タイトル:【RAL】輸送護衛任務Bマスター:矢神 千倖

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/24 21:23

●オープニング本文


 マウル・ロベル少佐が艦長を務めるブリュンヒルデ、南米を翔ぶヴァルトラウテ。
 ――それらに次ぐ第三のヴァルキリー級艦の建造は、実のところヴァルトラウテ就航後間もなくから開始されていた。
 建造に主に携わったのは、カプロイア社。
 無論、単なる対抗意識によるものではない。
「いずれ必要になるものを今のうちから作っておくのに理由など必要ないよ」
 というのが建造開始決定直後のカプロイア伯爵の言である。
 実際に建造後、『ジークルーネ』と名付けられたヴァルキリー級参番艦はアフリカ攻略の拠点の一つ、アドラールに送られることになった。
 ――それでも伯爵をよく知る者の中には、
「こんなこともあろうかと」
 と言いたげなノリで建造を決めたに違いないという思いを抱く者もいたが。伯爵なら言いかねない。

 それはさて置き、外観の建造が完了した為アドラールへの移送は完了したものの、一つだけ済んでいない工程があった。
 慣性制御装置の搭載である。
 まだ装置はカプロイア社のあるイタリアにあった為、それを輸送する必要があったが――。
 バグアにとって元々自分たちの技術であるそれは、それほど欲しいものではない。
 ただし、人類に使われたくもないだろう。それは過去の彼らの行動の根底にあるメンタリティからも推察出来る。
 故に――上層部は移送に際し、一つの決定を下した。
 本物の慣性制御装置を送る輸送部隊とは別に、それと見せかけた偽の輸送部隊を同時に派遣する――。

「諸君、ルートは把握しているな? 道中よろしく頼むよ」
 イタリアを発って間もなく。護衛対象となるガリーニンの搭乗員が、今回のボディーガードとなる傭兵達に通信で声をかけた。
「こいつは大仕事だ。頼むぜ、しっかりな」
 仕事を仕事、と捉える人間の中には、ただ事務的に仕事だけをこなす者と、気持ちよく仕事をしようと考える者とに大別される。この搭乗員はどうやら後者のようだ。
 もちろん、全員がそうとは限らない。いずれにせよ仕事内容に変わりがあるわけでもないが。
「えっと、一応確認しておくとだな、俺達はイタリアを立って、アドラールっていう、アルジェリアの拠点を目指すわけだが」
 咳払い。
「直線では向かわない。リビア方面の上空を通っての輸送となる。これは敵を撹乱するためだ。ちょっくら長い旅になるが、自分で引き受けた依頼なんだ。文句言うなよ?」
 言いたいのは俺の方だ、などと苦笑交じりに。
 結局のところ、簡単なことだ。
 ただガリーニンに合わせて飛び、護衛すればいい。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
マリオン・コーダンテ(ga8411
17歳・♀・GD
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF
ユーリー・ミリオン(gc6691
14歳・♀・HA
権兵衛・ノーネイム(gc6804
20歳・♂・HA

