タイトル:ファイアーラットマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/27 03:54

●オープニング本文


 西暦二千七年十一月、UPC北米軍所属のナイトフォーゲルパイロットであるトーマス=藤原は自宅謹慎を命じられていた。前回仲間が撃墜されたことに激昂し、命令違反をしたことが理由である。一応自宅療養という意味も含まれているため、トーマスは大人しく自宅でプロテインを飲んで過ごしていた。
 そこに妹のマーリンが友人を連れてくる。ヘレンという名の少女らしい。

「‥‥それで私に何の御用でしょう?」
 年齢は妹と同じくらいで、十七八といった所だろうか。多少服が汚れているが、全体的に気品がある。どこかのお嬢様といった雰囲気を持ち合わせていた。トーマスもいつもとは違い丁寧な口調で応対する。
 ヘレンもその辺りに気付いているのか、多少緊張しながら答えた。
「上手な力の使い方を教えて貰いたいのです」
「力?」
 トーマスが聞き返すと、ヘレンの代わりにマーリンが答えた。
「ヘレンは能力者なの」
「そうか」
 トーマスは短くそう答えた。

 ヘレンは以前から自分に能力者の適正があることを知ってはいた。しかし戦うことを恐れ、競合地から離れた所で両親と暮らしていた。だが先日、家をキメラに襲われ、自分の無力さを思い知らされたらしい。
「家は焼かれ、両親は殺害されました。その時、私は何もできなかったのです」
 両手を強く握り締めながらヘレンは語る。握り締めた手の甲には涙が落ちていた。
「‥‥能力者の力の源は気合だ。厳密には体内の水素を濃縮イオン化させることらしいが、あまり気にしなくてもいい。まずは今の気持ちを忘れないことだ」
 少女の涙に気を許したのか、トーマスが優しく答える。
「だが、能力者とはいえ万能ではない。一人では無理をしないことも重要だ」
「はい。分かりました」
 涙を拭い、必死に笑顔を作ってヘレンは答えた。

「‥‥ところで、襲ってきたキメラの事は覚えているのか?」
 思い出したようにトーマスが尋ねると、ヘレンはしばらく悩むような表情を見せて答えた。
「ネズミのような姿をしていました。全身が炎のように真っ赤なネズミが二匹‥‥多分二匹です」
 最後の方は自信がなさそうだったが、どうやら赤いネズミということは間違いないらしい。トーマスは天井を見上げた。
「そいつはファイアーラットだ。炎をまとって攻撃するという特殊能力がある。多少厄介だな」
「私では無理でしょうか」
 心配するように尋ねるヘレン、そこに横からマーリンが口を挟んだ。
「‥‥トム兄がやってあげればいいじゃない?」
「俺は自宅謹慎中だ。外出できん」
 答えるトーマス。どうやらマーリンは始めからトーマスを当てにしていたらしい。
「‥‥だったら能力者に依頼でもしてよ。確かできるんでしょ?」
「お前、始めからそのつもりだったな?」
 マーリンに乗せられるようにしてULTに連絡をとるトーマスだった。

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
雪ノ下正和(ga0219
16歳・♂・AA
ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
烈 火龍(ga0390
25歳・♂・GP
赤村 咲(ga1042
30歳・♂・JG
アイロン・ブラッドリィ(ga1067
30歳・♀・ER
篠原 悠(ga1826
20歳・♀・EP

●リプレイ本文

「敵戦力はファイアーラット、数は2。ただし総数は不明。先行して私とブラッドリィさん、悠さん、咲さんが潜入。索敵を行い、敵の数や場所を確認、発見されれば応戦。時間を稼ぎ、仲間を待つ。そして全力で殲滅。以上だね」
 突入を前に、緑川 安則(ga0157)が預かっていた無線を渡しつつ作戦を確認する。幸運と見るべきか、ヘレンの家はまだ建っていた。しかし造りは木造、今回のキメラの事を考えると余り楽観視できないのも事実だった。
「燃え尽きる前に何とかしないとね〜」
 ドクター・ウェスト(ga0241)は色々な意味で今回のキメラ、ファイアーラットを気にしていた。なぜ炎を発生させられるのか、いくつか仮説は頭に浮かんではいるものの根本的な解決には至っていないからである。
「では、散開」
 緑川の声とともに能力者達は二手に分かれ突入を開始した。

