●リプレイ本文
今回の依頼に先立ち、鯨井昼寝(
ga0488)は一つの可能性として「隕石によるものではないか」という考えを出した。
「別に決め付けるわけじゃないわよ。ただ今回の依頼と似たような現象が過去に起こっている事を突き止めてね」
そう言って他の能力者達に何かの印刷された紙を差し出した。
「これは?」
受け取ったキーラン・ジェラルディ(
ga0477)が鯨井に尋ねる。紙には「隕石落下に町騒然」と見出しが飾られていた。
「ネット上で見つけた新聞記事よ。今回の事例に似てると思わない?」
「けひゃひゃ、確かに似た部分は多いね」
火柱、爆音、異臭。今回の依頼のキーワードとでもいうべき三つの単語が新聞の中にも入っている。
ドクター・ウェスト(
ga0241)は眼鏡をかけなおしながら新聞を見つめていた。
「だが断言はできないね〜。仮説をもとに正確なデータを収集しないといけないね〜」
「調査は他がいるのなら、お任せしますよ」
隕石説を出した鯨井ではあったが、実際に隕石である確率は五割程度だろうと見積もっていた。もっといえばバグアの新兵器であっても構わないという気持ちもあった。
「重要なことは地元の人達に事実を伝えることですから」
チリへと向かう高速艇の中で、里見・さやか(
ga0153)はアルミニウムとプラスチック製のコップなどで作られた道具を眺めていた。
「それは?」
櫻塚・弥生(
ga2000)が珍しい物を見るような目で里見を見つめていた。
「ガイガーカウンター、って本部の人は言ってました」
「大丈夫なの? それ」
歯に衣着せぬ物言いで櫻塚が尋ねると、里見は「多分」と答えた。
「原理的には合っていますから、大丈夫のはずですよ」
「‥‥」
出発前、里見とドクターはそれぞれ本部へガイガーカウンターとガス検知器の貸し出しを申請していた。しかし既に通信機を貸し出しを申請していたこともあり、ガイガーカウンターはお手製、ガス検知器も硫化水素の試験紙ということに落ち着いたのだった。
「本部の人が言うには正確な数値を調べる必要は無いだろうということでした」
「バグアの兵器かどうかを確かめることが先決だから仕方ないかもね」
櫻塚がそう締めくくると、里見は再び取り扱い方の確認を行うのだった。
まもなく高速艇は目的地のチリ北部へと到着する。山肌にわずかに植物の存在する山岳地帯だった。
そこでまず能力者達が始めたのは地図の作成だった。
「地図がなきゃどこが現場かよくわからないからな」
シズマ・オルフール(
ga0305)の提案もあり、町で詳しそうな人を捜索。自分達の足で確認した事も踏まえつつ四枚の地図を作成した。
そして次に能力者達は二人一組、計四組に分かれて本格的な捜索を行うことにした。
「調査がメインとなる以上サイエンティストはできるだけ分かれたほうが得策か」
「自分もそう考えるであります」
そこで能力者達はサイエンティスト三人を分散させる形で組分けを行った。
A:稲葉 徹二(
ga0163)、マシェリ・京・カーン(
ga3008)
B:シズマ、キーラン
C:鯨井、ドクター
D:里見、櫻塚
以上の四組だった。
B班は手近な所から聞き込みを開始していた。依頼で聞いた限りでは火柱は相当高く上がったと言う。それならば多くの人が目撃し、また多くの人が不安に駆られているのではないかという予想からだった。
「始めから気張るとできるものもできなくなるぜ」
シズマがキーランの肩を叩く。
「何をそんなに心配している?」
「‥‥考えすぎかもしれんが」
そう前置きしてキーランが心配するのはバグアの動きだった。
「バグアの新兵器か昼寝の言う隕石によるものかは現段階ではわからん。だが火柱が上がり、爆音も響いたんだ。バグアの方も原因探索に乗り出てもおかしくないだろう?」
「ん? まぁそうだな」
深刻そうな顔をするキーランに対し、シズマは口笛でも吹くかのように朗らかに答えた。
「だったら、早めに現場に向かうとしようぜ」
一瞬あっけにとられたキーランだったが、シズマは笑っている。
「そうだな」
二人は調査に出かけるのだった。
C班は病院を当たっていた。異臭のため、未だに多くの人が体調不良に悩まされているため話を聞こうと考えたからであった。
異臭の原因に深い興味を示していたドクターだったが、現在はもう異臭は納まっているらしい。
全ての現況の元のところにでもいけばまだ何かを計測できるかもしれないが、少なくとも町中では確認できない。
それでもドクターはガスマスクを装着して聞き込みを行っていた。
「外の匂いに覚えはないかね〜‥‥っていうか、温泉に浸かったこともないような年齢ばかりかね」
残念ながら首を縦に振るものはいない。試験紙の方にも反応は無かった。
「この試験紙、本当に使えるのだろうか〜?」
「本部が渡してくれたのなら使えるのではないかしら?」
