タイトル:筍狩りと温泉とマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/28 02:13

●オープニング本文


 西暦二千九年四月、ロシアから戻ってきたロッタ・シルフスは一人カンパネラ学園のプロレスリングの上に立っていた。別にプロレスをやるつもりではなく、観客席にも人の姿は無い。スポットライトにも灯りは点ってない。ただロッタはロープを両手で掴み、体重を前に後ろにと移動させつつ誰もいない観客席を眺めていた。
「大規模作戦頑張ってもらいたいのですっ」
 そう思う反面、ロッタは心配していた。大規模作戦の度に能力者達は借り出される。もちろん参加は自由意志ではあるのだが、カンパネラ学園は軍人学校。生徒が大規模作戦に参加するのは運命のようなものである。だがロッタとしては学生である以上、学園で思い出も作ってもらいたいとも考えていた。まだ先の話ではあるが卒業アルバムを作成するという話もある。みんなのために、そして売上のためにも写真を撮りためておきたいというのがロッタの考えであった。
「でも、今やるのは無理なのです〜」
 やるには準備も手間もかかりすぎる。大規模作戦中にそんなことをやれる余裕があるはずもなかった。できればこのリングをまた使いたい、そんなことを考えているロッタのもとに一つ得意先から依頼が届いた。四国のある小島のある山の竹林で筍掘りをしていたところ、温泉を発見。早速拡張しようとしたが、猪型のキメラに見つかりしまい撤退を余儀なくされたということだった。
「温泉はいいかもしれませんねっ」
 大規模作戦での疲れた身体を癒すために温泉はいいかもしれない。それに竹林というのも絵になりそうである。そこでロッタは早速UPCに依頼を出しに行くのであった。

●参加者一覧

ティルヒローゼ(ga8256
25歳・♀・DF
翁 天信(gb1456
13歳・♂・SF
矢神小雪(gb3650
10歳・♀・HD
エミル・アティット(gb3948
21歳・♀・PN
佐渡川 歩(gb4026
17歳・♂・ER
浅川 聖次(gb4658
24歳・♂・DG
卯月 桂(gb5303
16歳・♀・DG
長谷川京一(gb5804
25歳・♂・JG

●リプレイ本文

 依頼初日、高速艇を降りた能力者達を迎えたのは雲一つ無い青空と清々しい緑の竹、そしてまだ十を迎えたかどうかと言った女の子だった。
「高梨夕子といいます。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
 矢神小雪(gb3650)が挨拶を返しつつ女の子の様子を見ていた。ロッタの取引先である温泉発見者にしては若すぎる。綺麗にまとめられた三つ網をいじりながら気持ちを落ち着けようとする様子はやはり年相応にしか見えなかった。
「この竹林の子?」
「そうです。お父さんに代わって案内します。猪型キメラの退治に来られた方ですよね?」
「うんそう。あたし達が来たんだから、泥舟に乗ったつもりでいてくれて大丈夫だぜ。ぼたん鍋とかにして食えるんだよな?」
 軽く握り拳を作って見せたのはエミル・アティット(gb3948)、黄色のタンクトップから覗く二の腕には小さく力瘤ができている。そしてその横からは浅川 聖次(gb4658)が顔を出して尋ねてくる。
「早速だけど、林の方を見せてもらえるかな? 地形とか地質とか一応聞いてはいるけど、実際に自分の目で確認したいからね」
「了解です。みなさんで行かれますか?」
「全員で行っては、返ってキメラに警戒されかねない。何人かに分かれたほうがいいだろう」
 ティルヒローゼ(ga8256)の提案の中で、翁 天信(gb1456)、浅川、矢神、長谷川京一(gb5804)の四人が調査に行くことに立候補する。そこで四人は夕子の案内の下で竹林に、残るティルヒローゼ、エミル、佐渡川 歩(gb4026)、卯月 桂(gb5303)は温泉発見者であり高梨夕子の父親である高梨刃の待つ竹林の外れ源泉の場所へと向かうことにしたのだった。

