タイトル:【PN】ジャックの偽者マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/06 07:04

●オープニング本文


「だからあれは偽者なのですよ」
 西暦二千八年五月、元ドローム社社員ジョン・マクスウェルは今会社を離れ、大規模作戦の行われているイタリアのジェノバに来ていた。
 飛び散る火花、巻き上がる土埃、轟く怒号、それら全てを自分の身体で感じるためである。そしてもう一つ、確認したいことがあった。今回新たに導入されたという敵新型機ファームライド、そしてそのパイロットの存在である。
 ジョンはイタリアへと向かう途中、一つの噂を耳にしていた。ファームライドのパイロットの一人がエルドラド君主ジャック=スナイプと酷似しているという非常に迷惑な話である。バグアとは関係をもっていないエルドラドにとってこれは非常に喜ばしくない事態である。しかしULTに確認をとろうとしても、真偽はわからないというという返答だった。
「では能力者に対して依頼という形にしましょう」
 もし捕らえるつもりがあるのなら、情報は多いほうがいい。口に出さないものの、ジョンは互いの利益のためと依頼を訴える。そしてULTも事情は話さないものの、ジョンの依頼を受けたのだった。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
キャル・キャニオン(ga4952
23歳・♀・BM
エルガ・グラハム(ga4953
21歳・♀・BM
マーガレット・ラランド(ga6439
20歳・♀・ST
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA

●リプレイ本文

「本当に現れるのでしょうか?」
「それはやってみてからのお楽しみってところね」
 イタリアジェノバ、ヨーロッパ攻防戦も既に大勢が決し戦火は下火になりつつあるこの大都市であるが、全てのバグアが戦いを放棄したわけではなかった。今でもスペインあたりではまだ火種がくすぶっている。それに南部に控えるアフリカ大陸にはバグア兵器やキメラの巨大プラントがあるのではと噂されるほど、絶えず戦力が送り出されている。大航海時代ではないが、アフリカ大陸は真の意味で暗黒大陸となっていた。とはいえそれらは所詮噂に過ぎず、噂とは尾ヒレがつくものであるため一概に信用できるものでは無いだろう。だが人々が恐怖を感じ、畏怖するには十分な存在でもあるのかもしれない。
 同様に世界に不可思議な国家が存在する。南米アマゾンにあるといわれるエルドラドである。最近ほぼ一方的に独立を宣言し、UPCのやり方を批判している。特に批判が集中しているところは無闇な戦争の延長、的を射ていない作戦などである。ちまちまと戦争を続けているだけでは戦争は終結することは無く、それどころか有利に転じられることもない。だが多くの人々を救うためにはどうしても絶えずバグアと争う道を選ばざるを得なかったというのがUPCの実態である。そしてそれを手ぬるいと批判するのがエルドラドであった。
 エルドラドには正確な数は不明ではあるがそれなりの人口が集まっているらしい。戦争で職を失った人、家を失った人、家族を失った人、生きる意味を失った人、そんな人々が多く集まっているといわれている。中にはUPCの被害者も存在する。KVが遮蔽にと採ったため家が破壊された、会社が破壊された人も少なくない。大局的な目で見ればバグアが悪いのであろうが、やりきれない気持ちを抱えている人がいるのも現実、そんな人の溜まり場となっているのがエルドラドであった。
「だが仮にも一国の君主なんだろう? 本当にそんなやつがファームライドに乗っているのかい? 確かにあれはエース機だし、そんなに数が無いものだと聞いちゃいるけどさ、それでも一兵卒がやるべき仕事じゃないのか?」
「そういうところも含めて謎なんですよ、あの国家は」
 ジェノバ市内のある工場を間借りして、能力者達はKVの整備を行っていた。目的はファームライドをおびき出すための新型KVの作成、とはいえ本当に新型のKVなどがつくれるはずもない。藤田あやこ(ga0204)のKVを廃材等を使って新型らしくみせる、つまりハリボテを作成するためであった。
 工場のわずかに開かれた窓から差し込む朝日を片目で確認しながら、エルガ・グラハム(ga4953)の問いにマーガレット・ラランド(ga6439)が答える。
「言ってる事は一見まとも、でも中身はよくわからない国なんです」
「政策とかの事か? まぁよくわかんないが、確かによくわからない国だな」
「エルガの言うこともよくわからないけどな」
 口笛でも鳴らすような態度で、エルガの言葉にヒューイ・焔(ga8434)が口を挟んだ。今回の依頼に参加した唯一の男性である。それは同時に唯一エルガの守備範囲外にいる存在でもあった。
「会談も結局できないんだよな?」
「らしいですね」
 軍にジャック=スナイプとの会談を求めたマーガレットではあったが、エルドラド関連は北中央軍本部が対応しているらしく直ぐには出来ないとの事だった。依頼人であるジョンも確認はこちらがするということで、対談は無理だと言っているらしい。
「なんと言うべきなのかしらね、掌の上で弄ばれている感じがするわ」
 心底不愉快なのだろう、本来解体を趣味とするマーガレットが腕を振るってハリボテを組み立てている。一応廃材とはいえ材料不足で悩む軍やメガ軍事コーポレーションには依頼後解体して返還する様に求められてはいるが、そんなことはお構いなしといった感じで彼女は組み立てを進めていく。おかげで作業が進むのはかなり早いのだが、時が経つのも忘れている節があった。工場内に時計が置かれていないためはっきりとしたことはいえないが、すでに十時間近くは経過しているだろう。
「ところで依頼人のジョンというのはどのような人なのでしょう?」
 ふと誰かがそんな言葉を発した。藤田が周囲を見回すと、どうやら発言者はコックピット周辺を確認しているキャル・キャニオン(ga4952)らしい。
「気になります?」
「ええ、一応」
 計器類の確認をしながら藤田はキャルの顔を見つめる。元お嬢様というだけあって綺麗な顔立ちだった。だが瞳は世間知らずというわけではなく、それなりに修羅場をくぐっていることを物語っている。
「私もそんなに面識がある方ではありませんが‥‥」そう前置きして藤田は話し始めた。
「とらえどころの無い人だと聞いています。良く言えば常に先を見てる、ですが悪く言えば人の心の隙間を覗いているような印象があったと」
「ということはドローム社には何かあったということでしょうか?」
「悪いことやりすぎて居辛くなったんじゃないかしら?」
 半分冗談のつもりで答える藤田。その意図が伝わったのだろう、キャルも微笑み返す。だが答えることは無かった。

