タイトル:【AP】くらりー君マスター:矢神 千倖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/17 03:19

●オープニング本文


 この日、ちょっとした騒ぎが起きていた。
 場所は、UPC欧州軍大佐、スコット・クラリー(gz0393)の預かる基地の中――。

「よーへいをよべ」
 目にかかるほど深く帽子を被り、袖も裾も身の丈に比して長すぎる軍服。ちょっと回りきらない舌でそう命じたクラリー大佐は、いつもの司令室の椅子に腰かけて手近な者に命じた。
 ぶんぶんと腕を振りまわす度に袖が風車のように回り、なんだか見ていて微笑ましい。
「よばないとしょけーするぞー」
「あの、大佐、傭兵さんを呼ぶのって、実は色々と大変で――」
「いーまーすーぐーよーべーよー!」
 皆様お気づきの通り。今クラリー大佐は、普通の状態ではない。
 何がどうなったかは分からないが、大佐は年齢後退してしまったようだ。ざっと30歳分ほど。今ではわがままなお子様になり果てている。
 この状況を見た誰もが思った。

 バ グ ア の 仕 業 だ !

 とはいえ、現状では何とかする方法もない。
 本部に相談しても冗談だと相手にされないことは目に見えている。ならば、様子を見るしかない。
 だが周囲が軍人ばかりなのがちょっと嫌だったのか、何なのか。大佐――いや、くらりー君は傭兵を呼べと言って聞かない。
 何とか説得しようにもダダをこねるばかり。
 困り果てた基地の者は、結局お守として傭兵を呼ぶのだった。

※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。

●参加者一覧

百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
ロシャーデ・ルーク(gc1391
22歳・♀・GP
鹿島 行幹(gc4977
16歳・♂・GP
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA
ジェーン・ジェリア(gc6575
14歳・♀・AA
アルフェル(gc6791
16歳・♀・HA
ティム=シルフィリア(gc6971
10歳・♀・GP

●リプレイ本文

●まずはご挨拶
 基地に到着した傭兵達が通されたのは執務室。スコット・クラリー大佐がほぼ常駐する部屋だ。棚にはぎっしりとファイルが詰まっている。もちろん外部の者が気安く手にしてはならないものもいくらかあるのだろう。
 部屋に置かれたちょっと偉そうな椅子に腰かけていた人物が腰を上げる。彼こそ、クラリー大佐に違いない、のだが‥‥。
「大佐‥‥まさか」
 彼と面識のあるロシャーデ・ルーク(gc1391)はショックを受けたようだ。依頼の内容を見てきたであろう彼女の唇が小さく震える。
 ツカツカと大佐に詰めより、その肩を掴んだ。そして強く揺さぶり、こみ上げるような思いをそのまま、言葉にする。
「私と同郷だったなんて」
「そっち!?」
 居合わせた傭兵がそろいもそろってツッコミを入れた。ロシャーデは今まで気にかけていなかったようだが、クラリー大佐はフランス出身。彼女と同じ国の生まれなのだ。それを知って衝撃を受けた、といったところだろう。
 だが、反応すべき場所はそこではなかった。

 すこっと・くらりー君。9歳。

 どういうわけか、子供になってしまった彼である。今回呼ばれた傭兵達の仕事というのは、彼のお守、ということであった。
「おぉ? 何を言っているかわからないけど、みんなよくきたな! 今日はよろしくたのむぞ」
 どこか舌の回りきらない様子で大佐が袖を振りまわす。
 すっとその脇へ寄ってしゃがんだ百地・悠季(ga8270)は、長すぎる大佐の袖を巻くってやった。曰く、将来の予行演習。
「美味しい料理を作るお姉さんよ、宜しくね」
 にこやかに笑んで見せた百地。いつか自分に子が出来た時のことを思い浮かべているのだろう。表情は柔らかく、暖かい。例えば、お弁当を作ってあげたり。時には一緒に何かを作ったり。料理には自信があった。だから「美味しい」と言って嬉しそうに手料理を食べてくれる、そんなまだ見ぬ我が子の姿がふっと脳裏に浮かんだのかもしれない。
 照れたのだろう。母のような振る舞いに対してくらりー君は頬を薄く染め、百地の腕を振りほどくとそっぽを向いて鼻を鳴らした。
「‥‥可愛い」
「生意気盛りね」
 何故か袴姿の月城 紗夜(gb6417)がぽつりと呟いた横で百地が小さく笑んだ。どこか氷のような、冷たい印象を与える風貌の月城だが、どうやら子供好きの様子。人はみかけに寄らないものである。
 ごほんと咳払いし、大佐は後ろに手を組んで傭兵達へ向き直る。
 ‥‥異様な圧迫感。当然だ。大佐は今や9歳。周囲の人間が大きく目に映る。大佐というのはとっても偉い立場のようであるから、逆に自分が圧迫感を与えねばならない。と、くらりー君は考えたようで。
「よっと」
 机に上った。
 高所からの視点に移ることで、圧迫感からは解放された。むしろ自分が見降ろしているので、何だか気分が良い。
 しかし――。
「降りなさい。机は上に乗るものじゃないわ。行儀が悪い」
 ロシャーデがぴしゃりと叱った。でも、と言いかける大佐に対し、皆まで言わせず「口答えしない」と被せるロシャーデ。なるほどこうやって叱るのか、と百地が小さく頷いた。
 渋々机を降り、大佐は改めて傭兵達を振り返った。
「今日は、わたしがしょくんとじきじきに遊んでやろうということでよんだのだ。さぁ、まずは何をしようか」

