タイトル:【永久氷壁】別の伝承マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/04 17:14

●オープニング本文


 西暦二千九年三月、グリーンランドチューレ基地の特務大使であるマックス・ギルバートは息子トーマス・藤原とともに病院から軍へと帰宅の路についていた。以前助けた緑川に話を聞くためである。一時間ほどの面会を終え、二人はトーマスのジーザリオに乗り込む。そして一息をついた。
「収穫らしい収穫は無しでしたね、特別大使」
「古いことだから仕方ないさ」
「それもそうですけどね」
 緑川の話は以前ヨハンから聞いた話の村長側からのものだった。若者五名を追放した村は結局食糧不足に陥り、人々は村を外れる。そして誰もいなくなったというものであった。
「昔は海面が高かったと言われていますからね。どの時代か分かればまだ何か得られるものがあったのですが、逆に言えば範囲が広すぎる」
「そうでもないぞ。バグアの狙いが石油なら地層等である程度特定はできる」
「ですが、その調査もできないでしょう?」
「まぁな」
 ボーリングでもやれば地層調査もできるわけだが、機材の貸出など手間がかかる。それ以上に調査時間をどうやって捻出するのか、そして上をどのように納得させるのかが一番の問題だった。
「ちょっと電話をかける。静かに頼むぞ」
「了解」
 こんな所まで携帯電話の電波が届くのだろうか、そんな疑問を一瞬感じたトーマスだったが考えるのを中止する。世の中には自分の分からないことが、特に特務大使について数多く存在することを知っているからである。再び運転に集中するトーマス、だが不意に足元で違和感を感じる。車体が傾いたのだ。トーマスは急いでハンドルを切るもののジーザリオは横転、そして二人は地面に叩きつけられる。
 反応が無い事に不審に思った電話相手はUPCに依頼を出すのだった。

●参加者一覧

鳳 湊(ga0109
20歳・♀・SN
地堂球基(ga1094
25歳・♂・ER
M2(ga8024
20歳・♂・AA
皓祇(gb4143
24歳・♂・DG
ファブニール(gb4785
25歳・♂・GD
ノーマ・ビブリオ(gb4948
11歳・♀・PN
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER
Observer(gb5401
20歳・♂・ER

●リプレイ本文

「もしかしたらはぐれバグアの氷漬け宇宙船なんてあるかもしれませんね」
 ブリーフィングの最中、ノーマ・ビブリオ(gb4948)がそんな意見を披露した。
「バグアじゃなければ面白そうなお話ね。どこかのおとぎ話としてだけど」
 鳳 湊(ga0109)は興味を示しつつも、その可能性は薄いと考えていた。ノーマの話が事実となると、それはつまり人間の技術の源にバグアが介在していることになる。あまりおもしろい話ではない、鳳はふとスナイパーライフルの重みを感じていた。
「その話も面白いが、一旦は元に戻そう。情報が漏れている感があるのが何より気になる」
「だな」
 地堂球基(ga1094)、M2(ga8024)が話を元に戻した。今回参加者の中で気になる点は二つ、敵が判明していないことと情報が漏れているのではないかという懸念である。
「ちょっと病院帰りに行方不明って冗談じゃ済まされないからね」
 方針は既に決まっている。ノーマと鳳の車をメインにバイク暦六年の皓祇(gb4143)が後方より追走、見逃しをしないようにというのが皓祇が言い分であるが、防寒対策をどうするのかということで一人悩んでいた。
 一方でファブニール(gb4785)とテト・シュタイナー(gb5138)は既に出発の準備を整えている。Observer(gb5401)も防寒対策を調えていた。

 能力者達が捜索に出たのは早朝だった。わざわざ視界の悪くなる夜間に捜索を行う必要もなく、天気が崩れないようにも注意を払う。二重遭難が愚の骨頂であることは誰しもが理解していることであった。そのためバイクである皓祇は常にライトを灯火し、前方を行く車への目印にすることが条件となった。
「後ろ、ついてきていますか?」
「問題ないよ」
 鳳は運転に集中しながらも、後方に続くノーマと地堂の車と皓祇のバイクを気にしていた。ミラーで確認しようも車のライトだけは確認できるが、バイクの方までは確認できない。だが後部座席に座るテトの言葉が耳に届き、落ち着きを取り戻していた。
「バイク暦六年っていうのは伊達じゃないってことね」
「あ、スリップした」
「ちょっと‥‥大丈夫なのですか?」
「大丈夫ですよ。立て直しました」
 一度ぬかるみにでも突っ込んだのだろう、一度前のめりになった皓祇であったがキックを何度か繰り返し再び走り出す。多少遅れてはいるが、後部に乗るテトとファブニールはまだノーマの車と皓祇のバイクを視界に捕らえていた。
「それよりも前見て運転してよね」
 乱暴に言い放つテト、だが他の三人も道中でこれがテトの普通なのだと理解している。再び運転に集中する鳳、そこで助手席に座るM2に連絡が入る。後続のノーマ車に座るObserverからの連絡である。内容は地堂がタイヤを発見したというものだった。
「まだマックスさん達の車のものとは分からないですが、ちょっと調べてみようかと思います。この辺りはマックスさんの使っていた携帯電話のアンテナの使用地域でもありますから」
「それなら信憑性もありそうね」
「まだ日没には十分時間がありますが一応気をつけて」
「特に足元ね」
 Observerはそこまで言って通信を切った。そして運転を務めるノーマに鳳車も停車することを伝え、借りてきた周辺地図を取り出し、他の荷物の確認を始める。天気は悪くない、雲は多少出ているが厚くは無く風も無い。まだ崩れる様子は無かった。
「つきましたよ」
 ノーマがそう言ってサイドブレーキをかけ、車を降りた。だがエンジンは切らない。燃料の無駄にはなるが襲撃の恐れがある以上、脱出する手段を確保しておく必要があるからである。環境の事を考えると正直気が進まない部分もあったノーマであったが、仕方ないと割り切っている。
 ノーマの言葉に従うようにObserverも車を降りる。そして地面の感触を確かめた。車内からも空の様子は確認できたが、地面の様子までははっきりと確認できない。また奇襲を受けた一番の可能性が地中からの攻撃であるため、どうしても地面は気になるところであった。ひとしきり雪の溶けかかった様子とその下の地面の感触を確かめ終え、Observerは視線を上げる。そこには同様に車を降り、地面を踏みしめている鳳達四名の姿であった。
「こっちです」
 頃合を見計らって、タイヤの発見者である地堂が一同に声をかけた。
「皓祇さんは?」
 ファブニールがこの場に姿の無い皓祇の事を心配する声をあげる。すると地堂は途中で遭遇したことを伝えた。
「途中で会ったので先に向かってもらってます。こういうところはバイクの方が小回り利きますから」
「確かにそうですね」
 納得してもらったことに地堂は一安心をしながら、一同はタイヤの元へと向かう。だが途中でそれなりに距離があることを知った鳳とノーマは車を取りに行く為に一度戻る。そして残りのメンバーはそのまま捜索に入るのだった。