●リプレイ本文


 ルートはしつこく確認しても無駄ということはない。時間のロスはあったとしても、予定のルートを外れるよりかは遥かにマシだ。
 イタリアを経ち、リビアを経由してアドラールへ向かう。直線で向かうより時間もかかれば、燃料もかかる。しかし、もう一方でその直線を通る輸送班がいる以上、その近くを飛んでいたのでは意味がない。遠回りながらも、作戦上そうせざるを得なかったとも言えよう。当然ながら、本報告書で扱う東回り、また別紙にて扱う直線ルートのいずれかは、敵を欺くために偽物を運搬している。何の偽物かと言えば、ヴァルキリー級戦艦の参番艦に搭載される予定の慣性制御装置だ。具体的に言えば、偽物の方は補給物資を運搬している。よって、到着さえしてしまえばどちらも前線の助けになる、ということだ。
 この東回りなルートが決定された理由は、単純に勢力図にある。アドラールのあるアルジェリアもそうだが、その東のリビアは競合地域。とはいえ、こちらは作戦【RAL】が展開された早期に攻略作戦が始まった。付近にピエトロ・バリウス要塞があることもあり、現在も侵略中ながらも、切迫した状態であるとの情報はない。対して、アルジェリアの西、モロッコは、現在ようやく侵攻作戦が開始されたばかりであり、その上空を輸送するには危険があまりにも大きすぎる。
 そういった理由から、西回りではなく東回りのルートが設定された、というわけである。
 ただ飛ぶだけではあまりにも退屈であるから、輸送艦の乗組員はそんなことをべらべらと話していた。通信を聞きながらでも、レーダーに目を落とせば敵の接近には気づけるため、傭兵達は適当に相槌を打ちながら前方に注意を向けていた。
「敵が来なければ、どういうこともない遊覧飛行だな」
 アフリカを観光で訪れるなど、ほとんどがバグアの支配地となっている現在ではありえない話だ。ゆっくり景色を見ていられるような状況も滅多にないだろう。権兵衛・ノーネイム(gc6804)は、ガリーニンの傍らを飛びながら、柔らかい空気の塊を落とした。
 現在彼らが飛行しているのはチュニジアの上空。アルジェリアとリビアに挟まれた小さな国だ。
 地中海に面した北部には緑豊かな平原が広がり、南下するに従って徐々にサハラ砂漠の銀砂へと景色を変化させる。ただ景色として見るだけならば十分感情に訴えるだけの変容ぶり。世界を飛んでいるという気分を湧かせた。
 この国境を越え、リビアにまで入ってくると完全に一面が砂漠。照りつける太陽は熱く眩しく、コクピット内の冷房を起動させずにはいられなかった。
「暑いわね‥‥。日焼けしちゃいそう」
「ふひひ、もう焼けてるじゃん」
 マリオン・コーダンテ(ga8411)が冗談めかして言ったのを、すかさずドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)が回収する。それを聞いてケタケタと笑ったのは、他ならぬマリオン本人だった。
 なるほど、こういうジョークもあるのか。操縦の片手間に、ユーリー・ミリオン(gc6691)は今のやりとりをメモしておいた。役に立つかどうかは、不明。
「しっ、来ましたわ」
 レーダーに光点を確認したロジー・ビィ(ga1031)が注意を促す。
「1、2‥‥3体を確認!」
「微力ながら全力を尽くす事としよう」
 榊 兵衛(ga0388)機、忠勝。前進。
 その後方にはドゥがつく。
 また、忠勝に並ぶようロジーのシェアーブリスが出る。合わせて、ユーリーも前進した。
 他4名はガリーニン付近で警戒に当たり、万が一に備えることとした。


「いいか、俺達はここで直援だ。迎撃に出た連中を援護しつつも、持ち場を離れないようにな。まぁ本物かどうかはともかく‥‥しっかり運ばねぇとな」
「戦乙女の心臓を守る、と考えるとやる気が何割か増す気がしますな」
 砕牙 九郎(ga7366)の指示を聞きながら、飯島 修司(ga7951)がにたりと口角を持ち上げた。どこから敵が現れるか、またいつ敵が抜けてくるか分からない。いつでも射撃出来る体勢を取りながら、周辺への警戒を怠らない。
 その間、迎撃に出た榊とロジーがイニシアチブを取りに攻撃をしかける。
「まずはこれだ!」
 忠勝の発射管が次々と開き、総勢250発の小型ミサイルが一気に飛び出す。
 目視するにも遠い目標に次々と白線を引いてミサイルが飛ぶ。それを追いかけて、さらに無数の白線が伸びた。
 微笑と共に吐き出されたのはロジーの放つK−02だ。合計で500発。遠方で愉快なほどの爆煙が広がる。
 だがこれで終わりではない。
「ついでにコレも喰らいなさい!」
 直援についていたマリオンも一時的に飛び出し、駄目押しのミサイル。
「手助けくらいはさせていただきます!」
 ユーリー、ドゥも、爆煙からちらりと覗いた影にライフルを撃ち込んだ。
「やったか!?」
 誰かが声を上げた。
 爆煙が収まると、影が3つ飛び出してきた。いずれもHWだ。その形は歪になり、攻撃も効いている様子だ。
「なんだ、これくらいなら‥‥」
 ちょっと安心したように、歯の間からドゥが安堵の呟きを漏らす。
 だが。
「やられた!?」
 通信で飯島が叫ぶ。
「後方に別の反応アリ!」
「あっちは囮か!」
「無駄撃ち、とは思わないけども‥‥」
 砕牙やロジーの悔しそうな声が通信に流れる。
「ガリーニンに傷一つつけさせはせんよ」
 ぐるりと機体を反転させた権兵衛。しかし冷や汗伝うその表情が凍結した。
 自分では手に負えないと判断したからだ。
「タロス、3体‥‥」
「セコい手使ってくるじゃないの」
 震えるマリオンの下唇。思わず冷たい吐息が溢れた。
「くっ、俺がそっちに――おわっ!」
 迎撃に出ていた榊が反転しようと機体を揺らしたところへ、HWが一斉に攻撃をしかけてくる。
 タロスの対応に回りたくても、これでは思うように動けない。
 被弾、下手をすれば撃墜も覚悟で救援に向かうか、しかし‥‥。
 その時、HWの1体が黒煙を上げて砂の大地へと落ちていった。
「相手が手負いなら、倒した方が早いでしょう」
 言葉の証明を、行動で示したのはユーリーだ。彼女の一撃が、HWにトドメを刺したのだ。
 あれだけミサイルの雨を受けたのだから、全力で挑めば、もしかしたら。
「少しだけ、持ってくれよ」
 迫るHWに照準を合わせ、榊がブーストをかけた。

