●リプレイ本文
すっかり冬模様となったナタリー研究所。窓から見える景色も紅葉から雪へと移り変わり、時の経過を物語っている。そして雪の中を恐らく歩いたであろうジョンの姿を沢村 五郎(
ga1749)は思い浮かべていた。
「どうしました?」
不審に思ったナタリーが沢村に話しかける。彼女の顔には疑問の色がありありと浮かんでいる。彼女にジョンについて尋ねようかという衝動に一瞬駆られた沢村だったが、喉元まででかかった言葉を飲み込んだ。彼女がジョンの背後を知っている可能性は少ないと判断したからだった。
「何でもない」
苦笑を浮かべ沢村が席に着く、それを確認した上でナタリーは開会を宣言した。
相変わらず意見の分かれるポール、ジェーン、マイクの意見の中で今回一番注目を集めたのはマイクの軽量化案だった。鳴神 伊織(
ga0421)、 木花咲耶(
ga5139) そして篠崎 公司(
ga2413)、 篠崎 美影(
ga2512)の夫婦が仲睦まじく同じ軽量化案を最優先に提案した。
「皮肉な言い方になるが、攻撃力や命中率は研究所である程度は強化が可能。一方重量は余程の幸運が重ならない限り軽減出来ない」
「公司さんからの受け売りになりますけど、古の闘いに於いては”ダメージを受けないこと”、更には”攻撃を受けないこと”が勝利への近道ですからね」
どこまでも仲の良い二人である。そんな二人の様子を見た後で、 ライアン・スジル(
ga0733)は思わずポール、ジェーン、マイクの三人の顔をそれとなく見つめた。
「武器、といっても種類により特性は様々だろう。ナイフやソードであれば攻撃力の上昇が欲しいところだ。銃の中でもスナイパーライフルであれば、優れた命中力が好ましい。そしてバスタードソードなど巨大武器では、軽量化によるメリットは大きいと思われるのだが」
三人の意見はある意味どれも的を得ている、だからこそ合同で考えればよりよい意見がでるというのが彼の考えだ。悪くは無い考えだ、他にも御影・朔夜(
ga0240)、 御山・アキラ(
ga0532)も近い考えを持っていた。
「強化前と重量は変わらぬものの攻撃力と命中は高まっている‥‥この状態が理想だな。個人的なことを言うならば、武器は当たってこそ真価を発揮する。必然的に攻撃力以上に命中の優先度が高いとも感じているがな」
「通常の武器かKV用の武器かで意見は分かれるところだろうが、一グラップラーとしていえば必中で高火力の武器はありがたい。
研究室長であるナタリー自身も合同作業を考えなかったわけではない。だが合同でやれば客観性が失われ、殴り合いをするまで討論をやめないだろうという予感があるのも事実だった。アイディアをまとめあげることは悪くないことではないが、その前に出てくる芽を潰したくないという思いもあった。
そして鉄くずとは別に武器、防具を考案した能力者もいた。 シェリル・シンクレア(
ga0749)、景山 幸輝(
ga4344)、ザン・エフティング(
ga5141)の三名だ。特にシェリルはエミタを使った防御アイテムも提案している。
「エミタの含まれた粉末でこちらもフィールドに類似するものを展開できないか、ということです。相手のフィールドには叶わないまでも数秒。相手によっては数十秒受け止めることができるかもしれません」
彼女が提案したのは鉄糸、攻防一体と言うことなのだろう。それを聞いた景山がわずかに眉を動かした。
「私もクライアントである辰巳 空(ga4698)も攻防一体の武具、SES内蔵の漆黒のガントレットをベースに鱗状のパーツでダメージを吸収する機構と相手を掴める様な鉤爪を考えているそうです。名称は『ブラックドラゴンクロウ』なんて言ってましたけど‥‥まあ、『見た目』がそうなんですね‥‥」
「‥‥気持ちは分かるけどね」
頭の痛いことなのか、髪を掻き毟りながらマイクが答える。
「エミタの再利用を前提にしている以上、回収が難しい粉末にするのは賛同できない‥‥俺もできないものかと考えたけどな。あと爪の方だが、これはポールが専門か」
