タイトル:消えた能力者四マスター:八神太陽

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/20 17:09

●オープニング本文


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 西暦二千九年六月、グリーンランド某所の警察署地下留置所では銃撃戦が行われていた。警察同士での内乱である。勢力の一つは大多数を占めるUPC側、積極的活動を起こしていないことから穏健派とも言えた。そしてもう一方は巡査部長であるヘルマン・クルーセを筆頭とした親バグア派である。彼らはバグアによる今後の生活の保障と引換に、秘密裏にキメラの強化を手伝っていた。その実験対象として任されたのが体長十メートル程の猫型キメラであった。彼らは留置所の一つを改造しキメラと低周波砲開発第一人者であるコバルト・ブルーを監禁、命を賭けてコバルトに低周波を使わせることで猫型キメラに低周波砲への耐性、免疫をつけさせることが目的だった。そして最近キメラの遠吠えが頻発する事から実験がそれなりの形となったと判断、町から搬出するための護送車の準備を進めていた。だが輸送直前にヘルマンの部下一人が離反、士気低下を防ぐためにその場で射殺。その音が留置所に入れられていた囚人の耳にも届き、犯行が明らかとなる。時間的余裕も少ないということから警察はボブとカインへも協力を要請、そしてキメラ討伐も含めてUPCに連絡を取るのだった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
マクシミリアン(ga2943
29歳・♂・ST
ロジャー・ハイマン(ga7073
24歳・♂・GP
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
ノーマ・ビブリオ(gb4948
11歳・♀・PN

●リプレイ本文

 グリーンランド某所下水道、微かに聞こえる奥からの銃声の中で能力者達は逃走を計るヘルマンと猫キメラの前に対峙する。
「うっへ〜、暗いし汚いし臭えし、どうしようもねえところだな。さっさと仕上げて一杯飲もうぜ」
 猫も汚いのが嫌なのか、金色の瞳孔を見開き髭を震わせている。それは光の少ない下水道の中では浮かんでいるようにも見えていた。
「にゃんこを傷つけねばならないとはな‥‥」
 膝まで下水に漬かり戦闘の覚悟を見せながらも、ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は少なからず動揺していた。気持ちの揺らぎを抑えるよう煙草に火をつけているが、まだ決心が鈍っているのか剣を握ってはいない。むしろ襲って来てくれた方が正当防衛として本能が働くのではないかとさえ思っていた。
「動物愛護な男なんでネコちゃんは任せるぜ!」
「俺もにゃんこ好きなんだがな」
 マクシミリアン(ga2943)の軽口に、溜息交じりに答えるホアキン。一方でノーマ・ビブリオ(gb4948)は遂に追っていたコバルト・ブルーが救助できるとあって気張っていた。
「おとなしくお縄につくですの!!」
 実際にロープは持っていないものの、代わりに主兵装である氷霧の剣を両手に構え威嚇している。その隣ではロジャー・ハイマン(ga7073)、ハミル・ジャウザール(gb4773)も戦闘準備を整えていた。特にロジャーは後方に控えるヘルマンの前衛役、下水に入りつつも敵前衛役を務める猫の脇を通ることになる。その引止め役がハミルであるが、猫の眼光がはっきり見えるせいで、逆に注意が削がれていた。
「ところで低周波砲はまだかね〜聞いた話ではかなり効果があるということだが‥‥、やはり受けてみないことには脅威を実感できないね〜。我輩の悪い癖だ〜」
 ドクター・ウェスト(ga0241)も機械剣αを構えてはいるが、戦闘以上に低周波砲に興味を示している。敵が何かしてくれることを期待しての待ちの構えである。代わりにアンジェラ・ディック(gb3967)は戦闘意欲を全面に押し出していた。
「コールサイン『Dame Angel』、速やかに鎮圧行動に突入ね」
「了解、いきますよ」
 ハミルが小銃「S−01」を発射する。それが開幕の合図だった。

