●リプレイ本文
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「‥‥ちっ。またあの小娘か」
敵の外見的特徴の報告を聞いたグロウランス(
gb6145)は忌々しげに吐き捨てた。大きな黒馬に跨った、やたら露出の多い少女。それも狐型のキメラを従えているとなれば、相手は決まったようなものだ。
「あの騎士は‥‥いないのか?」
以前その少女が現れた際にはもう1人、鎧の男がいたはずだ。首を左右に振ることで返答を受けた漸 王零(
ga2930)は、そうか、と少々残念そうに漏らした。
「とりあえず、前回のリベンジだな」
それと聞くや、やる気を見せたジン・レイカー(
gb5813)。グロウランス、そして漸と共に、以前彼女の出現に出くわした彼は、あの時痛手を受けたグロウランスとはまた別の意味で、痛い思いを味わわされていた。やられたのなら、やりかえす。こうすればいつかはまた遭遇するだろうと近辺での護衛任務などを受けていた彼は、リトライのチャンスにありつき、今度こそ倒そうとやる気を漲らせていた。
頭に疑問符を浮かべ、口を開いたのは守剣 京助(
gc0920)だ。
「なんの話をしてんだ?」
至極尤もである。
アイリーンだ、と漸が彼女の名だけを答える。
その先をジンが引き取った
「バグアだ。強化人間じゃなくて、ヨリシロ。やたら身軽で、ちょっとやそっとのことじゃなかなか攻撃が当たらないんだ。馬の方はグロウな」
面倒くさそうだ、というのが守剣の感想だ。
「面倒くさいだろう?」
グロウランスが苦笑する。
その脇では、ブラウニーを口へ運びつつ赤月 腕(
gc2839)がアイリーンやグロウのこととはまた別の方面へと思案を巡らせていた。何より、相手の3方向から攻めるその作戦。他に何か仕込んではいないか、という不安が、予防線の一手を講じさせていた。
しかし何ら策が思い浮かぶこともなく、ほどなくして彼らを運ぶジープは目的の地へ到着した。
「左右半々に展開してくれ。くれぐれも前には出るなよ?」
飛び降りるなり待機していた兵にジンが叫ぶ。
敬礼と共に、兵達がばたばたと慌ただしく展開を始めた。
「正面は?」
「後でいい。とにかく、左右だ」
情報では正面の敵がこちらに到着するまで若干の時間的余裕がある。それまでは左右から迫る狐キメラをなんとかしよう、というのが作戦だった。
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「へぇ、あっそ、あたしは無視ってわけね。じゃ、ちょっと脅かしちゃおっと」
呟き、アイリーンはニタと口角を持ち上げた。
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「これより先には進ませないよう頼む!」
正面に対し、左側に展開した宵藍(
gb4961)が叫ぶ。兵達は彼ら傭兵の背後から援護射撃することに専念しろ、とのことだ。そもそも、能力者でない彼らに、前に出ろというのも酷な話だ。だから彼ら兵に出来ることといえば、敵の足止めだろう。
狐キメラがすぐそこまで迫ってきている。合図と共に兵達が一斉に射撃を開始した。併せ、宵藍もSMGのトリガーを引く。
「おい聞いたか、敵の中に下着姿の女の子がいるってよ」
「ヒュー。そいつぁ是非とも拝んでみたいね」
銃声飛び交う中、兵のそんな声を聞きとった御影・朔夜(
ga0240)は銃口をキメラでなく彼らの脚元へ向け、放った。
着弾の衝撃で砂が舞い、彼らと付近にいた数名の兵の眼を襲う。
「無駄口を叩くな。‥‥戦う気がないなら退けよ」
「そうかい。じゃあ俺ぁ抜けさせてもらうぜ」
「俺もだ。早く眼洗わねぇと変な病気になっちまうぜ」
「ゴーグルくらい支給しろってんだ」
口々にそう言いながら、兵が7名ほど撤退してしまった。
