●リプレイ本文
ラストホープ島カンパネラ学園旧校舎、比較的晴天に恵まれたその日も闘技場(仮)の開発は行われていた。完成予定はまだ未定となってはいるが、全体的な造詣は整いつつある。仕様の変更や拡張、耐久性など抱えている問題は多いが、望まれるものが多いということは同時に注目が高いということでもある。控室でのシミュレーターを担当する南条の下にも能力者やメーカー、学園と様々な方向から要望が来ているが、それらを全て満たす事は当然出来ない。分身できないものかという考えを最近持つようになっていた。「それほど焦る必要も無いだろう」
「そうなんだがな」
UNKNOWN(
ga4276)の言葉に南条は天を仰いで答えた。だがそこにはコンクリートの天井しか存在しない。隅の方で蜘蛛が数匹巣作りに励んでいた。
「正直な話、KVの特殊能力も改造できる世の中が来るとは思っていなかった。世界が進歩したと考えれば喜ぶべきなんだろうがな」
「ですが私としてはありがたいです。戦闘が長期化する事も有りますから」
ナンナ・オンスロート(
gb5838)は答える。彼女の機体ナイトフォーゲルGFA−01シラヌイ、ナイトフォーゲルR−01Eイビルアイズでは錬力消費を中心に改造が施されていた。
「大規模作戦などは特に長期戦になることが多いですから。後イビルアイズは一パーセントでもそれなりの効果を期待できると考えています」
「長期化対策と戦闘補助か、方針としては似ているな」
「それほど資金があるわけじゃないので、自分なりの最良の選択をしてみました。お役に立ったでしょうか?」
「そうだな、長期化というのは全く逆の意味で使えるかもしれない」
「というと?」
鹿島 綾(
gb4549)が尋ねる。
「大規模作戦では長時間の戦闘を強いられる事はあるが、長期戦は集中力を奪う。このシミュレーションでは程よい手ごたえを感じてもらえるように、それほど長時間にならないようにするべきかと思ってな」
「確かにそれはそうだね‥‥ところで」
しばらく考え鹿島は聞きなおす。
「今回は二対二って聞いてたけど、どうやって相手を選ぶ? 籤でもやるかい?」
「そうだな、では籤にしようか。ちょうどここに紙と鉛筆があるあみだくじがある。ついでに順番も決めさせてもらおう」
籤の結果、須佐 武流(
ga1461)とUNKNOWN、鹿島とナンナが組むことになる。
「突然の事なので連携も十分にはできないだろう。しばらくは確認しつつ動かしてくれ」
「そうだな今あるAIの状況をまずは確認したいところだ。まずはやってみようか」
須佐の言葉を受けて南条が席を立ち、起動の準備に取り掛かる。
「了解だ、準備をするから二三分待っていてくれ」
南条はシミュレーターの立ち上げにかかる。協賛にUPCやカンパネラ学園の文字が表示され、続いてロゴ画面が表示される。
「席に付いてもらえるか? まだ見ためは悪いけどな」
「分かった」
しばらく待つとスクリーンには須佐の乗機シラヌイ、そしてUNKNOWNのナイトフォーゲルK−111改のコックピットが映し出される。
「操作性と装備の確認を頼む。特に派手に扱いすぎているせいか火気系統のトリガーの調子が悪いという報告があるからな」
「いや、大丈夫だ。実際の機体ではないから多少違和感はあるが、それは慣れるしかないだろう」
「ツインブーストの使い勝手を見てもらおうか」
「それじゃ早速始めるぞ」
やがて目標のシュテルンが現れる。そしてスクリーン上では三二一とカウントダウンが刻まれ、零と同時に両者動き始めたのだった。
「まずは出会い頭に一撃行かせて貰おうか」
開始と同時に動いたのは須佐、ソードウィングを展開し前衛を務める敵シュテルン目掛けて攻撃にかかる。様子見を兼ねての一撃である。シュテルンはそれを際どく回避、通り過ぎてゆくシラヌイにヘビーガトリング砲を掃射する。
