●リプレイ本文
「柚井ソラです。精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」
開口一番挨拶をする柚井 ソラ(
ga0187)。その満面の笑顔に多少ビクトルも毒を抜かれていた。
「こちらこそよろしく、何か必要なものがあれば言って頂戴。大体そろえているつもりだから」
ビクトルが言うと、すぐさまエスター(
ga0149)が反応した。
「だったらまず通信機とビデオカメラ、あと網が欲しいッス!」
「網?」
思わず問い返すビクトルに柚木が答えた。
「できれば捕まえられないかと思いまして。無理でしょうか?」
「一応当たってみるけど、難しいと思うわね」
ビクトルが言うには、ハーピーは三匹。それを捕らえようとすれば当然抵抗するだろうし、その時網が破れてしまう可能性が高いということだった。
「それに貴方達の気持ちは嬉しいけど、あんまり怒らせちゃうとペルーが動き始めるかもしれないからね」
何が理由かは不明であるが、まだチリにはバグアは踏み込んでこない。これをわざわざ自分達から攻め込もうとする人は少なかった。
「とりあえずハーピーの能力値や属性がある程度分かればいいわ。相手が空を飛んでいる分、いろいろと制約があるけどね」
今回はキメラが単に空を飛ぶだけではなく、能力者達の足場が海(厳密には船)という条件もある。あまり戦闘に向いているとはいえない状況だった。
「その代わりといっては何だけど、何種類か船は用意しておいたわ。自由に使って頂戴」
そう言うと、ビクトルは自分のPCを立ち上げた。どうやらビクトル自身は議事録作成に専念するらしい。多少調子は狂わされたものも出雲雷(
ga0371)が中心となって作戦が練られ始めた。
「本当は解剖までしたいところだったけどな」
できればキメラの回収し、キメラの身体の構造したいと思っていた須佐 武流(
ga1461)は唇を尖らせて抗議した。しかしハーピーの能力値が不明の現状で確実に倒せる保証は無いということで納得、
「仕方あるまい、依頼人の要望はキメラの能力の分析にある」
崎森 玲於奈(
ga2010)は冷静に答えるのだった。
その後の話し合いでAを二隻、Bを一隻借りるということで話はまとまった。
A1:エスター・出雲雷
A2:柚井 ソラ・須佐 武流
B:アリス(
ga1649)・崎森・白藤純也(
ga3239)
という内訳である。
「各船の船首・船尾・ブリッジにカメラを設置するのだな」
確認するアリス。A1、A2、Bと三隻の船にカメラをそれぞれ三つということにビクトルは多少難色を示したものの、最後には彼女の方が折れた。
「水中加工しないとね‥‥」
そんなことを呟き、外出するビクトル。その背中を白藤は見つめていた。
翌日能力者達が海辺に案内されると、そこには能力者達が指定したとおりの三隻の船と中にカメラを入れた空の水槽が九個準備されていた。
「これは?」
柚井が尋ねると、ビクトルが薄い笑いを浮かべる。
「昨晩準備したのよ。これで多少水に濡れても大丈夫でしょ」
エスターが確かめると、水槽には蓋もされており一応密閉できるようになっている。水槽自体を海に落とさない限りは大丈夫だろう。
「あと網は無理だったわ。無事に返ってくる保障があまりにも少なすぎるってことで誰も貸してくれないわね」
「‥‥そうですか」
付近の漁師には網を持っているところも多かったらしい。だが網は結構高価なものということで、破られる可能性の高い今回の任務では貸してもらえなかった。
「無理はしないでいいわ。よろしく頼むわね」
ビクトルに見送られながら能力者達は出航するのだった。
「見えてきたわね」
ビデオカメラの固定作業を終了し、サングラス越しに海を見ていたアリスの目には空を飛ぶ人型キメラの姿を捉えていた。すぐに他の船にも連絡し、態勢を整える。
「どれだけの美人か、確かめさせてもらおうか」
アリスの後ろでは白藤が美人と噂されるハーピーの姿に多少の期待を込めていた。太陽と被っているせいか、薄目で必死に確認しようとしている。その姿はどこか滑稽だった。
