タイトル:密林でのサスペクトマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/20 23:21

●オープニング本文


 西暦二千八年二月某日、ラスト・ホープ本部
 その日もオペレート業務に務めていたリネーアは一本の電話を受けた。生命の危機を感じた女性からの依頼の電話、そこまでは普通なのだがリネーアは妙な違和感を感じていた。
「ジャック=スナイプって奴を殺したいの」
 リネーアが依頼内容を問うと、電話口の女性ははっきりとそう答えた。
「ジャック=スナイプね、了解したわ。それはどんな人なの?」
 いつも通りの口調で確認するリネーア。明言を避けた言い回しに、依頼人は殺人享楽者と答える。そこでリネーアは『依頼人に注意』と依頼書に書き加えた。

 依頼の内容はジャック=スナイプの殺害。依頼人曰く「ジャックは元北米軍の能力者であったが、今は殺人の快楽に目覚めた」という、確かに危険な存在だろう。リネーアもそのジャックという男に関する依頼を受けた記憶がある。だが人がいきなり『殺したい』というのは、多少行き過ぎた感情だとリネーアは考えていた。

「実は私、家族を彼に殺害されまして‥‥」
 未だ繋がっている電話の向こうで、依頼人の女性は依頼を出した経緯を説明しだした。
「‥‥それで彼を何とかしてほしいのです」
「分かりました。ではアマゾンにて私達が派遣した能力者と合流ということでいいかしら?」
「問題ないわ、よろしく頼みます」
 切れた電話口を見つめながら、リネーアは依頼書に危険と書き足したのだった。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
沢村 五郎(ga1749
27歳・♂・FT
大山田 敬(ga1759
27歳・♂・SN
烏莉(ga3160
21歳・♂・JG
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
OZ(ga4015
28歳・♂・JG
キリト・S・アイリス(ga4536
17歳・♂・FT
クラウド・ストライフ(ga4846
20歳・♂・FT

●リプレイ本文

 ブラジル、アマゾンの入り口辺りに能力者達は八名は集合していた。しかし依頼人はまだ来ていない、彼ら彼女らは約束の前夜に、しかも約束の集合場所とは異なる場所で集まっていたからである。
 そして違うことはもう一点、本来ならば最終確認といくはずの集合なのだが、参加能力者の一人クラウド・ストライフ(ga4846)が一人違うスタンスをとっていたからである。
「俺はやっぱ、そのジャックって奴と話してみないことには分かるもんもわからねぇと思うんだ」
 溜息を吐く様に煙草の煙を吐き出すクラウド、彼はジャックとの対話を要望していたからである。
「過去に何があったとしても人間なんだろう? 話せば分かってくれるはずだ」
「話せば、か。問題は話せる状況が出来るかなんだけどな」
「そうだな」
 苦い顔をする沢村 五郎(ga1749)、大山田 敬(ga1759)。二人としてもできればジャックを殺害したくはなかった。だが意味合いは微妙に違う。ジャックを捕まえ、その背後を洗うためである。 
 また既に交戦経験のある藤田あやこ(ga0204)、そして養女にあたる熊谷真帆(ga3826)は捕獲は難しいという判断を下し、OZ(ga4015)、キリト・S・アイリス(ga4536)は今回の依頼内容にどちらかといえば満足している様子がある。
 残るは烏莉(ga3160)なのだが、彼女が率先して意見を述べることはなかった。
 そして最後まで話し合いの道を模索したいクラウドは、夜の内にアマゾンの密林の中に姿をくらましていた。

 元々この依頼には色々と怪しい点が多かった。まず始めに依頼人をどこまで信じていいのかが不明である事、次になぜジャック=スナイプの殺害を思い至ったのかという事、最後に何故ULT、能力者に依頼しようかと思ったのかと言う事。そして不明な点が多いことが更に疑惑を広げ、依頼人の存在までも怪しく見せている。
 こんな不確かな依頼をULTが承諾したのは、一つにジャック=スナイプという名前があるからだった。
「そしてこれがジャックを捕まえるきっかけになると判断したわけか、となると頑張らないとね」
 翌日の昼過ぎ、能力者達は依頼人の女性と会合を果たしていた。しかし実際に会ったのは藤田、沢村、熊谷、キリトの四名。他四名の内、大山田は隠し駒となるため姿をくらまし、烏莉は大山田同様追跡を、OZは狙撃を狙って多少離れた位置から動向をうかがっている。そしてクラウドは昨夜から姿をくらましたままである。
「あとは依頼人がどう思うかだけか」
 付かず離れずの位置で様子を確認している大山田、彼の見る限り今のところ依頼人に不審な点はない。現地の人というのはどうやら本当らしく、多少浅黒い肌に開放的な民族衣装を身にまとっている。そして明るく振舞おうとしている中にもどこか悲壮感を漂わせている、未亡人のような雰囲気を醸しだしていた。
 だが気になるのは、彼女の右の掌にある金属光沢である。そちらに関しては藤田ら陽動班も気がついた様子がない。狙撃班は気付いている可能性が高いが、陽動班には自分達で気付いてもらうしかなかった。

 一方の陽動班は依頼人の女性にジャックの話を聞いていた。
「どんな人だったか覚えてますか?」
 軍人時代の写真は沢村が入手している。細身で長身、面長な顔立ち、切れ長の瞳に長髪をした男だ。体型と髪型は変わっている可能性もあるが、他は整形手術でも受けていない限り変わりはしない。そして女性が挙げたジャックの特徴も一致していた。念のため写真を見せると、目を輝かせている。
「そう、この男よ。間違いないわ」