「この場は足止めを」
 ぐいと機首を持ち上げ反転した飯島の機体が、先に榊らが使用したものと同じ、のべ250発のミサイルを撒き散らした。
 畳みかける。いかに攻撃を叩きこんだとはいえ、回復能力のあるタロスを放っておくのは得策とは言えない。現段階、広域視点に切り替えたレーダーに他の反応は見られない。今のうちに打撃を与えておかなければ、ただの時間稼ぎにしかならない。
「通行止めだ。帰ることだな」
 煙の中からタロスが姿を現す。多少は怯ませることが出来たようだが、それでも互いの距離はぐいぐい詰まってきている。
 権兵衛はこれ以上の進撃を食い止めるためミサイルを放つ。だが、正面からの攻撃を繰り返していては、いかに相手が無人機だとしても学習され、かわされてしまう。
「なら、勝負をかける!」
 ぐんとブーストをかけて接近する権兵衛。
 しかし権兵衛に、飛び出したタロスの剣が一斉に襲いかかる。
「ぬぉぉおおおッ」
 悪あがきのようにレーザーバルカンを撒くが、狙いが定まらない。
 タロスが、権兵衛のNロジーナの翼をもいだ。
 コントロールを失い、栓の外された風船のようにふらふらとただ前進するその機体。一足遅れて進んできたタロスが、斬るでもなく、撃つでもなく、殴った。突き上げるアッパーに機首を持ち上げられたNロジーナは、完全に方向性を喪失。無茶苦茶な回転をしながら、砂漠に落ちてゆく。
「よくもやってくれたな!」
 コンソールを殴りたくなる衝動を抑え、砕牙が叫ぶ。タロスの修復は既に始まっている。
 墜ちた権兵衛は気になるが、今は目の前の敵を抑えねばならない。
「白薔薇‥‥参ります!」
「遅れました!」
 ロジー、ユーリーのペアが到着する。視線を移せば、他方で榊が最後のHWを落としているところだった。
 これ以上近づけてはならない。飯島がSRを放ち牽制する。
 ガリーニンの傍ら、マリオンがショルダーキャノンでタロスの装甲を弾けさせた。
「K−02は、もう1セットありますわよ。出し惜しみしている場合ではありませんわね」
 発射管を開き、白薔薇のロジーが不敵に笑む。飯島もそれに呼応した。
 K−02小型ミサイルは、全部で500発を搭載。1度の発射で250発のミサイルを撒き散らすものだ。つまり、彼女らはもう1度撃てる。
「俺も混ぜてもらおう」
 さらに榊、ドゥの合流。ガリーニンの付近から砕牙がミサイルを放ち、タロスの気を引く。
「さぁ、こっちだ、こっちだ!」
 ブーストをかけ、さらにバルカンを発射しながらタロスの標的となる。フェザー砲の砲門が砕牙の爆雷牙に向けられた。
 だが、高度を上げたユーリーがミサイルを放つ。1体の気を逸らした。
 残る2体のフェザー砲が放たれ、装甲を焦がした雷電の中で砕牙が苦悶の声を上げる。
「すまない、だが、チャンスだ」
「邪魔、でしてよ? お帰りなさいな」
「いただきだっ!」
 合計で750発のミサイルが砂漠の空を彩る。白線の中に紛れ、ライフルの弾丸等も飛んでゆく。そしてもう1つ、大きな影も。
 地を震わす大爆発。
 いかにタロスといえど、即反応というわけにはいかない。
 ドゥは、1体が確実に落ちたことを確認していた。もくもくと膨れる爆煙の中、それを確かめられたのは、もちろん至近にいたからだ。
「このチャンス、見過ごせるか!」
 スカイセイバー、スパーダが人型に変形する。煙の向こうに捉えたシルエットに対し、SAMURAIランスを振りかざし、突き立てた。
 バチリ、とタロスの装甲から火花が飛び散ったのを確認し、再変形してドゥが飛び去る。
 爆煙から飛び出したドゥ。だが、それを追いかける最後のタロス。
「し、しつこいっ!」
 ほとんど装甲も剥げ落ちているが、最後のあがきか、剣を手に恐るべき速度でドゥに迫る。
「何もしないと思わないでほしいわね」
 そのタロスを砲弾が弾き飛ばした。マリオンがショルダーキャノンを放ったのだ。
「いいでしょう、終いにします」
 至近に迫った飯島がオメガレイをこれでもかと撃ち込む。
 装甲を失い、丸裸のタロスではこれには耐えきれない。
 その体が真っ二つに折れたかと思うと、ただの黒ずんだ何かと化して、それは落ちていった。


