●リプレイ本文
「この辺りで地震が起こるっていうわけね」
問題の村についた後、ロジー・ビィ(
ga1031)は簡単に挨拶を終えて周囲を見回した。村という名前にふさわしいのか比較的大きな家がいくつか固まって建ってはいるが、その集落を超えるとしばらくは雪原の大地が広がっている。軽度ながら地震があったと聞いていたロジーではあったが、その被害の爪跡は見当たらない。隣では青海 流真(
gb3715)がドクター・ウェスト(
ga0241)の運んできた地殻変化計測器の設置を手伝っていた。
「何か感じますか、ドクター」
「今のところは特に反応ないね」
ドクターの運んできた地殻変化計測器であるが、本来は個人で使うものではない。KV用のアクセサリーである。だが今回の依頼に非常に有用ということで、ヒューイ・焔(
ga8434)、サルファ(
ga9419)らにも運搬を手伝ってもらっていた。
「出るのをただ待つだけっていうのは何となく嫌だからな」
ヒューイは運搬を手伝った理由をそう説明する。
「どこまでこれが役に立つかは知らないが性能は確かって聞いているしね。もっとも使い方はドクターに任せますけど」
「だが本来の使い方をしていないのも事実だから、偵察をかねて見回りをしてきますよ」
「それなら俺もいきましょう」
そのようなやりとりの結果、ヒューイとサルファは現在村の周囲を見回りに行っている。とはいえ既に村人は避難をしており、人はほとんど残っていない。酒場の主人であるニナだけが世話役として一人残っているだけである。また時間をかけて見て回るのが必要なほど大きな村というわけでもなかった。宿といった宿泊施設も本来は無かったのであるが、ニナが女将を務める酒場の二階が何室か空いているという。そこで能力者達は酒場を今回の活動拠点としていた。
「我輩はしばらく機械の調子を見ているとするよ。正常に作動してくれないと手伝ってもらった青海君やヒューイ君、サルファ君にも悪いからね」
「了解しました。ですが外は寒い、あまり無理をなさらないよう」
「その心遣いは受け取っておくよ」
時間を確認する青海、すると既に昼を回っていることが判明する。
「ボクも一応残っておくよ。防寒準備は整えてきているし大丈夫だと思う」
「分かりました。それではまた」
他の仲間にも状況を説明するためにも、ロジーは酒場へ戻って行くのであった。
「正直本当に地震なんか来たら、どこにいたって大して変わらないのにね」
一人残った理由をニナはそう説明した。それに感心したように水無月 神楽(
gb4304)は言う。
「だけどそれぞれ思い出の地で最後を迎えたいという気持ちもあるんだろ?」
「そうかもしれませんね」
「あたしは父さんから引き継いだこの場所にいたいからね。自分の命より大切なものっていうのもあるだろ?」
「確かにありますね」
「まぁそういうことさ、今から荷物を運ぶから暇ならお兄さんも手伝っておくれ」
「僕は女性ですよ?」
「あらそうかい、すまなかったね」
カラカラと高笑いを浮かべてニナは三人分の荷物を抱えて二階へと上ってゆく。水無月もそれについていった。上にいたのは紫檀卯月(
gb0890)、矢神小雪(
gb3650)の二人がいた。苗字が示すとおり血の繋がりは無い。だが二人はそんなものを超えた大切な家族だとお互い認めていた。
「あぁ女将さんちょうどよかった。今夕飯の話をしているところなんです。今日は鍋にしてもらえますか?」
「鍋ね。別に構わないけど、何か特別に食べたい具でもあるのかい?」
「正直そこまで考えてはいないのですけどね。ただ‥‥」
「小雪も手伝いたいのです〜フライパンも準備してきたのです〜」
紫壇の隣では既にフリルのついたエプロンをつけた矢神がフライパンを手に仁王立ちしている。
「えへへ〜準備できたよ〜この服がいいの〜これで行くの〜」
「それじゃ期待させてもらおうかな。ちなみに何が得意なんだい?」
「サンドウィッチとか小雪上手に作れますよ〜今準備中のオープンカフェ用に開発しているの〜」
「それは面白い材料になりそうだね。あたしも裏口で乾燥させておいた魚のアラを使う日が来た見たいね」
自分で言い出したことでありながら、一体どんな鍋が出てくるのか紫壇は背中に嫌な汗をかいていた。
そしてその日の夕刻、とはいえ既に日は地平線と接している状態の中でドクターは計測器の定期調査に赴いていた。一時間毎の定期調査である。本来ならもっと密にするべきなのかもしれないが、今回の戦いはいわゆるもぐら叩き、根気が勝敗を分けるといっても過言ではない部分がある。根を詰めることは返って悪影響になりかねなかった。
「ドクター、そろそろ夕食らしいですよ」
「了解したよ。確か鍋という話だったね〜」
「この辺りの郷土料理らしいですよ」
「そうなのかね? 我輩は矢神君が自慢の腕を振るったと聞いたんだけどね」
微妙に食い違う意見を交わしあいながら、二人はお腹を空かせながら酒場へと戻る。その時観測機にわずかに反応があったことには気づくことは無かった。
夕食後、酒場にはまったりとした雰囲気が流れた。不思議な味をする鍋に舌鼓を打った能力者達はニナに出されたスピリッツで余韻を楽しんでいた。足早に片付けに入る矢神、それを見ていた紫壇は手伝いを申し出るが矢神にゆっくりしていてほしいといわれる。手持ち無沙汰になったところで観測機の様子を見に行くことにした。
「ならば私も行きましょう」