「これはジャックさんではありませんよ」
「具体的な理由を挙げてもらおうか」
 数日後、KVを改良した工場に依頼人であるジョン・マクスウェルが現れた。ハリボテの使った作戦は無事成功し修復作業を行っていた能力者達。ジョンの姿を確認すると、意気揚々と撮影した写真を見せた。自分達でも上手くいったという自身があるのだろう、誰も言葉は出さないものの表情はわずかに緩んでいた。だが写真を見たジョンの第一声は、完全な否定の言葉だった。
「理由なんて‥‥よく見てくださいよ」
 ハリボテを使ったおびき出し作戦は成功したといって良いだろう。ファームライドは数機のキューブワームを引き連れて能力者達の前に現れた。そして無事撮影に成功したわけである。ファームライドの速度が速いためか鮮明とは言いづらい写りではあったが、キューブワームを先に倒しただけマシなものとなっている。一応コックピットの様子までかろうじて写し出されていた。ジョンが指差したのもまさにそこである。
「キューブワームがいないので比較的はっきり写っているのですが‥‥」
「世辞はいいよ」
 牽制するようにエルガが言葉を挟む。もったいぶらずにさっさと理由を話せということなのだろう。だがジョンは「これは失礼」と一言詫びた後、間を取り直してから話し始める。
「影などがあるため余りはっきりとはしませんが、この写真に写っている操縦者の方はジャックさんより髪が長いとは思いませんか?」
 全員が示し合わせたように手配書を確認する。確かにジョンの言うとおり、ジャックの髪は長くは無い。髪を短くすることなら切れば済むことなので一瞬で出来る。しかし長くするためにはそれ相当の時間が必要となることは誰もが体験していることだった。それなりに説得力はあるのだろう、だがそれだけで納得する能力者達ではなかった。
「エクステンションというものを御存知じゃないのかしら?」
「たまたま違う人を乗せた可能性もあるぞ」
 能力者が口にした異論は主に二つ、エクステンションつまり付け髪と別人操縦説だった。キューブワームはいなかったもののファームライドはもともと性能が高い。写真を撮ろうとしても多少ぼやけてしまうのは仕方の無いことである。逆に言えばそこに議論の余地があるということでもある。加えて今手元にある判断材料は、今回能力者達五人が撮影した写真とUPCが提供している手配書だけである。言い訳とも言い逃れともいえる会話にマーガレットが口を挟む。
「だったら写真を検証してもらえばいいんじゃないかしら? エクステかどうかくらいは検証できると思うんだけど」
「ふむ」
 一同はUPCへと足を向ける。そこで得られた結果はエクステンションではないだろうが別人の可能性は否定できないということだった。
「‥‥はっきりとはしませんでしたか。しかしこれでジャックさんが指名手配犯と同一ではないという可能性がありますね」
 ジャックはそのままUPCを後にする。能力者達はまたやりきれない気持ちを解体作業にぶつけるのだった。