タイトル:ゴーストからの挑戦状Cマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/02 00:31

●オープニング本文


 西暦二千七年十一月、雨の降る夜のことだった。とあるモーテルの一室でドローム社社員ジョン・マクスウェルはPCを立ち上げ、報告書をまとめていた。
「新型テストは順調、多くの機体は既に日本に移送完了。あとは現地の人々の活躍に期待でしょうか」
 入れたての紅茶を少し口に含み、ディスプレイに映し出されている報告書を眺めるジョン。紅茶の渋みがゆっくりと彼の感覚を研ぎ澄ませてゆく。
「しかしなぜ日本なのでしょうね」
 ふと彼の思考が停止した。
 ジョンはドローム社の中でも武器開発部に所属し、本社と研究所の連絡役と研究の進行具合の監査役の二役を担当していた。自然と行動範囲は広く、面識のある人物は多くなる。そして彼の耳に入る情報も少なくなかった。しかし今回のバグア襲撃地点とみられる日本に関しては思い当たるところが無い。
「‥‥まぁ仕方ありませんね」
 立場上多くの情報が入るとはいえ、ジョンはドローム社の一社員に過ぎない。自分にあずかり知らぬ所で物事が進んでいると言うのはあまり気持ちのいい話ではなかったが、知らぬ方がいいこともある。ジョンはそう割り切り、PCの電源を落とし眠りについた。

 それからどれくらい経っただろうか、まだ暗い室内にジョンの携帯電話が着信音が鳴った。
「‥‥誰でしょう?」
 耳を澄ますと、着信音に混ざって雨の降る音が聞こえてくる。どうやらそれほど時間は経っていないらしい。手元の灯りをつけ携帯電話のディスプレイを確認すると三時十二分という数字と公衆電話という文字が並んでいた。
 ジョンは職業柄、見知らぬ番号からの電話も少なくない。勿論イタズラ電話の類も少なくないが、緊急連絡である場合も無いわけではない。しかし公衆電話からの連絡というのは実に久しぶりだった。多少の好奇心もあり、彼は点滅する通話ボタンを押した。 
「‥‥もしもし」
「ジョン・マクスウェルさん?」
 受話口から聞こえてきたのは加工された声だった。ヘリウムガスを使ったのか、ボイスチェンジャーの類によるものかまでは判断できないが、少なくとも緊急の連絡ではないらしい。
 しかしイタズラ電話にしては手が込んでいる。そう判断したジョンは会話を続けることにした。
「どちら様でしょう?」
「誰だっていいじゃないか。それより今度のバグア襲撃に関するいい情報があるんだけど、聞きたい?」
「それは聞きたいですね。どんな情報です?」
 電話口の相手は今度のバグア襲撃に関する情報を持っているという。ジョンはカマをかけるつもりでその情報について尋ねてみたが、「教えるわけ無いじゃないですか」という人を小馬鹿にしたような返答がかえってきた。
「世の中ギブアンドテイクでしょ? タダでは教えられないよ」
「それでは貴方が本当にいい情報を持っているのか私には判断できない。電話を切りますね」
 焦らす様に言うと、相手は笑いながら答えた。
「んーだったら例えばドローム社にスパイがいるとか‥‥ジョンさんなら聞いたことあるんじゃない?」

 そしてその日の夕方、ジョンは平静を装いながら輸送機の発着場に来ていた。輸送機の空きがあるかを確認するためである。
 早速ジョンは受付に行き、そこにいた係の者に相談した。
「三日後日本に行きたいんだが、機体は空いているかな?」
「ジョンさんも日本に行くんで?」
「調整に手間取っていた最後の一機を届けようと思いましてね」
「相変わらずご多忙で‥‥」
 半分呆れた顔をしながら、係は手元のPCの操作を始めた。
「‥‥んー、あるにはありますがかなり旧型ですよ。それにここにはパイロットが足りない。残念ですが他所当たって貰った方がいいでしょうね」
「しかしそれでは間に合わなくなる。機体はあるのでしょう? それを貸してもらえればいい」
 さも当然という言い方でジョンが言う。聞き間違いかと判断した係は問い返した。
「誰が運転するんで?」
「私が自分で運転するよ」
 もう諦めたような顔で係はPCを再び操作し始めた。

 その後、ジョンは再び整備員に連絡をとり仕事の進み具合を確認した。
「例の件ですが、進んでいますか?」
「予備パーツの梱包の方か? みんな文句言いながらもやってくれてるよ。こんなんで『ゴースト』とやらは釣れるのか?」
 背後がうるさいのか、整備員は大声で喚いている。だが作業の方は順調に進んでいるらしい。
「ではその調子でよろしくお願いします。すでに能力者と輸送機は手配済みですので」
「了解了解、んじゃ仕事戻らせてもらうぜ」
 ジョンはしばらく切れた電話を眺めていた。

