タイトル:義賊戦隊ヌスムンジャーマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/30 00:59

●オープニング本文


「‥‥また奴等か」
 夕闇の迫る寮の自室で、カンパネラ学園教師である南条・リックはネクタイを外しながらPCの画面を眺めていた。かつての勤め先である軍の友人から餞別としてもらったものである。型落ちした旧型という話だったが、それほど機械に詳しくない南条にとっては手に余る代物であった。『機械であれ、武器であれ、大きなものがいいものだ』そう考える彼にとって、機械は愛用のハーレーだけで十分だった。
「さて、どうするか」
 ネクタイをクローゼットに仕舞い、南条は椅子に体重を預ける。ギッと安物の音が部屋に響く。そんな聞き慣れた音を右から左に聞き流しながら、彼は机の引き出しに締まってある煙草を一本取り出した。
 再びPCに目を向けると、やはり次回実施予定のテストのファイルの日時が更新されていた。誰かがいじった証拠であった。機械に詳しくない南条ではあったが、時間くらいは管理している。前回PCを立ち上げたのは朝の事だ。だが十時過ぎに同僚の教師から緊急の呼出電話が入り、今帰宅したばかりである。当然PCに触れる余裕は無い。だが更新日時は今日の昼過ぎを差していた。誰かがこの部屋に侵入し、無断でPCを操作したのは間違いなかった。
「ふぅ」
 肺一杯に煙草の煙をめぐらせ、ゆっくりと吐き出す。それと呼応するように思考がめぐり始めた。 
 犯人に心当たりはあった。義賊戦隊ヌスムンジャー、これまでも度々試験問題を盗んできた連中であった。リーダーであるアカムンジャーを中心に、青、緑、黄色、桃の五人組で、試験問題を中心に盗みを働いていた。それぞれ専用の衣装まで揃え、一部の試験嫌いの生徒の中では英雄とまで言われている。だが教師である南条は彼等の事が好きではなかった。
 理由の一つに南条が能力者ではないことがあるが関係していた。十五年前、能力者が存在しなかった時代は最前線で戦っていた南条であったが、現在の能力者の台頭の前に居場所を無くし、後継者育成に当たるようになった。そんな時代の流れに対し後悔はしていない彼ではあったが、覚醒した生徒にも正面からでは敵わないという事実に一抹の寂しさを感じることはあった。今回がその最たるものだった。
 ふと立ち上がり、窓の外を眺める。そこには部活に励む生徒達がいた。
「お前も本当なら十五、六の子供がいてもおかしくない年齢なのにな」
 軍の送別会で言われた言葉が不意に脳裏を横切る。縁無く四十過ぎまで生きてきたが、それでも自分のリーゼントとバイクに賭けて来た人生は悪くないと思っている。今でこそ悪いと感じることはあるが、その中で得られたものも少なくない。だがやりすぎは身を滅ぼす事を教えるのも、大人の役割だと考えていた。
 そこで一計を案じた。テストを作り直し、ヌスムンジャーをおびき出すという作戦である。試験問題を敢えて生徒に渡し、生徒の動向を読むというものであった。さっそく試験問題を渡す生徒の募集を掲示板にかけるのであった。

●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
諸葛 杏(gb0975
20歳・♀・DF
七海真(gb2668
15歳・♂・DG

●リプレイ本文

「それで問題用紙を持つ参加者というのは?」
「どうやら周防という男のようです」
「どんな奴なんだ、その周防と言う男は」
「実力はあるが、命を第一に考える傾向があるようです。そこに付け入る隙があるかと」
「でかした、アオヌンジャー」
 学園内某所、ヌスムンジャー五名は今回の試験問題奪取に向けて作戦会議を行っていた。リーダーであるアカヌンジャーを中心に、諜報担当であるアオヌンジャーが調べてきた情報の吟味に入っていた。特に今回の議題となっていたのは試験問題を預かっているという噂の周防 誠(ga7131)をいかに攻略するかということに集約していた。
「私の色気で落として見せるわ」
「自重しろモモヌンジャー、お前が次で自給が上がるのは知っているが俺もたまには活躍させろ」
「ムキにならないでよミドヌンジャー。後で食堂の出雲蕎麦奢ってあげるから」
「マジで!? オデにもおごってくれるんだよな! な!」
「キヌンジャー、あんたは遠慮ってのを知らないから駄目」
「なんでだよー、オデだってヌスムンジャーの一人だど」
「はいはい、アンタには十秒チャージ二時間キープできるこのキャラメルをあげるわよ」
「マヂデ!? なら許すお」
 キャラメルを受け取るとすぐに口の中へと放り込むキヌンジャー、その食べる様子から炊飯ジャーという別名でも呼ばれている。
「まぁ基本的な作戦はいつもどおりだ。モモヌンジャーが近づきミドヌンジャーが脅す。キヌンジャーが壁を作り、俺とアオヌンジャーで周囲を警戒だ」
「了解」
 声をそろえて返答する四名、そして部屋を後にするのであった。

