タイトル:SKVS3マスター:矢神 千倖

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/15 23:49

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


●ローマ基地司令室
「桜輝が、知れてしまったか‥‥。これ以上、ここで隠し続けるのは、実質不可能だな」
 冷たい部屋の中、司令官の男が苛立たしげに靴を踏み鳴らした。まるで、「君のせいだよ」とでも言わんばかりに。
 その言葉を聞いても、エラーブルの表情は動かなかった。変に絡むと面倒だ、と考えたからである。
「そして、戦闘中に現れた謎の二足機動兵器‥‥。あれのデータはこちらでも把握出来ていない。バグアの新兵器かもしれぬ」
「その割には、どちらもお構いなく攻撃していたようだけどねぇ」
 そうなのだよ、と司令。
 先ほどの戦闘に現れた、女神と形容された機動兵器。その行動も、開発者も運用目的も、現時点では全てが謎だ。
 ただ一つ、確実に言えることは‥‥。
「あの性能には、目を見張るものがある。もし、あれがバグアの兵器でないのなら、是非我が軍に取り入れたいものだよ」
 汚い根性だな、とエラーブルは感じた。まぁ、どうせそんなことだろうとは彼女自身最初から予測してはいたが。
 司令の男は顎をしゃくる。
「そこでだ。傭兵である君達に、依頼を出そうではないか。あの機動兵器を追い、拿捕し、そして軍へ引き渡せば良い」
「基地の護衛はいいのかい?」
「貴様らに与えられた元々の任務は、正確には桜輝を守ることだ。ならば、貴様らの艦に桜輝を載せれば問題あるまい。それと、だ‥‥」

●ジャッジメント食堂
「というわけで、この艦へ登場することになったヤヅキ・リオンです。どういうワケか、桜輝のパイロットになっちゃったけど‥‥、よろしくお願いします」
 主要なメンバーが食堂へ集まり、エラーブル機甲戦団の一員となったヤヅキの自己紹介に立ち会う。
 傭兵で構成された戦団であるが、彼の場合は軍からの出向という形で同乗することとなる。つまり、この中では彼だけが軍人、となるのだ。正確には、桜輝専属の整備士も複数名ついてきているのだが。
 この戦団の変化は、それだけではない。
 新たなる力が、加わっていた。
 ジャッジメントは、南へと進路を取る。

●参加者一覧

リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
オルカ・クロウ(gb7184
18歳・♀・HD
八尾師 命(gb9785
18歳・♀・ER
過月 夕菜(gc1671
16歳・♀・SN
天野 天魔(gc4365
23歳・♂・ER
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER
高見沢 祐一(gc7291
27歳・♂・ST

●リプレイ本文

●市街
『とんだ肩すかしだったな。いや、その護衛が、ただ雑魚だっただけなのか‥‥。いずれにせよ、勝負は見えたな』
 無残に荒らされた街。
 立ち並ぶゴーレムの群。
 そしてその後方に佇む影‥‥。天野 天魔(gc4365)のNBだ。
 彼らは一つの街を攻めていた。それは人類がまた新たな兵器を開発したとの情報を得てのこと。
 だが‥‥。
 新兵器を要する隊も、最早壊滅状態と言えた。
 残るはたったの三機。その中の一機、ABAFを駆る皇 織歌(gb7184)は、正面を睨みつつ、祈った。
(今は救援を信じましょう。きっと‥‥)