 突入時に際し、能力者達には三つの任務が与えられていた。一つはファイアーラットの駆除、依頼の主任務である。二つ目に依頼人ヘレンの両親の保護、成功条件には含まれていないものの能力者達の意見は出来る限り綺麗な姿で確保するということでまとまっていた。そして三つ目は居間に置かれた写真立てとヘレン自室のオルゴールの確保だった。
「トーマス君にも言われていると思うアルが、今回ヘレン君の家が燃える可能性が高いアル。思い出の品があるばとって来るアルよ」
 出発前、トーマスの家での作戦会議で烈 火龍(ga0390)がヘレンに尋ねた。そして彼女が選んだのがその二品だった。
「写真は三年前バンクーバーへ旅行に行ったときのものです。平和な時を忘れないということで、みんなが最も足を運ぶ居間の暖炉の上にあります。オルゴールは去年の誕生日プレゼント、聞いた事無い曲なんですけど、聞いているだけで落ち着くんです」
 居間は一階、ヘレンの部屋は二階。ファイアーラットの駆除とヘレンの両親の確保という二つの仕事を前に、能力者達は安請け合いするべきか思案。しかし最終的に了承したのだった。

 突入は一階からと二階からの二箇所同時突入で行われた。構成は
・一階突入班 柚井 ソラ(ga0187)、雪ノ下正和(ga0219)、ドクター、烈 
・二階突入班 緑川、赤村 咲(ga1042)、アイロン・ブラッドリィ(ga1067)、篠原 悠(ga1826
 一階突入班を本隊とし、二階突入班が突入後に一階班が突入するという段取りだ。ファイアーラットの駆除を最優先に、途中ヘレンの両親に遭遇すれば確保。そして一階の居間と二階のヘレン自室を優先して調査するということになった。また能力者独自の判断で極力発砲を抑えることにしていた。特にアイロンは銃を所持しつつも、超機械で主兵装に切り替えている。
「無闇に傷つけたくは無いですからね」
 特にヘレンの目の前では、というのがアイロンの本音であったが、ヘレンは今回同行していない。現在エミタ埋め込みの手術中ということだった。それほど時間のかかるものではないので、依頼終了までには間に合うだろうと思われる。
「私も同意です」
 アイロンと共に、篠原が覚醒して突入した。

 別口から緑川と赤村も時を同じくして突入していた。ガムテープを使って、極力音を立てないように窓を破っての侵入だ。
「フェンリルワン侵入完了、これより捜索を開始する」
 緑川が覚醒しつつ無線で連絡、同じく赤村も覚醒し隠密潜行を使用する。
「同じくツー侵入完了です」
 無線から二人の声が聞こえる。それに続いて、一斑が侵入の報告を伝えてきた。
「こちらも突入します‥‥っ」
 正面から突入した一斑の四人の前に待っていたのは、玄関マットにちょこんと座り込む二匹のファイアーラットだった。

「正射必中……この矢は中る」
 柚井が覚醒して先制攻撃、見事ファイアーラットにダメージを与える。しかしこれで本気になったのか、二匹のファイアーラットは全身に炎を纏い、体当たりを仕掛けてきた。
「来るアルね」
 体当たりの標的となったのは雪ノ下と烈。雪ノ下が水属性の防具の効果もありダメージを抑え、烈は瞬天速を発動させて回避と同時に距離を取る。
「こんなものかね〜?」
 続いてドクターが柚井、雪ノ下、烈の三人の武器に練成強化を施す。その時、壁にある染みのような黒いものを発見した。強化完了後、染みの一つの匂いを確認すると、焦げたような臭いだった。
「やはり燃やす効果があるのですね?」
 雪ノ下が確認すると、ドクターはメガネをかけなおしつつ答える。
「みたいだね〜さっきの体当たりの跡にも焦げができてるよ。興味深いね〜」
「でも観察は後にしてくださいね」
 一応柚井が注意を促す。そして戦闘が再開さえた。