●参加者一覧

奉丈・遮那(ga0352
29歳・♂・SN
クレイフェル(ga0435
29歳・♂・PN
沢村 五郎(ga1749
27歳・♂・FT
篠原 悠(ga1826
20歳・♀・EP
オルランド・イブラヒム(ga2438
34歳・♂・JG
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
内藤新(ga3460
20歳・♂・ST

●リプレイ本文

「ジョン・マクスウェルについてはお答えできません」
「詳しくは言えないな。最近妙に厳しくなっちまって」
「悪い人間じゃないです。でもこれ以上は勘弁してください」
 今回の依頼人ジョン・マクスウェルの人柄に、今回依頼に参加した多くの能力者は疑問を感じていた。『ゴースト』に変装された事を告白されつつも見逃し、ドローム社にスパイがいると言われても動揺を見せなかった。本人は「慣れている」という理由で済ませているものの、依頼を受けた能力者としてはそれほど単純にはなれなかった。
 そこで奉丈・遮那(ga0352)がドローム社、飛行場、整備工場と三箇所に話を聞いてきたのだが、反応はどれもイマイチというものだった。
「どうやらかなり敏感になっているようですね」
「私もそう思う。例の整備士さんには私も会って来たんやけど、妙に警戒されとったわ」
 篠原 悠(ga1826)は内藤新(ga3460)とともにダミーバイパーを作った工場を訪ねていた。工場ではM−1帯電加速粒子砲に改良が加えられたM−2型を作っていたこともあって、厳戒態勢になっていた。
 工場では内藤がダミーバイパーの梱包及びリストアップに立会い、篠原は整備員に『ゴースト』が紛れ込んでいないかの確認という名目である。こちらはジョンからの口利きがあったらしく、比較的すんなり通してもらえていた。
 しかし二人に随行する形で紛れ込もうとしたクレイフェル(ga0435)はばれそうになったいる。内藤の知人ということで整備に立ち会うことを許可されていた。
「でも色々分かったこともあるんや。うちが一番疑問に思っとったダミーバイパーの製造やけど、少なくとも整備士さん疑問には思うとらんみたいやね」
 整備士曰く「別に初めてのことではない」。それ以上は口を開かなかったが、作業をやる手は手馴れていた。
「‥‥ドローム社ほどの大会社となれば、確かに狙われることも多いでしょうからね」
 まだ何かあるような気がする。しかし奉丈はそれ以上は口にしなかった。

 輸送当日、沢村 五郎(ga1749)は副操縦士としてジョンの前に現れた。
「昨日お電話しました副操縦士の沢村です。まだ見習いですがよろしく」
 握手を求めると、ジョンは素直に応じた。
「良い勉強になると思いますよ」
 どういう意味なのか理解は出来ないが、掌からは金属特有の冷たい感触が伝わってくる。
「今日は不思議な日だ。先ほども握手を求められたよ」
 ジョンは感慨深そうな顔をして、自分の掌を見つめた。
「しかも面識のない人だ。本人はドローム社の社員と言っていたが、社員証は持っていないという」
 終夜・無月(ga3084)のことだ、直感的に沢村は悟った。
「初対面の人が握手を求めるのはおかしなことでは無いと思いますが?」
 輸送機へと促しながら、沢村は終夜をフォローする。それに対しジョンは、一度自分の右手を見つめて歩き始めた。
「私は基本握手をしない主義なんですよ。握手で能力者かどうかを調べようとする人が多いものでね」
 そう言うと、右手に貼り付けておいた金属を外した。
「だから私はこんなものをつけています」
 外した金属を沢村に見せるジョン。沢村が手に取ると、裏側には両面テープのようなものがついていた。
「ではあなたは非能力者か?」
 ジョンは頬を軽く緩ませるだけで答えなかった。 

 離陸後、オルランド・イブラヒム(ga2438)は漸 王零(ga2930)とダミーバイパー梱包の立会いを行ったクレイフェル、内藤とともに荷物の最終確認を行っていた。
「数が変わっていることは無いか?」
 既に機体は太平洋の上空。確認をするには遅い時間だが、逆に言えば逃げ場は無い。『ゴースト』がジョンに変装している可能性はあるが、それは沢村や終夜が監視しているはずだった。
「変化無しやな。まぁ出発前にもやったんやから、変わっとった方が怖いわな」
「確かにそうだが、今回は変えそうな相手なのだろう?」
「せやな」
 斬の言葉にクレイフェルは肩を竦めた。
「やけど、ほんまに『ゴースト』現れるんかいな? この機体の中はマクスウェルの旦那と俺達能力者しかおれへんやろ?」
「あとはこの荷物だな。もっとも中身は既に確認済みだが」
 内藤が言葉を挟む。そしてそれに同意をするようにクレイフェルと斬が頷いた。
「正直興味はあったのだが、他の場所に現れたのかもしれんな」
「だがいつ来るか分からん」
 言葉少なにオルランドが諌める。
 その時、機体が大きく揺れた。