●ジャッジメント 格納庫
「へえ、これがKVストレージハンターか。‥‥悪くないなー」
「ファントム‥‥。上手く使いこなせるのでしょうか〜‥‥?」
 エラーブル機甲戦団の戦闘員、リチャード・ガーランド(ga1631)と八尾師 命(gb9785)には新型機が支給されていた。正確には、戦団に支給された二つの機体に、二人が乗ることとなったのだ。
 リチャードの機体はストレージ・ハンター。陸上での運用に主軸が置かれたKVで、装甲、機動力共、既存ABAFを上回る性能を秘めている。熟練こそ要するものの、癖がなくパイロットの技術が素直に現れる機体。極短い時間なら低空飛行も可能だ。
 そして八尾師の機体はファントム。ガトリングにロケットと装備は少ないながら、ABAFが基本的に用いるそれより高い威力を持ちながらにして、常時飛行することが可能なKVである。装甲は薄めであるが、機動力は申し分ない。
 ちなみに。ABAFとKVの違いを端的に述べるのであれば、ABAFは量産機であるのに対し、KVはワンオフあるいは少数生産の機体であること。それゆえ、KVはABAFを大きく上回る性能を秘めている場合がほとんどである。が、逆にパイロットを選ぶところもあるのだ。
 このハンターとファントムは、どちらもKVである。それゆえ、八尾師は自分と機体の相性を気にしていた。
 乗ってみなければ分からない。だが、自分が乗ると決めた以上、やるしかない。
 そして、戦団のKVといえばもう一機‥‥。
「ところでこの天使みたいな機体はどんな性能なの? 詳しく知りたいなぁ〜♪」
 軍からの派遣されたヤヅキ・リオンの機体、桜輝。その整備を行っていた彼へ、過月 夕菜(gc1671)は興味津津といった様子で声をかけた。
 前回は戦いのごたごたの中で現れたこの桜輝。その能力の一部を垣間見ることは出来たが、実際はどういったものなのか、話を聞いておくだけでも今後何か役に立つかもしれない。
「これは翼が全て、と言えるKVでね。飛行能力も翼のおかげだし、武器もこの翼に仕舞われてるんだ。拳銃が二丁と、あとはブレードが二振り。他の武器は今のところない、かな」
「じゃあじゃあ、折角だしもっと可愛くしようよ〜♪ 丁度いい感じに猫耳アンテナの予備があったような〜♪」
 ここぞとばかりに自らのABAFで愛用している猫耳アンテナを勧める過月。
 非常に楽しそうではあるが、丁重にお断りされたのはご愛敬。
 何とも賑やかではあるが、騒いでばかりもいられない。動けば何かに当たるのは、最早お約束と言えよう。
 そしてそんな時は、決まって警報から始まる。
『総員へ。本艦は救難信号を受信。これより救出へ向かう。第二種戦闘配置!』

●エデンの隊
「皇さん、ヴァレン君。あなた達だけでも撤退しなさい。これ以上の戦闘は不可能だわ」
「隊長、何を‥‥! 俺達だけで逃げるなんて、そんなこと出来ない!」
 壊滅状態の部隊。このまま戦えば、全滅は免れないだろう。
 隊長――ルカ・カリストの下した判断は、一人でも多くの隊員を生存させることだった。そのために自分が犠牲になろうとも構わない。
 それに反対したのはヴァレン・デュー。新人の隊員だ。
 天野が見つけた新型機というのは、この二人の乗る機体のことである。
 ルカの乗る機体はイブ。女性型の細めなシルエットが特徴だ。スラスターも多く設置され、機動力は高そうである。その手に武器らしきものは見えないが‥‥。
 対するヴァレンの機体はアダム。非常に大きく、かなり目立つ。分厚い装甲が装着されており、両腕に多連装キャノン砲が搭載されている。
 名前からすぐにピンと来ることであろうが、この二機、KVとしてもかなり深い関係にあるのは間違いない。
「アダムとイブは二機そろってこそ。それならば私が!」
 だからこそ彼女、皇は、前へ出た。
 隊長だから、隊員だから。そういったことは関係ない。守るべきなのはこの新型機。なら、逃げるべきなのは自分ではない。
 だが、ルカは飽く迄立ち場に拘る。
「部下を捨てて逃げろっていうの? それこそ、出来ない!」
 だが言い争っていられるほど、時間的余裕はなかった。
 最早敵は、眼前まで迫っている。
 今から逃げたとして、逃げ切れる保証などなかった。
『やれ!』
 天野が号令を発する。
 それを受けたゴーレム達が、一斉に砲撃をかけた。
「‥‥!」
 とっさに、ヴァレンが前へ出てアダムの両腕を広げる。
 放たれた砲弾。そのほぼ全てを、アダムが受け止めた。
「ヴァレン!」
「こ、これくらい‥‥。上手く扱えなくたって、装甲を頼れば、まだ持つ!」
 アダムは、まだ立っていた。だが、その頑強そうな装甲も既にボロボロ。とても戦える状態ではない。
 助けはこないのか‥‥。皇ですらも絶望に暮れようとしたその時。
「西島機‥‥喰らいに‥‥行く」
 影が駆け抜ける。その後には、ゴーレムの残骸が一機分。
 西島 百白(ga2123)のABAFだ。
「救難信号はここからだな。全機展開。支援する」
 高見沢 祐一(gc7291)が声をかけると、他のABAFが次々と前進を始めた。
 エラーブル機甲戦団が到着したのだ。
『ち、貴様等か。悪いが今回は相手をしている暇はない。ゴーレムと遊んでろ』
 舌打ち。
 天野の号令に従い、ゴーレムが戦団の前に立ちふさがる。
 最早余力のない新型機を潰すだけの時間は稼げるはずなのだ。
「お望み通り‥‥」
 BEATRICE(gc6758)がガトリングで牽制する。
 そこへ加わるように、過月も弾幕形成。
 足止めに使われたゴーレム。だが、足止めをしたのはむしろ戦団の方だった。
「ふっ、地べたに貼りつけにしてやる」
 高見沢がロケットを放つ。その背を飛び越すようにして、二つの影が空を駆けた。
 それこそ戦団の新たな力、ストレージ・ハンターとファントムだ。
 飛行が可能なこの二機だからこそ、地上のゴーレムなど全くお構いなしに通り過ぎることが出来る。
「お待たせしました〜。助けに来ましたよ〜」
『馬鹿な! 奴等に飛行可能な戦力はないはずだ!』
 天野が引き連れていた数機のゴーレム。そのうちの一機の背を銃器で襲い、救難信号を発した三人へ声をかける八尾師。
 驚いたのは天野だ。以前戦った時、アクシデントで現れた外部戦力はともかく、戦団に飛行出来る機体などなかったはずなのだ。ゴーレムだけで十分、と考えていただけに、この予想外の展開にはさしもの天野もとっさの行動を取ることが出来なかった。
「いくぜ! ハンター! お前の力を見せてみろ!」
 対KVライフルでゴーレムを撃ち抜くリチャード。その威力たるや凄まじく、あっという間にゴーレムが一機沈黙した。
「好機、ですね‥‥この機を逃すわけには‥‥」
 救援。これにチャンスを見た皇が、ビルの群へと姿を消す。
『ええい、何をしている。迎撃しろ!』
 苛立った天野の令で、彼の護衛についた二機のゴーレムが飛びかかる。
 変形機構を備えたファントム。戦闘機に似た形状から二本脚の人型へと姿を変え、着地する。そしてその手に持つガトリングから弾を吐き散らした。
「ABAFとは違うのですよ〜」
 敵が怯んだところへロケットに持ち替え。狙い澄ました重い一撃が、ゴーレムを粉々に粉砕した。
 その中へ、リチャードが斬り込んでゆく。
「伊達な装甲じゃないぞ!」
 ゴーレムがブレードを振り下ろす。だがハンターの装甲は、分厚い。ガチリと火花が散るが、その刃はハンターを捉えることはなく、逆によろけるだけだった。
 その隙へ、ハンターも単分子ブレードを突き立てる。そうして出来た傷口へライフルをねじ込み、放った。
 内部で兆弾した弾丸が、ゴーレムの機能を完全に奪ってゆく。
 天野が冷や汗を流した。