「爪に限らず敵と接触することを前提とした格闘武器は、複雑な構造を持ち込まないほうが強いと言われている。簡単に言うと複雑化した武器は故障しやすく壊れやすいという欠点があるからだ」
マイクの言葉を受け、ポールが顎に手を当てながら答える。そして近接武器に話が及んだため瓜生 巴(
ga5119)も言葉を挟む。
「基本的に近接武器においては複雑化、軽量化は威力低下を招く。当然便利さもあるため一概に否定はできないが、弱体化するのではないか?」
そういう瓜生が指摘したのはデータ不足だった。しかしそれは何より当の本人達が分かっている、時間、資金いろいろなものが足りない、だからこそ知恵で補おうとしている。
そんな苦悶が表情に表れたのか、ナタリーを含めた四人とも眉間に皺を寄せたり、腕を組んで瞑想に浸っていたりしている。
「ベンチャーという考えがある。10を挑戦し‥‥5が失敗でも。3が利益が出ないものでもいい。残り1で利益が出れば上々だ。そして‥‥最後の1つで大成功となれば幸運だ」
声を掛けたのはUNKNOWN(
ga4276)。
「『これが必要だ』と思考を固めて動いても、小さな成功は何とかなるかもしれんが大きな成功にはならん。他の者のアイデアも含め一度、やってみなさい」
「‥‥パトロンになってくれるって意味でいいのよね?」
ナタリーがUNKNOWNを見つめている。釣られた様にポール、ジェーン、マイクもUNKNOWNを見つめ、そして徐々に近付いてくる。
「‥‥パトロンになってくれるって意味でいいのよね?」
目を逸らすUNKNOWN。そして誰かに助けを求めると、間に入ったのはドクター・ウェスト(
ga0241)だった。
「ちょっと話を戻させてもらうよ〜。まず我輩達がやるべきことはフォース・フィールドを持つキメラに有効な手段を考える方が先ではないかね〜?」
「それもそうですね」
あっさりと新パトロンを諦め、ドクターの意見に耳を傾けるナタリー。それを見てドクターは話を続ける。
「いいかね〜、能力者しか対抗手段がないから地球は侵略されているのだろう〜? ならばノーマルの軍人でもキメラに決定的なダメージを与える武器がいいね〜」
「‥‥難しい問題ですね」
「技術的には難しいかもしれないが、それを超えるのが我輩達の役目ではないのかね〜?」
「‥‥それはそうですが、作れたら現在の世界のバランスが崩れる、そう感じたことはありませんか?」
どうもきな臭い話になってきた、そう判断した沢村が聞き耳を立てる。そして出てきた言葉は彼の予想する人物の言葉だった。
「当研究所と本社のパイプ役をやっておりますジョン・マクスウェルの話によりますと、非能力者によるフォース・フィールドの破壊実験は各地で行われているようです」
「だろうね〜。結果は芳しくないようだけど〜?」
ドクターが相槌を打つ。そしてナタリーはゆっくり一度息を吐いて、言葉を続けた。
「ではその非能力者でもフォース・フィールドを破壊できる装置が完成したとして、いくらなら買いますか?」
「‥‥」
「私達も大きな声では言えませんが、この混乱の中で社会進出を狙う人もいるようです。特に非能力者でもキメラを簡単に倒せる商品があれば高く売れるでしょう。ですが高く売れても多くの人の手に渡ることはない‥‥っと話がずれましたね」
ナタリーが大きく手を打った。
「データ不足も指摘されましたし、これからまた実験に入りましょう。実際どれくらいの鉄くずで効果が得られるのかが一番の焦点になっているようですしね」
鳴神やシェリルがそっと目を閉じる。
「あとは汎用性ね、武器だけじゃなく防具にも希望があることも判明した」
ジェーンが言葉を補う。そして最後に御山が締めくくった。
「また何かあったら呼んで欲しい。鉄くずは捨てずに持っておくから」
そっと取り出した鉄くず。それは散々見慣れている物体ではあったが、今日は妙に輝いているように見えていた。