●クッキーを作ろう
「あたしジェーン!よろしくねっ、たいさー!」
 月城や百地のアイデアで、まずはおやつを作ることにした。もちろん、作ってあげるのではなく、大佐と一緒に作ろうというものだ。当然この基地にも厨房は存在し、そこを借りて作ろうということになったのである。
 その厨房へ移動する最中、何だかんだで自己紹介する機会を逃してしまったジェーン・ジェリア(gc6575)が、くらりー君の肩に「たいさ」と書かれたワッペンを貼りつけた。大佐と呼ばなければ怒られる。夢ならではの何故か漠然と把握出来てしまうイメージからか、間違って名前で呼ばないようにしようという、彼女なりの工夫だった。大佐は大佐で、「おぉ、かっこいいな!」と言ってお気に召した様子。
 年齢にしてもいささか元気過ぎるジェーン。だが、だからこそもしかしたら、今の大佐とはソリが合うのかもしれない。打ち解けるのにそう時間はかからなそうだ。
「今日一日、身の回りの‥‥お世話を、仰せ仕りました‥‥宜しく、お願いしますね‥‥あ、アルフェル(gc6791)と、申します‥‥」
「私も。立花といいます。お会い出来て光栄です」
 対照的に控えめに挨拶したのはアルフェルと立花 零次(gc6227)だ。静かな雰囲気がそのまま大人として写ってしまうのが、今の大佐。
 つまり、それと対等に振舞うのが大人への階段を登る第一歩と考えたのだろう。
「うむ、おーしゅーぐんたいさのすこっと・くらりーである。よろしくたのむぞ」
 軽く胸を張ってさっきもしたような自己紹介。言っている内容は確かに普通であるし、大人でも言いそうな形のものであるが、やはりちょっと舌が回りきらない感じが子供らしい。
 それがおかしかったのか。アルフェルはくすりと笑った。
(アルフェルがこの調子なら‥‥大丈夫かな)
 子守の経験がないという鹿島 行幹(gc4977)だったが、共にこの依頼(?)を受けたアルフェルの様子を見て少し自信が出た様子。彼女に負けないくらい、上手くやってみせよう。彼はそう思った。
 もうすぐ厨房へ入ろうかというところで、一行の最後尾を歩いていたティム=シルフィリア(gc6971)がぼそりと呟いたことは、誰にも聞こえていなかっただろう。覚醒すると背が縮む体質。子供になってしまった大佐に親近感が湧いたなど、子守として来ている身の上で聞かれなかったことは幸いだろう。
 何故か? 彼女も子守の対象になってしまうからだ。ここには親のような、兄や姉のような、世話焼きがごろごろと集まっているのだから。
「思ったよりはマシな厨房だな」
 満足そうに月城が笑んだ。そもそもおやつを作ろうという話に一切の不服なく飛び乗った彼女。その背景には彼女自身のアルバイトが絡んでいるのだが、それはまた別の話。とにかくおやつを作るにしても申し分のない設備がそろっていた。夢だから当然かもしれないが。
「クッキーを作るのよね。手伝うわ。大佐、まず手を洗いなさい」
「ぬぅ‥‥」
 どうやらロシャーデに対して恐怖を抱いてしまったのか、それとも反発したいのか。手を洗うという簡単なことにしても、彼女の言葉に逆らいたがる大佐。
 しかし突き刺すような視線に射とめられたくらりー君には、渋るにも限界があった。不服そうな呻き声を上げながら蛇口を捻り、手早く手を洗う。
 アルフェルが材料の計量を、月城や百地らが混ぜ合わせるなど、製作は上手く分担して手際よくこなしていった。クッキー作りの知識がないロシャーデなどは手順を理解している者から教わりながら、各所を手伝っていった。
「ふむ、めんどうくさい‥‥」
 かくいう大佐ももちろん手伝っていたのだが、ボウルの中身を混ぜ続けるという能力者にとってみれば造作もない作業。だからこそ大佐にとっては退屈なものに感じた。
 ギロリ、とロシャーデが目を光らせたことを察知したのだろうか。彼女が口を開く前に、ジェーンが口を開いた。
「でもきっと、型抜きになれば楽しいよ!」
 ちょっと唇を尖らせたくらりー君の隣へ回り、月城が言葉を続けた。
「ハートや星、犬の形などもあるが大佐はどの形が好きなんだ?」
 その手には型容器。様々な形の型容器が並んでいる。
「タンポポがいいな!」
 タンポポ。その形に似たものは、大佐の胸にあった。その勲章の形が、タンポポそっくりなのだ。だが、タンポポの型などない。
 それなら、と手を出したのはジェーン。
「こうして‥‥」
 丸い型容器を掌に乗せる。
「ここから外側に向かって、ナイフで切りこみを入れればどう?」
 つまり生地を丸く型抜きし、後はナイフで花弁の形を整えてやればいい。
 なるほど、と声を上げた大佐。いざ型抜きとなると、タンポポクッキーをこれでもかと大量に作ってしまった。
 焼き上がるまでは大して時間もかからない。ほんのちょっと雑談をしていたらあっという間に焼き上がってしまった。
 大佐の作ったタンポポクッキーはどうなっていたかというと、切りこみが深すぎたり浅すぎたりで、歪な形になってしまった。
「まぁ、今度は上手く作れるよう、一緒に頑張りましょうね」
 そんな百地の励ましに大佐は頷き、クッキーを食したのである。