 ハミルの銃と同時にロジャーがヘルマンを抑えるために飛び出す。第二陣として先程まで攻撃を渋っていたホアキンと低周波砲を受けることを心待ちにしているドクターが猫の動きを封じにかかり、ハミルも小銃を仕舞いクロックギアソードを取り出して距離を詰めにかかる。だがヘルマンは猫の前方に手榴弾を投下した。閃光手榴弾である。
「みんな伏せて!」
 いち早く手榴弾に気付いたノーマが叫ぶ。彼女の言葉と同時に一斉に伏せる能力者達、だが猫はそんな能力者達を嘲笑うかのように、一番近くにいたロジャーを掴み上げる。そして肝心の手榴弾は不発に終わっていた。
「こんな狭い場所で閃光手榴弾を使う訳があるないだろう」
 ヘルマンは手にしていたスナイパーライフルをドクターに向けて発射、銀の彼の髪の中に赤いものが滲んだ。だがドクターも歩みを止めない。
「まずコノ眼鏡を破壊しなくては我輩自身まで傷は届かないぞ!」
「眼鏡に延命装置でも付けているのかい? だったらケプラー素材でも織り込んでくるといい」
 ライフルで狙いを定めるヘルマン。撃ちはしないものの身動きをせず、常に撃てる体勢を整えている。標的は前線に立つドクター、ホアキン、そして合流したハミルの三人。そして命令に従順なのかは定かではないが、その三人の障害となるべく猫は前足でロジャーを掴んでは、下水の中に押し込み重低音の鳴き声を周囲に響かせていた。
「こちらもピカピカ行きますの!」
 状況を打開するために閃光手榴弾を取り出すノーマ、だがマクシミリアンはそれを止める。
「ソイツは十分警戒されているはずだ、向こうが空発ながらも先に使ってきたわけだからな」
「だったらどうすれば」
「奥の手は先に出すもんじゃない、それを教えてやればいいのさ」
 そう言って手袋をはめなおし、マクシミリアンはロジャーに一喝する。
「そっから出られるか? 月詠はまだ手放してないんだろ」
 何度も下水の中に叩きつけられながらも、ロジャーはまだ意識を保っていた。反撃の機会が来ると信じていたからである。ヘルマンはスナイパーライフルを使っている、ショップで市販されているものであれば装弾数は五、既に一発撃っているため残りは四。つまりあと四発撃たせればリロードする必要がある。そこでヘルマンとの距離を詰める好機である。それに数の上では能力者達が圧倒的に有利、猫を押さえられれば何とかなると信じていたからである。
「ドクター、ホアキン。まずが前足を狙ってくれ。ハミルは狙いを決めさせないようかく乱を頼む」
「いい作戦だ。だがそうさせると思うか?」
「させてもらうんだよ。俺はさっさと仕上げて一杯飲みたいんだ」
 口で牽制するヘルマン、だがマクシミリアンは受け流す。その間にアンジェラとノーマが移動を開始、猫を壁としつつヘルマンの視界外へと逃げていく。そしてドクター、ホアキン、ハミルは猫への攻撃を開始した。
「させるか!」
 銃声が下水道内に響く。続いて狙われたのはホアキン、だがホアキンはとっさに猫の巨体に身を隠す。そして銃弾は猫を体表を掠め天井で兆弾し、どこかへと消えていった。当たらなかった事を悟ったヘルマンはすぐに二射を放つが、猫の背中に弾をめり込ませるだけに過ぎなかった。
「狙ってくるのが俺かドクターのどちらかだと分かっていたからな。注意していれば回避するのも難しくない」
 ヘルマンの集中を乱すためにも挑発的な言葉を吐くホアキン、そしてその間にロジャーは月詠を猫の右前足に突き立て、反対側からハミルが切り付ける。更にドクターが機械剣αでダメージを与えると、猫はロジャーを手放した。
「助かりました」
「困ったときはお互い様ですよ」
 簡潔に謝辞を述べるロジャー、それに対しハミルも簡単に答える。だがそんな二人を狙い、猫は体当たりを仕掛けてくる。それは猫の全身を使った体当たりというより、その場にいる全てを押しつぶす浴びせ倒しのようなものであった。巨体を浮かせ、ロジャー、ハミル、そしてホアキンとドクターをも巻き込もうとする攻撃だった。
「逃げるのだよ〜」
 他三人とは多少離れた場所にいたドクターは無事範囲外へと逃げ出す。だが猫の重量により下水が周囲に離散、天井近くまで巻き上がる。
「大丈夫か」
 すかさず救援に入るマクシミリアン、だが救援には向かわない者もいた。アンジェラとノーマである。舞い上がった水を死角として、そのままヘルマンへと距離を詰める。ヘルマンも向かってくる二人に対し一射づつ仕掛けるが、下水の前に命中が定まらず誤射に終わる。そしてリロードの間に二人によって拘束された。
 残る敵は猫のみ。だが寝起きと空腹、そして手負いとなった猫は喉を鳴らし、身体を震わせる。
「ソイツはただの猫じゃないぞ、俺達の実験台になっていた猫だ。痛覚が鈍く気性が荒い。手名付ける事は不可能だ」
「負け惜しみは後で聞くよ」
 まだ口だけは達者らしいヘルマンの鳩尾に、アンジェラは掌底を入れる。だが根本的な解決にはなっていない事もわかっていた。
「低周波砲で眠らせてはどうだね〜」
「いや、それでは下の者が救えない」
「そんな事はないと思うよ〜この下水は色んなものが混ざっているせいか粘性が高いからね。さっき痛めつけた右前足から抜け出せるんじゃないかと我輩は考えるよ〜」
「だけど、低周波砲は効くのでしょうか? 耐性を持ち始めたと聞いていますが」
「ならば閃光手榴弾を使おう。至近距離で使えば効果はあるはず」
 ヘルマンの拘束をアンジェラに任せ、ノーマは手榴弾を構える。だがマクシミリアンはアンジェラと交代を希望する。何も言わず交代するアンジェラ、そしてマクシミリアンがヘルマンを拘束する。そしてアサルトライフルを猫の右前足に合わせる。
「今から右前足を集中攻撃するよ〜内側からも脱出を試して欲しいね〜」
 返事は無い、代わりに高らかに笑うヘルマン。だがその高笑いをかき消すように閃光手榴弾、そして集中攻撃が行われた。骨が折れ、泣き叫ぶ猫。そして同時に僅かに開いた隙間からホアキン、ロジャー、ハミルが無事抜け出してくる。怪我はしていない、だが全身下水にまみれ、服は変色を始めていた。

 無事抜け出した事により数の集まった能力者達は、猫キメラの討伐を無事果たす。そして戦果報告とほぼ同意義であるドクターによる細胞回収を追え、能力者達は遂にコバルト・ブルーと対面を果たす。だが臭いのためか、コバルト、そしてボブとカインも鼻を押さえていた。
「メシは食いにいけないと思っていたが、‥‥そんなに臭うか?」
「残念ながら」
「それじゃ風呂を借りられないか頼んでみるか」
「わたくしは車を用意しておきました。一度精密検査受けたほうがいいと思いますのですがどうでしょう」
「そうですね、お願いします」
 その後能力者達はシャワーを借りて下水の臭いを落とし、服を着替える。そして精密検査のためにノーマがコバルト、ボブ、カインを送り、結果が出るまでの間、一連の事件の解決を祝って簡単な晩餐会が開かれたのであった。