「何だって戦うことに‥‥。僕は前線要員じゃないってのに!」
「つべこべ言ってないで戦え! 今じゃ貴重な戦力だ」
 一方で、ヤヅキはボヤいていた。そもそもが桜輝の起動テストを行っていただけで、本職のパイロットというわけではない。何だかんだで戦団に派遣されたものの、実際に戦うということに関しては不満も不安もあった。
 それを一喝したのは高見沢だ。状況を見る目が必要とされる機体に乗る彼。こういった気の緩みを、見過ごすわけにはいかなかったのだ。
 とはいえ、だ。桜輝の戦力はABAFに比して圧倒的とも言える。だからこそ高見沢はそんな声をかけたのだ。桜輝のパイロットがやる気をなくしてしまっているのは、著しい戦力低下と言って間違いない。
「‥‥躊躇してる‥‥余裕など‥‥ない‥‥」
 そうして揉めている時間が、もったいない。西島は機体を加速させた。
 以前は調整不足で大破した追加ブースター。今積んでいるのは、その予備だ。今回のものは念入りにチェックされ、そうやすやすと大破するようなことはないように手が加えられている。まだ不安定な部分は若干残ってはいるものの、パイロットが多少荒く扱ったとしてもきっと耐えてくれるはずだ。
 だが、そのまま切り込むわけではない。西島はビルの間に機体を滑り込ませると、敵機目がけてスモークディスチャージャーを放った。
 黒煙が上がる。敵と味方との間に、煙は壁となって立ちふさがった。
「‥‥さっさと決めろ‥‥。‥‥やるのか‥‥やらないのか‥‥」
 それは明らかに、ヤヅキへ向けられた言葉だった。
 この黒煙は、答えまでのタイムリミット。煙が消えるまでに、戦うのか、戦わないのか、決めねばならない。決まらなかった場合は‥‥。
 最早選択肢などない。体面もある。ここまでされて、ビクビクと下がっていられるような状況ではないことくらいは、ヤヅキも理解はしていた。
「や、やりますよ! やればいいんでしょう!」
「全く、世話が焼ける」
 ようやくやる気を出したヤヅキに、高見沢はやれやれと息を吐いた。
 黒煙が薄くなってきた。
 その前に並び立つのは、BEATRICEと過月。
「どんどん撃つよ〜♪ じゃんじゃんばりばり〜♪」
「誘い出します‥‥」
 二人は黒煙の向こう側へと銃弾の豪雨を浴びせた。
 凄まじい雨音の吸い込まれる先からは、光弾がいくらか返ってくる。向こうも反撃してきたのだ。
 そして薄れる煙の中から、ゴーレム達が一斉に飛び出す。
「やればいい、やればいいんだッ!」
 その翼から二丁の拳銃を取り出し、構える。
「そうだ、それでいい。さて‥‥」
 高見沢もロケットランチャーを構え、砲撃を開始する。
 その間もBEATRICEは容赦なく弾幕を展開し続ける。
 過月は突進を開始した。接近戦を挑むつもりなのだ。
 BEATRICEの弾丸がゴーレムの装甲を弾き飛ばす。
 そこへロケットが叩きこまれ、一機が沈んだ。
 ヤヅキの桜輝が放つ光がゴーレムの足を奪ってゆく。
 だがゴーレムもただではやられない。間近に迫った過月を一気に叩き潰そうと、複数のゴーレムが彼女へ迫る。
 だがそれも戦団の仕組んだ罠だった。
「悪いな‥‥こんな狩りの‥‥仕方ぐらいしか‥‥出来ないんでな」
 ビルの影から西島機が飛び出し、そのブレードがゴーレムを襲う。
 怯んだゴーレム。そこへ過月も迫る。
「にひひ〜♪ 脳ある猫は爪を隠すですよ♪」
 その手の爪が、ゴーレムを引き裂いた。