「PRM使わなくとも回避はある程度できるようだな」
「これぐらいはやってもらわないとな」
シュテルンがリロードに入るタイミングをシラヌイはRA.1.25inレーザーカノンで牽制、旋回の時間を稼ぐ。そして体勢を立て直した所で続いてUNKNOWNが同じくソードウィングで攻撃にかかる。これに対し後衛のシュテルンが短距離AAMで牽制、回避行動を行わせる事で速度をのせないように妨害にかかる。須佐も127mm3連装ロケット弾ランチャーで後衛の妨害にかかるが、フリーとなった前衛シュテルンはリロードを済ませたヘビーガトリング砲をUNKNOWNの乗るK−111改へと流し込むように放出していく。回避を狙うUNKNWONはブースト、そしてツインブーストを展開して、そのまま前衛シュテルンを攻撃しつつ距離を取りにかかる。先程と同様にリロードに入る前衛シュテルン、だが何合かの打ち合いの中で一つの欠点が露呈された。戦闘前にも話題に出ていたKVの錬力問題である。UNKNOWNのK−111改が錬力不足のために戦闘不能に陥ったのだった。
「これがツインブーストの欠点だな」
操縦席を模したシミュレーターの椅子から下りながら、UNKNOWNは話す。
「K−111が悪いと言うわけではないが、ツインブーストはブーストで錬力50消費が前提になっているため、ツインブースト消費70が半分になっても総消費量は85。アクセサリー等で補ってはいるが、長期戦には向かない事は事実だな。同じ事がシュテルンにも言えると思うが、どうかな?」
「そうだな」
「PRMシステムも消費錬力は100まで、長期戦に向いているとは言えないわね」
シミュレーター戦闘の感想を鹿島はそう評する。
「それも踏まえての柔軟な対応、臨機応変に考えられるAIが必要なのね」
「それに関して一つ提案がある」
割り込むようにして須佐が口を挟んだ。
「こちらが特殊能力を使えば、それを全力回避するように組まれているように見る。実際今回はPRMシステムが一度も発動していない。おかげで錬力勝負でも負けなかったとも言えるがね」
戦闘後のためか多少髪が乱れている。それを手櫛で整えながら須佐は続ける。
「攻撃系の特殊能力の場合はいいが‥‥相手が回避・命中型スキル、もしくは機体そのものの命中が高い場合は意味がない。そういう相手の場合は防御、抵抗に振り込むほうが安全かつ効果的だろう」
「そうだな、今回がまさにそれだ」
UNKNOWNも同意した。
「多少卑怯な手段かもしれないが、プレイヤーの機体に応じてPRMの割り振りを考慮できるようにAIを考えた方がより良い戦績が得られるだろう。攻撃型の特殊能力はKVの中でも限られている」
「そうですね」
ナンナが周囲を見渡す。今回参加した四名の能力者の機体の内、攻撃型特殊能力を持つのは鹿島のナイトフォーゲルXF−08Bミカガミのみ。単純な確立で言えば25%に過ぎない。尤も予備機を含めれば確率は変動し、四人では十分なサンプルにもならないが、全体でも50%行くかどうかは怪しいかもしれない。
「シミュレーターと言っても人間側が連戦連勝してはお互いにいいデータとはなりませんし、何回か戦えば相手の癖なんかも掴んでくれると効果的かもしれません」
「本当にそんなAI組めたら手ごわいけどね」
弱音とも取れる言葉を吐きながら、鹿島はシミュレーターの席についた。第二戦を始めるためである。それに倣う様にナンナも席に急ぐ。
「それじゃ今回は望みどおり攻撃型特殊能力の使い手だよ。センセイの組んだAIのお手並み拝見だね」
「大船に乗ったつもり、と答えられないのが残念だな」
やがてスクリーンにはミカガミ、そしてナンナのシラヌイのコックピットが表示される。
「装備と操作性の確認を頼む。終了後カウントダウンを始めるからな」
「オッケーだ」
「こちらも大丈夫です」
