タイトル:狙われた鉱物企業四マスター:八神太陽

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/15 17:57

●オープニング本文


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 新年を目前に控えた二千九年十二月のグリーンランド、今年は大規模作戦が行われた事もあり同地ではバグアに対する警戒が高まっていた。特に鉱物会社であるゴールドマテリアル社、GM社では部下達にも武器を持たせようかという物騒な話が本社から届いている。原因となったのは偽UPC社との一連の騒動である。
 前回の事件の後、能力者そして捕獲した男から聞いた話によると全ての犯行はニナが考え付いた事らしい。元々アンダーグラウンドカンパニーも一つの地質調査会社に過ぎなかったということだった。だがニナの登場により方針が変更、UPCを名乗りGM社へと攻撃を仕掛けたという。そして次の目的は第三鉱山の乗っ取りということだった。
「元々第三鉱山は俺達が調査した山の一つだ。それなりの資源が眠っていることは社員なら誰でも知っていた。もっといい高値で売れるんじゃないかという話は前からあったんだよ」
 男は現在、警察で身柄を拘束されて事情徴収が行われている。以前から考えられた計画なのか、ニナによって計画されたものなのか不明な点は多い。その辺りの解明が急がれていた。
「結局生きてたのか。本来なら喜ぶべきなんだろうが‥‥」
 警察からの話を聞いて、GM社支部長であるバーグレ・ゴールドマンは深くうなだれた。部下には気を配っていたつもりだったが、一方通行な思いだったと言う事を教えられたからである。
「別にGM社に不満があったわけじゃない。個人的な接点は俺にも無いからな。あるとすればニナだけだと思うぜ? 疑うなら調べてみればいい」
 警察から伝えられる男の言葉を聞く度に、バーグレは嫌悪感に駆られた。部下が不満を漏らす現場に出くわした事は今まで何度となくあるが、こうして面と向かって敵対されたのは初めてのことだった。できれば信じたくない、そんな考えをしている所に緊急の連絡が入る。電話の相手は第三鉱山の鉱員、彼によると地下に以前も見たイエティ型キメラが存在しており中に入れないと言う。
「分かった、キメラ駆除は専門に任せるとしよう。しばらくは鉱山付近を立入禁止にしておいてくれ」
 刺すような前頭葉の痛みを眉間を押さてながら耐えつつ、バーグレは指示を出す。だが鉱員の話には続きがあった。
「それがレオノールさんを始め、何人かが戻ってきていないのです」
「人質か」
「‥‥恐らく。それと声明文があります。人質を返して欲しければ、第三鉱山の権利書と交換ということです」
 相手はニナなんだろうな、どこか諦めるような気持ちでバーグレは伝える。
「相手は愉快犯だ。人質も権利書も守る。君達は深追いしないように」
 鉱員との連絡をする一方でバーグレはUPCにも連絡を取り、最後の依頼の旨を伝えるのであった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
マリオン・コーダンテ(ga8411
17歳・♀・GD
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
鷹谷 隼人(gb6184
21歳・♂・SN
メシア・ローザリア(gb6467
20歳・♀・GD

●リプレイ本文

「それでは本日の天気予報です。昨夜未明から停滞している寒冷前線ですが、海上の高気圧に阻まれ六時間を経過した今でもグリーンランド全域を覆うように居座っています。しばらくは天候の回復する見通しは立たないでしょう。お出かけの際には気をつけてください」
 白く凍りついた窓が軋む室内に、ラジオからこれからの天気を伝える女性の声が流れる。所々聞き取りづらい箇所はあった。ドクター・ウェスト(ga0241)の見かけによると回路の一部で凍結が起こっているらしい。修理は出来なくは無かったが、天気予報が始まったため放置されていた。
「また本日は沿岸地域で高波警報が発令されています。以下の都市にお住まいの方は気をつけてください」
 GM社第三鉱山、雨の混ざった雪が横殴りの風と共に吹き荒れる中で能力者達は鉱員達の詰所へと案内されていた。依頼人であるバーグレ・ゴールドマン(gz0291)も余り足を運んだ事はないらしく、解説用のホワイトボードを探して右往左往している。その間に風代 律子(ga7966)が慣れた手つきで備品と思われるストーブに火を灯した。

