タイトル:【偽】暴徒鎮圧マスター:矢神 千倖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/24 23:33

●オープニング本文


「依頼を出せ」
 監視カメラの映す映像を横目に、スコット・クラリー(gz0403)大佐は隣に控えていた下士官へ告げた。
 は? と呆けたその下士官に、冷たい視線が向けられる。
 頬杖をつき、テーブルをコンコンとつつきながら顎で示した先は、モニター。
 これを何とかしろ、ということなのだろう。
「我々も出ましょうか?」
「いや、全て傭兵に任せろ。奴らが自分で言い出したことだからな」
 しかし、と口を挟もうとして、やめた。

 先日の事件――。
 ゴーレムの奇襲を受けた、あの事件。
 発見が遅れ、敵の接近を許してしまった、という名目の事件。
 そう、事件だ。事故ではない。
 この下士官はそれを知っている。この基地にいる軍人なら誰もが知っている。
 あれから得た街の復興資金の一部は、虚偽の報告書によって大佐の懐へと消えた。
 あの時、止めることが出来なかったのだ。
 あえて敵をギリギリまで接近させた、クラリー大佐を。
 逆らえば、二階級特進。そういう扱いになるから、だ。

「了解しました。ULTに依頼を提出します」
 即座に内線の受話器を耳に当て、彼は手短に言葉を吐いた。
「ULTへ、暴徒鎮圧の依頼を」

 この街にUPC基地は二つある。
 前線により近い南基地と、遠い北基地だ。
 この街に駐留するUPC軍の指揮官たるクラリー大佐がいるのは、北基地。
 その北基地を、街に住む市民が取り囲んでいた。
「俺達を見捨てないでくれ!」
「何を信じればいいってんだ!」
 それは、先日の事件をきっかけに植えつけられた市民の不安。
 根拠などない。不安に、根拠など必要ない。
 ほんの些細なことでも、全く裏の取れていないことでも、声を大にして叫ばれてしまえば‥‥。
 民衆など、脆いものだった。

●参加者一覧

漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
秋月 祐介(ga6378
29歳・♂・ER
ロシャーデ・ルーク(gc1391
22歳・♀・GP
Nico(gc4739
42歳・♂・JG
ニーオス・コルガイ(gc5043
10歳・♂・EP
秋姫・フローズン(gc5849
16歳・♀・JG

●リプレイ本文

●某日某街 北基地司令室
 傭兵が到着したとの報告を受けたスコット・クラリー大佐は小さく頷いたのみだ。
 一言も喋ることなく、手元の資料に目を走らせてゆく。
「何名か、当基地へ入りたがっているようですが」
「好きにさせろ。ただし、民衆が入らないようにな」
 擦れる音を小さく鳴らし、資料を捲る。報告にきていた下士官がちらりと盗み見ると、どうやら基地の予算に関係するものらしいということが分かった。
 ふぅ、と、クラリー大佐が小さな息を吐く。
 そして無言で、下士官を横目に見た。
「は、ハッ! ではそのように伝えて参ります!」
 ビクリと背筋を伸ばし、ぎこちなく敬礼した下士官は慌ただしく去っていった。