最初に攻撃を仕掛けたのはエスターだった。彼女ののアサルトライフルが火を噴く。
「いくッス〜」
アサルトライフルの最大射程である六距離からの攻撃、それでも覚醒すれば当てられる自信がエスターにはあった。しかしハーピー達は華麗に三発とも避けて見せた。
「続いていきます」
次に矢を番えた柚井が最大射程五距離から矢を放つ。しかし雷の力を帯びた矢さえも空を切る結果となった。
「‥‥回避が高いようだな」
出雲は呟きながら覚醒。ハーピーとの距離を確認して疾風脚使用後にハンドガンを撃って見るが、やはり空を切る。そこで速度の関係で遅れをとっていた船Bを囮に、船Aの二隻が両サイドに回る作戦を取った。
「回避は高いようだが、遠距離攻撃は無いようだ。敵との距離に気をつけていこう」
無線で連絡をすると、無線越しに「了解」という声が聞こえてきた。
「あれは化け物か?」
出雲の声に応じたものの、須佐の銃は一匹にかすり傷を負わせるに留まっていた。
「キメラですので化け物と言えば化け物ですけど‥‥」
冷静に答える柚井。その声に須佐はいつもの調子を取り戻した。
「そうだな、確かにキメラだ」
距離を取りつつ旋回する船の中で須佐は手早くマガジンの交換を行い、また狙いを定める。しかしハーピーも動きを読んだのか、各船に一匹ずつ張り付いていた。
「各個撃破ってことか‥‥だが」
「この距離なら中てる」
須佐のハンドガンと柚井の長弓がキメラを捉えた。
その頃、囮役の船Bでは去って行く二匹のキメラを目に焼き付けながら、残った一匹に零距離での戦闘を行っていた。
「電刃は唸り、雷光は貪る‥‥この飢えと、渇きを癒せ!!」
崎森は渾身の力を込め刀を振るうが、当たるかどうかは五分と五分というところだった。アリスは疾風脚を使い多少攻撃を当てるものの、ハーピーの鉤爪を喰らっていた。とっさの判断で受けに回り致命傷こそ避けたものの、受けた肩口からは血が滴り落ちている。
一方ハーピーの方は、傷を負うごとに中に舞い上がり体勢を整えて襲ってきていた。
「チッ、下りてこねぇんじゃどうしようもねェ‥‥」
白藤が悔しがっている。一撃はかろうじて当てたものの、すぐに逃げるハーピーに翻弄されつつあった。
「一旦引くべきですね」
スキルを使用したこともあるが、練力の消耗が激しい。アリスは他の船に連絡をとった。
「撤退ッスか‥‥」
距離を取れば敵の攻撃は受けないもののこちらも攻撃が当てにくい。しかも移動速度は船よりハーピーのほうが速かった。調査の意味も込めて様々な斜線からエスターは鋭角狙撃を使い、降りてきた所を出雲が疾風脚で叩いていたものの、ハーピーは出雲を集中攻撃。回避に自信のあった出雲だったが練力の限界が近かった。加えて出雲はカウンターのカウンターで何度か傷を受けている。
「向こうも限界近そうだがな」
ハーピーの方もかなり傷を負っている。しかしハーピーは空に逃げられる分だけ有利だった。
「了解ッス。奴を倒せそうな武器開発を期待してここは引くッス」
船A2でも撤退を始めていた。須佐と柚井の同時攻撃は見事ハーピーを捉えたものの、それ以降ハーピーの攻撃が激しくなったためである。
「向こうも始めは様子見していたみたいですね」
長弓も弾頭矢も予想以上の効果を上げていない。可能性としては火属性か無属性ということなのだろう。
「あとは足場がよければな」
須佐は一度疾風脚で脚力を強化しハーピーを空中で捕まえて船に叩きつけることに成功した。しかし船の心配をした漁師が付き合いきれないと引き返し始めたのだった。
最後に柚井が照明銃をハーピーのそばに打ち込み、その間に三隻とも離脱したのだった。
やがて港が見えてくる。港ではビクトルが救急セットを片手に待っていた。
「お疲れ様、怪我した人は治すわよ」
素直に怪我した出雲、アリスはビクトルの治療を受ける。しかし酷いのは生命力より練力だった。
「もっと回避があがる防具が欲しいな」
それがグラップラーである二人の答えだった。