鯨井の言葉に耳を貸すことなく、一人疑惑に駆られ始めるドクターであった。
D班も櫻塚の提案で病院に当たっていた。聞き込みできそうな人が大勢存在するというのも勿論あるが、加えて体調不良を訴える人達に安心を与えるためである。
「本当は軍服を着たかったですが、仕方ありませんね」
元会場自衛隊員である里見は当初軍服着用を考えていたが、国際問題になりかねないため断念。しかし自衛隊出身というのはそれなりに効果があったらしく、町の人々に希望を与えたのだった。
「あとは本当の原因追求ですか」
今の所、ガイガーカウンターに反応は無い。もっともどれくらいの感度があるのか疑わしい機械ではあったが、それでも反応しないのならば考えても仕方の無いことだ。
「目撃情報を総合すると、今回の元凶は町の郊外で東に2,3km離れたところっていう感じね」
櫻塚の持つ地図には目撃場所と目撃した方向が数本引かれている。それらの線の合流地点が町の東にあるようだ。
「行きましょう」
二人はガスマスクを装着し、現場へと向かうのであった。
A班の二人はできれば現場に行ってサンプル採取を行いたいというマシェリの希望もあり、出会った町の人全員に話を聞きながら現場と思われる場所に移動した。
二人ともガスマスクを装着。有事に備えて稲葉はすでに右手に刀、左手に小銃「スコーピオン」と戦闘態勢を整えている。
そして二人が見たものは、直径20m深さ8mはあろうかと言う巨大な陥没だった。
「やはり医者についてきてもらうべきだったかしら‥‥」
後悔するマシェリ。来る途中で医者の青年と遭遇したものの、ガスマスクに余裕が無かったため同行を拒否されていた。
「仕方ないであります。あの青年の話ですと、今でも苦しんでいる人がいるということでありましたし」
「そうですね」
稲葉にフォローされて多少気が楽になったのか、マシェリはサンプル採取をするためクレーター内に侵入。稲葉もマシェリに続く。
そして二人を待っていたのは人の頭ほどの石を運ぼうとしているアリ型のキメラだった。
「どう見るべきかしら」
フィボナッチ数列を暗証しながら気を静めるマシェリ。目の前には大きさ20cm程のアリの姿をしたキメラが三匹、足で隕石と思われる石を器用に抱えながらこちらの出方を伺っている。
一方稲葉の方は「スコーピオン」を発射を躊躇っていた。撃てば届く距離だが、石に当たる可能性が高いからであった。今回の依頼の一環でマシェリの他、ドクターもサンプルの採取を検討していたことを知っていたためである。
「では刀で行かせていただくのです」
左手に構えていた「スコーピオン」を仕舞い、刀を構える稲葉。マシェリは通信機で他の能力者に応援を求めると、シズマとキーランが現場に姿を現した。
状況を察したシズマはすぐに覚醒、瞬天足でキメラとの距離を詰める。
しかし、その直後異臭に襲われた。
「臭いというより痛いってやつだな」
今まで異臭を感じなかったためシズマはガスマスクを装着していなかった。だがさすがに現場ということもあって、クレーター内はまだ異臭が立ち込めていた。
急いでガスマスクを装着するシズマ。そこにアリ型キメラが体当たりを仕掛けてきた。
「卑怯だな、それがキメラの戦い方か?」
シズマは一匹目を華麗に回避、しかしその後ろには二匹目が控えていた。よく見ると、二匹目の背後には三匹目が隠れている。
「俺様に集中攻撃ってことか。アリに好かれたいとは思っていないんだけどな」
一瞬虚を疲れたシズマだったが、二匹目も回避。しかし三匹目を回避できずに、キメラの牙がシズマの足に突き立てられた。
「結構厄介ですね、一気にいかせてもらう」
キメラの攻撃が途切れたところで稲葉が覚醒、豪破斬撃でキメラを攻撃。しかしアリの硬い甲殻に阻まれ、余り手ごたえを感じられない。シズマとキーランも同様だった。
そこでマシェリが練成治癒でシズマを癒しつつ、他の仲間の到来を待つことにした。
数分後、鯨井とドクターが到着。回復しきれていなかったシズマのダメージをマシェリとドクター二人がかりで癒しに入ることで形勢を維持。
更に数分後、里見と櫻塚が到着。一匹目のキメラを倒したこともあって、形勢の逆転に成功。そのまま能力者達が押し切った。
「足が千切れるかと思ったぜ」
体格差があったため徹底的に足を攻撃されたシズマが感想を漏らして、戦闘は終了した。
「早めに駆けつけて正解だったな。今回の一件、やはりバグア側も感知していたとみるべきだろう」
「そうでありますな」
キーランが呟くと、覚醒を解除した稲葉が答えた。
「では、キメラも興味を示した隕石の回収と行きましょう」
念のため里見がガイガーカウンターで隕石を調査。反応が無いことを確認して、マシェリが隕石を確保した。
「あとは町の人達に事情を説明しないとね」
「だが、キメラの襲撃は隠しておいた方がいいだろうね」
そう言って、キメラの死体を確保するドクターだった。