「何をしてるのですか、戻りなさい」
ティーダ(
ga7172)が叫ぶが、彼らは聞こえぬふり。いずれにせよ、失明の可能性がある。それにその状態で銃を扱うにしたって、上手く狙いをつけられるわけもなかった。
「どいつもこいつも!」
苦虫を噛んだような表情を見せながら、グロウランスが銃撃。
言葉を投げても無駄だ。ティーダも拳を構え、キメラの中へと飛び込んでいった。
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右側に展開した赤月が銃弾をこれでもかと吐き出していった。
銃撃がメインの左側と違い、こちらはそのほとんどが近接攻撃者だ。飛び出そうとするジンと漸。だがそれを、守剣が止めた。
「まぁまずは俺に任せなって。おい、援護頼むぞ!」
ワルキューレを振りかざし、狐の群れへ駆ける守剣。
「大丈夫なのか?」
「考えがあるんだろう」
「だろうな。じゃあ、突撃の用意だけしておくか」
ジンと漸は剣を構えて姿勢を低くし、踏み出す姿勢を取る。
その脇では、兵や赤月らが守剣を援護する弾幕を形成していた。
「はっはー!」
群れの真ん中。あちこち噛まれたり引っかかれたりしながらも、なんとか目的地に到達した守剣は、手にしたワルキューレを地に叩きつけた。
舞い上がる砂塵。吹き飛ぶ狐。
彼の十字撃が炸裂したのだ。
「これか」
「やってくれるな。我らも上がろう」
ニタと笑みを浮かべ、赤月は弾倉を取り変えた。
漸は魔剣を引っ提げ、手近に転がるキメラに斬りかかる。他方では、ジンが飛びかかってきた狐キメラを屠っていた。
「馬が突っ込んでくるぞー!」
声が響いたのは、丁度そんな時だった。
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グロウ突撃の知らせに真っ先に飛びだしたのは漸だ。その手に握る魔剣を大きく掲げる様子を見た者は、皆狐キメラと距離を取って目を閉じた。
強烈な光が広がる。漸の閃光手榴弾が起動したのだ。
――ッ!?
それをまともに受けたグロウが前足を振り上げ嘶く。これは効いている。
「姫の首貰い受ける」
落馬したであろうアイリーン。転んでいるなら確実に一太刀入れることが出来るはずだ。
だが‥‥。
「な、どこだ!」
いない。
グロウの背にも、地にも、彼女がいない。
「ぬぐぉッ」
気づくと、漸は暴れたグロウに叩き伏せられていた。砂に片腕がすっぽりと埋まる。
ぶるる、と鼻を鳴らしたグロウは視界が戻ってきたのかさらに突撃を始めた。
「馬、貴様には(一方的な)運命を感じる! ここでこの(一方的な)因果に、決着をつけさせてもらおう!」
左翼を他に任せたグロウランスが、武器を大鎌に持ち替えグロウに迫る。名前が被っていることがよほど気に入った(?)らしい。
脚を薙ぐように鎌を振るうが、グロウはそれを軽々と飛び越えた。
やはり1人では無理がある。
「漸、早く起きろ!」
「言われずとも」
頭を振り振り、漸が魔剣を握り直しグロウに追いすがってきた。
「どこだ、アイリーン!」
彼女にちょっとした因縁のあるジンは、グロウの走った跡に立って叫んだ。アイリーンはグロウに跨って迫って来ていたとの情報がある。きっとどこかにいるはずなのだ。
どこかに――。
「はぁい、お久しぶり♪」
むぎゅ。
そんな効果音が聞こえた気がした。同時に、背中に感じるいくらかの質量。頬に冷たくも妙なぬくもりのある何かが、ふにっとくっついた。
眼だけ動かして確認すると、そこに人の顔らしき何かがあるのが分かる。
「ぬあぁあああッ!?」
バッと振り向き、距離を取るジン。そこにいたのは、他ならぬアイリーンだ。
「い、いつの間に‥‥」
「えー、割とさっきからいたよ。てーか、あたしがその気だったら、死んでたよ、君」
キシシ、と歯を見せてアイリーンが笑った。
