タイトル:アンリとうさ子マスター:矢神 千倖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/12 00:26

●オープニング本文


「な、何、これ‥‥」
 獣人型キメラがいる、と聞いてやってきたのは、某公園。
 初心者でも大丈夫、とのことだったので、経験を積むために、とアンリ・カナート(gz0392)はこの依頼を受けていた。いや、いかに弱いキメラとはいえ、三体もいるとなると‥‥とは思っていたのだが、知り合いのオペレーターの斡旋してくれた依頼であるし、きっとなんとかなるだろう、と。
 その結果が、これだ。
「あらあらぁ、いらっしゃい。ふふ、一緒に遊びましょ?」
「わーい! 遊ぼ遊ぼ♪」
 彼を出迎えたのは、黒のレオタードに網タイツ、赤いハイヒールに手首にはカフス。頭に黒いふさふさのうさみみをつけた、剥きだしの肩がセクシーなバニーガールお姉さん。
 さらに、掌が隠れるほどにぶかぶかな黄色いセーターを着込んだ、白いうさみみの少女。
「‥‥」
 そして、セーラー服に茶色のうさみみをつけ、縁の細いメガネをつけて読書に耽るショートヘアーの女の子。
 というか、これはキメラなのか?
 そんな疑問が、アンリを襲う。
 す、とバニーガールお姉さんがアンリに手を伸ばす。アンリは何故だか避ける気にもなれず、そのままぼけっと突っ立っていた。
 それがいけなかった。
「が――ッ」
「さぁ、遊びましょ」
 気がつけば、アンリの首が締めつけられていた。

●参加者一覧

桂木穣治(gb5595
37歳・♂・ER
姫川桜乃(gc1374
14歳・♀・DG
刀足軽(gc4125
18歳・♂・CA
蒼唯 雛菊(gc4693
15歳・♀・AA
山田 虎太郎(gc6679
10歳・♀・HA
石凪 死憑(gc6704
11歳・♂・EP

●リプレイ本文

●戦闘開‥‥始?
「その手を離しなさいっ」
 いの一番、蒼唯 雛菊(gc4693)が蒼剣【氷牙】を振り下ろした。狙いは、アンリの首を絞めるバニーガールの腕。とっさに危険を感じ取ったバニーガールはパッと手を離し、飛びずさった。
「大丈夫ですか?」
「げほ‥‥っ。え、えぇ、なんとか」
 とはいえ、そのままにしておくことも出来ない。背丈の倍近くはあろうかというその剣でキメラを威嚇しながら、蒼唯はアンリを連れて下がった。
 この時、蒼唯は、彼女こそがこの中で唯一の良心となることに、まだ気づいていなかった。
「山田は思うのですよー。この依頼に入った男性陣は、きっと皆さんウサ耳が好きなんだと」
 救急セットを取り出しながらぶつぶつと言うのは山田 虎太郎(gc6679)。こんな名前だが、女性である。
「そ、そうとは限らないと思う、けど‥‥ぐっ」
 ベチンと首に湿布を貼った山田が、ある方向を指差した。
 それを見たアンリも、溜息と共に同意せざるを得なくなるのである。

