タイトル:アンリと白煙と白龍マスター:矢神 千倖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/08 21:31

●オープニング本文


 すっと、昇りゆく白煙を見た。細く、細く。吹く風にちぎられそうな程力なく、しかし、迷わずまっすぐに、雲の遥か彼方上空を目指し、白煙は伸びてゆく。そこに何があるというのか。分からない。分からないが、そこに何かがあるのなら、そして白煙がその何かを求めているのなら、祈ろう。白煙が、その何かを手にするまで、いたずらな風にちぎられないようにと。
 ‥‥ただの感傷だ。それは分かっている。何の意味もないのかもしれない。そしてこれは、空想でしかないのだろう。
 でも、それでも‥‥。
 白煙は、何かを手にすることが出来たのだろうか。手にして欲しい、届いて欲しい。せめてそうあって欲しい。アンリは祈った。
 目の覚めるその時まで、ひたすらに。

「変な夢を見たんです」
 ULT本部。たまにはしっかりと依頼も受けねばと、仕事を探しにアンリはここを訪れていた。
 このところ妙な事件に巻き込まれることが多く、自分が傭兵であったことすらも忘れるほどだった。そして尽きかかった生活費を思い起こし、こうしてここへやってきたというわけだ。
 アンリにはお気に入りのオペレーターがいた。というより、向こうから話しかけてくるのだ。他のオペレーターと話す暇すら作らせず、アンリを見かければ真っ先に声をかける男。ランク・ドールだ。アンリが初めて依頼を受けた時の担当であり、今ではすっかり友人だ。
 だから、ほんの些細な日常会話も、依頼を斡旋してもらいながらぽろぽろと漏らすようなことも当たり前のようになっていた。
「煙がすっと昇っていくんです。ボクは、ちょっと遠いところからずっとそれを見ているだけなんです。この一カ月くらい、何度も何度も見るんです」
「へぇ。何か心当たりがあるのかい?」
「いいえ、よく分かりません。ただ、夢を見る度に、悲しい気持ちになるんです」
「‥‥ん〜、何だろうな。あ、そうだ。煙ではないんだけどな、丁度いい依頼があるんだよ」
 話を聞きながら、ランクは端末を操作して資料をプリントアウトした。
 資源の無駄遣い、と言われようと、何故か照れ笑いを返し、アンリへ差し出す。
 まず、写真が目に飛び込んできた。龍だ。全身が真っ白の、龍。西洋的なそれより、どちらかというと蛇に似た、東洋的な龍のようだ。
「全長八メートルくらい。ある山に現れてな、暴れてるらしいんだ。この山は、すぐ麓に街があるんだよ。だから、ここの住民がここのところ毎日、ビクビクしながら生活してるってわけさ」
「白煙ではなく、白龍ですか」
「そうそう。まぁ、嫌な夢見るんなら、こいつを煙だと思って、払拭してきな。ちょっと厄介な相手だけど、その辺は資料に目を通してくれよ」
 はい、と強引に押し付けられた資料を握る。何だかズレのようなものを感じながら、アンリは戸惑うように頷いた。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
ジェームス・ハーグマン(gb2077
18歳・♂・HD
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
沙玖(gc4538
18歳・♂・AA
山田 虎太郎(gc6679
10歳・♀・HA
宇加美 煉(gc6845
28歳・♀・HD
エレナ・ミッシェル(gc7490
12歳・♀・JG