 能力者達が職員室にいる南条の下を訪れると、彼は五人を自室へと誘導。そこで口に二本の指を立て煙草を吸う真似をしてみせたが、反応したのがホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)、七海真(gb2668)の二名だけだったのを見ると、苦笑して本題に入った。
「まずこれがお前達に預かってもらいたい問題用紙だ。全部で八種類ある。どう使うかはお前達に任せるが試験日、お前達に分かりやすく言うと依頼終了日までだな、それまでそいつを確保しつつヌスムンジャーの連中を確保して欲しいわけだ」
「質問していいでしょうか?」
 南条の話が一区切りつくのを待ち、諸葛 杏(gb0975)が小さく手を挙げた。
「今まではそのヌスムンジャーにどうやって盗まれたのか教えてもらえないかしら? それで敵の傾向と対策が分かると思うの」
「それはそうだな」
 苦笑交じりに南条は答える。
「自分の失敗談になるから余り話したくはないが、そんな事も言ってられないな」
 口寂しさを紛らわすためか、自慢のリーゼントに一度クシを入れてから南条は語り始めた。
「始めは金庫だったな。当然鍵はかけていたが、懐に一撃もらって気を失った間に鍵を盗まれたな。二度目は自分の服にくくりつけた。だが今度は風呂に入っている間を狙われたらしい。気がついて時にはすでになくなっていたよ」
 他にも色香を使ったり、食事中を狙われたりと手口は結構な数に及ぶと遠い目をして語る南条。教師が生徒に負けるという皮肉とも言える事実に直面しているせいか、漸 王零(ga2930)の目には南条のリーゼントが柳の様に垂れ下がって見えていた。
「能力者と一般人で腕比べをしたところで何か始まるわけではない。それより我も一つ確認したいことがある」
「何だろうか?」 
「捕まえた後の彼らの処遇だ。先程も述べたが、能力者は一般人と異なる。通常の方法では彼者達の反省を促すのは難しと考える」
「具体的には?」
「拷問に掛けるべきかと存じます」
「‥‥」
 南条はやや腰を落とし、下から覗き込むように漸の瞳を覗き込んだ。何かを試されているのか訝しがる漸ではあったが、南条の言葉を聞いて眉をひそめた。彼の返答が不可だったからである。
「確かに能力者と一般人は違う。能力者が一般人相手に戦うとなると、どんなに手加減しても相手を殺しかねないからな。だが能力者同士なら戦っていいのかという意味でもないんじゃないかと俺は思う」
「理由は端的にお願いしたい」
「お前は拷問を楽しんでいるように見える。ここは学園、人を育てる場所だ」
「‥‥」
 生易しい、それが漸の本音であったがここでは敢えて口をつぐんだ。教師という上に立つものが、その威厳を示すものだと思ったからである。自分も今でこそ当主としての地位を確立しているが元をただせば孤児院の出身、当主になるまでの過程では人には言えぬ事も少なくない。
「何かありましたらまた連絡を、効果的な拷問方法をお教えしましょう」
「そいつは頼もしい」  
 盛大に笑う南条。実際のところ細かい作業を嫌う彼は、拷問という方法を好まない。やるとしたら正々堂々と拳で語らうことだった。最もそれが仇となっている部分があることも事実であったが、だからといってそれを曲げる気にはならないらしい。
「まぁ別にいいんじゃないか?」
 一方で七海もヌスムンジャーに不快感を抱いていた。明確な理由ではなく、何となく気に入らないという理由だった。自分も基本裏通りの人間であるため全く共感を感じないわけではなかったが、助け合うのではなく共謀するのは彼の主義に合わなかった。
「獣にも統治ってのがあるのに、どうも無法地帯と化している気がするけどな」
「まぁ原因はバグアだがな。あれのせいで世界的に混迷しているのは事実だ」
「俺にはそんな難しいことわかんねぇよ」
 実際七海は良くも悪くも深く物事を考えようとはしない。自分の直感を大事にするし、自分が従うべきと判断したものには従ってきた。周囲から見ればろくでもない人生だったかもしれないがそれでも自分としては楽しかったし、悪い人生だとは思っていない。そしてこれからも自分の行き方を曲げるつもりはなかった。
「何はともあれ、まずはヌスムンジャー捕獲が先決だ。後の事は奴等を捕まえた後に考える。俺は念のため問題の複製にかかるから、お前達は作戦、周防を囮にするってことだったな、その噂を広めておいてくれ。俺も何人か協力できないか掛け合っておこう」
 そして噂が十分に広まりきったと思われる依頼四日目、屋上から部活動に勤しむ生徒達を眺める周防の前に一人の生徒が現れたのだった。

