タイトル:荒野を駆ける真紅の少女マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/10/16 16:52

●オープニング本文


 西暦二千七年十月、テキサスには今日も銃声が鳴り響く。一人の少女が馬を手足のように操り、キメラと戦っていた。
「逃がさねぇよ」
 真紅の髪が風になびき、漆黒の瞳が妖艶に輝く。
 少女の右手には銀の拳銃、そこから一発の弾丸が放たれた。
「生まれたことに懺悔しな」
 鋭い銃声とともに放たれた弾丸は空を切り、風を切り、終にはキメラの装甲をも切り裂く。 
 それが少女アンジェラ=ランドールの戦い方だった。

 戦闘後、少女は誰からも褒められることなく報酬を貰うでもなく、ただキメラの残骸だけを集めてその場を立ち去った。 
 勇者を気取るわけでもなく金を要求するわけでもなく、バグアやキメラと戦う真紅の髪の少女、彼女は市民に生きる勇気を与えていた。

 しかし一方では悪い噂もあった。少女が戦闘後に残骸を片付けていることだった。
「何か企んでいるんじゃないか?」
 そういう声もちらほら聞こえる。酷いものではキメラの製造をしているのではないかという噂まで立ち上っていた。
  
 事の真相を確かめるために市民が能力者に依頼することになった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
猫屋敷 音子(ga0277
22歳・♀・SN
沙恋(ga0667
14歳・♀・FT
ソフィ・アップルガース(ga0696
29歳・♀・SN
KAIN(ga1221
18歳・♂・FT
白鴉(ga1240
16歳・♂・FT
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
アリス(ga1649
18歳・♀・GP

●リプレイ本文

 能力者達が降り立った場所は見渡す限りの荒野だった。所々生えている木にもほとんど葉がついていない。
「けひゃひゃひゃ、どうやらあまり大きな町ではなさそうだね〜」
 ドクター・ウェスト(ga0241)が眼鏡をかけ直して周囲を確認すると、多少離れたところにいくつか建物が見えた。しかしそれほど数は多くない所から見ると、どうやらそれほど大きな町ではないらしい。
「その方がありがたいじゃない。アンジェラだっけ? 彼女も見つけやすいだろうし」
 アリス(ga1649)がメタルナックルの感触を確かめるながら答える。到着早々戦闘という自体も考えていたらしく、既に準備を整えていた。
 一方、沙恋(ga0667)は到着早々気分を悪くしていた。どうやらテキサスの乾燥した空気に多少喉を痛めたらしい。
「沙恋君、始めから飛ばしすぎよ」 
 猫屋敷 音子(ga0277)が軽くたしなめると、沙恋は軽く舌を出して謝った。
「初めての外国だから、思わず興奮しちゃった」
「気持ちは分からないでもないけどね」
 テキサスは日本と違い乾燥している。そのため喉を痛めたのだろう。
「知らない土地でいきなり騒ぐのはちょっと無謀よ」
 沙恋の隣で白鴉(ga1240)も一緒に怒られていた。到着早々沙恋とテキサスの第一歩目を争って騒いだことに責任を感じているらしい。
 そんな三人を尻目に自称ガンマンのソフィ・アップルガース(ga0696)は弓の手入れをし、鷹代 由稀(ga1601)はそんなソフィを不思議そうに眺めていた。
「ガンマン‥‥よね?」
 鷹代が尋ねると、ソフィは笑顔で答える。
「正確にはガンレディですよん」
「ソフィの手にあるのは何?」
「アーチェリーボウですよん」
「‥‥ま、いっか」
 基本的にお気楽思考の鷹代は、あっさりと洋弓使いのガンレディを容認したのだった。 