●11:00AM 北基地正面出入り口
 殺到した民衆の対応に、門番は門が破られないよう食いとめるので精いっぱいだった。
 口々に不安を叫びながら、何としても内部へ入らんとする民衆。このまま放っておいては、やがては武力鎮圧も考慮せねばならない。そんな状況だ。
「皆さん、少し、下がってください」
 そこへ姿を見せたのは秋姫・フローズン(gc5849)。軍から借りた軍服を着こみ、基地の中からツカツカと歩いてくる。
 さらに先を歩くのは、金城 エンタ(ga4154)だ。同じく軍服を着ている。‥‥女性物の。
 二人の立ち位置から、それとなく金城の方が高官であるように見えた。
 だが民衆は、
「なんだ、ガキか?」
「ひっこめ! 女子供に用はない!」
 そう叫ぶ。
 困惑したのは門番だ。傭兵が来るとの報せは受けていたが、このような形になるとは聞いていなかった。
 そこに秋姫はそっと耳打ちした。
(かれ――彼女のことは、金城中尉、と)
 それとなく理解した門番は、慌ててビシリと敬礼。
「御苦労様であります、金城中尉殿!」
 中尉。それなりに立場のある階級だと悟った民衆が、ほんの少し静かになる。
「先日のバグアによる奇襲について、皆さんは不安を感じていることと思いますが‥‥。それにつきまして、皆さんからの疑問にお答えしたく、こうして参りました。ぼ――私は、金城 エンタ中尉です。こちらは秋姫・フローズン伍長。まずは、そう門に近づかれては話もままなりませんから、少しだけ、下がってください」
 渋々と民衆が下がり、基地の門が開く。金城と秋姫がそこから出ると、周囲からよく見えるようにと台の上に立った。
 だが、物事には順序というものがある。いきなり質疑応答では、まとまりきらないだろう。
 だから、金城は秋姫の他にもう一人、説明役を台の上に立たせた。
「まずは彼に、話をしていただきます。全ては、そこから始めましょう」
「そんなこと言って、本当は煙に巻こうってんじゃねぇだろうな!?」
 誰かが強く叫ぶ。それをきっかけに、せっかく一度静かになった民衆が再びざわざわと騒ぎ出した。
 しかしその中にあって、金属同士をぶつけあったような、鋭く響く声が上がる。
「軍はあなた達を見捨てたわけではないわ。まずは落ち着きなさい」
 声の主は民衆の中をツカツカと歩き、やがて金城達のいる台の下へ到達する。
 誰だ。そんな言葉が上がるのは当然だった。
「私はロシャーデ・ルーク(gc1391)。先日の奇襲事件に駆け付けた傭兵の一人よ」
 何故だ。それも当り前の疑問だった。
「それをこれから話していくわ。だから、まずは話を聞いてくれないかしら」
 彼女が見上げた先。
 そこには角刈りの少年、ニーオス・コルガイ(gc5043)がふらりと立っていた。
「軍人が出てきたんだぞ、確かに話があるのかもしれないな。話を聞いてみないか?」
 民衆に紛れこんだ漸 王零(ga2930)が、声のボリュームを少し上げて周囲に呼びかける。
 まぁそれもそうだ。ここに至ってようやく民衆は落ち着き、金城はニーオスに頷いて見せた。
 頷き返し、一歩踏み出てニーオスは右手を軽く握り、自分の胸にあてて口を開いた。
「俺は前回あんたらに演説したニーオス・コルガイという者だ」
 たった一言。
 まだ言葉の続きはあるのだが、早くも民衆はざわつきだす。
「あの演説をしたって? まだ子供じゃないか!」
「いやでも、確かにあの演説をしたのと同じ声だぞ」
 ざわざわ、ざわざわ‥‥。
 しかし一々静粛を求めていたのでは日が暮れてしまう。ニーオスはそのまま言葉を続けた。
「軍の連中の不甲斐無い戦いぶりに頭に血が昇った。軍人とは己の命を顧みず牙を持たぬ人の為、力弱き者達を守る為に闘う者だと教えられていた」
 特に、否定の声はない。
「その軍人達の不甲斐無さに憤りを感じ、それなら軍人に代わって傭兵が守ればいいと思って言った、しかし結果として、あんたらを不安の極限に追い込んでしまった」
 そこで一度、金城が待ったを入れる。
 ニーオスの言葉は、飛躍していた。何故不甲斐無いと感じたのか、そもそも何が不甲斐無いのか、そこを補足する必要があった。
 しかしその補足については、秋姫の方からなされた。あの時民衆は避難していたとはいえ、何かの拍子に声などで正体が割れないよう、殊前回の事件そのものを語る場合はこちらの方が適任だ。
「今ニーオスさんの仰った『不甲斐無い』という言葉についてですが、念のために補足させていただきますと、敵の接近をあれほどまでに許してしまったことを指します。これについての質疑応答は、後ほど」
 では、とニーオスに目配せ。
「不安の極限に追い込んだのは、この俺の責任だ。だから軍の連中を悪く言わないでくれ」
 そして首を垂れる。彼の説明は、以上だった。