 一方その頃フェンリルツーことアイロン、篠原組はヘレン自室に到達していた。位置的にはフェンリルワンの方が近い位置から侵入していたのだが、女性の部屋と言うこともありフェンリルツーが担当することになった。
「綺麗に整頓されとる部屋やな」
 部屋自体が木造と言うことに合わせて、家具が全て木製のものに統一されている。ベッド脇に置かれたぬいぐるみ達は森に住む妖精という雰囲気を出していた。
「問題はオルゴールですか‥‥」
 警戒しつつ周囲を確認するアイロン、すると机の上に手の平大の小さな小箱を発見する。篠原と愛コンタクトを交わし、アイロンがわずかに小箱をあけると金属のシリンダーが回っていた。
「こちらフェンリルツー、目標のオルゴールを確保完了や」
 無線に向かって呼びかけると、赤村から応答があった。
「こちらも完了だ。一匹ファイアーラットが隠れていたが、返り討ちにしたよ。多少引火したから現在消火中だ」
「おっ。やったね、さっちゃん」
「こんな時に茶化すな」
 その後状況を確認すると、どうやら二階は捜索が完了したらしい。四人は合流して一階へと向かった。

 その頃、一階班も二匹目のファイアーラットに止めの一撃を入れていた。
「これで終わりですね」
 周囲への飛び火に警戒し、雪ノ下は一匹を完全に足止め。残る柚井、烈で残りの一匹にスキルを使いつつダメージを集中させ、ドクターが回復。炎を纏っての体当たりは引火の可能性があり厄介ではあったが、牙による攻撃は烈の流水のような華麗の体裁きを捉えることはなかった。
 一方雪ノ下の方は水属性のシューズの恩恵もあり、ほとんど無傷。念のためドクターが回復、そして雪ノ下は今後の戦闘も想定してスキルを使わずに二匹目のファイアーラットも見事退治したのだった。
 そこに早めに捜索の終えた二階捜索班も合流、八人での一階捜索が開始された。

 その日の夕方、ドクターを筆頭にして、ささやかながら別れの儀式が行われた。手術を終えたヘレンも参列している。
「まあ、真似事みたいなものだがね〜‥‥」
 一応の断りを入れて、ドクターが十字を切る。それに合わせて残る能力者達も十字を切った。
 ヘレンの両親は二人とも居間で発見された。うずくまるような体勢だったため背中の損傷がかなり激しい。しかしおかげで顔などははっきりしており、確認は比較的容易だった。
 一方、追加された確保目標である写真立ては暖炉の上には置かれていなかった。ファイアーラットの駆除確認を含めて再度全ての部屋を捜索したが、それらしきものの姿は無い。諦めてヘレンの両親をボディ・バックに入れて運ぼうとしたところ、出てきたのが目標の写真立てだった。

「依頼された写真立てとオルゴールアル」
 葬儀、埋葬を終え、烈と篠原が写真立てとオルゴールを差し出す。オルゴールは二三かじられた跡があるのに対し、写真立ては無傷だった。
「御両親が守ろうとした品アル。大事にするヨロシ」
「それとオルゴールね。外見はちょっとやられたみたいやけど、中身は大丈夫やで」
 葬儀と言う事で、礼服に着替えた篠原。小箱にそっと手をかけて蓋を開けると、楽しげなメロディーが周囲に響き始める。
「ありがとう‥‥ございます」
 オルゴールの音色に触発されたのか、ヘレンはその場に泣き崩れる。そこで篠原がゆっくり肩を抱えるようにして語りかけた。
「ヘレンさん。もし、ヘレンさんが能力者としての道を進むんやったら、一つだけ覚えておいて欲しいねん。大事なんは力やない、『ココ』やで」
 篠原は胸に手を当て、言葉を続けた。
「それだけは、忘れんといてね」
「困ったらまたボク達を頼ってください、仲間ですからね」
 篠原の背後から赤村が声を掛ける。それに緑川、柚井が続いた。
「能力者である以上、一度戦場に出れば誰かは倒れる。仲間か、友か、それとも敵か。しかし私達はそれを乗り越えなければならない」
「能力者として頑張っていくのであれば、ともに成長していきたいと思います。俺もまだ未熟なので‥‥」
 しばし考える時間を与えドクターが尋ねる。
「さて、ヘレン君はこれからどうするのかね〜?」
 ヘレンは能力者達の顔を見回し、次に両親の墓、育った家を見つめて答えた。
「私に出来ることがあるのなら」
 空には綺麗な満月が上り始めていた。