 酒場を訪ねていったのは猫屋敷、ソフィ、鷹代の三人。当初三人はテキーラを目当てで行ったのだったが、三人の予想に反しテキーラを置いている酒場は無かった。
「テキーラ置いてない?」
「テキーラ置いてないのん?」
「何故テキーラが置いてないんだ?」
 三人はそれぞれ違う酒場で同じ事をマスターに尋ねていた。
 しかし三人に返ってくる答えは同じだった。
「あれはメキシコの酒だ。飲みたきゃ他所行きな」
 テキサスはメキシコと隣接している。本来ならば多少なりともテキサスにも入ってきてもおかしくは無いのだが、テキサスがバグアに占領されて以来入ってくる量が激減したらしい。
「こんな小さな町で飲める店なんて無いだろうがな」
 そこでソフィと鷹代は別の酒を注文、ついでにアンジェラの事についてマスターに尋ねた。しかし猫屋敷は同業者としての勘が働いた。
「‥‥ってことは、個人でなら持っている人がいるってことかしら?」
 マスターの目が光った。
「確かにそうだが、あまり薦められんぞ?」

 地道に聞き込みを行っていたのは沙恋と白鴉とアリスの三人。当初三人は別々に行動していたが、町の人達から変な目で見られていた。
 おかげか聞き込みもあまり上手くいっていない。
「僕、何か変です?」
 思い切って沙恋が尋ねると、半分呆れ顔で町人の一人が教えてくれた。
「変だね。こんな危険地帯を一人で歩くなんて、ありえんよ。アンジェラじゃあるまいし」
 キメラは見計らったように出没するらしい。そのため例え大人でも一人で外出することは稀だと言う。
「多少腕に覚えがあるんだろうが、あんまり甘く見ないほうがいいぞ」
 忠告を受けた沙恋は白鴉、アリスとも合流した。
「そういえば確かに変な目で見られていたわ」
「ってことはドクターもまずいんじゃないか?」
 三人は次にドクターを探しに向かった。

 その頃ドクターは一人で町の郊外を散策していた。
「キメラでも出てくれればアンジェラ君が颯爽と現れるのかも知れないけどね。あひゃひゃ」
 そんな言葉に応えてか、キメララットがドクターの前に現れた。
 不思議そうにドクターの方を見つめている。
「ということはアンジェラ君もこの近くにいるはずだね?」
 しかしドクターの耳に馬の足音は聞こえてこない。
「‥‥持ちこたえろってことだね」
 ドクターはハンドガンを握り締めた。
「こんなこともあろうかとハンドガンを買っておいてよかったね」

 猫屋敷はソフィ、鷹代と合流して教えてもらった場所に向かうことにした。
「合流できてよかったわ。街中一人で歩くなってマスターにさっき怒られてね」
「私もですのん」
「ちょっとドクターが心配だけどね。まあドクターならなんとかするでしょう」
 三人が向かった先は町外れの洞窟だった。
 中に入ってしばらく行くと分岐があった。左手には干草の詰まれた部屋があり、右手には即席で作ったような扉があった。
「誰かが住んでいるってことよね? そんな人かは聞いた?」
「一言で言えば変態らしいわ、酒場に白衣着てやってくるらしいの。テキーラを消毒薬代わりにしてるとか」
「それってド‥‥」
 ソフィは鷹代に口を塞がれた。
「それ以上言わない方が身の為よ」

 一方その頃ドクターは沙恋、白鴉、アリスが合流したおかげで何とか体勢を整えていた。
「無理はするもんじゃないね、あひゃひゃ」
「笑っていられる状況じゃないよ? ドクター」
 四人がかりで何とか一匹のキメララットを仕留めた。しかしこちらの被害も結構なものだった。
「こんなこともあろうかと救急セットは準備してあるんだよ、あひゃひゃ」
 そんな時、能力者達の耳に馬の足音が聞こえてきた。
「なんだか分かんないけど、アンジェラさんに合流できそうだね」
 真紅を髪をなびかせて、馬に跨った少女が四人の前に現れたのだった。