「どうした?」
 オルランドが確認に行くと、コックピット傍に控えていた終夜が答える。
「気流の乱れだそうだ。多少進路を変更するらしい」
「‥‥天気が悪いのか?」
 気流の関係で飛行機が揺れることは決して珍しいことではない。だが何となく、誰かから見られているような錯覚をオルランドは感じていた。
「奉丈の話ではそれほど悪くは無いらしい。だが多少の揺れは仕方ないだろう」
 オルランドが奉丈の姿を探すと、彼は座席に座りながら外を中心に見つめていた。やがてオルランドの視線に気付くと、その隣にいる終夜と一度視線を合わせ、またオルランドに視線を戻した。
「僕は『ゴースト』じゃないですよ?」
 思わず苦笑するオルランドと終夜。オルランドが天気の話を振ると、奉丈も苦笑するしかなかった。

「うちが『ゴースト』やったらどうする? 『ゴースト』の目的はバイパーなんや‥‥」
 自分の考えを整理するため、篠原は一人貨物室の奥に座りこんでいた。
 遠くからクレイフェルが斬や内藤と話す声が聞こえる。しかし離陸して既に四時間近く、篠原は何となく既に『ゴースト』が侵入しているような気がしていた。
 遠くに見えるダミーバイパーのコンテナ、しかし見たところ異変はどこにもない。そしてゴーストの出てくる気配も無い。そのためか誰かに変装しているような気がしないでも無かった。別の場所に出ている可能性もあるが、機内は携帯電話使用禁止ということで沢村も使えないらしい。横にジョンがいるから尚更だった。
「‥‥そもそも『ゴースト』の目的が別の事やったら?」
 しかし篠原の知る限り、バイパー以上に重要な機密はこの機体には存在しない。より一層深く考え込む篠原、そこに誰かの声が聞こえてきた。
「そうね、『ゴースト』の目的はバイパーじゃないかもしれないわね」
 周囲を見回す篠原、しかし傍には誰もいない。空耳と判断し、篠原は再び考えをめぐらせた。
「でもバイパー以外に何か気になることがあるんかな?」
「‥‥あるわよ。例えば人類とバグア、どっちが金持ちかとかね」
「『ゴースト』も現金な人なんやな」
 そこで篠原は一つの可能性にたどり着いていた、自分の会話相手が『ゴースト』である可能性だ。そこでそのまま気付かない振りを続けて情報を引き出すことを試みた。
「今どっちが金持ちやと思う?」
「難しいわね〜、両方とも隠し事好きだから」
「バグアも隠し事とかするんや?」
「するわよ。最近なんかじゃ新兵器開発したって噂を聞いたわ。でも私も見たこと無いんだもん」
 自覚が無いのか、意外と簡単に話に応じてくれる。むしろ篠原との会話を楽しんでいるようでもあった。
「‥‥それって強い?」
「どうかしら? 試してみたくてバイパーを一機借りようと思ってたけど、すんなり貸してもらえなくて残念だわ」
「‥‥『ゴーストさん』、どっちの味方なん?」
「綺麗なもの、可愛いものの味方かしら。宝石とか見てると心が和まない?」
「‥‥そこまでにしてもらおうか」
 不意に声がかかる。会話に集中していた篠原がふと顔を上げると、そこにはクレイフェル、オルランド、斬、内藤が武器を構えていた。

 『ゴースト』は輸送機の壁に隠れていた。壁の内側にもう一枚壁を作って二重壁にし、その間に隠れていたらしい。一朝一夕でできることではないため、前もって準備をしていたのだろう。
 ただ見つかって逃げ場が無いことを悟ったのか、抵抗することなく出てきた。そこでクレイフェルがジョンを呼びに行き、二人は遂に顔を合わせる事となった。
「一応始めましてですね、何とお呼びしましょう?」
「ゴーストでいいわ。あなたは?」
「ではジョンで」
 ゴーストが暴れないように能力者達はいつでも飛び出せる態勢を整えていた。本当ならばロープで座席にでも縛り付ければ簡単なのだが、ゴーストが拒否。そこで臨戦態勢のような状態になっている。
「単刀直入に言います。ゴースト、あなたは人類とバグアのどちらが勝つと思います?」
「難しいわね〜贔屓目に見て五分五分?」
「どちらを贔屓目で見てですか?」
「どちらだと思う?」
 しばらく不毛とも見える言葉の応酬が続いた後、ジョンはゴーストに背を向け呟いた。
「これは独り言ですが、これからしばらく高度を落として進むつもりです。戸締りには気をつけてください」
 能力者達は一斉にジョンの方を見た。しかし当の本人は気付いていないのか、コックピットの方へ歩き始めている。ゴーストも笑って答えた。
「こっちも独り言だけど、人類側のかく乱作戦はそれなりに効果あったみたいよ」
 そう言うと、ゴーストは非常扉へと近寄っていった。

「いいのか?」
 コックピットへと戻り、沢村が尋ねる。
「人工衛星を押さえられている今、彼女がもたらす情報は有力な手がかりですよ。それに彼女は馬鹿ではありません」
「さっきのやり取りのことか‥‥」
 その時、非常扉のロック解除を告げるランプが点滅した。しかし誰も止めることはなかった。