タイトル:ゴーストからの挑戦状Aマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/02 00:12

●オープニング本文


 西暦二千七年十一月、雨の降る夜のことだった。とあるモーテルの一室でドローム社社員ジョン・マクスウェルはPCを立ち上げ、報告書をまとめていた。
「新型テストは順調、多くの機体は既に日本に移送完了。あとは現地の人々の活躍に期待でしょうか」
 入れたての紅茶を少し口に含み、ディスプレイに映し出されている報告書を眺めるジョン。紅茶の渋みがゆっくりと彼の感覚を研ぎ澄ませてゆく。
「しかしなぜ日本なのでしょうね」
 ふと彼の思考が停止した。
 ジョンはドローム社の中でも武器開発部に所属し、本社と研究所の連絡役と研究の進行具合の監査役の二役を担当していた。自然と行動範囲は広く、面識のある人物は多くなる。そして彼の耳に入る情報も少なくなかった。しかし今回のバグア襲撃地点とみられる日本に関しては思い当たるところが無い。
「‥‥まぁ仕方ありませんね」
 立場上多くの情報が入るとはいえ、ジョンはドローム社の一社員に過ぎない。自分にあずかり知らぬ所で物事が進んでいると言うのはあまり気持ちのいい話ではなかったが、知らぬ方がいいこともある。ジョンはそう割り切り、PCの電源を落とし眠りについた。

 それからどれくらい経っただろうか、まだ暗い室内にジョンの携帯電話が着信音が鳴った。
「‥‥誰でしょう?」
 耳を澄ますと、着信音に混ざって雨の降る音が聞こえてくる。どうやらそれほど時間は経っていないらしい。手元の灯りをつけ携帯電話のディスプレイを確認すると三時十二分という数字と公衆電話という文字が並んでいた。
 ジョンは職業柄、見知らぬ番号からの電話も少なくない。勿論イタズラ電話の類も少なくないが、緊急連絡である場合も無いわけではない。しかし公衆電話からの連絡というのは実に久しぶりだった。多少の好奇心もあり、彼は点滅する通話ボタンを押した。 
「‥‥もしもし」
「ジョン・マクスウェルさん?」
 受話口から聞こえてきたのは加工された声だった。ヘリウムガスを使ったのか、ボイスチェンジャーの類によるものかまでは判断できないが、少なくとも緊急の連絡ではないらしい。
 しかしイタズラ電話にしては手が込んでいる。そう判断したジョンは会話を続けることにした。
「どちら様でしょう?」
「誰だっていいじゃないか。それより今度のバグア襲撃に関するいい情報があるんだけど、聞きたい?」
「それは聞きたいですね。どんな情報です?」
 電話口の相手は今度のバグア襲撃に関する情報を持っているという。ジョンはカマをかけるつもりでその情報について尋ねてみたが、「教えるわけ無いじゃないですか」という人を小馬鹿にしたような返答がかえってきた。
「世の中ギブアンドテイクでしょ? タダでは教えられないよ」
「それでは貴方が本当にいい情報を持っているのか私には判断できない。電話を切りますね」
 焦らす様に言うと、相手は笑いながら答えた。
「んーだったら例えばドローム社にスパイがいるとか‥‥ジョンさんなら聞いたことあるんじゃない?」

 電話の後、ジョンは知り合いの整備員の自宅へと直接連絡を取った。夜分ということもあり相手の機嫌はあまり良くない。そこでジョンは手短に用件だけを伝えた。
「そちらにバイパーが一機残っていましたよね。確か調整に手間取ってテストに間に合わなかったものだったと思いますが」
「あぁあるな。だがあれは今度の作戦では使わないんだろ? 明日からゆっくり点検するつもりだ」
「緊急で必要になりました、今から至急作業を開始してください。私も向かいますので」
「おい、ちょっとまて‥‥」
 電話口では誰かが叫んでいる。しかしジョンはそれを無視して電話を切り、荷物をまとめてモーテルを飛び出した。

