タイトル:【孤児院】合流マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/26 02:34

●オープニング本文


「ファルマー商会三幹部の内二名死亡、仲間割れが原因か?」
 西暦二千八年八月、アメリカ北部の地方紙に再び不穏な見出しが躍る。地元の有力会社であったファルマー商会の重役二名が自殺したというものであった。死因は銃の暴発、お互いに銃を向け合った二人の重役がそれぞれに仕込んであった鉛に気づかず、引き金を引いてしまったというどこか間抜けな話であった。それによって唯一残った幹部であるロックフォードが社長の座に就任した。今まで滞っていた裁判に関しても自分で弁護するということで話を進めていた。
「自分で弁護って可能なのか?」
「一応不可能ではありません、前例もあった気がします」
「ということは自信があるということか?」
「‥‥でしょうね」
 ファルマー商会に殺されかけたとして訴えていたハンス・ファルマーは、弁護士であるクリスと打ち合わせをしていた。裁判の進行についての話し合いである。弁護士がいないと裁判の再開を渋っていた商会側が、突如方針を切替して裁判に応じると言ってきたのである。警戒するべきだというのが二人の判断だった。そしてもう一つ問題となったのは、どうやらロックフォードという男が裏の世界に通じているらしいということだった。先日起こった銃の暴発も、双方の銃にロックフォードの手の者が鉛を仕込んだらしい。

 元々三幹部とはそれぞれ違う特技のある重役三人のことだったらしい。経理担当していた元副社長アダムスは金融、広報を担当していたバーナードは情報、そして人事を担当していたロックフォードは人の流れに精通していた。だが三人で活動していくにつれ歪みが出てくる。ロックフォードが外見的に醜かったからである。身長も低く、体重は多い。病院にかかればダイエットに勧められる。目つきは悪く、ふちの無い眼鏡をしきりに気にしながら額の汗を拭う、そんな男だった。そんな男と同等に扱われる事に嫌悪を覚え始めたアダムスとバーナードは、黒い部分を全てロックフォードに任せ始めた。ドブさらいは専門家に任せるべき、それがいつしか二人の合言葉になったらしい。

「そして、二人は足元を掬われたというわけか」
「そう考えるべきだと思います」
 クリスは手にしていた書類を机に置くと、ハンスの顔を覗き込んだ。
「だから戸締りには気をつけてくださいね」
「お互いに、だな」
 ハンスはそう言ってクリスの事務所を後にした。

 最早家当然となったサンライズ孤児院に戻るハンス、そこで待っていたのは笑顔のジャスミンと複雑な表情のジェニファーだった。
「子供の受け入れ要望が来たんですけど、受け入れていいですよね?」
 そう言うジャスミンを横に、ハンスはジェニファーに話を振った。
「とジャスミンが言っていますが、実際のところは?」
「子供の受け入れと引き換えに相応の補助金を出すということです」
「なるほどな」
 二人の話によると、相手はジェームス・シンプソンという老人らしい。戦災孤児を集めて、バグアやキメラから逃げることを中心に戦い方を教えているということだった。だが自分には身寄りが無く、その後の事を考えたらどこかに預けた方がいいと考えたらしい。
「なんでも能力者の人からここの話を聞いたそうです」
「身元だけは保証されているわ。でも人数がちょっと多いの」
 何でも二十名近い数がいるらしい。子供の面倒を見るのが好きなジャスミンとしては笑っているが、ジェニファーとしてはベッドの数や毛布の数など備品が不足するのではないかと心配しているらしい。だがハンスは二人とは違う事を心配していた。
「どうやってその子供達は来るんだ?」
「ジェームスさんが途中まで送ってくれるってことだったわ」
 特に疑問を持つことなく、ジャスミンが答える。だがハンスの顔は更に強張っていた。
「そこからどうする?」
「もちろん私と母さんで迎えに行って、できればハンスさんも付いて行って貰えるとありがたいですが‥‥」
「その日は生憎公判だ。俺は動けないよ」
「そうですか、それは仕方ありません」
 一瞬泣きそうな表情を見せたジャスミン、だがハンスは手帳を取り出して急いで何かを書き記すと、ULTへ電話をかけ始める。
「悪い予感がする。俺の代わりに護衛を雇わせてもらうよ」
「まぁそこまでいうのなら」
 ハンスに気圧されながら、ジャスミンとジェニファーは了解するのだった。

●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
エレナ・クルック(ga4247
16歳・♀・ER
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
神無月 るな(ga9580
16歳・♀・SN
ロゼア・ヴァラナウト(gb1055
18歳・♀・JG
紫東 織(gb1607
20歳・♂・GP
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD

