タイトル:新しい補給機開発プランマスター:八神太陽

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/20 06:29

●オープニング本文


 西暦二千八年三月、ドローム社管轄のナタリー研究所では水中用KVの完成が立つと同時に、次のKV開発案を考えるように本社から命令が下された。
 一息つきたい研究所所員の痛い視線を受けながら、本社からの連絡役であるジョン・マクスウェルが具体的な内容を所長であるナタリーと三人の所員ポール、ジェーン、マイクに伝える。
「今度はですね、補給用KVを開発してもらいたいのです」
 持参したジャスミンティーの香りを味わいながらジョンが言葉を続ける。
「今回の五大湖解放戦ですが、辛うじて勝利を収めたものの数の勝利という印象がありました。補給線の分断を狙うバグアに対し、UK等を有効に利用して撃退したと言えるでしょう。ですがUKが常に使えるわけでもありません」
「あの大きさですからね」
 UKはその大きさを活かした主砲が備え付けられている。ただしその大きさ故に敵の標的になりやすく、偵察任務には向いていない。
「そこでですね、補給用のKVを開発できないかと考えているわけです」
「‥‥本気ですか?」
 溜息を漏らすポール、思わず眉間に皺を寄せてジョンに尋ね返す。
「KVは汎用性の高い機体だが、特化した機体には及ばない。輸送量に関して言えば車両、大型輸送機のどちらにも勝てない」
「その通りです」
 パールの答えを予期していたのか、ジョンは相変わらず紅茶の香りを楽しんでいた。
「ですが車両、大型輸送機どちらにもできないことができる。分かりますか?」
「‥‥リロードの補助ですね」
 大量輸送のみを考えていた一発屋ジョンに代わり、狙撃手ジェーンが答える。
「両手が使えるという点では、確かに車両や輸送機に勝っているでしょうね」
「理解していただけて光栄です」
 ジェーンに向かって微笑みかけるジョン。だがジェーンは苦笑を浮かべるのみだった。
「‥‥つまり両手が使える補給用KVを考えろ、ということでいいのか?」
 確認するように尋ねるのは乱射王マイク、だがその声はどこか自信なさげだった。
「武器のことは分かるが‥‥補給に関しては実際に戦場に出た人の意見を聞きたいところだな」
「そうですね」
 ナタリーも同意を示した。補給機ということになれば武装はほぼ皆無、代わりに必要なものは輸送量だろうが、実際にどれほどの輸送量が必要になるのかは見当が付かない。また輸送方法にも関しても、三人の意見が分かれた。
 ジョン曰く「滑走路が必要となる航空機形態をオミットして、ホバークラフトの様に水上移動できるようにすべきだ」
 ジェーン曰く「滑走路が無いからこそ簡単に着陸することができません。燃料を大量に輸送でき、かつ空中補給できる機体が必要でしょう」
 マイク曰く「燃料よりは弾薬の方が重要だ。燃費は悪いが滑走路の要らない垂直離着陸の可能なVTOL機を考えるべき」
 相変わらずまとまらない意見には一応ジョンに伺いを立てる所長のナタリー、だがジョンはこれも既に予想していたのか
「いつものように能力者の皆さんに直接尋ねてもらって構いませんよ」
 驚いた様子もなくULTに連絡を取るのだった。

●参加者一覧

/ 河崎・統治(ga0257) / リン=アスターナ(ga4615) / ジーン・ロスヴァイセ(ga4903) / Hish(ga6000) / ミンティア・タブレット(ga6672) / Sh Hi(ga7610

