの動向を探っているということだった。だがいつしか自分達が追いかける側から追いかける側、犯人になっている。事態の変化に彼の頭はついていっていなかった。
「何がどうなっているんです?」
「きみのやっている行為が、拉致誘拐じゃないかと疑われたのです」
 上で押さえ込みつつ監視するドリルに代わり、チェスターが事情を説明する。自分達がロッタに雇われた事、不審な男に付きまとわれている事、写真を撮るという行為が今後バグアに利用される可能性もあった事、自分達の考察を交えてゆっくりと解説した。そして全てを聞き終わると同時にカメラ小僧は思わず愛用カメラを落とした。 
「俺、元々はただのおっかけだったんだ。写真も本来は自分の観賞用だった。それがたまたま部屋に立ち寄った兄の目に止まり、いつしか協力して売るようになった。ただそれだけだったんだ。始めはロッタ様を扱った商品で金儲けすることに抵抗を感じていたんだけど‥‥」
 話しながら自分のやった事の大きさに気付いたのだろう、カメラ小僧は語尾を濁し始める。明らかに動揺し、視線も一定せずに泳いでいた。
「俺はそんな大それた事を考えては‥‥」
「君は考えていなかったのかもしれない。でも、もう一人の方も考えてはいないだろうね。だけど、利用する人がいてもおかしくないと思わないか?」
「‥‥」
 理解はできているのだろう。カメラ小僧は何も言わない。そこに周防と漸が兄を連れてきた。道中に同じ事を言われたのだろう、兄の方も酷く落ち込んでいる。
「俺達はただロッタの写真が欲しかった。それだけなんだ」
「どうする?」
 漸がロッタに伺いを立てた。今回の依頼は犯人の捕獲と目的を聞き出す事、既にその目的は達成されている。後はロッタの裁量次第だった。
「勝手に写真撮っちゃだめなのです」
「「‥‥はい」」
 力弱く答える犯人達。その返事に納得できないのか、ロッタの説教は数分に渡って繰り広げられる事となった。その後犯人達は疲れきった表情を浮かべ、逃げるようにその場から去っていく。
「これからはロッタの許可を貰ってから写真撮ってくださいねっ」
 小さくなっていく二人に声をかけるロッタ、そんな彼女の様子に見ながら能力者達は購買を後にしたのであった。