●11:30AM 北基地内某所
 民衆を説得する以外の行動を取る者もいた。それがNico(gc4739)だ。
「よォ、ちょっくら話聞かせてもらうぜ」
 比較的手の空いていそうな軍人を捕まえ、Nicoは人目につかないところへ移動した。
 軍人はというと、大人しいものである。特に抵抗らしい抵抗もしなければ、面倒くさそうな表情は見せたものの、嫌がる様子もない。
 妙な感じだ。が、Nicoは彼自身の目的のため、ネックレスを弄りながら、話を切り出した。
「アンタ、じゃ締まらねェな。名前は?」
「アリゴ・バルディ上等兵であります」
 そうか、アリゴか。ニヤと笑みを浮かべ、話を続ける。
「状況くらい分かるだろ? これじゃァ、どう転んだって傭兵がワリ食いそーだろ?」
 はぁ、と気のない返事。
 壁に腕をつき、ピクリと眉を動かしながらも、まぁいいと鼻で笑う。
「知ってる事全部吐けや。アリゴって言ったか。アンタが喋ったってことは、勿論黙っとくさ。‥‥俺ァな、何も知らないで踊らされてンのが癪なだけなんだよ」
「今回のことに関しては、以前の傭兵の言葉を、傭兵に実行していただきたいと、大佐はお考えのようで」
 驚くほど容易く、アリゴは口を開いた。
「にしちゃァ、こんなンで依頼だすたァ‥‥羽振りがいいんだな?」
「我々が出て行って暴動になり、鎮圧となった場合を想定すると、逆に安いものだ、とのことで」
 そうかい、とNicoはアリゴの肩を組む。
 そして声のトーンを落とし、男を覗きこむように顔を寄せて囁いた。
「まだ何かあンだろ? 全部吐いちまえよ」
「あとは、先日の事件について、なら」
「ほぅ‥‥?」

●0:00PM 北基地正面出入り口
「本当に、あの事件じゃ避難の指示が遅れたのか?」
「ゴーレム戦の経験不足で、基地連絡前に総崩れになり、連絡そのものが遅れました」
 こちらでは、質疑応答に入っていた。
 演説を行ったニーオスは、まだ子供だった。それがよほどショックだったのだろう。民衆の間に、馬鹿らしいことで騒いだものだ、といった空気が生まれ出していた。
 とはいえ、疑問は疑問。この際はっきりさせておきたい、というのが民衆の心持だった。
「ってことは、やっぱり軍より傭兵の方が頼りになるんじゃ?」
「それに関しては、まず、戦争における軍と傭兵の役割の差を説明しなくてはなりません」
 金城が言葉を返すと、秋姫が一歩進み出る。
 前回の演説の内容から、この手の声が上がることは予測済みだ。
「直接戦闘でしたら、KV‥‥可変人型戦闘機、ロボットのことと思っていただいて結構ですが、その個人での改造、カスタマイズが認められている傭兵の方が、得意です。私たち軍は、足並みをそろえ、サポート体制などを整えねばなりませんから、正面での戦闘では、傭兵に劣ります。ですが」
 口を挟まれないよう、言葉が続くことを暗示してから一度口を閉ざし、民衆の様子をうかがう。
 そこに紛れる漸、台の下のロシャーデ、共に立つニーオス、金城が特に否定するような様子を見せないことを確認してから、続けた。
「我々軍は、戦争のプロです。直接戦闘に入るまでの過程では、私たちが力を発揮することになります。具体的には、補給、情報収集など」
「要するに、」
 漸が声を上げる。
「軍も傭兵も、両方信じろ、ってことかい?」
 こくり、と金城が頷く。ざわ、と民衆が騒ぎだした。
 本当に信頼していいのかどうか。民衆にとって、これは大事な局面だ。
「さっきも言ったように、軍はあなた達を見捨てたわけじゃないわ。それなら、わざわざ私達を呼ばず、武力で鎮圧した方が手っ取り早いもの。だから、見捨てていない。違うかしら?」
 ロシャーデの補足。
 しかし下手な信頼は、身を滅ぼすことに直結しかねない。先ほどまで散々騒いでいた民衆は、ここに来て驚くほど慎重になっていた。
 そこで壇上に上がったのは、秋月 祐介(ga6378)。出番を見計らって待機していたのだが、今こそ、全て穏便に済ますチャンスだ。そう判断したのだ。
 自分も傭兵であることを説明した上で、秋月は言葉を紡ぐ。
「安易に信用するのはよくありませんが、それならば、対等な立場で軍と話を出来る体制を整えれば良いでしょう」
 彼が提案したのは、民間団体の組織だ。
 今のように特にまとまりもなく、ただやみくもに不安を訴えては、良い結果には繋がらない。
 ならば結託した上で、軍に要求を提出、話し合いにより解決策を探る方向を示した。
「どうです? 無駄に騒ぐよりも、軍相手なら、この方が効率的‥‥違いますか?」
 流石は、元法学生である。提案自体も、提案の展開も含め、説得力があり、かつ否定すべき部分が見当たらない。
 唯一、この方法では、今の要求をすぐに通すことが出来ないことが問題となるだろう。が、それも大した問題ではない。民衆が求めたのは、自分たちが信じるべきもの。それが徐々に目に見えようとしているのだから。
 そして、決め手は漸のこんな言葉だった。
「もう一回‥‥信じてみないか?」