 地堂に連れられていった場所には、皓祇の他に三つのタイヤが積まれていた。M2が地堂の顔色を疑うと意外そうな表情を浮かべている。それを説明するように皓祇が口を開いた。
「話に聞いたマックスさんの車ならタイヤも四つあるはずだと思ってちょっと調べてみたんですよ。あと知覚変化計測器も設置しておきたかったですから」
 皓祇が視線を向けた先には、雪をかき分けて地面を平らにしたところに設置された知覚変化計測器があった。
「それで残り二つも見つかったわけですか」
「他には見つからなかったの?」
「ちょっと近くしか見てないので何とも言えません」
 テトの言葉に答える皓祇、そして捜索した場所を確認して六人はすぐに再捜査に入るのであった。

「何か見つかりました?」
 やがて車を回してきた鳳とノーマが操作へと協力する。車は相変わらずエンジンがかけられている。そして捜索開始から三十分、能力者達はボンネット破算したドアなどジーザリオの部品を見つけていた。だが肝心の車体とマックス、トーマスの二人は見つかっていない。次々の見つかる手がかりに当初意気揚々となっていた能力者達であったが、雪上での捜索は予想以上に神経、特に手と足の指先を痛めつけられ疲労を感じ始めていた。
「ちょっとコーヒー淹れて来る。他に飲む人いる?」
「お願い」
「俺も頼む」
 軽い休憩を提案するテト、その提案に全員が手を上げる。
「湊、ちょっと余熱借りるぞ」
「了解」
 立ち上がり車へと向かおうとするテト、だがそこで地殻変動観測機が異変を知らせる。一斉に腰を上げる能力者達、そしてそれぞれ車とバイクへと乗り込んだ。
「来ます」
 ファブニールが叫ぶ。それに合わせる様に彼の乗る鳳車の左翼後方で地面が隆起した。中から現れたのは以前の大規模作戦でも目にしたサンドワームだった。
「作戦通りに行きます」
 M2がノーマ、地堂、皓祇に確認の意味を込めた連絡を飛ばす。だがノーマと地堂は困惑する。なぜならまだ救出目的であるマックスとトーマスが見つかっていないからである。
「どうしましょう?」
「多分ですが‥‥」
 通信に割り込んだのは地堂だった。
「敵が出るということはこの近くに二人もるということじゃないかな?」
「つまり私達が囮をしている間に見つけ出す、ということ?」
「‥‥できるかしら」
「できるできないじゃない。やるしかないだろう」
「それじゃ五分、これが限界だから」
 短い作戦会議を終え、M2は通信を切った。そして運転する鳳、後部座席に座るファブニール、テトに激を飛ばす。
「あと五分、全力で行こうか」
 それが一時間とも一日とも思える戦闘の開始だった。

「次右翼前方」
「次は後方から来ます」
「ちっ」
「前方に木」
 テトとファブニールのナビゲーションに従いながら、鳳は忙しくハンドルを切る。救いがあるとすれば対向車がいないことだろう。ただ路面は悪い。アクセルを踏むと、普段以上の反応があるというのが鳳の実感だった。一応チェーンは巻いてある。だが返ってそのせいでうるさくなっていた。
「まだか‥‥」
 ふと時計を探すテト、だがこういうときに限って時計は無かった。そしてM2へと視線を向けるが、M2は首を振る。
「落ち着いていきましょう」
 ファブニールが声をかける。その時左翼からサンドワームが出没、雪が窓ガラスに叩きつけられた。衝撃が中にいる四人にまで伝わっていた。同時に左側の視界が狭くなる。鳳が加速してサンドワームの間合いから脱却、その間にM2とファブニールが除雪作業に入ろうとするが身体にはGがかかっていた。
「通信機おねがい」
 M2がテトに通信機を渡す。それと同時に通信機が着信を示した。急いで耳に通信機を当てるテト、聞こえてくる声はノーマ・ビブリオ。そして内容は先程サンドワームの出現とともにジーザリオが出てきたというものだった。

「マックスさんもトーマスさんも乗ってたけど、ちょっと座席が変形してすぐには出せない。今皓祇さんがAUKVをまとって戻しているから、もうしばらくお願い」
 ノーマは通信を切ると同時に皓祇の手伝いに入る。地堂とObserverは練成治療で二人の応急処置を行っていた。やがて皓祇とノーマにより座席が取り外され、車から二人を救出することに成功する。そして再び囮役の鳳車へと連絡、そして逃走を果たすのであった。