タイトル:【JL】人狼ダンスマスター:矢神 千倖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/03 12:49

●オープニング本文


 この時期ともなると、日が暮れるのも早い。
 20時現在、空にはは赤と黒のグラデーションが広がり、10/31に開園したばかりのこの遊園地ジョイランドでも、あちこちで照明が灯っていた。
 閉園まで3時間。家族連れはちらほらと帰り支度を始め、恋人達は本番はこれからだとばかりに会話に花を咲かす。
 しかし、その本番が予定と違うものになると、彼らは知らない。

「ねぇ、見て見て! やっだおもしろーい」
「ハロウィンだからかな」
 ジョイランド中央広場。
 今しがたそこから出発した巨大な台車。背丈は二階建てのバス程度。その外周は派手な電飾が施され、至る所に『JOY LAND』の文字が見られる。
 目玉の一つとなっているこの台車は、季節イベント毎に園内を走る予定のものだ。その周囲を派手な音楽と共に着飾ったダンサー達がついて回る。つまるところ、パレードが行われるのである。
 本来なら、台車の上でもダンサー達が躍り、あるいは寸劇が行われたり、歌が披露されたりするこのパレードだが、そこにいるはずのダンサーや役者は、他のものとすり替わっていた。
 台車の上で踊るのは、ふさっとした毛が美しく照らし出された二本脚の狼、総勢8体の人狼。時に吠え、時にダイナミックに動きながら、観客を魅了する。
 台車について回る音楽隊が、ハロウィンらしい不可思議な音色を奏でる。それに合わせて人狼がパフォーマンスを披露する度に歓声が上がった。
「あれ、でもあんな格好してるんだから、劇やるんだよね? 余興、なのかな」
 その最中、誰かが疑問を漏らす。
「そうじゃねぇのかな。どんな劇になるんだろうなぁ」
 パンフレットどおりなら、季節に合わせた劇が執り行われる。この時期なら、やはりハロウィン関連だ。
 予定ではお化けの格好をした役者が簡単な悪戯をしたり、お菓子をばらまいたりする、ということになっている。

 そう、予定では――。

「やっべぇ、マジモンの野生動物みたいだ!」
 台車の上で回り、騒ぎ、踊る人狼に、徐々に客もヒートアップする。
 だが、彼らは知らない。
 その人狼こそが、このジョイランドに侵入したキメラであることを。

「幸いにして、このパレード用台車に現れた人狼による被害は、まだ出ておりません」
 遠巻きにパレードを見ながら状況を説明するのは、園の係員だ。
「あ、いえ、あの台車を奪取はされましたが‥‥。しかしだからといって中止したりすれば、お客さんがあの台車に無用意に近づきかねませんので、おっかなびっくり予定通りパレードを行っている、という状況です。しかし人狼がいつ牙を剥くか‥‥」
 係員が重くため息を吐く。
 キメラにも何かを楽しもうとか、そういった感情があるかどうかは分からない。ないかもしれない。あるかもしれない。ただ確実に言えることは、彼らは踊っている。踊ることに夢中になっている。
「お願いです、どうか、お客さんがパニックに陥らないよう、あの人狼をなんとかしていただけないでしょうか?」

●参加者一覧

野良 希雪(ga4401
23歳・♀・ER
沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD
守剣 京助(gc0920
22歳・♂・AA
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD
赤槻 空也(gc2336
18歳・♂・AA
セラ(gc2672
10歳・♀・GD
イレース(gc4531
16歳・♀・GD
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF

