タイトル:【Pr】鳥取滑走路防衛マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/09 03:20

●オープニング本文


 西暦二千七年十一月 鳥取県境港山陰UPC軍美保基地

 中海に面する同基地は、旧自衛隊基地だった名残をそのままに現在も日本UPCの航空基地の一つとなっていた。併設されている米子空港との共同使用ではあるものの、二千メートルの滑走路も設置されている。ジャンボジェットこそ止まれないものの、戦闘機の発着には十分な長さだ。
 しかし今、その滑走路は封鎖されている。定期的に何人かの隊員が点検・掃除をするだけだった。

「もう三日目か」
 管制塔には常時二名の人員が駐留していた。滑走路が封鎖されているにも拘らず、だ。当然予定表は白紙、周辺空域を飛ぶのも鴉ぐらいのものだった。暇を持て余した管制官達は、不気味なほど静かな管制室で何局目になのかも分からない将棋に興じている。
「あと何日待てばいいんだ?」
「知るかよ、司令官様はここを俺達の墓場にしたいのさ。おっと、その手は待っただ」
 バグアの日本襲撃の噂は、同基地内でも既に周知の事実と化している。しかし襲撃目的地が依然不明であることが、返って隊員の不安を駆り立てる結果となっていた。
「武士道とは死ぬことを見つけたり、ってな」
「こんなところで死ぬつもりかよ? 少なくとも男と心中はごめんだぜ」
「俺もだ。代わりに歩がお前の角と心中するか」
 その時、管制室の警報機が悲鳴にも似た音を上げた。バグアの襲撃である。管制官の一人がセンサーを確認すると、中海から大型のキメラ一体と中型キメラ数体が同基地へと向かってきている姿が映っている。
「‥‥これはシーサーペントか」
「だな、俺は司令官に連絡する。甲一種警戒態勢になるかもしれん」
 司令官室への直通内線を受話器を片手に、管制官の一人が指示。それを受けたもう一人は、基地内の全小隊長に招集をかける。しかし司令官は甲一種態勢に加え、ULTへの援護要請を命令。さすがにこれには管制官も反対した。
「司令、お言葉ではありますがそこまでする必要な無いかと。それとも司令は、私達を信頼していらっしゃらないのでしょうか?」
 一瞬の沈黙。疑問に思った管制官が受話器に耳を近づけると、鼓膜を破りそうな罵倒が聞こえてきた。
「そう言ってメトロを落とされた北米の二の舞になるつもりか? メンツだけで勝てるのなら、すでに勝負はついている」
 管制塔の窓の外にはシーサーペントの姿が見え始めていた。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
ラン 桐生(ga0382
25歳・♀・SN
時任 結香(ga0831
17歳・♀・FT
崎森 玲於奈(ga2010
20歳・♀・FT
武田大地(ga2276
23歳・♂・ST
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
醐醍 与一(ga2916
45歳・♂・SN
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN

●リプレイ本文

 中海に突き出した滑走路の延長線上の海面に、不自然に波打つ部分が五つ。今回の撃退対象であるシーサーペント一体とウォータービースト四体だった。
 UPC軍基地にたった五体での進撃。本来ならありえないことであったが、今回の作戦には意図がある。
「ここも名古屋防衛線の何かの役割があるんだろうねぇ」
 醐醍 与一(ga2916)はそう読んでいた。そして事実、美保基地には一つの役割を担っていた。
 ギガ・ワーム撃墜において切り札されているガリーニンとG4弾頭。そしてG4弾頭によるギガ・ワームの撃墜は当作戦の主軸とされていた。しかしガリーニンは速度、エンジン、燃料等に様々な問題を抱えている。そこで秘密裏に進められたのが、日本中の長距離滑走路を持つ飛行場での陽動作戦だった。
 本命である中部国際空港から、少しでも敵の監視の目を緩める。それが今回の作戦の全貌であった。そして見事一部ではあるが、それなりに大物のキメラが釣れたということだった。
「魚釣り作戦、餌は醍醐さんか‥‥あんまおいしくなさそうやな」
 作戦会議後に武田大地(ga2276)は冗談めかして言ったが、厳密には美保基地そのものが大きな餌であった。それに対し大物がいるとはいえキメラ五体というのは、確かに美味しくなかったのかもしれない。

 大物であるシーサーペントがUPCにとられたという見方もできなくはないのだが、能力者達は皆冷静だった。与えられた任務である『ウォータービーストの撃退』をするために、足場となるインフレータブルボート(ゴムボート)の準備を進めていく。特に囮役を担う醍醐は、入念にボートのチェックを行っていた。
「ふむ、悪くない」
 醍醐は今回新しく手に入れた武器、スパークマシンβを使うつもりだった。雷属性ということもあり、水属性のウォータービーストとの相性は最高だ。
 しかしそれもスペック上でのこと。醍醐は自分の新武器を、脆い棒切れだと内心不安がっている。そのためか、武器とボートのチェックには余念が無かった。
 そんな醍醐に水上・未早(ga0049)と時任 結香(ga0831)が声を掛ける。
「ボートのチェックもだけど、救命胴衣の着用もお願いね」
 醍醐が振り返ると、水上も時任も既に胴衣を着込んでいた。
「囮役が胴衣着てなかったら、大地に笑われるよ?」
 今回武田は全体の大局確認と指示を担当していた。スナイパーである水上、ラン 桐生(ga0382)も補佐には付くが、二人は遠距離からの攻撃も担当している。武田自体も専任というわけではないが、主な状況確認は武田が担当することになっている。
 醍醐は苦笑交じりに胴衣を受け取ると、二人に尋ねた。
「わざわざ済まんな。ところでもう一つの方はどうなっている?」
「取り付けは完了しました。今崎森さんとホアキンさんが確認しているところです」
 醍醐の言うもう一つとは、もう一隻のボートのことだった。敢えて誰も乗らず、基底部にソナーをつけてウォータービーストを呼び出すのが狙いだった。そして今、崎森 玲於奈(ga2010)とホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)がソナーの動作確認作業に入っている。
 今回能力者達が立てた作戦は、醍醐による囮とソナーによる誘導だった。滑走路を守るというのが前提であり、加えてウォータービーストが中距離攻撃を仕掛けてくるという情報を元に考え出した作戦だ。また管制塔にも協力してもらえるよう、現在木場・純平(ga3277)が交渉に当たっている。
「どうやら順調のようだな。あとは向こうの出方を待つだけか」
 キメラ達はこちらの動向を見計らっているのか、しばらく鳴りを潜めている。キメラの真の目的は不明だが、時間が稼げるのは能力者達にとって好都合だった。
 やがて管制塔から連絡が入る。
「キメラ達が動き始めた。なるべく派手に出迎えてくれ」
 合わせる様に中海の水面が大きく揺れる。戦闘開始の合図だった。