「んと、この辺りにキメラが出たって聞いたんだけど、君達が退治してくれたってことでいいのかな?」
「そうだよ。ボク達がやっつけたんだ」
 沙恋が胸を張って答えると、アンジェラは素直に四人を褒めた。
「だったらお礼言わないとね」
「それよりアンジェラさんがなぜキメラの死体を集めているのかを教えてもらえないかな?」
 白鴉が尋ねると、アンジェラはドクターの手にあるキメラの死体を指差して答えた。
「んー、んじゃその死体くれたら教えてあげる」
 ドクターはしぶしぶキメラの死体を渡すのだった。

 猫屋敷達が扉をノックすると、中から返事があった。
「アンジェラか。おかえり、早かったね」
 一度顔を見合わせる三人。しかしどうやらここが目的地だと判断し、扉を開けた。
「アンジェラさんじゃないけど失礼します」
「失礼しますですのん」
「同じく失礼する」
 中にいたのは四十代後半くらいの男性だった。マスターの話通り白衣を着ている。
「何だね? 君達は」
「あーえとですね」
 言葉を濁す鷹代。脇からソフィが顔を出しテキーラが飲みたいと訴えていたが、男はひたすら無視をしていた。
「私達は怪しいものじゃないのです。ただアンジェラさんがキメラの死体を集めていることに一部の人が気味悪がっていまして」
 交渉役はドクターがやる予定だったため、三人とも特に何か考えているわけではなかった。しどろもどろになりながら応対していると、ふと背後から声が聞こえてきた。
「けひゃひゃ、我輩はドクター・ウェストだ〜。私設だが、ウェスト異種生物(対策)研究所で所長を務めさせてもらっているのだよ」
「ドクター!」
「さっそく所長出勤させてもらったよ、けひゃひゃ」
 そしてドクターは男に尋ねた。
「君がアンジェラ君の父親で、アンジェラ君にキメラを死体を集めさせていると聞いたのだけれども本当かね?」
「本当だ。私はニック=ランドール、ここでバグアやキメラの研究をさせてもらっている。奴らの目的が知りたくてね」
「目的?」
 白鴉が問い返すとニックが答えた。
「現在の敵の勢力図、おかしいとは思わないか? 例えば南北アメリカ。メトロポリタンXの陥落はともかく、何故奴らは中央を陣取ったんだ? 中央を陣取ったために北と南両方から攻撃を受けることになった」
「言われて見ればそうね」
 アリスが頭の中で世界地図を思い浮かべた。確かに中央アメリカが真っ赤だが、南北の端は真っ白である。
「そこに何かあるって言うことじゃないかしら? 確か中米にはアステカとかマヤとか文明があった気がするし」
 猫屋敷が言うと、ニックは「可能性はある」と答えただけだった。
「だが今ではすべて仮説に過ぎん。それに私は、できればメトロポリタンXは自分の手で取り戻したいと思っているのだよ」
 アンジェラの話によると、ニック達はもともとメトロポリタンXに住んでいたらしい。あの陥落の日にニックとアンジェラはかろうじて逃げ出したが、妻のジェニスは墓を作られること無く未だにメトロポリタンXに打ち捨てられているらしい。
「けひゃひゃひゃ。我輩の研究とは違うが興味深いではないか」
 ドクターが感想を漏らすと、ニックが興味を示した。
「君も何か研究を?」
「武器や防具の開発などいろいろとやっているのだよ。他の研究員もいるし、詳しくは話せないけどね」
「ふむ‥‥」
 しばらく考える様子を見せるニック。そしてやがて口を開いた。
「機会があればドローン社に行って見るといい。誰か興味を示すかもしれない」
「ドローン社?」
「ナイトフォーゲルを作っている会社だ。他にも能力者向けの武器防具も作っていると聞いた。君の研究の足しになるかもしれんぞ」 
 ニックが面白そうにドクターを見つめる。
「お礼に市民には我輩の方から説明しておいてあげよう。それと忠告だが‥‥」
 ドクターは背を向けた。
「テキーラは消毒薬には向かないよ。けひゃひゃひゃ」
 
 能力者のいなくなった部屋でニックは一人寂しげに呟いた。
「こんな田舎じゃ正規の消毒薬なんて手に入らないんだよ」
 どこか寂しげな言葉だった。