●リプレイ本文
学生寮、通称からくり屋敷の一室の前の廊下に能力者達は集まっていた。ハイン・ヴィーグリーズ(
gb3522)、織部 ジェット(
gb3834)、アンジェラ・ディック(
gb3967)、比部 彩貴(
gb4202)の四名である。そして一部屋おいて、その隣の廊下には依神 隼瀬(
gb2747)、鈴木 一成(
gb3878)、天羽・夕貴(
gb4285)、不知火 チコ(
gb4476)が武器を構えて突入のタイミングを見計らっていた。
「部屋はある程度傷つけてもいいという了承は得ていますが、なるべく無傷で行きたいと思います」
「だな。俺もその方が良いと思うぜ」
ハインの提案の織部も同意、アンジェラと比部も頷いて共感を示した。
「この後に清掃活動もあるからね」
「回収は俺の担当だったな。任せておいてくれ」
比部の両手にはバケツが握られている。メトロニウム合金製の樽を申請したわけだが、そんなものを作る余裕があれば武器を作るだろうと南条に一蹴されている。代わりに渡されたのが普通のバケツだった。蓋付というのが南条の優しさだと言う事だったが、色が青なのは南条も比部の事を男だと判断したということなのだろう。そのせいか比部の表情は泣いているとも笑っているともとれる表情を浮かべていた。
「大丈夫か、比部殿。先ほどまで荒れていたようだが」
「大丈夫大丈夫、もう慣れてるからな」
「あまり慣れたくはないものですけどね」
「俺みたいに鍛えたら間違う奴もいなくなると思うぜ」
「それは俺に完全な男になれってことか?」
「間違った奴に拳で本当の事を教えるってことだ」
「南条先生も殴るの?」
「停学になったら、織部さんの名前挙げとくぜ」
「俺を巻き込むなよ」
一度気を落ち着いたところで、四人はボブの部屋へと突入した。
同じ頃、二つ隣のカインの部屋の前でも突入前に確認を行っていた。依神が戸ビアをわずかにあけ中を確認してみると、予想通りスライムが生理的に許せない音を立てつつ蠢いていた。
「います?」
「特盛だね」
「特盛? うち、今回初めての依頼受けたんやけど大丈夫かいな」
「大丈夫ですよ、これから新たな未来にむかって旅立たんとする若者たちの未来を摘ませる訳にはいきませんからね」
「よろしくお願いしますわ」
先ほど挨拶を済ませたばかりの不知火の言葉はまだぎこちないものだった。だがやる気だけは十分に見せている。他の三人もそれは感じとっていた。
「緊張することはないさ。敵は色とりどりのスライムだが、キメラの中でも弱い部類だ。むしろ一番怖いのは八畳しかない部屋のほうだ」
「そういえば八畳間っていうのは本当だったのかしら? 場所によっては多少広かったり狭かったりするらしいですけど」
「そういえばここもからくり屋敷とか言われているみたいですし、何か仕掛けみたいなものがあってもおかしくなさそうですが」
「そうだなぁ」
依神は先ほど見た部屋の様子を思い浮かべた。そして苦笑を浮かべた後再び扉を開け部屋の中を確認する。
「少なくとも床は何もないな。スライムがあれだけいれば罠が作動しないはずがない、あるとしたら重量の問題か」
「広さはどうです?」
「荷物がない分広くは感じるが、大物を振り回すのは無理だろう。本当に八畳間なのかどうkまでは目測じゃ分からなかったな」
「そこまでわかれば十分ですよ。ボブさんの部屋の清掃班も行ったみたいですし、私達もそろそろ行きましょうか」
「ですね」
武器を構える一行、そしてカイン班も突入するのだった。
「コールサイン『Deam Angel』、目標を駆逐するわよ」
ボブの部屋では織部、ハインに続いてアンジェラ、比部が進入していく。四人の存在に気づいたスライムはそれぞれ飛びついたり、粘液のようなものを吐き出してくる。後衛の比部はバックラーとバケツのふたを盾に防御に専念、先行する織部とハインの影から先手必勝と強弾撃を交えつつ援護。そして織部は借りてきたゴム手袋を両手に装備しバトルハタキでスライムを弱らせ掴みあげては比部にパス、ハインが途中でバトルモップの急所突きで仕留め、比部がふたで受け止めてバケツへと流し込む。
「ナイスパスー」
「ナイスキャッチ」
「野球じゃないから」
「サッカーの方が趣味なんだがな」
とはいいつつも一度工程を作ってしまえば流れ作業は早いもので、スライムは見る見るバケツの中に納まっていく。優勢な状況に気を良くしたのか、織部も上機嫌になっていた。
「緑はメロン味、黄色はレモン味、オレンジはみかんで赤はきっとタバスコ味だぜ。多分な。」
「食べて確かめてみる? レポートで提出すればカンパネラ学園入学認められるかも知んないぞ」
「残念だな。入学金が出せん」
「高くないぞ。それに依頼こなせば自分の給料にできるからな」