 単純な力で叶わぬなら、戦術で補う。これが人類に与えられた唯一の選択肢とも言える。
 しかし、力でぶつかるのもまた、戦術の一つである。
「貴方達は‥‥?」
「話は後! 救難信号を受けてきたんだ。今はそれだけ!」
 ルカの問いに、リチャードは早口で答えた。
 目の前には天野のNBが立ちはだかっている。お喋りしながら戦える相手ではない。
『ことごとく邪魔をしてくれる‥‥。だが、ただでやられはしない! いや、ここで貴様らを潰してやろう!』
 正面のハンターへレーザーライフルを放つ天野。
 それをギリギリで回避し、リチャードが一気に距離を詰める。
 NBも剣を取りだした。
 互いの刃が交差する。動きが止まった。
「いただきますよ〜」
 ぐいと回り込んだ八尾師がガトリングでNBの脇腹を狙う。
 ぐ、と呻いて天野が距離を取った。
 これぞ好機。ハンターとファントムが立ち並ぶ。
 持てる武器を構え、内蔵兵器の発射管を全て解放。今、全てを決める!
「オールウェポンロック解除〜」
「いくぜ、火器管制よし。全弾射撃、必殺! 砲煙弾雨だ!」
 そしてありったけの弾丸を、嵐のようにNBへとぶちまけた。
『調子に乗るなァーッ!』
 天野の咆哮。
 爆発。閃光。
 視界が白に染まる。
 耳につくうるさい静寂。それは、あまりの爆音に、一時的に耳がやられたのだ。誰もがそう思った。
 視界が開けるのには、異常に時間がかかった。どれほど爆発が激しかろうと、ここまでかかるものか、と疑問になるほどに。
 永く続く白の世界。無音に重なる騒音。
 全てが終わり、世界が元の色を取り戻した時、リチャードは、八尾師は、息を飲んだ。
『もらったァ!』
 いつの間にか天野がルカの懐にまで踏み込んでいたのだ。
 今の異常な間は、天野がどさくさ紛れに放ったECMによるものだと、彼らは気づくことが出来ただろうか。
「不意には不意を‥‥!」
 だが、そこを狙っていた者がいた。
 皇だ。
 鏃にグレネードを用いた機弓で、NBを狙う。ひゅと放ったそれは、見事ワームの肩で炸裂した。
『‥‥えぇい、小癪な真似を! こうなれば最低限の任務だけでも果たす!』
 ルカとの距離を詰め切れなかった天野が狙いをつけたのは、身動きの取れないアダムだった。
 連続で射かけてくる皇の攻撃をかわしつつアダムを掴み上げたNBは、そのまま飛び上がる。
『覚えておけ! 今回の失態は天使と新型と増援を配役に入れてなかったからだ!』
 それだけ吐き捨てると、天野はアダムを抱えて飛び去ってしまうのだった。

●ジャッジメント ブリッジ
「また、ここも人が増えたもんだ」
 エラーブル=フジミヤ=シレーヌは、長い息を吐いた。
 壊滅状態にあったルカ・カリストの隊についての対応を付近の軍に連絡を取って尋ねたところ、一時的にエラーブル機甲戦団で預かることとなったのである。
 戦団の苦難は、まだまだ続きそうだ。エラーブルの溜め息は、しばらく止まることはなかった。