●リプレイ本文

 二兎を得るものは一兎も得ず、それは裁判中に常にハンス・ファルマーの頭を過ぎっていた言葉であった。

「今の時間は?」
「十二時半、問題の時間まであと二時間です」
「距離は?」
「あと二百キロ弱というところでしょうか」
 UNKNOWN(ga4276)が愛車であるランドクラウンのランオーバーを走らせる。助手席には道中で拾ったエレナ・クルック(ga4247)、そして後ろには駅での護衛役として派遣予定だったホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)と子供用にエチケット袋がいくつか乗せられている。
「届くか?」
「流石にわからないな。こんな悪路を走る羽目になるとは思ったなかった」
 ホアキンの言葉にUNKNWONは忙しくハンドルを操作しつつ答える。その隣でエレナはジェニファーから預かってきた地図で現在地点と目的地である位置を確認していた。とはいえ今通っている道は地図に正確に載せられているものではない。五大湖解放戦を始めとする攻防で出来た獣道に近いものだった。当然整備されていなければ、次の町までの距離も表示されていない。エレナとホアキンの二人で現在地を確認、UNKNOWNが車を転がすのが精一杯と言う状態だった。

 事の発端は今朝の事だった。能力者達がサンライズ孤児院に到着、今回初顔合わせとなる神無月 るな(ga9580)とヨグ=ニグラス(gb1949)の両者とジェニファー、ジャスミンとの挨拶とエレナの謝罪を済ませて任務に取り掛かろうとしているところに、一本の電話がかかってきたのだ。
「‥‥の列車に爆弾を仕掛けさせてもらった。無事合流できればいいな‥‥」
 電話はそれだけだった。電話を受けたジェニファーはすぐに能力者の誰かに代わろうとしたが、先に電話が切れる。加えてボイスチェンジャーらしきものを使っているのか、男か女かさえはっきりしないということらしい。話を聞いたUNKNOWNとホアキンは駅と鉄道会社へと連絡し確認を取ろうとするが、悪戯と思われたのか取り付く島もなかったらしい。そこで神無月とヨグを孤児院の警備に残しエレナが道の確認、そしてUNKNOWNがホアキンとともに車に乗り込む。
「お願いします」
 飛び出していった三人にジェニファーはそう告げた。厳密には告げたつもりだった。だがそれはほとんど声にならず、そばにいた神無月やヨグにもはっきりとは聞き取れなかった。
「大丈夫ですか?」
 気を使って神無月が声をかける。ジェニファーはその言葉に僅かに微笑み、そして力なく答えた。
「何故私だけ、いつもこうして待っているんでしょうね‥‥」
「待つのも大事な仕事ですよっ」
「そうですよ。だからハンスさんは安心して外に出られるのでしょう?」
 幸か不幸かハンスはこの場にはいない。今日行われる裁判のために、弁護士であるクリスのもとで最終確認を行っている。時間的にはまもなく裁判所の方に向かう予定となっている
「ハンスに連絡してきますね」
 二人の言葉に多少気が紛れたのか、ジェニファーはそそくさとその場を退散する。残された神無月とヨグは一度顔を見合わせ、孤児院の点検へと移る。そして今UNKNOWNのランオーバーは道なき道を突き進み、無事線路を発見していた。

「原告は自分が被害者であることを殊更に強調しておりますが、会社としてある程度のリスクは抱えなければならないものです。また無謀な出張と主張していますが、我々は原告に確認を取った上で最終的な命令を下しました。確かに攻略戦直後のシカゴやエルドラドは本来危険といえる場所なのかもしれません。しかし、いやだからこそ服や下着、食料などの生活必需品が必要になる。そういう人に商品を配布するのも人命救助、社会協力の一環ではないでしょうか」
 裁判所にて再び原告側弁護士の最終弁論が繰り広げられる。しかし違いがあるとすれば前回の弁護士がダグラス・スミスという若手弁護士であったのに対し、今回はロックフォードという中年の親父ということである。神聖な場であるにもかかわらず髪さえとかしていないその姿は無礼を通り越して醜くさえも見える。しかし口では限りなく正論に聞こえる言葉を並べていた。
「私達ファルマー商会はただ単なる企業の価値拡大を目指しているわけではありません。社会に貢献できる企業、社会に必要な企業を目指しています。しかしその為には大きな障害、人類全体の共通の敵であるバグアの存在が大きく立ちはだかっています。今後人類が平和を手に入れるためにはバグアと戦うことは避けられず、少なからずリスクは伴うものです」
 ロックフォードが自信ありげに抗弁を垂れる。しかし最終弁論に異議を挟むことは出来ない。逆に言ってしまえば聞く必要もない、そんな事を原告であるハンスは考えていた。
 そもそもの始まりは、ロックフォードという男の存在を甘く見たという所だった。どうやって情報を仕入れたのか。そこが知りたいところでもあったが、だが今の現状ではそんなことを言っていられる状況ではなかった。この裁判が始まる前にロックフォードが話をしにきたのだ。
「こんなところで油を売っていていいのか?」
 始め聞いたとき、それは何を意味するのか分からなかった。だが考えれば一つしか思い浮かばなかった。今日合流予定である子供達のことである。二十名ほど子供がいるという、もし襲われれば全員無事というのはどうしても難しい。能力者達に護衛を依頼しているが、心の奥底にあるざわついた感触だけは拭い去ることが出来なかった。
 考えてみれば既に今日はおかしな事が度々起こっていた。太陽が見えているのに雨が降り出し、見ず知らずの男に因縁をつけられた。それで予定よりも早く裁判所に向かったのだが、そこで待っていたのがロックフォードとジェニファーからの電話だった。
「確かに原告の言うようにこれは危険な任務であったかもしれません。しかし物資が不足すれば人々の心は荒み、やがて犯罪へと繋がる。それはやはり長い目で見て問題ではないでしょうか」
 ロックフォードは相変わらず熱弁を振るう。だがもうハンスの耳には届かなくなっていた。列車の方は大丈夫だろうか、孤児院の方は手薄になっていないだろうか、何か俺にできることはないか‥‥
 重ねた手に力を込めるハンス、すると手の平に金属の冷たい感触を感じた。エミタである。人間の能力を引き伸ばす希望の光であり、ハンスが自分を信じるようになった切欠だった。
「‥‥俺も能力者だったな」
 もう一度エミタを指で擦るハンス、不思議と心が落ち着くのを自分でも感じ取っていた。