 それは見た覚えのない男子生徒だった。実際カンパネラ学園には多くの生徒が集まっている。全ての生徒の顔を知っているのは教師の中でも極少数だろう。だが諸葛の調べたリストにはその名前が載っている。緑川隆、成績がいいわけではないが要領がいいと諸葛が備考を残している生徒である。そんな事を考えながら何となく相手を見ていると、相手は何の悪びれもなくポケットから煙草を取り出し火をつけ、周防の隣に並ぶようにして外を見つめた。
「ここ、いい眺めっすよね」
 大きく煙を吐き出し、男子生徒は周防に問いかける。
「夕方頃のここの眺めが好きなんっすよ」
 何となく鼻にかかる話し方ではあったが、不快なものではない。むしろどこか親近感さえ覚えてしまうだろう。話を聞きながら周防はそんな事を考えていた。恐らく自分も喫煙者なら何となく彼に話を合わせていたかも知れない。夕日に照らされたグラウンドで汗を流す少年少女を見つめつつ、自分は大空に向かって煙を吐く。それは悪くない事なのかもしれない。だが今の周防には何となく相手の目的が読めている。その上で話をあわせることにした。
「君はここの生徒?」
「そうっすよ。まぁ成績は可も不可もなくってとこですけど」
 男は煙草を軽く掲げた後に自分の頭を指差した。煙草の吸いすぎで脳の細胞がやられたとでもいいたいのだろう、周防はそう解釈した。
「頭よければ強いってわけじゃないんだし、それでいいんじゃないの?」
「そうっすよね、俺も同感っす」
 周防はしばらく男と雑談に興じた。油断させて襲い掛かってくると考えていたが、どうもその様子は無い。周囲で警戒している漸、諸葛、七海にもそれとなく合図を送ったが、誰かが潜んでいる様子も無い。小一時間雑談に花を咲かせた後、男は屋上を後にする。思わず拍子抜けしまった四人であったが、数分後入れ替わりに別の女生徒が入ってきた。
「さっき、ここに男が来なかった?」
「来ましたよ。肩くらいまでのブラウン系の髪で煙草を吸う子‥‥」
「どっちいった?」
「もう戻りましたよ」
「ありがとう、じゃ」
「ちょっと‥‥」
 そう言って女は去ろうとする。反射的に呼び止めようと腕を伸ばす周防、だがその瞬間に女が覚醒。周防の腕を掴んで投げの容量で地面に叩き付ける。そしてすくい上げるように抱えて出入口まで連れ去っていく。
「尻尾を出した!!」
 追いかける漸、諸葛、七海の三人。だが相手も待ち伏せがあるのは分かっていたのだろう、周防を抱えいれると階段の扉を閉めて巨漢の男が身を挺して防ぎにかかる。
「ならば扉ごと切るのみ」
 漸の剣が唸りを上げる。そして一閃、切られた扉は音を立てその場に崩れ落ち、そこには背に刀傷を受けた巨漢の大男が仁王立ちしている。
「邪魔するなら切る」
「切られても通さないど」
 再び漸の剣が唸りを上げる。神速とも言える剣筋であるが、一つだけいつもと勝手が異なることがある。相手が人間であること、そして命を奪ってはいけないこと。通常なら人体急所である目や喉を狙うことを厭わない漸ではあるが、さすがに今回はそういうわけにはいかない。逆に相手はそこまで読みきっていたのだろう、自分の腕を立てに漸の剣を受け止める。だが漸も気にした様子は無い。
「いけ」
 言葉と同時に諸葛、七海が大男を脇を抜けて女を追う。
「仲間を通すことが目的だべか」
「違うな」
 漸の目が光った、少なくとも大男にはそんな気がした。
「俺は後から追っても間に合うからだ」