「なるほど、悪くないシステムだ」
だがそこでハインが一つ気づく。すでに織部の身に付けていたゴム手袋がぼろぼろになっていることだった。
「変えたほうが良くないかしら? このままだと手が荒れそうだけど」
「それもそうだな」
手袋をはめなおす間、織部に代わってアンジェラが前衛に立つ。流石に前に立つことに不安を覚えたアンジェラであったが、既にスライムは大半片付いている。承諾して、前線に出るのであった。
その頃、カインの部屋でも能力者対スライムの戦闘が行われていた。
「ヒィーーーハァーーー!!ひゃはははははははふぅははははっひーっひっひっひ!!!」
周囲の迷惑ではないだろうかと心配する三人をよそに、鈴木は覚醒の開始を告げる雄たけびをあげていた。隣は現在空室ではあるものの、上と下の階には人がいる。だが鈴木にとってみれば、仕方の無いことであった。
「まぁこういう事も一応説明しといた方がいいわね」
「それはそうだな」
苦笑する依神、だが天羽は真剣な顔している。
「始めっていうのは結構重要なのよ、自分がどんな人なのか教えるためにもね。特に悪い印象を与えるようじゃ」
「こ、細かいんですね」
「細かいっていうより、やるべきことはやらないとっていう感じかしら。これは社会に出てからも重要なことなの」
いつしか始まった天羽流処世術講座だったが、その間も鈴木は一心不乱にスライム退治に勤しんでいる。すの姿を見て依神もスパークマシンを取り出し応戦を開始、天羽と不知火もそれに倣う。特に初心者である不知火にとっては何もかもが始めての経験、今回はバケツでの回収役となったが、素早く切り刻まれていくスライムに目を丸くしていた。
「月並みな台詞ですけど、皆さん強いんですね」
「まだまだですよ」
粗方片付け終わったところで鈴木は覚醒を終え、いつものおどおどした状態に戻っていた。
「私ももっと強くならないと」
「まぁそれは俺達能力者の永遠の課題ってやつだな」
「ですね」
最後の一匹となったスライムを不知火の持つバケツへと投げ込む依神、続いて借り受けてきたモップを取り出す。
「折角だから水汲んできてもらえる?」
「了解、他に必要なものとかありますか?」
「そうだな、向こうの様子でも見てきてもらえるかな」
「分かりました」
一礼して出て行く不知火、彼女が出て行くのを確認して三人はモップ掃除を開始した。
「様子見に来たんですけど、どうです?」
扉を開けボブの部屋の様子を見る不知火、そこではカインの部屋同様スライムの片付けを終え、雑巾がけを始めている四人の姿があった。
「こっちはもう終わり、ボブからも連絡があって一度様子を見に来るんだって」
「そういえば二人は今何されているんです?」
「前の部屋の掃除とおっしゃってましたね。本とかをダンボールに積めているのだと思います。個人的にはお二人の馴れ初めをお尋ねしたかったのですが、向こうも言いたくないのかはぐらかしていましたね」
「はぐらかす? お二人は仲が悪いので」
「照れてるだけ、照れてるだけ」
四人の意見はボブが恥ずかしがっているということでまとまっていた。実際ボブと一緒にいたカインの方は自慢したいのか、話したそうな様子を見せていたらしい。
「ところでバケツはどうしました? 水汲んできてほしいと頼まれたんですけど、スライムをどうしたらいいのかわからなくて」
「それなら南条先生っとこにもってけばいい、何かの研究対象にするらしいぜ。水は浴場から汲んで来るといいかな。依頼後入ってもいいようにしてくれてるらしい」
「それはありがたいですね」
比部の説明に目を輝かす不知火、だが同時に肌を見せたくない葛藤から複雑な表情に変わる。不知火の様子を察したのか、ハインが話題を変える。
「そういえば後でボブとカインが食べたいものがないかと聞いていました。依頼の後打ち上げができそうですから、楽しみにしておいてくださいね」
「本当ですか?」
「チコの初依頼成功の祝いもやりたいからな」
織部の言葉に満足そうに頷く不知火、その後すぐに寮監督室、浴場を経由してカンの部屋へと戻り、先ほどの話を三人に伝える。天羽だけが先をとられた事に残念がっていたが、急いで終わらせる事自体には同意。その後打ち上げでは依頼成功とカインの恋愛談、そして大きな浴場を満喫する。
「Bem−vindo ao ninho do amor de duas pessoas!」
織部がタイミングを見計らいつつポルトガル語で祝福の言葉を送ってみたが、ボブは苦笑いを浮かべるのみに留まる。依頼自体は成功だった。心残りがあるとすれば、今回大量発生したスライム発生源が特定できないこと、そして二人の部屋の間の住人である兄弟が姿を現さないことだった。