「‥‥見事な造詣だ。このキメラを作ったバグアとは分かり合える気がする」
 桂木穣治(gb5595)はグッと拳に力を込めた。その視線は、バニーガールの弾むようなバストに釘付けだ。ほんのちょっと運命のいたずらがあれば、ひょっとすると、ひょっとしかねない。このエロおや――失敬、おっさん、ちゃっかりカメラ(型の超機械)も持ち込んでいるあたり、流石である。
「はぁい、バニーさん♪ こっちに目線とポーズちょうだいねぇ」
 その脇でにっこりと手を振る刀足軽(gc4125)。別にその言葉に反応したわけではなかろうが、バニーガールとセーター娘の視線が彼へ向けられた。
 これはシャッターチャンス。桂木のカメラが何度も何度もフラッシュを焚く。
「流石にエプロン一枚だけはスースーするわね‥‥寒い」
 だが、そんな男共のはしゃぎぶりなど可愛いものであった。いや、微笑ましく見えなくもないのだが、ともあれ、一際異彩を放っていたのが彼女、姫川桜乃(gc1374)だ。
「目のやり場に困るから何か着てくれっ」
 桂木がそう叫んだのも当然――いや、しっかりカメラ構えてるお前が言うな状態ではあるのだが。
 何せ姫川の服装は、足にマルーンブーツ。手には巨大な注射器を携え、纏うのはフリルのついた白いエプロン。以上。‥‥以上! え、服? 何、下着? 知りません。
「さぁかかってくるにゃ〜!」
 腕を大きく振り上げて叫ぶ姫川の向く先は、傭兵達。どういうわけか彼女はキメラに紛れていた。
「な、なんつー、恐ろしい敵だ‥‥」
 冷や汗を流して戦慄する桂木。モノクル型のスカウターがキメラや姫川の戦闘力を弾きだそうと目まぐるしく数字を回転させるが、いったい何の戦闘力を計っているのか、計りしれないその戦闘力とやらに、とうとう黒煙を上げた。
「‥‥何故公園にこんなのがいる」
 石凪 死憑(gc6704)さん、御尤もです。えぇ、本当はその言葉、キメラに向けてのみ放つはずだったんですよね、分かります。
 やる気を失ったのか何なのか。石凪はため息を一つ吐くと隅に移動。フェンスに寄りかかって読書を始めた。いや、戦ってください。
「だ、大丈夫なのかな‥‥」
 思わず呟いたアンリ。彼の眼には、最早頼れそうなのは蒼唯と山田しかいない。まぁ山田の手当てはやたら乱暴ではあったが。しかしそれを敵に向けてくれるのなら――、
「ふぅー。どうやら山田はココまでなので、後は皆さんにお任せしますよー」
 治療活動で尽き果ててしまいましたとさ。
「皆さん、本当に‥‥」
 とうとう蒼唯が頭を抱える。こうなっては、まともに戦えるのは彼女とアンリしかいない。
「‥‥まぁ、冗談ですよ冗談、6割位冗談ですよー。場を和ませる為の小粋なアメリカンジョークですよ」
 どの辺がアメリカンなのかはこの際放っておこう。
 しかしそう言って山田が取り出したのは、武器ではなく、カメラ。桂木のソレのように、超機械になっているわけでも何でもない。
 え、あの‥‥。などとアンリが困惑する中、ふふんと鼻歌を歌いながら山田がエプロンキメラ(?)に近寄る。
 そしてパチリとシャッターを切った。
 え、何、何なの? そんな雰囲気が充満する中、山田はこう考えていた。
「後で本人にネガを売り付け、一儲けの予感です」
 だが相手は、平素よりパンツ姫と謳われ、自称する姫川桜乃。しかも、誰に強制されたわけでもなく、この格好をしている。はたしてそれが、どの程度の脅迫になるのだろうか。
「あ、あの、ボク達でやるしかない、ですよね‥‥?」
「そのようですの。いきましょう」
 こうして、二人だけ(?)のキメラ退治が始まったのである。

●今度こそ戦闘開始
「容赦はしない」
「ごめんなさい、通ります」
 遊んでいるとしか思えない刀らを擦り抜け、蒼唯とアンリがセーター娘に迫る。
 エプロンキメラは‥‥無視することに決めた。
「わーい、遊ぼ遊ぼ♪」
 袖をぶらぶらとさせ、嬉しそうに突進してくるセーター娘。
「敵と馴れ合うつもりはないっ」
 ひらりと蒼唯が回避。アンリも転がるようにして何とか避けた。
 しかし振りむいた先には、もう一匹のキメラが迫っていた。
「必殺! 姫ストリームアタック!!」
 エプロンキメラだ。飛び出すように蒼唯に腕を伸ばし、抱きつく。
「ち、ちょっと、何を――わっ!」
 その勢いに押され、倒れる。その上から姫川が覆いかぶさる形だ。
 まさか、エプロンの構造を知らないものはほとんどいないだろう。そう、背面を覆う部分など、あってないようなものだ。つまり、その背面をもろに見てしまったアンリは――、
「うぅっ!?」
 思わず鼻血を垂らしてしまったとさ。
「騒が死い‥‥」
 溜息と共に本を閉じた石凪が大鎌をぶんと振ってセーター娘を引きつけた。
 アンリは無理やり視線を引き剥がし、垂れる鼻血もそのままに、剣をグッと握る。そしてエプロンキメラは放置し、セーター娘へと突撃を開始した。