●リプレイ本文

●登山
 資料にもあったように、山道は急な斜面だった。能力者であっても、登りにくいものは、やはり登りにくい。
「急だね‥‥」
 道自体は広いものの、あちこちから木の根などが盛り上がっていた。それにつま先を取られつつ、何とか体勢を立て直しながら、シクル・ハーツ(gc1986)は額の汗を拭った。季節が季節だけに、暑い。目標を発見する前にバテてしまいそうだ。
「お茶とか冷やしてありますけど必要です?」
「いいの?」
 頷き、ヨダカ(gc2990)は笑んだ。持参した水筒を取り出し、蓋に中身を注いで、渡してやる。
 お茶という割には、随分と透明だ‥‥。渡してから、彼女は気づいた。
「ふあっ!? お茶じゃなくて、スポーツドリンクだったのです‥‥」
「ううん、いいの。ありがとう」
 しょんぼりするヨダカに、空けた蓋を返したシクル。おかげでいくらか気分が良くなったようだ。まだ、歩ける。キメラが出てきたって問題なく戦えるだろう。
 しかしえいやこらと山道を歩く彼女らの中で、一人だけ涼しげに道を進む者があった。
 宇加美 煉(gc6845)だ。AU−KVバハムートに跨り、周囲の歩みに合わせて徐行させつつ進んでいた。
「バハムートは、こういう時便利ですね」
「歩くより楽ですしねぇ」
 言葉を挟んだジェームス・ハーグマン(gb2077)に、宇加美はにんまりと笑った。
 ジェームスもAU−KVを持ち込んでいるが、彼のそれはリンドブルム。二輪であるから、低速運転には向かないのだ。だからといって、装着しているわけでもない。手押しだ。練力を無駄に消費したくない、というのもあったし、敵を見つけるまでは適当な会話もするだろうから、互いの顔が見えていた方がいいだろう、という彼なりの考えだった。
「それにしても、アンリ君、お久しぶりです」
「そういえば、お久しぶりなのですよぉ」
 二人の視線の先には、アンリ・カナート。ジェームスも宇加美も、何らかの形で、彼と関わりがあった。それは共に戦っていたり、同じ旅館に宿泊したりと様々。
 共に、年明けの瞬間を迎えた者もいる。
「相変わらずのようだな。丁度半年ぶりか」
 沙玖(gc4538)だ。何だかんだ、アンリと接点のある者が多いらしい。
「あぁ、えーっと、年越しの時と、初依頼の時と、救急車の時と、旅館の時と‥‥」
 一度に声をかけられ、誰と、どこで会ったか、記憶をほじくり返すアンリ。共にいた、という記憶はあっても、その場所と人がなかなか一致しないのか、掌に指を置いて「えーっと」を繰り返す。
 一同、苦笑。まぁ、それも仕方ないことだろう。一人一人なら思い出せたかもしれないが、こう一斉にだと、こんがらがるのも無理はない。
「山田はもうお馴染みですねー」
「あ、そうですね。何だか、最近よく会いますよね」
 山田 虎太郎(gc6679)。名前による勘違いを防ぐために付記するが、女性である。彼女は、どういう因縁かアンリと遭遇することが非常に多い。
 おかげでアンリも、ちらっと影を見ただけでも「あ、山田さんだ」と思えるほどに、彼女のことを覚えたようだ。彼からすれば、知らない人に囲まれるよりは、比べるべくもなくやりやすいことは間違いない。
 しかしこれは傭兵の受ける依頼。もちろん、初対面もいた。
「何だか、皆さんお知り合いって感じですね‥‥」
 小さく唇を尖らせたのはエレナ・ミッシェル(gc7490)だ。アンリを中心に、知人の輪が出来つつある中、彼女は何だか蚊帳の外。
 もちろん、誰も望んでそんな状況を作り出そうとしたわけではない。だから、彼女が不服そうなら、フォローを入れる。
「知り合いは、増やせばいいんですよー。一緒にお仕事するのですから、もうヨダカ達は仲間なのです!」
 自身でその名を呼んだように、声をかけたのはヨダカだ。
「そうですね、これを機に仲良く出来るといいですよね」
「‥‥うん、そうだね! よろしくね」
 アンリも言葉を挟み、エレナがパッと明るい笑みを浮かべる。何人かが、それにつられるようにして頬を緩ませた。
「仲良くしているところ悪いが、敵は?」
「んー、それらしい反応はないですねー。もうちょっと先みたいですよー」
「そうか。なら、今のうちに軽く戦い方を考えておくか。まず、慣れてないやつにはコーチをつけよう」
 グッと彼らを現実へ引き戻したのは須佐 武流(ga1461)だった。今は仕事の最中。優先すべきは、目標の討伐だ。それを見つけないことには、まず話にならない。
 バイブレーションセンサーで周囲の様子を探った山田の反応は、残念ながら当たりではなかった様子。
 だが、それも無駄にはしない。近くにいないのなら、その分時間的な余裕が生まれる。須佐の考えは、戦いに慣れていない人に、実戦を通して、戦う術を仕込もう、というものだった。
 要するに初心者、ということになるわけだが、ここで該当する者といえば、アンリとエレナになるだろうか。
「アンリ、お前は俺に合わせて動け。出来るな?」
「は、はい、やってみます」
 フェンサー。そしてその手には剣と盾。前衛寄りなアンリを引き受けたのは、言い出した須佐だった。元よりそのつもりで口を開いたのだろう。
「エレナさんは私とがいいでしょうか」
「では、私もご一緒しますねぇ」
「山田も入りますよー」
 どちらかというと後衛。エレナのコーチについたのはジェームスだ。そこに宇加美、山田も加わる。
 案外後衛の面子が多い様子だ。
「俺は前だな。相手は飛んだりするみたいだし、銃とか撃てる人は、頼む」
 沙玖の言葉に、一同は各々の武器を取り出して応えた。
 その時。山田が接近する大きな震動を捉えていた。