 UPC軍も能力者同様にソナーを使ってキメラをおびき出す。そこに囮役の醍醐が飛び出しウォータービーストの動きを引き付けにかかった。
「鬼さんこちら〜ってな!」
 キメラが人間の言葉を解するかどうかは未だ判明はしていない。しかし醍醐の声によってか、あるいはソナーの音に反応してかウォータービースト四体はシーサーペントと離れて醍醐を襲ってきた。
「醍醐さん、釣れたみたいだから少しずつ引き返してくれ」
「了解だ」
 醍醐の背後には四つの頭がわずかに波打っている。水上とランはスコープ越しに水面を眺めつつ、そして弾丸を放った。
 ファーストヒットはスナイパーライフルを持つ水上、鋭角狙撃をのせた彼女の一撃は的確に一体のウォータービーストの頭に命中する。
 続いてランも同様に鋭角狙撃込みで同じウォータービーストに狙いを定め、見事命中させた。
「こんなものかしら?」
 手ごたえから言うと、それほど強敵には思えない。水中戦ということになれば話は別だが、陸上で戦えるのであればそれほど強敵ではなさそうだった。
 しかし狙われていると分かるとウォータービーストは、水面下に頭を隠して醍醐に迫る。
 逃げる醍醐、追うキメラ‥‥追いつかれそうになったところで、木場が瞬天足と旋風脚を併用してゴムボートに飛び乗った。
「大役、お疲れ様だ」
 ホアキンの操縦するゴムボートが間一髪の所で間に合っていた。

 能力者達の希望から言えば、キメラは各個撃破が望ましかった。しかしキメラも能力者達の考えを読んでいるかのように集団で行動を共にする。そこでやむを得ず団体戦に雪崩れ込んだ。

 優位に立ったのは能力者だった。人数が倍いる上、遠距離から水上とランが狙っている。ウォータービーストが頭を出せばすかさず二人が攻撃をしかけ、それに呼応するようにボート組の時任、崎守、醍醐、木場が武器を振るった。既にダメージを与えていたウォータービーストを見事しとめる。
「余裕か?」
 そんな空気が流れた時に二匹のウォータービーストが同時に頭を出した。

 射程の関係で先に撃つ水上、そして続くランも同じウォータービーストを狙った。
「一体ずつ倒そうか」
 武田がボート組に指示を出す。その声に答えるように時任、崎守、醍醐、木場と続けざまに攻撃を繰り出していく。特に短期決戦を狙う時任と崎守は豪破斬撃のスキルを発動させ、醍醐はスパークマシンβで攻撃。一匹を見事沈めた。
「フフフ、雷霆を身に受けて踊るがいいさ‥‥!」
 雷属性の武器を使った崎守と醍醐の手には普段とは違う確実な手ごたえを感じていた。ただの棒切れと侮っていた武器を見直す醍醐、一方で崎守はまだ不満を感じていた。
「‥‥やはり力押しで攻めても、私の渇きは潤せないものだな」
 そこに頭を出したもう一体のウォータービーストが攻撃を仕掛けてくる。口から直径十センチ程の水の塊を吐き出してきた。
「これが話に聞いた水属性の攻撃って奴か」
 狙われたのは先ほど止めを刺した木場だった。得体の知れない水に包まれた木場はしばらくもがき苦しむ様子を見せたものの、身体を鍛えていることも有り致命傷には至らない。むしろ問題なのはグラップラーである木場にも避けられない非物理攻撃であるということだ。
「やっぱりさっさとやるべきね」
 時任の呟きとともに気持ちを入れなおす能力者達。その後ウォータービーストは再び同時に頭を上げ、今度はボートを狙う。しかし一撃で仕留め切れなかったため、次に頭を出したときに能力者達の集中攻撃で沈められることとなった。

「わざわざすまなかったな」
 UPC軍側のシーサーペントも撃退が終了したのを確認し、今回指揮を執っていた司令官が外へと顔を出す。所々髪が薄くなっているものの、何処か威厳を感じる男性だった。
「UPCだけでも対応できないわけではなかったが、君達も雇ったほうが陽動らしく見えるだろうと判断して来てもらった」
 司令官は今回の作戦に関し、そのように説明した。
「もうすぐ名古屋でバグアが大規模な攻勢をかけてくる。我々はここを動くわけにはいかん、君達に我々の思いを全て託そう」
 司令官が能力者一人一人と握手を交わす。そして司令官の思いを胸に、能力者達は名古屋へと向かっていった。