 ガリーニンへの被害はなかった。多少危ない場面はあったものの、KVが上手く敵の射線を遮っていたおかげで被弾を免れたようである。
 そのガリーニンは無事目的のアドラールに到着となった。
 その道中では、権兵衛が付近のUPC軍によって救出され、意識不明かつ身体を激しく損傷してはいるが、しかるべき医療施設へ即搬送、恐らく命に別状はないだろう、という通信が入った。
 傭兵一同、ひとまずは安心である。
「結局、ユーリー達のはどちらだったのですか?」
 機体を降りたユーリーは、ガリーニンの搭乗員に尋ねてみた。開かれたコンテナからはどうにも大がかりなものが運び出されているようであるが。
 偽装であるならば、補給物資である可能性も高いが。
 その搭乗員は、自分たちにも本物かどうかは知らされていないと答えた。だが、その真偽はすぐ明らかとなった。
 物資にかけられていたビニールが剥がされる。なんとも巨大な機械だ。ユーリーにはそれをどう表現したら良いか分からない。とにかく、ただの物資ではないだろうということに関しては確信が持てた。
「届いたぞ、慣性制御装置だ!」
 誰かが叫ぶようにして報告。にわかに周辺で歓声が湧きあがった。
「本物だった、というわけですね」
「あぁ、あんたらのおかげさ」
 にこやかに呟いたユーリーに、その搭乗員だった男は礼を述べた。
 視線を移した先には、人類の新たな翼が眠っている。飯島曰く、心臓を待つ戦乙女が。人形のまま、生まれるその時を待っていた。
 間もなく胎動が始まる。
 鼓動が‥‥。
「ジークルーネさ」
 誰かが呟いた。
「ほう‥‥」
 飯島が顎に手を当てる。
 それがこのヴァルキリー級戦艦の名。
 人類の新たな武器の名。
「良い名ですね。守った甲斐があったというものです」
 実際に護送した飯島としては非常に満足気だ。ユーリーもこくこくと頷いた。
「あたた、ちょっと無理しすぎたな」
「かっこつけすぎたかなぁ」
 その脇では砕牙とドゥが被弾や無茶な動きで負った傷の手当てを受けていた。戦闘中に一瞬はかっこよく映った彼らだが、何だかこうして見ると締まらない。それがおかしかったのか、マリオンはぷっと吹き出した。
「三枚目、ですわね」
 ロジーが笑む。
 それと同時に、ギュッと包帯を締められた砕牙とドゥが小さな悲鳴を上げた。


 間もなく動きだすであろうジークルーネ。
 艦長含め、乗組員は続々と決定しつつある。
 人類の切り札となりえるか、それはまだ分からない。
 筆者は本報告書をまとめるに当たり、命を削ってでも守り抜かれたこの戦乙女の心臓が、多くの命を救うことを願わずにいられなかった。
 翼となれ、ジークルーネ。気高きその名に恥じぬよう。