「それとミカガミだと空中戦では余り意味がない。格闘武器の使える人型形態でお願いするぞ」
二人の言葉に応じてスクリーンでは三と数字が表示された。そして二一零と秒読みが開始される。第二戦の始まりだった。
「まずはその回避力を見せてもらおうか」
開始早々に鹿島は大上段に雪村を構える。すぐさま前衛はRPMを起動、全回避に錬力を注ぎ込み、後衛が間合いを積める。身体の流れた所にヘビーガトリング砲の全弾丸を送り込むためである。だが様子見である鹿島もそこまでは読んでいる。すぐさま雪村から試作型スラスターライフルへと切り替え離脱を計る。
「これぐらいの動きにはついてきてもらわないとね」
そして鹿島のミカガミのいたスペースにナンナが入る。攻撃するわけではない、守るためである。手にした装備品も無改造のディフェンダー、そして注意を引き付けている間に鹿島は両シュテルンの背後へと回る。
「次は本気でいくよ」
再び鹿島は大上段に雪村を構える。狙うのは前衛シュテルン、先程PRMを使用したため回避不十分と思われる機体だった。すぐさま反応したのは後衛シュテルン、だが後衛は立ちふさがることなくナンナとの距離を詰めていく。代わりに前衛が鹿島に立ちふさがった。
「前衛を捨てたということですか?」
「思い切った決断ね」
鹿島は横目で錬力を確認する。既に一発空振りしているため、この二発目で雪村は打ち止め。後は持久戦での勝負にかけることになる。そのためにも外すわけには行かなかった。前衛も既に避けられないと判断しているのか、ブーストを効かせて鹿島のミカガミに一直線に向かっている。
「相打ちでも狙ってるみたいですね」
ふとナンナの脳裏にそんな言葉が思い浮かぶ。実践なら十分にありえる選択肢だからであった。だがそれ以上の事を考える余裕を与えまいと後衛シュテルンが張り付いた。
「そんなことはさせないさ、一刀両断にしてみせる」
鹿島は間合いを見極め前衛に雪村を振るう。途中でブーストの切れるタイミング、フェイントを挟む可能性、自分の考えられるだけの状況を考えての一刀だった。
数秒後、コックピットにまで浸透していた傷の下、前衛シュテルンは爆発する。その後、孤軍奮闘する後衛シュテルンであったが、二対一は分が悪く三分も持たずにCPUの敗北が決定したのだった。
「コンビネーションとしては悪くないんじゃないかな?」
「そうですね。実践とはちょっと違う気もしましたけど」
シミュレーターの席から離れながら、鹿島とナンナはCPUをそう評した。
「前衛を捨てるとかは命の重みを知らないCPUらしい行動だと思ったよ。でもちょっと直線的過ぎるかな、機体も五レベルくらいあげていいから、もうちょっと陽動とかも使えるようになると程よいというのが感想だね」
「そうですね、そのくらいならお財布にも優しいですし」
「なるほどな、参考になる。だがフェイントを入れるとなると、また一段階高度なプログラムが必要だな」
二人の意見を聞きながら南条はメモをまとめていく。だがこれからやる事の算段を付けていくと頭が痛くなるというのが本音でもあった。
「財布に優しく俺の頭に厳しいプログラムだな」
「それをいっちゃいけませんよ」
苦笑するナンナ、隣では須佐も苦い顔を浮かべている。
「また何かあった時には協力しよう。優秀な対戦相手は俺も欲しい所だ」
「それと一人で考えるだけでは思い浮かばない事もあるだろう。ここを参考にするといい」
メモをしている南条の前にUNKNOWNは一枚の紙を差し出した。メモ帳の切れ端のような紙である。そこには兵舎の住所が書かれていた。
「『〜シュテルン乗りの倉庫〜』、そこのメンバーが恐らくPRMについて最も詳しい。尋ねてみると、いい刺激になるかもしれない」
「ありがたく受け取らせてもらおう」
煙草の煙でも吐き出すように大きく息を出す南条、彼の肩を叩きながら能力者達は控室を後にするのだった。