 竹林に入った四人がまず気にしたのは竹の生える間隔と土壌の柔らかさだった。
「戦う場所としては結構広いほうかな」
「ですが結構密ですね。そして間隔がバラバラなのが気がかりです」
 咥え煙草で軽く腕を組みながら竹林を眺める長谷川、一方で浅川は実際に手足で土の感触、竹の感触を確認している。
「見てください、この土。空気を含んでいて非常に柔らかい」
「だね」
 いつの間に準備していたのか、浅川は軍手を装着している。そして土を持っては長谷川の目の高さまで上げて握りつぶしてみせる。
「戦いにくそうだね」
「その辺りが問題かと思われます。翁さんも苦戦していますから」
「だね」
 二人の視線の先にあるのは、スコップ片手に落とし穴を掘ろうと画策している翁と矢神である。二人が苦労しているのは網の目のように全体を網羅している。そのため落とし穴を掘るほどのスペースが見つけきれないのであった。
「どの程度効果があるかわかりませんが‥‥一応、ね」
「ですね」
「戦う前から戦いは始まってるってか? くわばらくわばら」
 中々掘れる場所が無いと苦戦している二人ではあったが、長谷川が見る限り、二人の様子はどこか楽しそうであった。まだ当のキメラが出ていないからかもしれない。だが天気が良く、寒くも無く熱くも無い、そんな天気のせいだろう。多少汚れていても気にする様子は無かった。そして長谷川も罠作成の手伝いを申し出るのであった。

 その夜、調査に行った四人はティルヒローゼ、エミル、佐渡川 、卯月にも自分達の見てきたこと聞いてきたことを話した。
「落とし穴とまではいきませんでしたが、いくつか罠を準備させてもらいましたよ」
「私も竹の間に猪が引っかかるような罠を作っておきました」
 矢神の言う罠は実際に竹の狭くなった部分に紐を張るという単純なものである。だが単純であるが故に時間はかからないし何より見つけにくい。
「他にもちょっと地面掘って、竹の根っこ露出させてきました。多分引っかかってくれると思います」
「楽しみですね」
 佐渡川が緊張した面持ちで周囲を見回している。何故か顔がほんのりと赤い、そして何かを期待するような目で見ていた。
「何かあった?」
 異変に気付いた長谷川が尋ねる。
「別に大したことないですよ」
「そんな感じには見えないけど?」
 あからさまな不振な態度に翁と矢神は他の三人に視線を送る。するとティルヒロートとエミルが呆れたように答える。
「ちょっと温泉の方も見せてもらったんだけど、この子、覗き穴作ろうとしたの」
「それで一回袋にしたんだけど、もう一回作ろうとしてね。どうも未練があるみたい」
「本当?」
 二人の話を聞いてもまだ信じたい気持ちがあったのだろう、そこで卯月にも聞いてみたわけだが答えはやはり同じ。卯月は佐渡川の方を確認しながら頷いてみせる。
「手伝いで温泉の周りを囲う石垣を作っていたんですけどね、そこに隙間作ろうとしてたんです。そんな状態じゃお湯が漏れるって注意したんですけど」
「そうでしたっけ?」
 白を切る佐渡川、だが女性陣の疑いの目は全て佐渡川に向けられる。
「僕は別にそんなことを考えていませんよ」
「でも注意された後もまた同じように石を組んでいたでしょう」
「それはそれ、これはこれで‥‥」
「そういうわけにもいかないでしょう」
 結局石垣は刃が石垣を確認するということで、その場は解散となるのであった。