「グロウのお腹に回ってたの。こう、背中に腕と脚回してさ。結構姿勢維持するの大変だったんだよ? 途中グロウが暴れちゃってさー、落ちるんじゃないかって思ったね。もう1回走りだした時にひょいっと降り――」
「お喋りは!」
背後に迫っていたティーダがその拳を突き出した。
が、咄嗟にしゃがんだアイリーンにかわされてしまう。前のめりになったティーダは、そのままアイリーンに引っかかってずっこけた。
「奇襲する時は、声出さない。基本よ、基本」
おかしそうに笑いながら、その手に持った棍でティーダの肩をこんこんと叩く。
バシッとそれを払ったティーダは立ちあがり、口に入った砂を吐きだした。そしてジンと並び、武器を構える。
「あら、怒っちゃった? やだやだ、そんなんで熱くなっちゃダーメっ」
「うるさい!」
ジンが剣を振り上げた。が、その剣は振り下ろされることなく、地に落ちることとなる。
「ふふっ、じゃーね♪」
その隙にアイリーンが2人の前から逃げ出した。慌てて追いかけようとしたティーダだが、その肩を激痛が襲う。
ジンの手首、そしてティーダの肩には、アイリーンの引き連れていた狐が噛みついていた。
正面から迫る狐を戦力として勘定しなかったが故の失敗だと言えよう。
見張り台として積み上げられた木箱に立つ物見兵を棍で叩き落としたアイリーンは、入れ替わりに木箱に登った。そして2mはあるその棍を、木箱に突き立てる。棍がしっかり固定されたことを確認したアイリーンはにんまりと笑みを浮かべ、すっと大きく息を吸って手を振り上げた。
「はぁい、皆さんご注目ー。狐ちゃん達はちょっと休憩ー」
ビクりと反応した兵や傭兵がアイリーンに視線を向ける。同時に生き残っていた狐キメラは距離を取り、攻撃を中断した。
視線が集まったことに満足気な笑みを浮かべたアイリーンは、その脚を棍に絡める。そしてトンと木箱を蹴って棍の先まで昇ると、棍を両足で挟んだままするすると降りた。着地するや、棍を握りM字の開脚。併せて、ベビードールの肩かけ部分を片方外したり何だり。
音楽のないストリップポールダンスだ。
女っ気のない前線の兵に、これはたまらない。攻撃せねばならないが、アイリーンが気になって仕方ない様子。
「役立たずめ」
御影は吐き捨てながら、アイリーンに見とれる兵達の脚元を次々と撃ち、左翼に展開していた兵全員を退却させてしまった。
その隙を狙い、いつの間にか「待て」を解除された狐が御影に飛びかかる。しかしそこは熟練の傭兵。銃底でキメラの眉間を殴りつけ、地に伏したところを撃ち抜いた。
「やりすぎじゃないですか!」
左翼に広がる最後の狐を刀で斬り上げ、宵藍が怒鳴った。
御影は鼻を鳴らすことすらなく、その銃口をアイリーンに向けた。
弾丸が放たれる。が、アイリーンはクルリと棍の周りを回って回避。べー、と御影に舌を出した。
「まぁ良い。貴様には解らんだろうが、此度も遊んでやるよ」
「ちょっと、1人で‥‥!」
新しい煙草に火をつけた御影がアイリーンとの距離を詰めた。宵藍が慌てて後を追う。
その頃、丁度右翼でも狐キメラが全滅していた。
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グロウの相手をするグロウランスと漸は、優位な戦況を展開していた。
側面から挟むような位置取りを意識した2人は、横への攻撃手段を持たぬグロウにいくつものチャンスを得ていた。
1人で相手していたのでは難しかっただろうが、2人いるとなると違う。グロウが向きを変える時に2人して動くことで、馬の攻撃をほぼ完全に遮断していた。
「キメラ如きに手間取っているわけにもいかぬのでな」
漸が斬りかかる。前進することでギリギリの回避に成功したグロウだが、目の前には置くようにして構えられたグロウランスの鎌が待っていた。
勢いを殺せず、前足を1本削ぎ落とされるグロウ。バランスを失い、横転した。