●白龍激昂
 立ち並ぶ木々が、パキパキと音を立てる。最早山田が探知せずとも、その気配だけで近くまで迫っていることが、分かる。肌がピリピリするのだ。
 一度抜いた武器を、わざわざしまうこともない。傭兵達は、ただその方向をじっと見た。
 パキ‥‥。
 一際大きな音が鳴ったかと思うと、途端に静まり返る。
 高まった緊張が、疑問に緩みかける。少し腰を落としていつでも動ける体勢を取っていた彼ら。ふわ、と姿勢が浮いた。

 ギ、アァアアアッ!

 大気を揺さぶる大声量。それと共に、大きく裂けた口を開き、白い龍が姿を見せた。
 声に驚いたヨダカが怯む。思わず目を閉じた。そして、とっさにしゃがんだ。
 その頭上すれすれで、龍の牙がかち合う。
「下がれ!」
 須佐が飛び掛かった。雷槍「ターミガン」を突き立てようと額を狙う。
 だが、ぐんと首を振った龍の鼻先が、突き出た須佐の手を打つ。思わず手放した槍が地に落ち、須佐自身も空中で錐もみした。
「一斉に攻撃だ! 援護頼むぞ! アンリ、俺の攻撃に合わせて追撃に入れ!」
 次に飛び出したのは沙玖だ。
 後方から弾や矢が放たれ、その嵐が止むのに合わせてソニックブームを叩き込む。
 続いたアンリが剣を振るった。その体の鱗がいくらか剥がれ落ちる。
 その間にヨダカが脱出。
 体勢を立て直した須佐。取り落とした槍を拾うと、その頭上には龍の短い手があった。良い偶然だ。
 仕切り直し。槍をグッと握り、須佐は再び飛び上がる。
 槍は、腕の関節に突き立った。

 ギィィイイッ!