 その頃、女に連れ去られていた周防は緑川と合流、目隠しをされて連行されていた。無論周防もただ無闇に運ばれていたわけではない、一つの確信と一つの予感があったからだ。確信は後ろから続く漸、諸葛、七海の待ち伏せ部隊が救助に助けに来てくれる事。そして予感は二人が向かっている場所が南条の部屋であることだ。自分が持っていないことが既にばれてしまっているのだろう、そこで南条に直談判、あるいは取引を持ちかけようというつもりなのだと周防は推察していた。そこには南条の他、ホアキンも偽の問題作成複製のために控えている。上手く行けばヌスムンジャーを袋小路にできる、そう考えて敢えて動かない周防。だが一つ不安があるとすれば、ヌスムンジャーは全部で五名、現在姿を現しているのは三名だということ‥‥
 そして女の足が止まる。続いて扉が開き、女の声が部屋に響いた。
「この人を救いたければ、試験問題を渡しなさい」
 頃合と判断し動き出す周防。だがそこにいたのは南条とホアキン、そして赤と青の衣装に身を包んだ二人の男だった。
 
「これで四対二です」
 青衣装の男が言う。どうやら南条の事は既に数に入っていないらしい。
「いい加減、渡してもらえませんか?」
「お前達に渡すものなどない」
 不利な状況だと分かっていても、南条はまだ見栄を張った。自分が勝てない相手だと分かってはいたが、生徒に屈するわけにはいかない。そんな意地が彼を支えている。その様子を見たホアキンは薄く笑う。
「暴力では心は折れない。今回の事がいい例だ」
「折れぬなら折ってよせよう」
 不敵に笑うアカヌンジャー、腕には自信があるのだろう。だがホアキンも周防も笑わない、二人には後ろから近づいてくる足跡が聞こえていたからだ。
「あなた達に南条さんはやらせない。試験は自分の腕で何とかするものよ」
「欲しいものは力づくでも手に入れるというのは嫌いじゃないが、あんたらはやりすぎだ」
 構える諸葛と七海、そして遅れてもう一つの足音が聞こえる。
「悪いが途中の仲間は峰撃ちにさせてもらった。今はまだ息があるが、遅れれば命の保障はできん」
「ならばすぐに倒させてもらう」
 そう言って剣を抜くアカヌンジャー、それに呼応するように構える他三人。それが戦いの合図となった。

「少し見直したぜ、仲間優先するとはな」
「リーダーとして当然だ」
 能力者五人に囲まれたヌスムンジャーは、戦うのではなく一点突破を狙った。道中倒されたキヌンジャーを救うためである。サイエンティストであり、回復ができるアオヌンジャーを行かせるために他の三人が壁となった。相手の出方を理解した能力者達は適度に手を抜き痛めつけるだけにとどめる。思ったほど性根の腐っていなかったことに諸葛と七海は安堵していたが、ただ周防だけは投げられ、連れ去られた事に苦笑するしかなかった。
「自分で囮役になるっていったんだからある程度覚悟してましたけどね」
「拷問の仕方、教えてやろうか?」
 冗談とも本気ともとれる言葉を掛ける漸に思わず苦笑する周防、一方ホアキンは依頼完了を祝う至福の一服を南条と交わすのだった。