●Sneaking Mission
 おやつで腹の膨れた一同は、夕飯まで鬼ごっこを行うこととした。しかしこの大佐、ただ鬼ごっこと言えば渋るのは既に目に見えている。そこで彼ら傭兵達が考えたのは、遊びの名を変えることだった。

 その名も、スニーキングミッションごっこ!

 ルールは‥‥説明するまでもないだろう。普通の鬼ごっこだ。ただし鬼は交代制でなく、捕まったら鬼の仲間となるもののようだ。
 ちなみに鬼は大佐。スニーキングミッションという響きに惹かれ、自ら鬼を買って出たというのが真実ではあるが。
「さて、ミッションかいしである」
 壁に顔をつけて1分待機した彼は、逃げた確保対象を探して歩き出した。
 まずはおやつを食べていた食堂を発つ。恐らくここにはいないだろうという勝手な推測だ。
 廊下をこっそり、足音を極力鳴らさないようにしながら歩く。角に行き当たる度に壁に背中をつけ、様子をそっと伺う。そして先へ進む、という行程を繰り返した。
 最初に見つけたのは立花だ。角からひょこっと顔だけ出して曲がった先の廊下を覗き込むと、相手は彼に背中を向けて奥の方を警戒している。チャンスだ。
 姿勢を低くし、こっそりと背後から迫る。
「ハ――ッ!?
 さすがに気配を感じたか、立花が振り返ったがもう遅い。すでに大きく踏み込めば届く距離にまで詰まっていたのだ。
 ぐっと飛び出した大佐が、立花を押し倒す。
「ふっ、1人かくほである」
 満足気に胸を反らした大佐に、やられました、と笑う立花。今後は彼を部下とし、共に確保対象を探し回ることになるのだ。
 大佐は今までと変わらず、姿勢を低くして慎重に進み、時に匍匐前進。
 スニーキングミッションとは言ったものの、ここまでのめりこむ大佐の姿はなんだかおかしく見えて、それに付き合いながらも笑いをこらえるのに必死な立花だった。
「大佐、あそこに怪しい影が。敵兵かもしれません」
 そんな中。何かを見つけた立花が小声で伝える。ふむ、と唸った大佐が、さらに慎重に近づいていった。
 小さな影ではあるが、白く長い髪が印象的。ロシャーデだろうか。‥‥いや、違う。
 ティムだ。服装がよく見えるようになった時点でそう判断出来る。
「きさまはここをまっすぐ進むのだ。わたしはぐるっと回ってはさみうちにするぞ」
「了解しました、大佐殿」
 小さく敬礼して見せた立花に気を良くした大佐は、やや狭い廊下の方へと消えていった。
 視線をティムのほうへ戻す。こちらは身を潜めているので、相手に気づかれてはいないはず。だがここで、はたと思い至る。
 彼女はまだ、自分が鬼に回ったことを知らないのではないかと。
 何も隠れる必要はない。普通に出て行って、何食わぬ顔で接近すればいい。実際に捕らえるのは大佐に任せよう。
「やぁティムさん。調子はどうですか?」
 白々しいと自分でも感じながら出て行くと、まぁ、まだこれからじゃ、との返事。
 見つかるとまずいから。壁に背をつけ、姿勢を低くするよう指示した立花。従うティム。
 そのまま小声で多少の会話。といっても、ほとんど何も喋る間もなく大佐が回りこんできたようで。
「いた!」
「な、見つかりおった!?」
 慌てて立ち上がり逃走しようとしたティムの進行方向を立花が塞ぐ。
「何故じゃ、どかぬか!」
「いいえ。ふふ、残念でしたね」
 憎らしいほど爽やかに笑んだ立花を見、ティムは全てを理解した。
 ほどなくして大佐がティムを確保する。がっくりうなだれたティムの肩が、ぶるぶると震えた。
 ちょっと意地悪し過ぎたかな。と、立花が不安がり、どう声をかけようかとあれこれ思考を巡らす。が、それも杞憂だった。
「あはは、捕まっちゃったー♪」
 今までとは全く異なる雰囲気にシフトし、腹を抱えてゲラゲラと笑い出すティム。
 大佐と立花が驚いたのも無理はない。
 親しみを抱いた相手の前では、このような一面を見せるのだ、ということを彼らが知ったのはもう少し後のことである。