●リプレイ本文

●Show Down
『ハロウィン企画として、仮装とお菓子配布、記念撮影とダンスパーティーを行っております。園内中心部へお越し下さいませ』
 ジョイランド内に響いた放送により、パレードが始まったばかりの中央広場は人で埋め尽くされていた。
 警備員によって台車の移動する道は確保されているが、これでは台車へ近づくのは困難である。
「おかしい、こんな放送になるはずでは‥‥」
 首を捻ったのは秋月 愁矢(gc1971)だ。彼は確かに、キメラとの戦闘をカモフラージュするためにとパレード台車でショーを行う旨の放送を係員に依頼していたが、それは逆に、台車から離れるようにとの指示を放送するはずだった。それに、依頼したのはついさっきのこと。放送するにしても早すぎる。
「放送の内容が違うようだけど?」
 ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)が係員に確認する。
「はぁ、どうやら別所で依頼された放送のようでして」
 申し訳なさそうに頭を掻く係員。キメラの出現は当然想定外のことであり、園内の様々な場所で戦闘が起こっている現状から、園関係者の間でも混乱が起きているらしい。一つ一つのことを確認している余裕などなかった。
「ショーの最中は近づかないでください」
 アリス服姿のイレース(gc4531)が客に呼び掛ける。彼女だけでなく、他の面々もハロウィンに合わせたコスプレをしていた。秋月はカボチャ頭にタキシード、マントという出で立ち。ドゥはカウボーイハットに狩人服と西部劇に出てくる保安官のような格好だった。
 少しでも状況を緩和しようとしたイレースの行動だが、「ねぇ、記念撮影ってこれじゃない?」と客の誰かが言ったのをきっかけに、彼女の周囲にあっという間に人だかりが出来てしまった。
「下がって、下がってー!」
 メガホンを振りかざす白い布、もとい、野良 希雪(ga4401)が慌てて注意を呼び掛ける。
 しかしメイド服に限りなく近いデザインのアリス服。そういった趣向を持つ人の波にイレースはあっという間に呑まれてしまった。
『これより、パレード台車におきまして、ハロウィン軍団vs狼男ショーを行います。演出上、ものが飛び散りますので、御覧になられる方は警備員の指示に従い、台車から離れて御覧になられるようお願いいたします』
「ようやく、だね」
「あぁ。さて、行こうぜ」
 黒マントに三角帽といった魔女にも見える出で立ちの沖田 護(gc0208)と、同じく黒マントを羽織り黒い鎧を着込んだ守剣 京助(gc0920)が台車へ向かう。イレースが図らずも人を集めたおかげでなんとか台車までの道を確保出来たのは幸運である。
 しかし彼らよりも早く台車にとりついたのは小柄な黒猫、セラ(gc2672)だった。猫だからなのか、そうでないのか、人ごみを抜けだすのもあっという間だ。
『人狼は人と魔物の間をさまよう半端者であり、我々はそれを咎めに来た魔物たちである』
 台車に備え付けられたマイクを手にとるや、その可憐な姿からは想像も出来ないような冷たい声で、セラは語る。
 突然のショーの開幕に客がどよめき、注意が台車へと向けられ、イレースは解放される。
(「圧死するかと思った‥‥」)
 どうやら命拾いしたようである。
「ガオオオッ!」
 虎模様の服に身を包んだ赤槻 空也(gc2336)が台車へと飛ぶ。
 観客が一気に盛り上がり、台車が一斉に人に囲まれだした。
「はーい下がって下がってー」
 白い布改め野良が観客を押し戻し、イレースが手に持った盾でやや強引に道を塞いだ。
 沖田、守剣、秋月、ドゥもすかさず台車の上へと昇る
 それに合わせるかのように、台車のスピーカーから流れていたBGMがパレード用の愉快なものから、まるで戦隊ヒーローもの番組で使用されるかのような激しくスピード感のあるものへと切り替えられる。
「Show down‥‥!」
 ドゥがマジ・クイットで人狼を切りつけた。刃が掠り、人狼の体毛が空を舞う。
「君達は何を考え‥‥思いここに来た?」
 彼の問いかけに、人狼は応えない。ただ、恨めしげな呻き声が漏れるのみだ。
 それを合図にしたかのように、キメラを含む他の面々が一斉に動き出す。
「‥‥来いよオラ‥‥テメェら全員ッ!ブッ潰すッ!」
 拳を構えた赤槻へ人狼が飛びかかる。が、拳が突き出されると踏んだキメラは、懐へと入りすぎたのだ。
 気がつくと、キメラの体はふわりと浮いていた。
「はっはー!」
 タイミングを合わせた守剣が、人狼を真っ二つにする。それをすかさず回収した沖田が、胴が離れないよう注意を払いつつ台車の中へと放り込んだ。
『彼ら魔物たちは恐れを知らない。そう、人狼など恐れない』
 秋月の壱式と莫邪宝剣が閃く。

 グァァ‥‥!

 しかしトドメを刺すに至らない。
 胸を血に濡らし、逆上した人狼がその腕を振りかざす。
「危ない!」
 間に入ったドゥが吹き飛ぶ。台車から落ちた彼へ駆け寄った野良が練成治療を施した。
「くっ、よくも!」
 突き出した壱式。人狼はそれをひょいとかわしたが、しかしそれはフェイクだった。
「はぁっ!」
 すれ違い様、莫邪宝剣が光る。
 その身を貫かれた人狼は、断末魔を上げる暇さえない。
 瞳に力を失った人狼は、勢いを体の回転へと切り替えた秋月の回し蹴りで見事台車の中へゴールされた。
「痛ェの行くぜ‥‥赤鬼・崩合拳!」
 後を追うようにして、次の人狼が台車を内側から揺らした。
「すっげぇ! かっちょいー!」
 観客が沸き立ち、今しがた人狼を仕留めた赤槻が照れて頬を赤くする。
 その裏でこっそりとキメラに練成弱体をかけてまわっていたのは沖田だ。人の命を守るためには、何よりもそのサポートが重要であることを、彼はよく知っているのだ。
 だが、ショーに見せているとはいえ、ここは戦場である。

 グル、ガァァ‥‥!

