●リプレイ本文
「スカイスクレーパーを発見したんだぜ」
エミル・アティット(
gb3948)から陸上班に報告が入ったのは、彼女を含む夜十字・信人
(
ga8235)、ウラキ(
gb4922)の三人が出発して三十分経ったか経たないか、そのあたりの
時間だった。
「それ、本物よね?」
「絶対本物だぜ。タイヤ取れてるし腕とかもがれてるけど、白に青の縁取りなんて他に知ら
ないんだぜ」
「確かにそうね」
連絡を受けたのは高村・綺羅(
ga2052)。普通に考えれば発見は吉報でなのだが、余りに
も早い発見が彼女の脳裏に疑問という言葉を残した。実際エミルの言うように白に青の縁取
りというKVは他には無く、壊されていると言う部分もそれらしいと言えばそれらしい。だ
が素直に喜べない部分もあった。
「どうしたんです? 通信不調ですか?」
通信機を手にしたまましきりに首を捻る高村に対し、皓祇(
gb4143)は声をかける。
「スカイスクレーパーが敵の手に落ちたとすると、確かにその可能性も否定できないわけで
すが」
「その場合はパイロットの方は‥‥」
「まずは前だけを見ましょう」
良くない想像を口に思想になる槇島 レイナ(
ga5162)の言葉を皓祇は遮った。
「今は生死の境を彷徨っているかもしれませんが、見つけ出せば救助できる可能性は高いの
です」
「そうですね」
槇島としても、パイロットを救助するために今回は救助キット、そして機体牽引用のワイ
ヤーを貸してもらっている。無駄にはしたくなかった。だがその一方で高村の感じている事
はKVからの連絡を取れない程に一撃で被害を与える相手が、救助に来る可能性を考えてい
ない事があるのだろうかと言うことだった。とはいえそんなものを証明するものはない、言
ってみれば高村の女の勘というものである。
「代わろうか?」
そう申し出たのはホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)だった。すでに出発準備をすすめる
槇島、皓祇、ファブニールの三人に対し、ホアキンは何か気になる事があるのか最後まで地
図を確認している。
「俺としても場所の確認をしたい」
ホアキンの地図には依頼人であるエイドスから、轍が続く方向に関して聞いた結果を地図
に記載している。
「轍の方向から外れていれば、それは偽物という可能性が高いからな」
「‥‥確かにね」
高村はしばらく考えた結果渡すことにした。自分の感じている違和感のようなものを伝え
られるかどうか分からなかったからである。だがよくよく考えれば調査してもらえば済む事
、そう考えれば調査を指示してもらえればいいと思ったからである。自分も向かえば確認も
できるはずであった。
「場所を確認したい。何か目印になるものはあるか?」
「そこから戦闘機で飛ばして三十分くらいの場所だぜ」
「それは分かった。他には?」
「山が見えるんだぜ」
「他には?」
「山が見えるんだぜ」
ホアキンは一度通信機の送信口を手で塞ぎ、高村の方を向いた。高村も視線に気付いたの
だろう、一度足を止める。だが何も言わずに出撃準備に戻った。
「‥‥夜十字とウラキ、何か見えるものは無いか? 場所の特定できるものが知りたい」
一度軽く深呼吸をし、ホアキンは再び回線を開いた。
「残念ながら、これといって目標とできるものは無い。強いて言えば峰で道が狭くなった所
の先、そのくらいしか言えないな」
「地図を確認してもらえば分かるとおもうのですが、家や塔など建築物が一切無いせいで目
印らしきものがないのです。僕としても雪解け水が川になっているところ、としか表現がし
にくいところです」
「分かった。では着陸できそうな場所はあるか?」
「上空から見た限りでは難しい。こちらでも捜索をしてみるが、そちらも調べて欲しい」
「了解した」
そこで会話を終える。そしてホアキンも出撃準備に取り掛かるのだった。
数時間後陸上班も出撃、まだ雪の残るグリーンランドの大地に四機のKVが滑走する。目
標は空中班が見つけたというスカイスクレーパーの残骸、タイヤがとれているという報告が
エミルからは上がっていたが、同時にそこまで大破していないのではないかという連絡に槇
島は少し安心していた。タイヤが壊れていてもワイヤーを借りて来た槇島としては、十分牽
引できる。ただ壊れたスカイスクレーパーを見なければいけないことに少なからず気が重く
なっていた。
「戦う前から塞ぎこんでない?」
「大丈夫ですよ」
先行気味になっている槇島と皓祇を抑えるように、高村が釘を刺す。
「先行している空中機に影響が無く、陸上専用機のスカイスクレーパーが捕まった。敵は陸
上機に狙いを絞ってきているかもしれない」
「可能性はあるな。地殻変動計測器を起動しておこう」
空中班からは相変わらず敵影の発見の報告は無い。それにより不満の言葉がエミルから上
がっている。だがそれに関して地上班から答弁することはなく、バグアが出てくる事を期待
するしかないと答えるしかできなかった。
「まだ反応は無いな」
ホアキンがKVのコンソールを確認しつつ答える。だがやはり反応は無い。
「そちらは?」
「こっちも反応無いですね」