●そんなこんなで夕飯
 スニーキングミッションごっこも落ち着き、夕飯の支度をすることになった。もちろん大佐にも手伝わせる。
 メニューはハンバーグ。料理に慣れた面々はハンバーグを作り、こねるなど簡単な作業を大佐やジェーンに任せることにした。ロシャーデは自分と大佐の出身国フランスの料理、フリカッセの調理。テンションの上がっている大佐に言うことを聞かせるのはさほど難しいことでなく、「やって」と言えば「やる」といった具合だった。
「上手くいかないな。ちょっとコツがあるのか?」
「あ、これはですね――!」
 料理に不慣れな鹿島は、たまねぎを切るのに苦労していた。ただみじん切りにすれば良いのだが、そもそもみじん切りの仕方が分からないありさま。そこで親しいアルフェルに教えを乞おうというわけだ。
 アルフェルが固まったのには理由があった。教えようと思うと無意識に鹿島の手ごと包丁を握り、左手を左手に添え、背後から密着する形になったのだ。
「ん、アルフェル‥‥どうした?」
 頬を赤らめてごにょごにょと口ごもるアルフェルに、何でもないことのように声をかける鹿島。畜●●発しろ!(インクがこぼれている)

 なんだかんだで夕飯は完成。全員がテーブルにつき、一斉にいただきます。
「好き嫌いは許さないからねー。はい、あーん」
 ハンバーグをフォークに刺したジェーンが、これを食べろと言わんばかりに大佐に差し出す。
「むぅ、しかしたまねぎが‥‥」
「甘くて美味くなっているはずだ、食ってみろ。でなければ大きくなれんぞ」
 月城がそう言って勧める。だがこの大佐、危険意識がないのだろうか、どうあってもたまねぎを食べたくないようで。
「‥‥大きくない人に言われたくはない」
 そう呟いた大佐の視線が向いた先は――
「き、貴様‥‥」
 月城の、慎ましやかな胸部。ぷるぷると拳を震わせた彼女は、さっとバトルハリセンを取り出し立ち上がった。
「わー、それは駄目だって!」
 慌ててジェーンがストップをかけたが、遅い。
「止めてくれるな、正義の鉄槌を下さねば。胸に釣られる男共、成敗!」
 こうして夕食の場は賑やかになったとさ。良かった良かった。

 これで傭兵の仕事は終わり。大佐が元に戻れるかどうか、そんなこと気にする必要などなかった。
 何故ならこれは夢なのだから。