 そして翌日、ティルヒローゼと翁、矢神と長谷川、エミルと浅川、佐渡川と卯月がそれぞれペアとなり竹林へと入っていく。
「折角だから吊れているといいな」
 意気揚々と乗り込むのはティルヒローゼと翁、手には刀の他に捌くための鉈が握られている。
「ちょっとこの時期だから脂乗ってないし美味しさは半減だけど、それでもお腹の足しにはなるからね」
「おいしく食べて差し上げましょう」
 二人の目はどこか殺気の近いものが篭っている。他の六名を先導する形で進んでいる。
「とりあえず一匹、できれば二匹欲しいな」
「全部で四匹だっけ? でもそうなると二人がかりでも捌くの大変だな」
「ちょっと待って。それだとこっちにも被害及ばないでしょうか?」
「まぁその時はその時。こっちはまずこれを捌くとしよう」
 そんなこんなの話をしながら竹林へと到着を果たす能力者達、早速罠を確認すると一匹の猪が足をロープにまきつかれた状態で穴に落ちている。思わず顔を見合わせるティルヒローゼと翁、さっそく調理に取り掛かろうと縄を解いたときだ。猪型キメラが目を覚まし、襲い掛かってきたのである。
「危ない」
 浅川が翁の手を引きキメラを叩き落す。続いてエミルが蹴り上げ、浅川が再び穴へと叩き落す。
「気を抜かないほうがいいぜ。敵も死に物狂いだ」
「だね。その命、喰らってやるよ!!」
 翁は苦無刀「玄鸞」を抜き出してはキメラの喉元を一閃、血抜きも兼ねての止めを刺す。
「それじゃ一旦戻って準備にかかる。頃合を見計らってまた来るから」
「了解」
 猪の前足と後ろ足をそれぞれロープで縛り、ティルヒローゼと翁は来た道を戻っていく。残された六人は再び周囲を散開、様子を伺うと確かに他に数体こちらを伺っている気配があった。
「どの辺りにいるか分かります?」
 佐渡川が昨日下見に行っていた浅川と長谷川に尋ねる。
「昨日見た限りでは竹の生え方はバラバラだった。密になっている部分に隠れている可能性が高いかな」
「他には思ったより広い事が気にかかる。背中をとられないようにな」
「了解だぜ。ほらほら、こっちだぜ猪〜。さっさとかかってくるんだぜ」
 二人の言葉を受け一歩前に不意出すエミル、浅川はその背後に回り周囲を警戒した。その二人を中心に矢神と長谷川、佐渡川と卯月が散開を試みるが、傾斜と柔らかい土壌が四人の足を妨げていた。
 やがてエミルの声が竹林に響く、所々補うように男の声が入っていた。だがその一方で、卯月は猪の作ったのであろう落とし穴に足をとられていた。
「大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫」
 佐渡川が手を差し出したが、卯月はそれに気付かず視線を正面のキメラに向けていた。先程罠で捕まったものより一回り大きい、慌てて距離を取ろうとした卯月の足元にあったのが問題の落とし穴であった。
「とりあえず僕がアイツの注意を引きます。その間に体勢を立て直してください」
「了解しました」
 猪と卯月の視線を妨害するように佐渡川が間に入り、間合いを詰める。猪は攻めてこないものの口からはみ出した牙は佐渡川に向けられたまま微動だにしなかった。
「このまま林の外まで連れ出します。背後の確認をお願いしますね」
「大丈夫です」
 卯月は軽く算段する。猪の合計は四、先程罠で捕まったのが一、目の前に一、エミル浅川組が戦闘しているとして一から二、余っているのは存在して一匹いるかどうかということになる。再度周囲を見て確認しようとする卯月だったが、すぐに自分の目を疑った。背後にまだ子供と思われる猪が走り抜けたのである。
「ごめんなさい、一匹じゃないかも」
「いたんですか?」
 思わず振り向く佐渡川、だがその瞬間だった。立ち会っていた猪が佐渡川目掛けて突進をかけてきたのである。無我夢中で超機械を構える佐渡川、後ろでスコーピオンを構える卯月、だが猪は相変わらず怯む様子を見せない。無理、そう判断した時だった。黒い物体が飛来、キメラの眉間へと直撃する。そして遅れて現れたのは矢神と長谷川だった。
「こっちにウリボウさん来ませんでした? 一瞬見かけたんですけど、すぐに逃げちゃって。こっちに来たように見えたんですけど、フライパン命中しなかったみたいですし」
「ここで突撃するならそう動く‥‥って予想に反して逃げ出しやがったんだ」
 余程悔しいのだろう、口調は淡々としたものの端々に怒気がはらんでいる。だが佐渡川と卯月しばらく動くことはできなかったのであった。

