●リプレイ本文
グリーンランド某所の病院の一室で能力者達は今回の依頼人であるマックス・ギルバート、トーマス=藤原の二人と面会を果たしていた。幸か不幸かこれまでにバグアやキメラの姿はない。だが外来客用の待合ロビーは頭痛や腹痛を訴える人が自分の順番が来るのを
今や遅しと待っていた。すでに用意されているベンチでは数が足らず、立ち待ちの患者まで出ている。能力者達は想像以上に事態が悪化していることをまざまざと見せ付けられた。
「触れえざる者、ではなく見えざるものか」
先程見た様子が目に焼きついているのか、UNKNOWN(
ga4276)はどこか浮かない
「見えないなら、見える様にしてみるか」
「そうしてもらえると助かるね」
マックスは病室のカーテンを引きながら答える。
「ここの所、病院側の自作自演を疑う輩もいて困っていたんだよ」
「自作自演?」
「患者が増えれば病院が儲かる、そう短絡的に考える人も多いということだよ。それにこういう邪推の方が人の好奇心をくすぐるのも事実でね」
「確かにそうですね」
否定したいという思いがどこかにありながらもできない、苦虫を噛み締めたような表情のままファブニール(
gb4785)は答えた。
「見えるようにできれば、その変な噂も解消できるはず」
「それが一つの目標だと思ってくれ」
「了解したよ」
鹿島 綾(
gb4549)はそう答えるが、はまだ納得できないのか不満そうな顔を浮かべている。
「だけど闇雲に調査しても埒が明かないね。一体何が原因なのか、何か思い当たることはある?」
「話を聞いた限りじゃその低周波が一番可能性が高そうですが」
「俺達も低周波を疑っている」
ノーマ・ビブリオ(
gb4948)の言葉にトーマスが頷いて答える。だが同時に疑問点があることを説明する。
「だが普通の低周波は生活の中で結構出ている。病院内ではかなり配慮されているだろうが、入院患者にも出ているとなると、何らかの仕組みや装置があるものだと考えるべきだろう」
「ですね」
Observer(
gb5401)は相槌を打ちつつ、願いを付け加えた。
「では私は備品の確認をしてきましょう。気付かれないよう細工されているかもしれません。病院の備品リストのコピーをお願いします」
「そう言ってもらえると助かる。実は既に準備しておいた、そこのベッドの上だ」
トーマスはベッドを指差した。そこには今回必要そうな備品のコピー一覧と病院用PHS、病院の見取り図、それと身分を示すスタッフカードが置かれていた。
「カードの身分だが、とりあえず内部調査員ということになってる。患者に不振がられる事があるかもしれないが、逆に興味を引く可能性もある。その時の対応は各自に任せる」
「了解」
「私も一部もらっていくよ」
それぞれ一部ずつ能力者達はコピーとPHS、スタッフカードを手にして部屋を後にする。だがUNKNOWNは途中で立ち止まり、病室に残るマックスとトーマスに声をかけた。
「ところで例の件は何か分かったのか?」
例の件、その言葉に思わずノーマは振り返り先程後にした病室に再び顔を出す。だが何のことか分からない鹿島、ファブニール、Observer、フィルト=リンク(
gb5706)の四名は足を止めるだけに留まる。
「上の方に通達しておいた。何やら今取り込み中だったからな、言質をとって早々に予算申請させてもらったよ」
「流石悪だな」
「俺にはどこからあんなものを手に入れたのかの方が不思議だよ」
病室内からUNKNOWNとマックスの会話が聞こえてくる。その様子にフィルトは思わず呟く。
「確かにUNKNOWNさんが一番の不審者ですね‥‥」
その言葉に鹿島、ファブニール、Observerは苦笑するのだった。
能力者達はその後PHSの番号を交換し、連絡を取りつつ各々の思うところへと向かっていく。症状の酷い患者の位置の確認、症状のリストアップ、聞き込み等、それぞれが得意とする分野へと向かっていった。一人フィルトだけは存外頭を使う任務であることに愕然とすることとなる。
そしてその日の夜、能力者達は空き病室を借りて集まり情報交換が行った。それぞれ自分の調査したメモをつき合わせながら話をまとめていく。するとどうやら外部から何らかの影響を受けていることが明らかになった。
「どうやら同じ部屋でも多少症状の大きさが違うらしい」
「それは俺の結果でもそうだね。窓側だと頭痛、腹痛、嘔吐と複数症状でてるけど、通路側は一つか多くて二つってところだった。でも部屋単位で見ても違いがあるから、他にもなにか関係しそうだけどね」
「だが私が窓側に置いていた煤が内側へと移動していた。外部から何らかの影響があったことは間違いないだろう」
UNKNOWNと鹿島が調査結果をまとめる。だがそれにノーラとObserverが口を挟んだ。
「ちょっと地図貸してもらえますか?」
「どうぞ」
「何か気付いたことでもあるのか?」
「実はですね」
そういってノーマとObserverは自分の地図も取り出した。そこには備品リストに書かれていた中でも、MRIやレントゲンなど精密機械の配置場所が書かれていた。
「まだはっきりしていないのですが、精密機器の駆動からも低周波らしきものが観測されました。どうやらその辺りが関係しているらしいのです」