「簡単に構造を説明しておくと、一階部分は所々曲がりくねってはいるが比較的平坦な一本道だ。敵に背を取られる事は無いと思うが、もし取られた場合は退路を経たれる事になる。それだけは気をつけてくれ」
 しばらくして奥からバーグレがホワイトボードを運んでくる。余り使われていないのか、ペン置きの部分には埃が溜まっていた。
「注意してもらいたいのはエレベーターだな。一階と地下一階を結んでいるのは基本的にこのエレベーターだけだ。既に見た事のあるものも多いとは思うけどな」
 簡単な見取り図を書きながら、バーグレが尋ねる。マリオン・コーダンテ(ga8411)、ハミル・ジャウザール(gb4773)が小さく頷いて答えた。
「四人乗りだっけ?」
「少ないな」
 UNKNOWN(ga4276)が感想を漏らす。
「大型の機械を下に運ぶ時はどうしているのだろうか?」
「そういう時はエレベーターは使わない。古臭い方法だが、滑車で下ろしている」
「古典的だが確実な方法だね」
 ドクター・ウェスト(ga0241)が言葉を挟む。
「何か‥‥使えまるでしょうか」
「備えあれば憂い無しですよ」
 不安げに声を上げる鷹谷 隼人(gb6184)に対し、ハミルは俯きつつ答えた。それは決戦前で緊張しているとも呼吸を整えているともとれる様子だった。
「他には何かあるかしら?」
 メシア・ローザリア(gb6467)がバーグレに先を促す。
「こうしている間にもレオノールさんの身が危険になっているはず。悠長に事を構える余裕などありはしませんわ」
「そうだな」
 バーグレは一度鼻をすすり、居住まいを正した。
「坑内には時間を知らせるためのチャイムと放送用のスピーカーがいくつか設置されている。場所を特定されるわけではないから罠には使えないと思うが、念のためだな」
「了解、後ニナさんの処遇につきましては?」
「既に死亡手続きは済んでいる。君達に任せるよ」
 バーグレーの言葉の意味を噛み締め、メシアは小さく頷いた。必要な情報を揃え、能力者達は一路鉱山へと向かう。その後姿をバーグレは祈るような思いで見つめていた。


「キメラ発見。数は二、問題のイエティタイプと思われる」
 第三鉱山一階層、先頭を行くアルヴァイム(ga5051)は早々にキメラを発見した。入り口からは百メートル程、まだ外からの光があるためか視界は幾分かはっきりしている。だが音は鉱山を構成する岩盤で反響し、幾重にも重なって聞こえていた。
「敵の様子はどうです?」
 続く鷹谷が声を押し殺して尋ねる。いつでも飛び出せるように手にはアラスカ454と忍刀「颯颯」の両方を取り出している。殺傷力を考えるのであればアラスカだが、奇襲をかけるのであれば忍刀の方が都合がいいという判断である。
「こちらに気付いている様子はない。奇襲をかけるなら好機と見る」
「了解」
「こちらも大丈夫、いつでも行けるわ」
 ヘッドライトの灯りを絞りながら、マリオンも答える。一時的に周囲が暗くなるが、目を慣らすには程よかった。一方UNKNOWNはその間に暗視スコープを通して周囲の確認を行う。ここは自然の洞窟ではない。人の手によって作られた人工の坑道である。だからこそ出てくるはずの違和感を隈なく捜し求めていた。だが今の所はそれらしき影は見つかっていない。だが安堵の表情を見せる事無く、スコーピオンのサプレッサーを確認する。そして無言の同意を送った。
 先陣を切るのは隠密潜行を使用した鷹谷、光を極力遮らないように壁を伝って移動。そのままイエティへの距離を詰める。だが異変に気付いたのか、一匹が鷹谷の方へと接近。もう一匹は一気に警戒を高め、周囲を見回し始める。こちらに対しUNKNOWNがスコーピオンを掃射、同時にアルヴァイムとマリオンが詰めに入る。そして鷹谷も飛び出し、忍刀でイエティの喉元を一閃。硬い体毛に阻まれ綺麗とは言いがたかったものの、声を上げられる前に無事仕留める。戦闘が終了した事を確認し、救援班であるドクター、風代、ハミル、メシアも姿を現す。サンプル回収を行いたいという衝動に駆られつつも、ドクターも先を急ぐ。だが一歩踏み出そうとした所で足を止める。今までの風とは違う音が聞こえたからである。しかもそれほど遠い場所からのものではない。ドクターの異変に気付いたのかメシアも足を止める。そしてUNKNOWNが周囲を確認すると、上部に小型のスピーカーを発見する。隠したり偽装しようとした形跡は無い。
「よくきたわね」
 マイクから音が聞こえる。女性の声だった。聞き覚えはない。だが思い当たる持ち主は一人だけだった。
「ニナさんね」
 メシアが言う。聞こえるわけはないが、相手は予想通していたかのように名を名乗った。
「私がニナ、ようこそ第三鉱山へ。ちょっとしたアトラクションを用意しているわ。楽しんでもらえるといいわね、死んでもらえるともっといいけど」
「あたし達は遊びに来たんじゃないけどね」
 マリオンが笑顔のまま呟く。答えを期待したわけではない、口にせずにはいられなかった。
「生き急いでも得られるものもない。せめてゆっくりしていってくれ」
「別に急いでいるつもりも未練があるわけでも無いわ」
 マリオンは言う。そしてマイクに対し、イアリスの剣先を構える。突きの構えだった。岩の反動を活かして跳躍、マイクへと剣を突き立てる。
「先を急ごうか、思わぬところで時間をかけた」
 アルヴァイムが先を促す。同時に近くで機械の物音が聞こえる。
「エレベーターよね」
「‥‥だろうな」
 見てはいないものの、風代の推理に反対するものはいない。そして言葉少なに各々はエレベーターへと向かっていった。