●2:00PM 北基地司令室
「大佐、傭兵から面会を求められておりますが」
「通せ」
 短い返事を残し、報告に現れた兵が部屋を出る。
 そして傭兵が連れてこられるまでの間に、他の兵からどのような形でまとまったのかを聞き出した。
 民間団体の組織。今後、何かあれば話し合いの場を設けることとなるだろう。
「お連れしました」
 兵の声に椅子を立ち、御苦労と声をかける。そして通された傭兵、ロシャーデを見やった。
「私が、この街の守備を任されているスコット・クラリー大佐だ。‥‥何か?」
 ギラリ、と眼光が放たれる。毅然とした態度のロシャーデに対し、それは脅しにも何にもならないが、互いの間に目には見えない何かが激しくぶつかり合っているように思われた。
「いまだに、市民が逃げ出すほど近づいてた敵を見過ごしたのが解せないのよね。私には」
「ほう?」
 話を切り出したロシャーデに対し、クラリーは面白いとでも言わんばかりに、続きを促す。
「あの事件での、ざるな警戒。遅れた迎撃。本当に、この街を守る気があったのかしら?」
「なかったら、とっくに任を解かれているだろうな」
 キッと睨むような視線を送る彼女に、不敵な笑みを漏らしたクラリー。
 そしてくるりと背を向け、デスクに積まれていた資料を手に取る。
 何かを示されるのだろうか。一瞬そう思ったロシャーデだが、大佐は資料に目を走らせるのみで口を開かない。
 少し待ってみたが、クラリーはその資料をデスクに置くと、次の資料を手に取る。黙したまま。
「他に言うことはないのかしら?」
 焦れて声をかける。すると、
「まだいたのか」
 そんな言葉が返ってきた。これ以上話すことはない。そういうことだろう。
「納得しないわよ?」
 この態度を見れば、もはや情報は得られまい。
 ロシャーデは横目に大佐を最後まで捉えながら、踵を返した。

●3:00PM 高速艇内
「まぁ、上手くまとまりましたな」
 帰路で、秋月は民衆と話し合ったことをまとめたメモを、さらに分かりやすくまとめなおしていた。自分の提案が受け入れられたのだから、何かあった時に無責任でもいられない。
 他の面々も、上手く解決出来たことに安堵の息を漏らした。
「で、何をしてたんだ?」
 唯一、別行動を取っていたNicoに視線を向けるニーオス。最初から、あまり協力するようには見えていなかっただけに、その行動が気になる。
「別に。ちっとお喋りしてただけだ。面白ェ話が聞けたけどなァ」
 ニヤと口端を持ち上げるNico。
 ほう? と漸。
「なァに、前回の事件じゃァ、作戦の都合上出撃が遅れたってだけだな」
 さらりと、重要な情報を垂らすNicoに目を見張ったのはロシャーデだ。
「じゃあ、やはりあれはわざと‥‥」
「でも妙ですね。作戦という割にはあっさりやられてましたけど」
 疑問の声を漏らす金城。作戦らしい作戦も見受けられなかったし、と付け足す。
「まぁ今考えたってどうなるものじゃありませんよ。また機会を見ましょう」
 秋月の言葉に、一同が頷く。
 ふ、と。Nicoが視線をずらすと出発した時とは明らかに違う雰囲気の能力者がいた。
「嬢ちゃん、ちっと、髪切ったか?」
「え、あの‥‥」
 腰にまで届かんという長さだった秋姫の透明感ある髪が、肩口までになっていた。
 途端に口ごもる彼女に代わり、漸が口を開いた。
「決意の証だ。信頼の証、とも言っていたな。その子は軍人に変装していたからな、軍を信頼したもらうために自分で髪を切ってみせたんだ」
「こっちへいらっしゃい。少し、整えてあげるわ」
 へぇ、と興味のなさそうな返事をするNico。その横で、ロシャーデが鋏を手に秋姫の髪を切りそろえてやる。
 そしてすっきりとした髪を鏡で確認した秋姫は、顔を上げてほんの少し頬を染めながら、問いかけた。
「あの、似合いますか‥‥?」
 視線の先にいたNicoは、目を逸らしながら、胃を押さえて答える。
「‥‥あぁ」