同じく地殻変動計測器を搭載してきた槇島も答える。だがやはり芳しい返事は無かった。
「まだ低周波砲の射程圏外ということか?」
「正直そこまでは分からないな」
高村の意見にホアキンは冷静に答える。だが一方で皓祇は別の考えを持っていた。
「その低周波砲は確かに懸念する材料だと思う。だがこのままでは被害者が助かるだろうか
?」
「何か考えがある?」
「私が先行しましょう。身体が重くなったら報告する、それでどうでしょうか」
「…わかった。俺は空中班を誘導してくる」
隊列は皓祇を先頭とし高村と槇島がそれに続く。実際徐々に道が狭くなっており、KVで
は一機しか通れない幅にまでなっていた。
「スカイスクレーパーはこの先ですか?」
「通信で聞いた話を総合するとその先です。でも特にノイズのようなものはありませんね」
槇島に道を確認する皓祇、そろそろ山間で雪の深い位置へと入り込んでいた。それは同時
に雪解け水も多くなっていることを意味し、機械の誤作動を起こすほどでは無いものの足元
はかなり悪くなっていた。何らかの罠が仕掛けられているとすればこのあたりだろうという
のが三人共通の予想である。だが地殻変動計測器も反応無ければノイズもなかった。
「地殻変動計測器の有効射程ってどれくらい?」
「ホアキンさんのとあわせると五百メートルぐらいでしょうか」
「となると敵はそれ以上の射程を持っているか、地殻変動計測器に反応しないのかのどちら
かね」
「私としては低周波砲といえど何かしら反応があると思うのですが」
高村と槇島が不安を口にしているときであった。先行している皓祇が突如姿を消す、代わ
りに残ったのは巨大な落とし穴だった。
「身体が重くなったと思ったら落とし穴です、敵もやってくれます」
急いで救援に向かう高村と槇島、だがそれを見越したように近づく二人に対して網が投げ
つけられる。同時に二機の錬力が大幅な低下、一度ではないにしろ百近い錬力をごっそりと
持っていかれる事となる。
「これが低周波砲か」
先行している空班が襲撃されないとなると敵の射程は短いと判断できる。襲撃されたなら
敵からの遠距離射撃には注意したい。高村はそう考えていた。だが敵が空中班をあえて無視
したと考えると、辻褄が合うような気がする。
「まずはここを脱出しましょう」
「‥‥ちょっと待って」
脱出を提案する槇島に対し、高村は声を潜めてそう伝えた。
「さっき夜十字さんのシュテルンが見えた気がする。ちょっとこのまま敵の罠にかかった振
りをしてみない?」
「分かりました」
皓祇もその提案に乗った。彼の場所からは空中班が無事着陸に成功したのかどうかは分か
らない、だが仲間が見たというのなら信じる価値はあると踏んだ。
「それじゃ動けなくなるまで、錬力二十パーセントまで耐える方向で」
「了解しました」
そう答えると同時に高村と槇村の右手、皓祇の左手数百メートルの地点で爆発音とともに
爆音が上がる。網の片方を握っていた相手なのだろう、高村と槇村の拘束が解かれた。
「あたしが助けに来てやったんだぜ」
「一人だけでしゃばるな」
真っ先に現れたのはエミルのナイトフォーゲルH−223A斉天大聖だった。肩には如意
棒ならぬ機槍「ドミネイター」が担がれている。そして後ろに続くのがナイトフォーゲルC
D−016シュテルン、ナイトフォーゲルPT−056ノーヴィ・ロジーナ。夜十字とウラ
キの愛機である。そして最後尾にはナイトフォーゲルXF−08D雷電、ホアキンの乗機で
ある。
「IRSTで敵の捜索をかけました。敢えて何体か残していますが、どうしますか?」
「その気持ち、ありがたく受け取っておきますね」
ウラキの好意に三人は素直に感謝する。
「それと問題の低周波砲ですが‥‥」
「それらしきものは発見した。赤外線でも誤認できるように周囲に似たような機械を並べて
あってな。一つ一つ調べる時間が惜しかったので片っ端から破壊していたら誘爆する仕掛け
になっていた」
「恐らくだが、ジャミング能力のあるスカイスクレイパー相手にどれだけ有効か試したかっ
たのだろう。そして今回も俺達相手に実験を行ったのだと思う」
夜十字とホアキンはそうまとめた。
「とりあえずはスカイスクレイパーの確保に向かいましょう。高村さん達も憂さ晴らしは後
でいいですよね?」
「ですね」
ひとまず空中班の三名とホアキンは皓祇、高村、槇島の三人を救助。それから目的の現場
へと向かう。そこにあったのはやはりタイヤがはずれ、腕の部分が破壊されたスカイスクレ
イパーだった。槇島が改めて中身を確認すると、爆弾等危険物は仕掛けられていないが肝心
のジャミングに関する箇所がごっそりと抜かれていることが判明する。そして肝心のパイロ
ットの姿も残っていなかった。
槇島は残った機材の中でも何かしら録音がされたと思われるカメラやテープを回収する。
そして小さく拳を上げた。
「ごめんね、スカイスクレイパー‥‥破壊したく無かったけど‥‥ごめんね‥‥」
未練の残らないよう高村がミカガミの雪村を振り下ろし、皓祇はガトリングを放出する。
「ロケットパンチです、喰らいなさい!」
そして三人はまだ拭いきれない心の渇望を埋めるべく、残ったバグアを掃討していくのだった。