「たしか、グロウといったな‥‥いい馬だ」
眼前に立った漸は、魔剣を翳して呟いた。
「一度でいいから、乗ってみたかったな」
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いつまでも踊っていたって仕方ない。
木箱から棍を抜いたアイリーン。その太腿で、弾丸が弾けた。淡く赤い光が走る。それは、赤月のライフルから飛び出したものだ。
「派手にいくぞ!」
勢いづいた赤月がさらにトリガーを引く。
「そうそう、狙いは、的が大きくて、動き難いところを狙うんだよねー」
ケタケタと笑ったアイリーン。1発目は不意打ちだったことで若干のダメージを与えられたが、2発目以降の攻撃はひょいひょいとかわしてゆく。
よっ、と声を上げて木箱から飛び降りる。着地の瞬間を襲ったのは御影だ。
「これも避けて見せろよ」
気配を消した御影が弾丸を放つ。だが、地に脚がつくと同時に側転したアイリーンに避けられてしまった。
「不意打ちはいいんだけどさー、通用するのは最初の1回。分かった? あと、奇襲は声出さずにやるの」
「だったら正面からだ!」
ぐんと迫った守剣が剣を振り下ろす。
軽いステップでアイリーンは回避。
「チャンス!」
だがそこに待っていたのは宵藍の剣。
閃く合金に腕を掠められ、忌々しげに舌打ち。
続いてジンが襲いかかった。
「これで‥‥!」
横薙ぎの剣には、後方へ下がっての回避行動。
「見逃しません!」
「やぁッ」
さらにティーダの拳。
今度こそまともにくらったアイリーンが華麗に吹き飛ぶ。彼女が木箱に激突すると、積み上げられたそれがばらばらと彼女に振りかかった。
おぉ、と兵がどよめく。彼らには、傭兵達の一瞬の連携が捉えきれていなかったことだろう。
木箱の隙間から手が伸び、体を引きずるようにしてアイリーンが顔を見せた。
「トドメなら!」
宵藍が刀を手に距離を詰める。が、急に片足が撃ちつけられたような感覚が彼を襲う。
「――!」
声にならない叫びを上げて、倒れた。宵藍の右足がただれている。アイリーンが銃を放ったのだ。
誰の目にも明らかなほどの怒りを滾らせ、アイリーンがふらりと立ちあがった。彼女のベビードールはぼろぼろ。ショートパンツも破け、膝のあたりに引っかかっている。ショーツは‥‥無事だ。一応。
そしてくわと目を見開くと、無言のまま突撃。
「くっ」
突き出された棍を銃でガードする御影。だが、勢いを抑えきれずそれを取り落としてしまった。
反撃の隙なく繰り出される攻撃。
「彼女も犠牲者なのかもしれないが、同情する気は無い」
そこを狙い、赤月が弾を放つ。
背に弾丸を受けたアイリーンが怯む。
「‥‥遅い!」
迅雷の連続使用、通称縮地で背後を取ったティーダが一撃を叩きこむ。
「声出すなと言った!」
が、棍を突きだされ、ティーダが沈む。
その隙に御影が銃を放った。
脇腹に銃撃を受けたアイリーンが苦悶の声を上げる。
「終わりにする、アイリーン!」
ジンが彼女の肩口を斬りつけた。
パッと赤い光と血が弾ける。
「あぁぁァァアアアアアッ!」
耳障りなほどの悲鳴。今のは相当効いたはずだ。
が、そこでアイリーンが消えた。
「な、瞬間移動‥‥」
守剣が呆けたように声を漏らす。
バグアの能力の1つ、瞬間移動。大打撃を受けた彼女は負けを悟り、撤退したのだろう。
「‥‥ふぅ、もうちょっとだったんだが」
ジンが悔しそうに血ぶりする。
だが施設への被害は、穴をあけられた木箱が1つ。あとはそれが崩れただけで被害はなし。
依頼は成功と言えよう。
「馬を始末してきた。そっちは?」
「逃げられた」
合流したグロウランスが首尾を尋ねるも、結果は見ての通り。
「帰るぞ」
御影が煙草を吹かしてジープに乗りこむ。
勝利への歓声と御影へのブーイングが響く中、彼は涼しい表情を一切崩さなかった。