「何読んでるの‥‥?」
 いつまでも鼻の下を伸ばして、攻撃されようとも撮影を続けている桂木はそのままに、刀はひたすら本を読み続ける文学少女へと近づいた。背後から顔を覗かせると、彼女の読んでいる本は、何か童話のようだった。
「へぇ‥‥そういう本が好きなんだぁ」
 字面は捉えられなかったものの、適当にそう続けながら刀はごそごそとある本を取り出した。
 どんな本かって? 残念ながら全年齢対象である本報告書に於いて、それについて言及することは出来ない。残念ながら。誠に残念ながら。
 さっと文学少女の本と取り出した本とを取り替えてみる。開いたページは、袋とじの部分。一番オタノシミなページだ。
 しかし顔色一つ変えない文学少女。それもそのはず、彼女らはキメラだ。そういったものに何か反応を示すようには出来ていない。
 代わりに、というわけでもないだろうが。
「あ!? う、ぅ‥‥」
 激しい頭痛が刀を襲った。ひょいと本を取り返した文学少女は先ほどまで読んでいたページを開き、字を追いかけながらのこのことその場を離れる。
 頭痛の正体は、文学少女の放つ怪電波だ。だから、彼女が離れることでそれはすぐに収まった。
 ぶるぶると頭を振って気を取り直すと、刀はにやと笑みを浮かべ文学少女を追いかけた。
「フフ‥‥逃げちゃだめ‥‥」
 逃げる、といっても、まさに歩くような早さ。いや、歩いている。追いつくのは容易だった。
 ニコニコと笑みを浮かべて背後から肩を挟むように掴んだ刀。ちょっとムッとした文学少女が再び怪電波を発しようとするが‥‥。
「ん‥‥」
「‥‥!?」
 その首筋を、刀がちろと舐めた。
 味わったことのない感覚に、少女がびくりと身を縮こまらせる。
「では‥‥快楽に‥‥溺れてくださいな‥‥」
 セーラー服の襟をそっとずらし、透けるような肩を指で弄びながら、刀がその首筋に噛みついた。
 ただ噛みついたわけではない。その犬歯には、特注の武器が仕込まれている。もちろんFFを打ち破り、その肌に突き立てることが可能。
 そこから、血を吸い取るのだ。
「‥‥っ!」
 耳をびくびくと動かし、文学少女が脱出を計る。が、動けない。もがけばもがくほど、刀の牙は深く食い込んでいった。
「おや、これはトドメを刺し、活躍したと見せかけて報酬を得るチャンスですねー」
 山田、遂に始動。
 ハンドガンを手にし、これぞ好機と文学少女にタンタンと弾を撃ち込んでいく。
「あ、あぇ‥‥」
 血が吸われ青ざめた表情に、腹部へ食い込むいくつもの弾丸により涙が浮かぶ。
「ぇ、ぅ‥‥っ」
 攻撃を受ける度に、はじけ飛びそうになるその体を刀は後ろからしっかり捕まえていた。
 どんな気分なのだろうか。どうすることも出来ず、死へ確実に向かっていることが分かる、というのは。
「じゃあ、終わらせますよー」
 血を吸われたからなのか。弾丸によるものなのか。それは、分からない。だが確実に、文学少女は息絶えた。

「おいおい、いい加減にしないか」
 ようやく写真撮影を終えた桂木が、蒼唯から姫川を引き剥が――そうとした。
 しかし姫川は、簡単には離れなかった。いや、桂木がそれを躊躇したのだ。
 彼女は、蒼唯のショートパンツをがっちり握っていたのである。このまま持ち上げたら、下手をすると蒼唯のそれが、脱げてしまう。
「ってか、何してんだよ!」
「パンツをいただこうかと思って」
「帰ってください」
 真面目にキメラを倒したいというのに、何故こんなことに巻き込まれているのだろう。そう思うと自然と泣きたくなってくる蒼唯であった。
 とはいえ、ずっとそうしているわけにもいかない。
「ふふ、どうしたのかしら。遊びましょうよ」
 石凪とアンリがセーター娘を押さえている間に、鞭をビシビシとしならせながらバニーガールが近づいてくる。それもそうだ。置き去りにされているほど、キメラも甘くはない。
 あの鞭に叩かれつつ、桂木はこのバニーガールを撮影していた。という表面上だけの描写になってしまうのは何故か、やはり本報告書は全年齢対象ということで以下省略。少なくとも桂木はまだまだ動ける。それで良いではないか。
 ここまできては、流石に姫川も遊んでいる場合ではない。渋々と蒼唯のショートパンツを離し、立ちあがる。
「わ、私‥‥あっちの対応に回ります!」
 蒼唯が逃げ出したのも、当然だろう。
「遂に、遂にこの時が来たにゃ〜」
 散々やらかしておいて、なおも怪しげな笑みを浮かべる姫川。敵と対峙した今、この上何をしようというのか。今までの行動からして、やりそうなことの方向性はおおよそ絞られてくるが‥‥。
 ま、まさか‥‥!
「説明しよう、エプロンを脱ぐと通常の3倍の戦闘力になるのだ!」
 何をしたかは敢えては語るまい。しかし、この後桂木がほとんど目を閉じたまま戦う羽目になった、と。
 既に想像のついた方にとっては当然お分かりいただけるであろうが、彼女は後に警察から取り調べを受けることとなったのである。
 実際の戦闘はどうだったかというと、二人はふざけてこそいたものの、実力の方は本物であったが故、キメラが鞭を振るうこともなくあっさりと片付いてしまったのであった。