 始めにエレベーターに乗り込んだのは救助班の四名だった。何か罠があるのではと注意深く観察するドクターと風代、そしてハミルとメシアはクロックギアソードとスコーピオンを構える。いつ敵が出てきても対応できるようにだ。しかし何事もなくエレベーターは最下層まで連れて行く。そしてその先で待っていたのは一人の女性と両脇を固めるイエティのキメラだった。だが別段武装しているわけでもない。非武装を示すかのように白のワンピース一枚という姿だった。
「旧時代的よね」
 両手を大きく開き、ニナは言う。その周囲には半分程石が積まれた一輪車や先の丸くなったつるはしが置かれている。人気がない事も当然あるが、採掘をしている様子もあまりなかった。
「折角の資本があるのよ。なのに今時手掘り。人件費の無駄使いと思わない?」
 近くに転がっていた石をニナは蹴る。乾いた音を立てて転がるそれは、先頭の風代の足元まで進み何事も無く止まった。
「何が‥‥言いたいんです」
 静かにハミルが尋ねる。
「不毛だと思わない?」
「何が‥‥ですか?」
「生きる事そのものよ。貴方達能力者はバグアと戦う力を手に入れた、でも私はこのまま仕事を続けて一生を終える。それなら人類は全員滅ぼされた方が平等じゃない」
 防寒具も身につけていないのだろう、ニナの顔は既に青く変色している。坑道内の闇もあり、幽霊のようにもドクターには見えていた。
「生物はそもそも不平等なものだと思うけどね〜現に君はリナ君を一度助けてはいないのかね」
 ドクターの脳裏に浮かんだのは、四ヶ月前リナを助けた日のことだった。一連の首謀者をニナとすると、何故ニナを見せしめにしつつも殺さなかったのかという疑問の答えが見えてくる。
「ニナ君、君は本当は誰かを助けたかったのではないかね〜」
「‥‥どうかしらね」
 言葉少なに言うと、ニナはイエティの背後に隠れるように寝かされていたレオノールを引きずり出す。眠っているのか動かないが、顔色はニナよりも幾分良かった。
「だから返すわ、助けるかどうかは貴方達次第。助けないなんて選択肢が貴方達にあるとは思ってないけど」
「‥‥確かにね」
 人質を解放し、ニナとキメラは鉱山の更に奥へと歩き離れる。敵意が無い事を示すためだろう。同調するかのように 風代はアーミーナイフを正面に構えつつレオノールへと近づいた。手を背後で組まされ、ロープで結ばれている。それを手早く切り離し、練成治療役のドクターへと手渡す。
「あなた達はどうするつもり?」
 心持ち大きな声で風代はニナに問う。距離を考えての事だったが、その声は岩に反響し想像より大きなものとなっている。
「私はあの世から貴方達の死に様を見せてもらう」
 ニナが左腕を掲げる。それと同時に坑道内に轟音が鳴り始めた。地響きである。
「拙いね〜」
 溜息混じりにドクターは息を吐いた。
「怪我人もいる。脱出を優先するしかなさそうだね〜」
「ですわね、エレベーターも気になりますし」
 救助班四人はレオノールを抱えつつ、来た道を戻る。その間も音は絶えず鳴り響いていた。