●リプレイ本文

 補給KVは必要、案はVTOL方式。それは一応の一致していたものの、別の所で能力者と所員達の考えには大きな隔たりがあった。
「武装は一つで十分、アクセサリーは無くて構いません。その方が価格を下げられるでしょう?」
「あとはKVを二十機、最低でも十機は載せられるようにお願いします」
 双子の傭兵Hish(ga6000)とSh Hi(ga7610)は以前の行った補給任務、『KV十機の輸送にタンカーまでも用意する必要があった』という実際の経験を基に力説する。しかし聞き手であるナタリー達所員四人は、揃いも揃って複雑な顔を浮かべていた。
「武装スロット一つは承諾、アクセサリー皆無も承知。だがKV十機という輸送量と岩龍並みの価格は不可能」
 ポールが端的に問題点を指摘する。だがあまりにも短すぎる説明に提案したHish、Sh Hiの他、事前打ち合わせをリン=アスターナ(ga4615)までも耳を疑った。
「もっと明確に説明してもらえませんか?」
 Hish、Sh Hiが身を乗り出して理由を求める。ポールの端的すぎる指摘は二人の経験を、人生そのものを否定するように聞こえたからだ。
「私達は自らの経験を基に今後の作戦に必要な機体性能を説明させていただきました。それを否定なさるのであれば、それ相応の理由を説明していただきたいのです」
 言葉そのものは至極丁寧ではあるが、端々にかなり鋭利な棘が含まれている。加えてポールを見る二人の視線は、曖昧な説明では許さないという強い気持ちが乗っていた。
 その視線を受けポールが再度説明に応じる。
「理由は単純。KV十機の輸送にはそれ相応の材料が必要、故に岩龍並みの価格は不可能」
 先程よりは多少詳しいものの、やはり端的な説明をするポール。このままでは埒が明かないと判断したリンがHish、Sh Hiの意見を補足した。
「KV十機の輸送にそれなりの材料が必要なのは分かりました。確かに単純に考えればKV十機を輸送できるKVを作るためには、KV十機分の材料が必要でしょう。ですが削れる所を削れば、値段の高騰を抑えられるのではないでしょうか?」
「ブレスノウといった特殊能力もオミットできますね」
 ミンティア・タブレット(ga6672)もリンの言葉を受けて例を挙げる。だがポールは説明する必要は無いとでもいうかのように無表情のままリン、そしてミンティアを見つめたまま口を開こうとはしなかった。
「代わりに説明するわ」
 流石にまずいと感じたのか所長ナタリーがポールの代弁を開始した。
「ひとまず値段は置いておいて、性能を確認しましょう。まずは武装スロットですが、これは一つで問題ないのですよね?」
 ナタリーが能力者達を見渡すと、能力者達は所長の視線に合わせて小さく頷いて見せた。
「続いてアクセサリースロットですが、どうします?」
 ナタリーが視線を河崎・統治(ga0257)に向ける。
「仕方ないでしょう」
 河崎としては武装スロットを一つにする代わりに、アクセサリーを四つにすることを提案していた。しかし今の場の流れを考えれば、アクセサリーの増加は値段高騰に原因となるのは自明であるために、渋々ながらも了解するしかなかった。
「だが変形機能、フレーム等はS−01等既存機体から流用が可能なはずだ。そこで削減できないか?」
「KV十機運べるようなフレームは存在しないわ。変形機能は応用できるでしょうけど、それだけで岩龍並みの価格は無理があるの。速度も必要なんでしょう?」
「本心から言えば物理防御等を上げる工夫が欲しいところだけどね」
 最後まで速度を気にしていたジーン・ロスヴァイセ(ga4903)が静かに頷いた。補給機はその性質上どうしても狙われやすい。だからこそ標的にされにくい速度、あるいは標的となってしばらくは持ちこたえられる防御力の必要性をジーンは訴えている。だがそれもやはり値段の高騰を避けられない要因の一つだった。
「ですが特殊能力オミット分削減はされるでしょう?」
 ミンティアが改めて尋ねる。するとマイクが大きく溜息を吐いて答えた。
「あんた達の言うアタッチメントなんかだけでも特殊能力に匹敵する。そうは思わないのかい?」
 現状補給専用のKVは存在していない。だからこそ開発する必要があるのであり、その意見をまとめるためにも五大湖解放戦が終結した今、反省の意味も込めて必要な能力を決める必要がある。現にリンは内心骨休みをしたいという気持ちを抑えての参加だった。
 だが同時に補給専用KVとなれば、それなりに特殊な運用をする必要がある。今回マイクが提案し、能力者達も同意した滑走路不要の離着陸方法、VTOLもその一つだ。そしてそれを実現させるだけでも、必要となる労力と資金は計り知れない。
「だったらKV何機なら乗せられる?」
 今までの話を聞いた上で、今度は逆に河崎が尋ね返す。すると所員達は全員押し黙ってしまった。
「まさかKV自体を輸送することは想定外だった?」
 どことなく緊張した面持ちで尋ねるHish。しばらくは答えようとしなかった所員達だが、やがてジェーンが口を開いた。
「その通りよ。KVを運ぶKVなんて本来必要ない、違うかしら?」
「でもわたくしは実際に経験を‥‥」
「でも結局はタンカーを使うことが一番効率的だった。違うかしら?」
 反論するHish、Sh Hiの言葉を遮ってジェーンは自論を展開する。
「KVの長所は何か? それは汎用性。どんな状況下でも一定以上の効果を期待することが出来るでしょう。ではKVは何か? 何だと思う?」
 ジェーンがHishに尋ねる。だがHishもSh Hiも答えようとはしない、代わりにリンが答えた。
「器用貧乏でしょうね。私が以前関わったM−114は装甲が厚いため一見物資輸送向きに見えるけど、戦闘機形態がオミットされていた」
「そう、正解」
 当たったことを示すように、ジェーンが手を叩いて見せた。そして再び彼女は説明を再開する。
「単純に輸送量だけを比べるのなら、それに特化した乗り物、タンカーやダンプカー、あとはティルトローターね。あんな大型機相手にKVが勝てるはずは無いの」
「では今回の依頼は何の意味があったの?」
 ジーンが尋ねる。輸送専用機でありながらKVを運ぼうとは考えていない、そんな本末転倒的な結論にジーンの感じる疑問は当然のものだった。
「KVで輸送させるために必要なものは分かったわ。高速展開、それを追及するのが今後の課題になるのははっきりした」
「それはまぁ、そうですね」
 どこか毒気を抜かれたような表情を見せる能力者達、高速展開の必要性を認めてもらえた嬉しさはあったが、KVを輸送できないという事実があるためか素直に納得できないでいる。
「ならばコンテナの規格化は考えてもらえるということか?」
 どことなく収まりのつかない河崎が尋ねるが、ジェーンは小さく首を振るしかなかった。
「メガ軍事コーポレーションは一枚岩じゃないです、むしろライバルですからね。例えば水陸両用KVなんかはここでも世界初を目指して開発されていたけど、結局はカプロイアのKF−14に抜かれることになりました。これからも特殊環境下でのKVは増えていくでしょう」
「それとコンテナの規格化は関係あるのか?」
 一見関係なさそうな話を続けるジェーンに対し河崎が疑問を口にする。だが彼女は一瞥して河崎のそれ以上の発言を封じた。
「つまりKVの可能性の広さをまだ誰も図りきれていない、そのためKVの規格さえ行われていないのが現状です。コンテナが規格化されるのはもっと時間がかかるでしょう」
「しかし私達にそれほど時間はありません」
 今まで咥え続けていた煙草を手に取り、リンが発言する。
「私達は早急にバグアを叩く必要がある。奴等の戦力がこれ以上増えてしまっては勝ち目は薄い」
「でしょうね」
 言葉短くジェーンも同意する。
「だからコンテナが規格化される前に、戦い終わらせましょう」
 ジェーンの言葉に、能力者達は苦笑するしかなかった。