「ぐぅ‥‥っ」
 一方、セーター娘の相手をしていたアンリと石凪の二人。そろってまだまだ駆け出しということもあり、苦戦を強いられていた。
 二人とも接近戦で挑んでいたがために、自分の間合いへ踏み込むことは、そのまま相手の間合いにも踏み込むということだった。
 勢い良く伸ばされたセーターにアンリは吹き飛ばされ、一気に片をつけようと肉薄した石凪は、武器の形状故に、振りきるのに遅れてキメラに取りつかれてしまった。
「あはははは♪ ねぇ楽しい? たのしーぃ?」
 背中に腕を回し、セーター娘は石凪の胸にすりすりと頬を押し付ける。非常に、誠に、羨ましい光景ではあるのだが、その腕力の凄まじさたるや、想像を絶するものがあるのだろう。
 メキメキと悲鳴を上げる石凪の背骨。最早声すらも出せない石凪。アンリは気を失ってしまって立ちあがることも出来ないでいた。
「本日二度目の、その手を離しなさいっ」
 助太刀に現れたのは蒼唯だ。姫川にあれもこれもされていた影響からか若干頬が染まっているようにも見えるが、ここはばっちり気合いを入れて突撃したが故に体が熱くなっていたのだ、ということにしておこう。彼女の名誉のために。
 突き出された大剣の切っ先が敵を捉えることはなかったが、しかし上手くキメラを引き離すことに成功した。
「生きてる?」
「死んではいない」
 短い生存確認の後、二人はそろって武器を構える。若干石凪が苦しそうではあるが、だがまだ、戦えそうだ。
 今アンリを起こしているほどの余裕はない。先にしかけたのは石凪だ。
「あはははは、もっともーっと遊べるね♪」
 セーター娘が耳をゆさゆさと揺らしながら嬉しそうに袖を伸ばしてくる。が、先ほどアンリがやられていたのを見ていただけあり、鎌の柄を上手く振って袖を払う。そして間合いへ踏み込むと、一気に鎌を振り下ろした。
 流石に敵も反応している。この一撃で真っ二つ、とはいかなかったが、抉った肩から腰にかけての斜めの切り口から、まるで鉄砲水のように血が噴き出した。
「ぇ‥‥?」
 痛みを知覚するのに、時間がかかったのだろう。そのキメラが顔を歪めたのは、地に倒れてからのことだった。
「い、あぁぁっ」
 言葉にしたかったのかもしれない。痛い、と言いたかったのかもしれない。けれど、痛いと口にする以上の痛みが、痛いという言葉すらも奪ってしまったのでは、ないだろうか。
 氷狼は、無情にもその前に、出る。いや、情があるからこそ、か。
「た、すぇ‥‥」
 ヒューヒューと掠れた呼吸で、絞り出すように命乞いするキメラ。しかし蒼唯は、許すつもりなどさらさらなかった。
「相手が悪かったわね」
 何もかもが氷。そんな彼女の剣が斬り取るのもまた、少女の、凍りついた表情。
 ごろ。
 血の跡を残して地に転がる少女の首。先ほどまで、あんなに笑っていた表情は、凶悪なほど無邪気に笑っていたあの顔は、今では恐怖に目を見開き、声にならぬ叫びを上げていた。その頬を濡らす涙を拭う手は、もう動かない。届かない‥‥。

 これは、余談であるが。
「あれ、ボク、は‥‥」
 気絶していたアンリは、公園のベンチで目を覚ました。頭を擦り、身を起こす。
 ぼやけた視界が、徐々に焦点を取り戻していく。そこで、捉えたものは――、
「ブ――ッ!?」
 アンリが鼻血を噴き出して再び昏倒したのも頷ける。
 痴態を写した写真でひと儲け出来ると考えた山田が、ほしくずの歌で姫川にいかがわしい踊りをさせていたのだから。
 しかし、それは本当に混乱した姫川が躍っていたのか、本人の意思で踊っていたのか。
 そこまでは筆者にも伺い知れぬところである。