 同時刻、戦闘班は
エレベーターを死守するためにキメラの殲滅を行っていた。地響き開始と同時に湧き出した敵に対し、アルヴァイムは悪態をつきながらも耳では音源の位置の確認を行っている。貸与した爆発物無力化キットを使用するためである。
「爆発物と一口で言っても、解除パターンは無数にある。相手の手口を読むことが重要」
 それが貸してくれたUPC軍人からの説明だった。だがまだ肝心の爆発物の位置が特定できていない。それはUNKNOWN、マリオン、鷹谷にとっても同じだった。
「この鉱山‥‥何か特別なものなのか? それとも‥‥何かが隠されている‥‥?」
 鷹谷の心中は穏やかでは無かった。救助班が失敗したのか、レオノールを発見できなかったのか、それとも既に別れを告げたのか、悪い予感ばかりが頭の中で去来する。それを察したのか、UNKNOWNは声をかける。
「まずは目の前の敵を見ることだ。まだやり残している事があるんだろう?」
 UNKNOWNの言葉を受け、鷹谷はアラスカ454を構え直す。そして死角にはマリオンが入った。
「エレベーターが動き出したわ。爆発までどれくらい時間があるのか分からないけど、救助は上手く行ったはずよ」
「‥‥前向きですね」
「それがあたしの取柄だからね」
 やがてエレベーターが到着する。五人の姿を確認し、戦闘班はそのまま脱出路の確保を開始。先程まで音源の確認を行っていたアルヴァイムも再び戦闘に加わった。
「解除は成功したか」
「恐らくは。最善の方法とは思いませんが、意志を汲みましょう」
「意志か遺志か、どちらだろうな」
 隣を駆け抜ける救助班を傍らに、UNKNOWNは止めとばかりに半壊状態にあるスピーカーに銃弾を打ち込んだ。地響きにノイズが混ざる。だがそれはその場を離れる能力者達の耳には届かなかった。

「‥‥それで第三鉱山はどうするんですか?」
 後日、レオノールの見舞いとして能力者達はグリーンランドを訪問する。バーグレとリナも同席しており、病院とは不釣合いな賑やかな時間となった。
「レオノールの希望もあるし、開発は続けようと思う」
「設備は見直したほうがいいと思うけどね〜」
「全くだな。俺の慢心から生まれたようなものだからな」
 窓の外に浮かぶ太陽を見つめながら、バーグレは語る。
「先日警察から発表があった。地響きはスピーカーを通して響くカセットテープのものらしい。君達を殺害するつもりはなかったんだろうね」
「ニナさんの死体は?」
「発見されたよ。身元確認として見に行ったけど、安らかな死に顔だった」
「安らか‥‥ですか」
 鷹谷とハミルが顔をしかめる。それが本当に良かったのか、自分では答えが出せなかった。
「首謀者は死んだ。能力者になれなかったものの暴走、と短絡的にも言えない結末だったな」
「ですね」
 UNKNOWNの言葉に風代が同意する。だがメシアは違う結論を出していた。
「心の隙間があれば漬け込まれる、わたくしにはそう思えます。昔のニナさんを見ていませんので、はっきりとした事は申し上げられませんけど」
「これもバグアの作戦の一つ、ということか」
「そういう見解があってもおかしくなくて?」
「注意に越した事は無いわね」
 検討会はその後場所を変え、警察でも行われた。今後の捜査に役立てて欲しい、それが能力者達の願いだった。