 数時間後、女性は四名の陽動班を自分の村へと案内した。そして捜査の邪魔をしたくないという理由で退席、話があればいつでも来て貰って構わないと言葉を残して去っていった。
 流石にそこまで言われて堂々と監視するわけにも行かない、そして陽動班としても話をまとめたいところではあったので、大山田か烏莉に任せることにした。
「どう思いました?」
 女性の気配がなくなるまで待って、熊谷が尋ねる。すると四人はそれぞれ別の見解を示した。
藤田曰く「何か企んでいる」
沢村曰く「バグアと取引している可能性有り」
キリト曰く「殺人者の目」
 そして熊谷自身は(厳密には違うが)自分と同じ銃剣オタクだと感じていた。道中それとなく振る西部劇の話題にも普通についてきたからである。オタクとまでは言えなくとも、それなりに知識があることに間違いはないだろう。
 その一方で藤田は周囲に生活臭がないことを、キリトは血の匂いがまだ残っていることを疑問を感じているところだった。

 一方その頃陽動班以外は、烏莉が女性を追い、OZがジャックの気配を探り、大山田が辺りの探索を行っていた。この周囲にジャックがいるとすれば、それは同時にクラウドもいる可能性があるからである。
 しかし結論から言えばジャックは姿を現さず、クラウドは行方不明のまま。依頼人の女性は家に各種刃物を揃えていたが、どうやら料理をするためのものらしい。依頼を受けてくれた能力者達に手料理を振舞おうと準備を始めたのだった。
 あまり見慣れない刃物もあったが、同様に見慣れない材料もある。それを調理するためのものだろう。また野菜が中心で肉や魚がない事も気にはなったが、食材の量から考えると三〜四人分といったところで特におかしなところはない。烏莉はしばらく監視を続けることにした。
 
 そして更に数時間後、アマゾンの密林にも夜が訪れる。未だ姿を現さないジャックに尻尾を出さない依頼人、持久戦の様相を呈し始めてきた。
「拘束するまでにしないか?」
 念のためカマをかける沢村だが、依頼人の答えは否。よほど強い殺意を秘めているらしい。そこでキリトが新たに一つカマをかけてみた。
「ジャックの死体は使えそうですしね」
 始めに気付いたのはキリトだった。村に微かに残る死臭の匂い、確かに依頼人の話では家族が惨殺されているので死臭がするのは仕方がない。キリト自身そう考えていた。
 だが夜になるに連れ、死臭は強くなる。そして同じ感想を狙撃を担当していたOZも持ったため、カマをかけてみようと思い立ったのだった。
 そしてそれを聞いた彼女は、嬉しそうに笑った。
「最高の素材じゃないの」
 
「こちらOZだ‥‥」
 建物内で沢村とキリト、そして追跡していた烏莉が依頼人に話を聞いていた頃、OZは大山田に言われ無線の調子を確かめていた。一つはOZが無線を切っていて連絡が通じなかったこと、もう一つは他者とも連絡がとれなかったためである。
「‥‥俺のも通じないな」
 前者の原因はともかく、後者の原因が不明だった大山田は、まず無線の故障を怪しんだ。定時通信時でもノイズが多かったためその可能性は低くなかったからである。かといって藤田や熊谷のいる陽動班と合流し動きを察知されるわけにも行かない。そこでOZと合流したわけだが、結果から言えば二機とも不調ということが判明した。
「となると妨害か?」
 その時だった、密林の奥で眩しい光が放たれたのだった。

「あら、何か失敗したみたいね」
 さも当然のように言う女性。不審な空気を感じた沢村、キリトはすぐに武器を構えようとするものの、依頼人の方が先に手近なところにあった包丁を二人に目掛けて投擲してきた。
 辛うじて叩き落す二人、だがその時には依頼人がすでに間合いを詰めている。急遽間に立つ烏莉、依頼人の鉈にも似た刃をアーミーナイフで受け止める。
「あら、隠れてたの」
「‥‥」
 楽しげに笑う依頼人、だがその笑顔の奥に沢村はジャックと同じものを感じていた。
「何が目的だ」
 一気に詰め寄る三人、壁際まで追い込まれた女性。しかしその時、壁の反対側からマシンガンが掃射された。
「軍人は規律が第一、傭兵もそうじゃなかったっけ?」
 マシンガンによって崩れ落ちる壁、そこに立っていたのは問題のジャック=スナイプだった。

 照明銃を使い逃走を図るジャックと依頼人。目を眩ます沢村、烏莉、キリト。
 聞きなれない銃声に藤田と熊谷が慌てて駆けつけるも、今度は煙幕を張ってジャックは逃走を試みる。
「逃がさないのです」
「だったらやってみな」
 声を頼りに攻撃を試みる藤田と熊谷。そして視力を取り戻した大山田、OZも攻撃に加わるが煙が晴れた時には、そこには二人の姿は無かった。いくつか血痕が残っているため無傷ではないと思われるが、その血痕も密林の中に掻き消されてしまっている。
「逃げられた、か」
 思わず溜息を漏らすOZ、だが密林の中から反論が返ってきた。
「そうでもないぞ」
 現れたのは今まで姿をくらましていたクラウドだった。
「ジャックの仲間らしい少年に会った。地の利は向こうにあるため逃げられはしたが、顔は覚えている」
「一応前進だな」
「それとその少年の落し物だ。どうやら俺達への物らしい」
 クラウドが取り出したのは小さな麻袋だった。藤田が代表して受け取ると、中には貨幣と汚い字で書かれた手紙が入っている。
「今回の依頼料です、だってさ」
 思わず苦笑を漏らす能力者達。この後、食事でもしようかという話になったのだが周囲に店らしきものはない。それはラストホープに戻ってからの楽しみと言う事になったのだった。