 ジョンが着いたのは翌日(厳密には当日)の昼過ぎだった。整備員に事情を話すと半信半疑といった反応だった。
「‥‥本当なのか?」
「嘘を言っても始まらないでしょう?」
 電話の相手は自らを『ゴースト』と名乗り、取引を持ち出してきた。今回のバグアの作戦を教える代わりに、ドローム社最新鋭機バイパーを一機欲しいという取引だった。
「上に連絡した方がいいんじゃないか?」
 心配する整備員、だがジョンは大きく首を横に振った。
「まだ本当かどうか分かりませんからね。せめて相手の目的をはっきりさせないと上司に怒られます」
「ん? 『ゴースト』の目的はこいつだろ」
 整備員はバイパーを指差す。つられてジョンもバイパーに目を向けるが、素直に首を縦には振れなかった。
「そこは私にもはっきりしません。『ゴースト』が本当にバグアの作戦を知っているのなら、バグア側にはUPCのかなり詳細な作戦が伝わっていることになります。もし『ゴースト』の目的がUPCの作戦の調査ならもう仕事は完了しているはずなのです」
「ふーん、なるほどな」
 ジョンの言いたいことの半分も理解できてはいなかったが、話が長くなりそうなので整備員はとりあえず相槌を打っていた。
「で、これはいつまでに仕上げればいい?」
「予備パーツの発送準備作業と並行して三日後までにお願いします。火気管制などは全て取り払い、歩くだけで構いませんから」
「本当にそれでいいのか? 傭兵の能力者に任せるんだろ?」
「大丈夫ですよ」
 力強く答えると、ジョンは足早にその場を去っていった。

●参加者一覧

真田 一(ga0039
20歳・♂・FT
花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
雪ノ下正和(ga0219
16歳・♂・AA
ラン 桐生(ga0382
25歳・♀・SN
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
高村・綺羅(ga2052
18歳・♀・GP
三田 好子(ga4192
24歳・♀・ST

●リプレイ本文

 取引場所の森の近くまで来て、真田 一(ga0039)は不意に空を見上げた。特に何かがるわけでは無い、いやむしろ無さ過ぎた。
 風さえ吹かず、木々が揺れる事も無い。落ちた葉も既に飛ばされているのか、あまり見受けられなかった。周囲にはバイパーと兵そうして走るジープの音だけが響いている。
「どうした?」
 予備シートに座る雪ノ下正和(ga0219)が声を掛ける。真田が振り向くと、雪ノ下は眉をひそめていた。
「やけに静かだと思わないか?」
「‥‥そうだな。あまりいい気はしない」
 雪ノ下がありのままの感想を述べる。
「だがいかねばなるまい?」
「そうだな」
 ゴーストと名乗る不確定人物、性別さえもわからないその人物に関しての意見は能力者達の間でも分かれた。親バグア派、他企業のスパイ、バイパーを手土産に取り入ろうとする者‥‥考え出せばキリの無い可能性を一つずつ排除していくために、能力者達は前に進んでいる。
「‥‥何か見えたのか?」
 通信機越しにラン 桐生(ga0382)が尋ねる。雪ノ下が少し身を乗り出して見ると、ジープの後部座席から身体を後ろに向けた状態でランが見上げている。運転席では御山・アキラ(ga0532)が苛立たしそうに携帯電話を仕舞っている。
「速度が落ちてるよ。それとも御山がメールする時間をくれた?」
「そんなつもりはないのだが‥‥ちなみに他の部隊の動向は?」
 今回の『ゴースト』関連騒動、依頼人であるジョン・マクスウェルは同時に三つの部隊を展開させた。一つは取引に向かわせるA部隊、次に『ゴースト』から電話があった場所へと向かうB部隊、そして自らを囮とするC部隊の三つである。どこに『ゴースト』が出るのかは不明だが、他の部隊の動向が分かればそれなりの収穫にはなる。しかし‥‥
「通信繋がんないんだって。おかげで御山がちょっとキレ気味で怖いの何の」
「余計なことは言わなくていい」
 通信機から御山の声が聞こえる。
「ま、そういうことだからあんまり心配させないでくれよ」
 一方的に通信が切れる。真田と雪ノ下は苦笑するしかなかった。

 やがて能力者達は取引現場へと到着した、しかし取引相手となりそうな者は見当たらない。
「場所と時間が間違えている可能性はどうです?」
 三田 好子(ga4192)が念のため尋ねるが、運転していた御山が否定する。
「衛星写真があるわけではないので断言はできないが、可能性は薄いな。時間は確かに少々早いがそれでもそろそろ姿を現してもおかしくはあるまい」
「ボクも同意。それにこんな大きな目印あるんだから、向こうも気付いているはずだよ」
 月森 花(ga0053)がジープの陰に身を潜ませつつ、横に立つバイパーを指差した。双眼鏡越しには足の裏につけられた爆薬とコックピットで周囲を警戒している真田と雪ノ下が見えている。
「となるとやはり他企業の視察‥‥」
 鳴神 伊織(ga0421)が言いかけたときだった。一台のジープが能力者達に近づいてきた。