 背後から人狼の爪が迫る。
「護!」
 沖田を押しのけるように守剣が割り込み、鎧が深く抉れた。
「京助!? 待ってて、すぐに‥‥」
 練成治療により、守剣の傷口からの出血が止まる。鎧から漏れ出る前だったおかげで、客も演出だろうと思ってくれた‥‥はずである。
 ゆらりと立ち上がった守剣は、その鎧の奥から怒りの炎を宿した瞳でキメラを睨みつけた。
 その威圧感に、思わず人狼がたじろぐ。
「いい加減潰させてもらうぜ!」
 振り抜いた大剣により、人狼が空高く舞い上がる。
「はあああっ!」
 そして連撃を加えんと、再び大剣を構えた。
「ストップ、それをやっちゃダメだ!」
 大声に驚き、守剣の動きが止まる。その間に人狼がどさりと観客の目の前へ落ちた。
「う、うわぁぁあああ!」
 血に塗れたその姿に、観客が悲鳴を上げる。
 すかさずイレースがフォローに入り、演出であると必死にごまかした。
「最近のショーの演出は凝ってますね〜!すごいギミックです〜!」
 布を被ったままの野良も何とか客を落ちつけようと奔走する。
 むくりと起き上った人狼は、そのまま客を掻き分け逃亡してしまった。
『しかし人狼も馬鹿ではない。身に危険が及べば逃げるだろう。自らの命を守るために』
 セラの放送により、演出であるのだ、と半ば無理やり理解させられた観客たちが徐々に落ち着きだす。
 その様子に、イレースもほっと胸を撫でおろした。
「おい、何で止めた!」
 守剣が秋月の胸倉を掴む。制止をかけたのは、彼だった。
「やりすぎだ。これはショーだ、流石にあれ以上やると、客がパニックを起こす」
「そうそう‥‥!」
 秋月の言葉に頷いた沖田が振り向き様、機械剣αを突き出す。喋っている間に人狼が背後へ迫っていたのだ。
 台車をよじ登ったドゥがその人狼に壱式を突き刺し、そのまま台車の中へと運びこむ。
「あと三匹‥‥。気を抜かずにいきましょう!」
「あ、あぁ。‥‥すまなかった。行くぜ!」
 気を取り直した守剣が大剣を構える。
「ワンマンじゃキッツイな。俺も混ぜてくれよ」
 その背を守るように赤槻が入る。
 そこへ二方面から人狼が迫った。
 赤槻が殴りとばしたキメラを待ちうけるは、ドゥの仕込杖の乱れ突き。
 守剣の大剣に突き刺された人狼は、秋月によって息の根を断たれた。
 台車内で眠る人狼は六匹。逃げ出したのが一匹。これで残る人狼は一匹だ。

 ぐ、グル‥‥。

 流石のキメラも、不利を実感したのだろう。じりじりと後ずさり、逃げるタイミングを見計らっているのは誰の目にも明らかだ。
 地を蹴るようにして飛び出した守剣が大剣を振るう。仰け反るようにして回避した人狼がサマーソルトを繰り出す。
 攻撃を顎に受けた守剣と入れ替わるようにドゥが杖で殴りつける。
 ぐらりとよろけたところへ間を詰めた赤槻が思い切り人狼へ拳を叩きこんだ。
 吹き飛ばされたキメラの体が、宙で急停止する。
 秋月の持つ剣が、その身を貫いていた。
 そして刃が引き抜かれると、人狼の胸が沖田の機械剣に割かれる。
「はあああああああああああ!!!」
 白目を剥いたキメラへ、態勢を立て直した守剣が突進し、あえなくキメラは台車の中へと消えた。