 一方その頃、車を走らせていたUNKNOWN達は最寄の駅にホアキンを下ろし、次の駅へと向かっていた。
「話の分かる駅員さんで助かりましたね」
「助かった、とも言いにくいがな」
 いつも通り平静を装いつつ答えるUNKNOWNではあったが、歯切れはそれほど良くは無い。そのあたりはエレナも理解しているつもりだった。だがいいニュースでも無ければ刻一刻も迫る時間の中で、気が滅入るというのが正直なところだった。
 最寄の駅で能力者達が事情を話すと、年配の駅員が調査しようと言ってくれた。しかし調査するにも列車に乗り込んだ車掌の数は限られており、時間がかかるだろうと言う。加えて列車ではなく線路の方に爆弾が仕掛けられていれば確認できないということだった。そこでホアキンを連絡役として駅に残し、UNKNOWNとエレナは線路を確認しつつ列車の影を探すこととなっていた。
「時間は?」
「あと三十分です」
 時計を確認して答えるエレナ、二人の頭の中には爆弾以外にも懸念事項がもう一つあった。待ち伏せである。
 駅員が調査を約束してくれた事を報告するために孤児院へとホアキンが連絡を入れたところ、待機していた神無月とヨゼが考えた結果だという。
「今のところ、誰かがこちらに攻め込んでくる様子はありません。何か考えがあるのかもしれませんが」
「むしろそっちの方が危ないんじゃないかな?」
 二人が言うには、列車に爆弾が仕掛けられる事が分かれば当然列車は停止、乗客は一時退避することになる。その時が一番仕事がしやすいのではないかと言うのだ。
「こちらに攻め込んでくるよりは確実だと思います」
「あくまで可能性だけどね。っとちょっとまって今電話中だから‥‥っとごめん、どこまで話したっけ?」
 それが二人の考えだった。当たっているとは限らないが可能性としては高い、そう判断したUNKNOWNは煙草一本で思考をまとめ、エレナと再びドライブに出たのだった。
 やがてホアキンから連絡が入る。列車の貨物室からそれらしきものが見つかったらしく、今から乗客を避難させるということだった。場所はそれほど遠くないらしい。
「あれではないでしょうか?」
 エレナが前方を指差す。そこには確かに大きな黒い物体が線路上に存在していた。

「今回もすまなかったな」
 その日の夜、今まで裁判に行っていたハンスが孤児院へと顔を出した。能力者達を労うためと本人は言っているが、ジャスミンを心配しているのは誰の目にも明らかだった。
「気にすることは無い。君は君の仕事をやったのだ」
 ホアキンが答える。
「裁判には勝った。これでファルマー商会復興の目処が立ったのだろう」
「勝ったといっても厳重注意で止まりましたけどね」
 陪審員達が下した判決は、三幹部のやり方は信念的には人道的なものではあるかもしれないが行き過ぎている部分もある、というものだった。役所により月に一回視察が入り、そこでまだ過度に危険な命令を下していた場合には相応の処分を下すというところで落ち着いたらしい。
「でもロックフォードは会社にいられまい。ハンス、君の手に戻るのは時間の問題だ」
「そこからが大変なんですけどね」
 はにかみながら答えるハンス、だが嬉しい事には違いないのだろう。声が弾んでいる。
「みなさんのおかげです」
「そんな事無いですよ。お手柄は子供達です」
 UNKNOWNとエレナが列車の元に到着したとき、二名の子供が姿を消していた。二人とも用を足しに行くと言って出かけたということだったが既に五分程経っていると言う。そこでジェームスとともに調べた結果、犯人とロープで拘束された子供二名を発見。そして捕まっていた子供達の供述から黒幕がロックフォードであることが判明したと言う。
「やることやれば成功するんだって」
「逆にやるべき事をやらなければ、何もなしとげられないのかもしれませんが」
 神無月が子供達の方へ視線を移す。そこには騒ぎ疲れた子供達の寝顔があった。