「あんたらが、こいつの持ち主か?」
 それは立派な髭を蓄えた大柄な男だった。身長二メートル近くあるだろう、窮屈そうに座席に収まっている。
「厳密には違うが、今は俺達が預かっている。それと、こちらからも質問だ」
 真田が操縦席から身を乗り出し、バイパーの掌まで降りてきた。
「あんたは何者だ?」
 全員の視線が男に注がれる。男は車を降り、煙草に火をつけて答えた。
「『ゴースト』の使い、というのが望みの答えか?」
 予想していたことではあったが、能力者達に緊張が走る。男から死角になっていた雪ノ下、ラン、月森は武器を構え、いつでも飛び出せる態勢を整えた。また三田、鳴神、高村・綺羅(ga2052)はどこかに伏兵が隠れていると判断し、視線を余り動かさずに周囲の気配を探り始めた。
 能力者の動きで何を考えているのか、男は察して両手を挙げた。
「戦闘の意思は無い、俺は単なるメッセンジャーだ。誰も潜ませちゃいねーよ」
「‥‥」
 三田と鳴神が見る限りでは、確かに周囲に何かが潜んでいるような気配は無い。そこで真田と、一番近くにいた御山はこちらにも敵意が無いことを示すために一旦武器を手元に置いた。

 男はシモンズと名乗った。ここから車で半日ほどのところで宿を営んでいるらしい。能力者達はシモンズが武器を携帯していないことを確認し、話を聞くことにした。
「先日『ゴースト』の奴がふらりとやってきたんだ。話を聞くと、このあたりに立っているはずのロボットの持ち主に伝言を頼むということだったぜ」
「伝言‥‥何と?」
 御山が尋ねる。シモンズは軽く咳払いをして答えた。
「輸送されている方が本物っぽいので、そちらを狙うんだそうだ。どういう意味なのかは知らんがな」
「知らない? あなたは『ゴースト』が何を考えているのか知らないのですか?」
 鳴神が尋ねる。『ゴースト』を敵と認識していたためか、多少口調が荒くなっていた。しかしシモンズは大して気にした様子もなく平然と答える。
「『知らないほうがいいこともある。知ってしまっては消されることもある』俺が尋ねれば『ゴースト』はそう答えるだろうな。ある意味正論だと俺は考えるが、お前達はどう思う?」
 静かな沈黙、時間が止まっているような感覚。そんな中で三田が小さく呟いた。
「‥‥信じているのですね」
「信じる? 誰を?」
「『ゴースト』をです。このあたりはまだバグアとの抗争が絶えないと聞いています。そこに一人で来るなんて信じているからでしょう?」
「‥‥否定はできんな。金に煩く性格は最悪だが、悪い奴じゃない。少なくとも人と金と情報の使い道は理解している、俺はそう考えているさ」
「バグアとも通じているようだが?」
 真田が釘を刺す。するとシモンズは遠い目を答えた。
「俺も昔同じ事を言ったよ。すると『虎穴に入らずんば虎児を得ず』と答えやがった。悔しいが、これもある意味正論だろう?」
「‥‥そうだな」
 能力者達は否定できなかった。

「何だか余計に分からなくなったな‥‥」
 帰りの車内、高村は通り過ぎてゆく雲を眺めながら呟いた。
「『ゴースト』は何をしたかったんだろう?」
「無駄働きさせてゴメン、ってことじゃないの?」
 運転しながら月森が答える。しかし高村は不満気味だった。
「額面通り捉えれば、ね。でもそれじゃバグアもキメラも襲ってきたことに説明が付かない」
 正確に時間を計ったわけではないが、シモンズとの話は短くはなかった。その間に襲われなかったことを高村は怪しんでいた。
「考えすぎじゃない? 自分にはシモンズだっけ、あの人が嘘言ってるようには見えなかったぞ」
「そうだな。所々考えているような節はあったが、不自然に言葉に詰まることは無かった。誰かからの指示で踊らされている可能性はあるが、言葉自体は彼の本心だろう」
「身体検査もやりましたしね」
 ラン、御山、三田がそれぞれ自分の感想を述べる。しかし高村はまだ何か引っかかるのか、無線でバイパー操縦中の二人にも意見を求めた。
「二人はどう思う? 私はシモンズさんがバグアに乗っ取られている可能性も考えているんだけど」
「‥‥否定できない。場所と時間は向こうが指定したものだ、前もって準備することはいくらでも出来たはず。今回は油断をさせたかっただけだという考えもある」
「今回だけの事で判断するのは早計かもしれないな。前進したのかも不明だ」
 公衆電話の調査に向かったグループからは、『ゴースト』がすでに姿を消していると報告があった。残りは輸送機の方だが、機内で携帯電話を使えないためか電源が切られている。
 そんな中、能力者達の乗るジープとバイパーは進んでいっていた。