ロジーも後を追うようについてくる。そして先程まで見張りを行っていたドクターは二階へとあがり、ヒューイとサルファは周囲の警備へと出向く。そして四人が扉に近づいたときだった。外で軽い破裂音が聞こえたのだ。ビニール袋が割れたような音である。
「外に何かおいてありました?」
「特に無いはずだ」
「少なくともビニール袋は置いてませんよ」
「だな」
何となく納得できない部分を感じながら、四人はそっと扉を開ける。そしてそこにいたのは予想通りモグラの形をしたキメラであった。数は一、とはいえわずかに開けた扉の隙間から見ているに過ぎない現状で、近くにキメラがいないとは限らない。
「せめて観測機まではいきたいですね」
「だね」
昼間の間に設置した観測機だが、酒場を出てわずかに右手三十メートル弱という距離にある。今は直接見える位置には無いが、それほど遠くは無い。何より四人とも昼のうちに場所を確認している。
「ちなみにさっきの音はどっちから聞こえました?」
「ちょっとそこまではわかりませんね」
「あのキメラが何かやったんじゃないのか?」
ヒューイがアゴで刺したのは、四人の眼前に映るキメラである。時折首を大きく伸ばし周囲を見回すような仕草をしているが、こちらに気づいた様子は無い。 このまま足音を忍ばせつつ
現状把握のために観測機まで行こうと話がまとまったその時だった。四人の背中から悲鳴が上がる、ニナの声であった。
騒ぎを聞きつけ真っ先に駆け寄ったのは、食堂で佇んでいた紫壇と水無月だった。遅れてドクターも二階から降りてくる。そこで見たものはモグラキメラが二体、開け放たれた裏口の外で待機しているところであった。
「大丈夫ですか?」
紫壇が矢神へと、水無月がニナへとそれぞれ近寄る。
「小雪は大丈夫〜でもニナさんが足くじいたみたい」
「何、たいしたことは無いさ」
「そんな強がってもいいことありませんよ。ドクター見てもらえますか?」
武器を構えてキメラを牽制する水無月、それに倣うように紫壇と小雪も武器を取り出しニナの前に壁を作る。その間ドクターは練成治療を開始した。
「どうやら足首を噛まれたみたいだね〜感染症を併発する可能性もあるからあまり無理しない方がいいと思うよ〜」
「へぇ、あんた医者なのかい? そうは見えないけどね」
「医者じゃけどね〜まずはあいつらを何とかしようかね」
詳しい説明を省いたドクター、一方キメラ達は襲ってくる様子を見せない。自分達の得意フィールドである土壌で戦いたいということなのだろう、あるいは家の中にまでは進入できないということなのだろうか。そんな疑問を確かめるために紫壇はライフルをキメラに向ける。
「相手に気づかれずに必殺の一撃を‥‥」
するとモグラは穴へと身を隠した。
「逃がさないよう隙を見せずに行くべきですね」
水無月の意見に同意する四人、そして矢神が伝達役として玄関方面へと走る。内容は「敵を掃討しつつ観測機で合流」であった。
四対一ならば問題ない。それが玄関側から回った四人の感想だった。モグラ側の特権は土の中に逃げられるということ、後は暗いということだろうか。だが逆に言えば穴に戻さなければよく、暗いといえど八つの目がある。一人で対応はできなくとも問題は無かった。
「少し‥‥心配ですわね‥‥」
敵の爪攻撃を受け流しカウンターで流し斬りを決めるロジー、だが内心焦りもあった。こちらは一体であるが、裏口側は二体いるからである。ロジーに続きヒューイが二段撃、両断剣、流し斬りの三連撃でキメラを沈め、そこにサルファがライオンハートでトドメを刺す。そしてすぐさま観測機へと向かった。
だが一方で裏口側ロジーの推測通りは苦戦を強いられていた。キメラが連携を取ってくるからである。敵が二体で出撃位置が特定できないということもあり矢神一人が前衛に立ち、残り三人で援護に当たる。だがモグラの出撃位置がある程度限定できないことには前衛が前衛としての行動をできないでいたからである。
「本番は練習通りいかないものですね」
「常に想定通りというのも面白みにかけますけどね‥‥」
紫壇は相手からの攻撃を避けるために、裏口の軒先に上がって狙いを定める。隣ではドクターが知覚を上昇させつつエネルギーガンを構えていた。
「でも〜この子達は決まった穴から顔を出してくれません〜」
愚痴を零す小雪、そこに指示が飛んだ。
「右手二時の方向、続いて八時の方向」
それは青海の声だった。目を凝らす四名、そこには確かに溶けつつある雪をかき分け、土が盛り上がりを見せていたのだった。
「役に立ったようでよかったよかった」
モグラ襲撃から一夜明けた翌朝、ドクターは満足気味に笑いながら率先して観測機の設置解除にかかる。それにサルファとヒューイ、青海も手伝いにかかる。
「当初不利に働くと思った雪が目印になったのはどこか皮肉だったな」
「勝負は時の運ということじゃない?」
「そうですね」
土に潜るのがメリットであるモグラではあったが、同時にそれは雪をかき分けることになる。夜の闇の中でも雪の様子を観察すれば出現位置が特定できたのは、能力者達に幸運だった。
「だがドクターがこいつを持ってきてくれなかったら切欠も掴めなかったわけだし」
「そして怪我人も出ていますからね」
応急処置をしたとはいえ、ニナは現在ロジーと水無月とともに最寄の病院へと向かっている。何かに感染していなければいいが、というのが能力者達の気持ちだった。
「酒場の方は後片付け終わりましたよ」
「終わったよ〜」
「って小雪帰る時もその格好で行くのか‥‥」
やがて酒場から全員の荷物を持った紫壇と矢神が現れる。そこで能力者達は戸締りをし、避難していた村人達に事の顛末を伝え帰島するのであった。