 けたたましく吼え散らし、龍が悲鳴を上げる。
 跳躍した勢いをそのままに、須佐は槍の尻を強く蹴りつけた。
 ぐんと槍が深く食い込む。いや、そのまま突き抜けた。
 腕が関節から千切れ、ヂヂィと嫌な音を立て、地に落ちた。
「ひ‥‥っ」
 人によってはショッキングな光景。アンリは思わず、小さく悲鳴を漏らした。
「アンリさん、危なくなったら盾になってくださいねー? しっかりしてくれないと困りますよー」
 励ましている‥‥つもり、なのだろうか。山田が声を上げて、どこかへいきかけたアンリの意識を繋ぎ止めた。
 さらっと酷いことを言われているにも関わらず、アンリの返事は、元気の良い「はい!」だった。思わず頭に疑問符を浮かべた山田だったが、まぁ盾になるならいいか、と気にしないことにした。
「いいか、次にあいつが吼えても気おされるなよ?」
 沙玖が忠告を入れる。
 鼓膜を突き破らんばかりの声にヨダカが怯んだように、ただ吼えるだけにしてもなかなか侮れない。いや、間近で聞いたら、恐らく‥‥。
「銃声で紛らわしてみせますよ。攻撃の手を休めずに!」
「はい、撃ちます!」
 ジェームスの激励にエレナが応え、木の陰から両手のトリガーを引く指に力を込めた。
「何が龍だ。地を這えば、唯の大きな白蛇だな。舐められたもの――だッ!?」
 とはいえ、勝利のムード。ほくそ笑みかけたシクルだが、今自分の言った言葉が、そっくりそのままひっくり返ることになった。
 具体的には、飛んだのだ。
 視線を遥かな空へ向け、すっと、一本の線のように、脇に生える木よりも高く。白龍は飛翔した。
 その姿は、まるで‥‥。
「煙みたいだ」
 アンリが夢で見た白煙を彷彿とさせるものだった。
「ぼさっとしていると、ばさっとやられてしまいますよぉ」
 呆けたアンリの脇腹を、宇加美がつつく。
 ふわッと声を上げて体を伸ばしたアンリを目にし、宇加美はくすくすと笑った。
「う、宇加美‥‥さん?」
 AU−KVを着てしまえば、誰が誰だか分からなくなる。その声で、判断するしかなかった。
 今のは単なる確認。だが、宇加美自身は何か別の意味に捉えたようだ。
「‥‥ちゃんとはみ出さずにAU−KV着られるのですよぉ?」
「何のことですかッ!?」
 アンリの突っ込みは尤もだ。うむ、筆者も何のことだか分からない! 分からないったら分からない!!
「喋ってる暇はないですよ。攻撃出来る人は手を休めずに!」
 二人を諌めつつ、ジェームスがガトリングをうならせる。
 弾は白龍にまで届く。しかし、その白龍に動きがあった。苦しくてうねった、と、最初は誰もが思った。だが、そうではなかった。白龍がぐんと首を引き、その口元から赤い光のようなものを漏らしたのだ。
 傭兵達は、その正体に直感的に気付いた。
「炎だ! 下がれ!」
 須佐が叫ぶ。
 咄嗟に一同が散るが、しかし、白龍は確実に一人をその視界の中心に捉えていた。
 見つめた先は、山田。
 すぐそばにいたアンリが、それに気付いた。
 火の弾が吐き出される。
「山田さん!」
 アンリは間に割って入った。盾を構えてやり過ごそうとするが、しかし、その衝撃は強く、弾き飛ばされて木に背中を打った。盾の表面が融解している。
 振り返らず、エレナが駆けだした。きっと、隙が出来る。何としても、あれを落とすのだ。
 陰に入った。真上には、白の巨体が屋根になっている。彼女は、その屋根を突き破るほどの豪雨を昇げるつもりだ。
「落としてみせる!」
 もはや狙いなど不要。彼女はこれでもかと両手の銃を乱射した。白龍の動きが鈍る。
 抵抗か。白龍は再び火球を吐き出そうと口を開いた。視線の先は、シクル。
 だが、そのシクルは、まっすぐに白龍を視線で貫いて、矢を番えていた。
 ひょっと放たれた矢は、龍の口に吸い込まれる。
 龍は、火を吐き出した。あの火球ではない。黒煙を伴う炎だ。
「流石弾頭矢。隙を見せたのが命取りだ」
 落ちる龍。その間にエレナは脱出し、ヨダカに治療を受けたアンリも立ち上がる。
「頑張ってくださいですよ! 遅くなってしまいましたが」
 ヨダカはアンリ、須佐、そして沙玖の武器に強化を施した。
「よし、これでやる気百倍だ。行くぜ、今が貴様の最後の時だと思え!」
 走りだす沙玖。須佐にアンリも続く。
 ジェームスを始めとした面々も、後方からの援護射撃を絶やさない。
 残った片手を振りかざし、迫りくる傭兵を薙ぎ払おうとした白龍だが、その手を山田が撃ち抜いた。
 顎の下に潜り込んだ沙玖が斬り上げる。
 よろめいたところへ須佐が、龍の接地しているところへ打点の高い蹴りを見舞う。
 仕返しか。龍がまた火球を吐き出す体勢に入った。学習したか、先に痛い目に遭わされたシクルではなく、今度はアンリを狙っている。踏み込みが遅かったのだ。超至近。これではかわせない。
「あ、あぁ‥‥」
 臆したアンリの足が止まる。
「アンリ君!」
 シクルが矢を放つ。その先には、龍の髭。その根本から、髭がぷつりと切れた。
 間髪入れず、エレナやジェームスが攻撃を仕掛け、隙を大きくする。
 宇加美が超機械で龍を一際大きくよろめかせた。
「おまえなどあっさりさっぱりと三枚におろしてやるのですよぉ。‥‥アンリさんがぁ」
「え、ボクが!?」
 さらりとトドメをアンリに投げ渡した宇加美。
 だが、うろたえている余裕などない。
「そうだ、お前がやれ。道を切り開くのは‥‥自分の力でだ」
 バチリとミスティックTで白龍を攻撃しながら、須佐が呼びかける。
 アンリもついに覚悟を決めた。
 弱った龍の頭が、下がっている。ここしかない。
「う、ぇやーッ!」
 叫び、相手の鼻先を踏みつけて大きく踏み込む。振りかざした剣は、龍の額に深く突き刺さった。