●Ending
『かくて、人狼は退治された。我々魔物たちの力に、不可能はない‥‥』
 台車の下で観客を抑えていた野良とイレース、そして司会を務めたセラが台上に上がる。
『さぁ、勝利を祝おう』
 セラがマイクを置く。とたん、ふっと糸が切れたようにふらついた。
「はっ!?セラなにしてたんだろ?」
 覚醒が途切れたのだ。
 人格が入れ替わるという特異な覚醒状態となる彼女にとっては、今という状況が呑みこめないのも無理はない。
「締めだ。いいから合わせろ、セラ」
「うん、クーお兄ちゃんがそう言うなら」
 彼女の兄貴分、赤槻が声をかけてやる。
 そして、傭兵たちが手を取り合い、一気に振り上げた。
「トリック・オア・トリート!」

●Play Attraction
「おーちーるー!」
 遥かな高みからひたすら落ち続けるアトラクション、フリーフリーフォール。
 ただ落ちる。だがそこが良い。
 そんな絶叫マシンではしゃぐのは野良だ。閉園後の特別サービスとして遊ばせてもらっているので、彼女の笑い声がやけによく響いた。
「あー、楽しかったー。ねぇ、一緒に乗らない?」
 一度アトラクションを出た彼女が、戦いを終えた男たちに声をかけた。
「あ、じゃあ、行こうかな」
「僕も行くよ。京助は?」
 頷いたドゥと沖田は、キャッキャッと騒ぎながら再びアトラクションへと消えていく野良にゆっくりと続きながら振り返る。
「俺は遠慮しとくよ」
 コーラをぐいと飲みながら答える守剣。揺れるのがそんなに怖いのだろうか、という疑問は、誰もが胸の内へとしまうことにした。
「俺も遠慮する。楽しんでくるといいさ」
 秋月はフェンスに背を預けてひらりと手を振った。
 そっか、と笑みを見せた沖田とドゥが足早にアトラクションへと向かっていった。
 男二人が残された空間は、互いの呼吸音が聞こえるほど静かだ。
 彼らは、アトラクションへ消えていった三人が戻ってくるのを待つともなく待っていた。
 他のメンバーは、他所で遊んでいる。特に、今遊びたいものもない。かといってこのまま帰るにしても、ただ全員集まるまでLH行きの艇で待ち続けるのも退屈だ。

 プルルルル‥‥。

 アトラクションの開始を告げる音が鳴る。
 ほどなくして、野良や沖田の楽しそうな笑い声、ドゥの悲鳴が二人の耳に届いた。
「すまなかったな」
 それに掻き消されるほど小さな声で秋月は言った。
「‥‥?」
 コーラに口をつけたまま、守剣が目だけで秋月を見る。
 彼は苦笑してフェンスを離れると、
「ちょっと、きつく言いすぎたかもしれん」
 それだけ言って、どこかへすたすたと歩いて行ってしまった。
 ゴクリ、とコーラを飲みこんだ守剣は、「逆に助かったさ」と言いながら缶をゴミ箱へと投げ‥‥外した。

 観覧車から見える夜の景色は、幻想的だった。
 遊園地自体の明かりで空に星はない。しかし山間に設営されたこのジョイランドからちょっと見下ろせば、ふもとの光がどこまでも続いている。
 まるで空と大地がひっくり返ったような世界。
 セラと赤槻は、観覧車からそんな景色を覗いていた。
「すげェなァ‥‥。戦争してるなんて思えねェぜ」
「うんうん、戦ってばかりだと、こんなのほとんど見れないしね!」
 そしてその景色を見ていたのは、彼らだけではない。
「どうだった?」
 先に一周してきたイレースを出迎えたのは、秋月だ。
 手持無沙汰になり、園内をぐるりと回ろうとしていた矢先だった。
「うん、綺麗だった」
「景色が?」
「そう」
 その脇をスタスタと通り過ぎる彼女は、表情こそよく読みとれないが、どことなく楽しそうな雰囲気は秋月にも伝わった。
「もう帰るのか?」
「ううん、もうひとつだけ」
 アトラクションで遊ぼうというのである。
「俺も行こう。で、何に?」
 その脇に並び、顔をちらりと見ながら問いかける。
 答えは非常にシンプルで、静かな一言だった。
「メリーゴーランド」

「なぁ、セラ」
 観覧車は頂点を過ぎ、ゆっくりと下降する。
 ふもとの景色が徐々に埋もれていく中で、何か言おうと赤槻が口を開いた。
「‥‥」
 セラは返事をしない。
 視線を外から離し、目の前に座る妹分へと移す。
 彼女は眠っていた。
 疲れてしまったのだろう。
「やれやれ。仕方ねェな」
 完全に降り切るまでまだ少し時間がある。
 その間、彼は彼女を寝かしてやることにした。
 しかしセラの寝顔があまりにも安らかで、結局もう一周、無言の観覧車を回したことは誰も知らない。