「捕まえてきたよ」
 火が傾きかけた頃、六人の能力者達が林から戻ってくる。それぞれ手には足を縛りつけた猪型キメラを持っていた。だが様子は異なる。エミルは自信満々に高々と掲げるのに反して、矢神と長谷川は二人がかりでキメラを運んでいる。そして最後尾では卯月がはずかしそうに小さな猪を両手に抱えていた。
「お疲れ。刃の旦那からも連絡あって温泉も出来てるみたい」
「料理の方も下準備はできてるよ。あとはそちらの猪を捌くだけだね」
 笑顔で六人を迎えるティルヒローゼ、二人の横には石ブロックで作られた釜と巨大な鍋、そして解体された猪と筍等の野菜の山が出来ている。
「小雪も手伝いますね」
「俺は器の準備をしよう。酒を注ぐにも何か必要だからな」
「私はジュースでお願いしますね」
 おのおの仕事を見つけ作業にかかろうとする一堂、だがその中で浅川と佐渡川だけはペアを組まされていた。昨日工作をしかけようとした佐渡川を見張るためである。
「お目付け役よろしく」
 先日の温泉準備の一件が効いたのだろう、佐渡川は信頼をまだ取り戻せていない。浅川にとってはこれから温泉ということも含め複雑な心境でこの仕事を引き受けていた。
 やがて材料が全て鍋へと投下され、女性陣は温泉に入っていく。
「ふっふっふ‥‥こんなこともあろうかと、ってな! じゃじゃ〜ん! 服の下に水着を着てきたんだぜ!!」
「温泉ですよー楽しみですよねー」
 楽しそうな女性陣の声を聞きながら、残された佐渡川と浅川は竹製のおたまで鍋の灰汁を取っていた。流石に量が多くすぐには煮えない、女性陣が戻るくらいまでは時間が必要だと二人は踏んでいた。灰汁を捨てる振りをしては温泉に近づこうとする佐渡川に浅川は半ば諦めながら言う。
「私だって温泉なんて、妹には怒られるかもしれないと思ってはいるんです‥‥」
 流石にそれで諦めたのか大人しくなる佐渡川だった。

 その後、女性陣に変わって男性陣が入浴。戻ってくるとほぼ同時にロッタ・シルフス(gz0014)が到着、高梨親娘と挨拶を交わした後に宴会と写真撮影の開始となった。
「ジャン! と言う訳で酒を持ってきてみました」
「たまにはお酒も良いですね」
「私はジュースでお願いします」
「この前ドリアンのキメラ倒したときも食べたけど‥‥なんでキメラって普通に食えるようにできてるんだろうな? バグアのやつも食う気なのか?」
「学生じゃないんですけど‥‥ホントに良かったんですか?」
「ん〜美味美味」
「これとか、購買でどうですか?」
「長谷川、器が空になってるぞ」
 思い思いに料理を食べ、酒を飲む。一人温泉に入りすぎてノビている人物もいたが、誰しもが楽しんでいた。早速ロッタもカメラを構えると、長谷川が小声で呟く。
「‥‥写真はチョイと苦手でね」
「了解したのです」
 着の身着のままで写る人物、制服に着替えなおす人物、隅にちょこんと写る人物と人それぞれの様子が写真と思い出が残されるのであった。