●剥ぎ取り?
「逆鱗とか無いですかね? 竜玉でも良いですよ?」
 何やらわけの分からないことを言いながら、アンリから借りた剣で龍の鱗などを削ぎ落すヨダカ。何か探しているようだが、多分、そういうのは、ない。
「山田も、龍の髭は持って帰りたいですねー」
「というか、それをどうするんですか?」
 思わず尋ねたアンリに、ヨダカと山田はこう答えた。
「新しい防具を作るのです! そして、さらに強いモンスターに挑むですよ!」
「売ってお金儲けしたいですねー」
 よく分からないが、何だか強かだ。
 ちなみに、先に落ちを記載してくと、彼女らの剥ぎ取ったものも合わせて、龍は未来研がしっかり回収しましたとさ。
「やぁ、アンリ君。お疲れ様。‥‥どうだった?」
「あ、えぇ、何と言うか‥‥このところずっと見ていた夢を思い出すような戦いでした」
 やれやれ、と木の根に腰を下ろしたアンリへシクルが声をかけた。
 アンリは応えて、煙の夢のことを話した。そして、龍が飛んだ時に、そのことを思い出したのだと。
「予知夢かな?」
「どうでしょうね。もしかしたら、そうかもしれませんね」
 そう言って、アンリは笑う。
 もし、そうなのだとしたら、アンリは龍の魂の安らぎを、祈らずにはいられなかった。
 だが、今はそれよりも‥‥。
「あ、エレナさん。お疲れ様です。凄かったですよ、あの制圧射撃」
 丁度すぐ近くで休憩していたエレナに、アンリは声をかける。
「そうだね。おかげで、弾頭矢も上手くいったよ」
「あ、ありがとうございます! 何か、頑張った甲斐があったなぁ」
 こうして、傍らの人と語らうことの方が、もっと大事で幸せなような気がした。