四人は地図を照らし合わせる。するとノーマとObserverの推理を証明するように、精密機器の置かれている部屋に近いところから強い症状が出ていることが判明した。「確かに患者さんより関係者の人の方が症状は酷いようです。もっとも元々の体力が違いますし、気力の問題もありますから一概には言えませんが」
これまでの推理を裏付けるようにファブニールも聞き込みの結果を発表する。
「ですが同時にそれがやっかいな原因の一つのようです。全てというわけでは言えませんが、スタッフカードを見せると結構すんなりと話を聞かせてもらいました。それで私が話を聞いた感じですが、実際の症状と感覚には違うようです」
それからファブニールはメモを取り出す。そこには今まで話を聞いた三十名を超える人の話がメモされている。
「例えば足の骨折でこの病院に来た青年の話ですが、近くを通った時に頭が重くなるような感覚に囚われたそうです。当然ですが、この病院に来るまで頭痛とかは無かったそうです。そこでこの近くで何かあってるのでは、と感じたみたいです」
「確かにそれは顕著な例ですね」
ノーマが合いの手を入れる。それに対しファブニールも満足そうに小さく頷く。
「ですが元々症状を感じていた人には、症状が重くなることに関しては気付きにくいようです。やはりこの病院が狙われていると考えているべきだと思います」
「だな」
全員の意見が病院外部からの犯行、そして病院内の精密機器を一部利用しているのではないかという方向で話がまとまりつつある中でフィルトだけは否定的な意見を出す。理由は単純、この周囲でバグアやキメラの姿を見た事がないからである。
「輪を乱すようで悪いんだけど、私は朝のミーティングから敵の姿を一匹も見つけていません。別に外部から影響されていることを否定するつもりじゃないんですが、犯人がバグアではなかったら誰なんだろうと思うんです。お見舞いの花が新種のMIだった!‥‥なんてわけないですしね」
フィルトは自分でもはっきりしない疑問をそのまま口にした。もちろんフィルトがたまたま見つけきれなかった可能性もある。だが彼女は極力AU−KVを装着しての移動、敵が出現したのに駆けつけられなかったという可能性は無くはないもののそれほど高くは無いはずだった。
「地下に潜んでいるという可能性は?」
「それは否定しないけど、土の中からでもその低周波っていうのは響くの? 最も決め打ちはできないけど」
「可能性は高いです」
鹿島の疑問にノーマが答える。
「音の種類にもよりますが、内側まで響く可能性は十分にあります。ただ緩和されると思いますので、それほど効果はないと思いますが」
「‥‥それほどってどのくらい?」
ファブニールが尋ねるとノーマは眉をひそめた。病院内で起こっている頭痛などの症状を低周波のものによるものと仮定し、それが病院の壁や地面によって緩和されていると考えると直接放射された場合の影響は今まで以上と考えるべきだろうという結論に辿り着いたからである。
思わず口ごもるノーマ、だがそんな状況時にマックスから連絡が入る。キメラが出たということだった。モグラ型のキメラで数は三体、それほど強くはないだろうとマックスは電話越しに説明する。だが能力者達にとっては、正直あまり来て欲しくはないタイミングであった。
「俺達は患者の誘導を行う。お前達は退治を優先してくれ」
「でも‥‥」
意見がまとまっていないのか口ごもるノーマ、そんな彼女にUNKNOWNは肩を叩いてゆっくり話しかけた。
「大丈夫、だ。私がついている。自信をもって、自分が思った事をすればいい」
「私は外にいた時間の方が長いからかもしれないけど、病院内にいたからノーマさんにも影響が出ているのかもしれませんね」
フィルトの言葉にノーマは我に返った。確かに自分もすでに低周波の影響下にあるかもしれないと思ったからである。
「もう大丈夫です、行きましょう」
「だな。さてさて、何が出てくるやら‥‥」
ノーマとは正反対に鹿島はとぼけてみせる。
「俺の肩こりもついでに治して欲しいもんだわ」
その言葉に能力者達は落ち着きを取り戻す。そして装備を整え、キメラ退治に向かうのだった。
一時間もかからぬ内にキメラは退治されていた。それは拍子抜けするほど弱く、低周波で普段の力を出せないのではないかと心配していた能力者達は、自分の力が弱くなったことを確認する事さえできなかった。
「ひょっとしたらまだ未完成なのかもしれないな」
戦闘を終えた後、UNKNOWNはそんな言葉を口にする。
「どういう意味?」
「今回の低周波、まだ低周波と決まったわけではないが便宜的に低周波と呼ばせてもらおう、それはキメラにも影響が出ているのではないかとふと思ってな」
「そういう考えもあるわね。俺はてっきり偵察だけしにきて油断してたと思ってたんだが」
「それもあるかもしれませんよ」
二人の意見を取り持つようにObserverはまとめる。だがどうやら地中から来ていること、そして未完成である可能性もあることをマックスへと報告する。
「何となく釈然としませんね」
暴れ足り無いのかフィルトは多少不満げな表情をしているが、相変わらずノーマは神妙な顔をしている。
「でもバグアも本格的に手を出してこないところを見ると、何か企んでいるのでしょうね。あるいは時期を見ているのかもしれません」
「ですね」
キメラを叩き伏せたグラジオラスを仕舞いながらファブニールは答える。
「その時までに僕達も実力をつけておけということなのかもしれませんね」
その言葉を胸に刻み、能力者達は病院を後にするのだった。