タイトル:英独選択小会議マスター:矢神 千倖

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/26 02:20

●オープニング本文


 ULT本部内の会議室はほとんど小部屋のように区切られ、狭かった。ホワイトボードには何も書かれておらず、議長席にはホチキス留めされた資料が十部程度積まれていた。
 長机に並べられた椅子はきっちり揃えられているとは言えない。無造作に置かれただけだ。準備した人間のことをある程度知っているならば、諦めの溜め息を吐かざるを得ないだろう。
 超適当オペレーター、ランク・ドール。彼が本依頼の担当者になったのだからしょうがない。後ほどここへ通される傭兵達は、ずぼらに用意された席、ホチキス留めされたとはいえ紙のズレが目立つ資料に嘆息するのであろう。
 この会議室、話し合いに用いられるのは間違いないのだが、ここで出された結論を元に傭兵達がどうこうするというわけではない。具体的には、ここで出された意見をある程度絞り、依頼主へ提出することが今回の仕事内容だ。
 依頼主というのは、英国王立兵器工廠(以下特筆しない限り英国と省略)。KVの開発を手掛けるメガコーポレーションだ。

 人類がバグアとの争いの舞台を宇宙にまで広げたことで、各メガコーポレーションも宇宙での活動に対応したKVの開発を余儀なくされた。実際には宇宙で活動出来るKVが開発されたことで、戦場を宇宙にまで広げられたのだが。
 それはともかく。今も各社で宇宙用KVの開発が進み、また次々とロールアウトしていく中、大きく遅れを取っていたメガコーポがあった。
 ドイツに本社を置くクルメタルと、英国である。この二社はいったい何をやっているのか、とため息交じりの批判が出始めた裏で、実際には何もやっていないわけではなかったのだ。
 二社共に宇宙における開発で後れを取った理由は、その理念によるところが大きい。
 英国の場合、ナイチンゲールを改修してロビンを、さらにブラッシュアップしてフェンリルを輩出してきた経緯。またリヴァイアサンを開発する上で得た大型エンジンに関する技術を用いてアッシェンプッツェルがロールアウトされた過去を見て分かる通り、既に持っている技術からの機体開発を主とする企業。未知の領域たる宇宙に関する技術は持たず、殊無重力空間での姿勢制御の面に頭を抱え、開発は遅々として進まなかった。
 そしてクルメタルはウーフーに代表される電子技術、またシュテルンやディアマントシュタオプ(DS)に見られるエネルギー技術、さらにクノスペにある可変ノズルの技術では他社に引けを取らない。が、一機のKVに多くの技術を詰めこんで開発するクルメタルに、その理念を通したまま宇宙向けの機構まで取り込んで開発することはなかなか難しい問題があったらしい。実際にはDSの後継機としてポラーリヒト、という名のKV開発企画が立ち上がっていたようだが、高価な機体であるDSを開発した後ということもあり、企画段階から詰めこみ過ぎによる予算不足が問題となり、頓挫していたという経緯もある。
 今英国が求めるのは姿勢制御の技術。そしてクルメタルが求めるのは理念に囚われない開発環境。
 この両社の利害が一致し、英国のアッシェンプッツェル依頼となる英独共同開発企画が立ち上がったのである。

 英国がクルメタルのポラーリヒト開発企画に用いられる予定であった可変ノズルによる姿勢制御技術を得たことによって現在開発自体は順調に進んでおり、完成に向けた障害も特にない状況。だが開発における決定稿を出す前に、傭兵に対する意見調査を行う必要があった。傭兵にも使ってもらう機体なのだから、戦場で用いる場合どのような運用をしたいかといった生の意見を取り入れることで出力のバランスなどを調節するのがその目的。
 そこで、ULT本部に傭兵が集められたわけである。

●参加者一覧

周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
ロジャー・藤原(ga8212
26歳・♂・AA
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
佐渡川 歩(gb4026
17歳・♂・ER

●リプレイ本文

●はじめに
 まず、オペレーターのランク・ドールが英国・クルメタルの合作KVについての資料を読み上げる。
「今回は英国王立兵器工廠とクルメタル社が合同で作る宇宙用KVの、大まかな方向性を決めるための意見聴取だ。簡単に言えば機体の名前と、固定兵装をどうするかってこと。詳しいことは資料に書いてあるが――」
 機体について軽く整理しておこう。
 現在ほぼ確定していることは、英国の開発したEF−007フェンリルが母体でありながら、歩行形態は二足であること。いわゆる知覚能力や機動力が重視されていること。また予算はさほど多くなく、いわゆる高級機にはならないこと。クルメタルからの技術を組み込んだマイクロブースターを取り入れることだ。
 固定兵装については現在二つの案が挙げられている。
 一つは、フェンリルに搭載された機牙「グレイプニル」を新機体向けに改修したもの。これを搭載した場合、機体におけるエネルギー系統の出力先を切り替えて機体の発揮する能力を変更する、アリスシステムを導入する予定である。
 もう一つは、過去に英国とクルメタルが共同で開発したKVアッシェンプッツェルに取りつけられた機槍盾「ヴィヴィアン」を弄ったもの。具体的には盾に特化したものへと作り変えたものとなり、こちらを搭載した場合には非物理攻撃を固定兵装の盾で受けた際の防御力を高める、いわばエネルギーパリングを導入する予定である。
 以上の点を手掛かりに、傭兵達には自由に意見を出してもらった。

●名称案意見出し
「まずは名前を決めませんか? 呼び名がないままではやりにくいですし」
 最初にそう提案したのは佐渡川 歩(gb4026)。
 少なくともこの場で通用する名前がなくては、確かに不便もあろう。
 そこでまず、機体名の候補を挙げてゆくこととなった。
「フェンリルの後ならヴィーザルは?」
 守原有希(ga8582)が真っ先に案を出す。
 ヴィーザルとは、北欧神話においてフェンリルを殺したとされる神だ。
 確かに関連性が非常に強いように思われる。
 だが、それに対する意見もあった。
「フェンリルのベースになったワイバーンと竜繋がりで、ドレイクとかどうだ?」
 この意見を出したのはロジャー・藤原(ga8212)。ドレイクはそのまま、ドラゴンのことであり、当然のごとく、竜の意味である。
 これには周防 誠(ga7131)が同意。
「自分もドレイクを推します。受け継いできた母体を表すようで、良いのでは」
 賛成者が一人出ると、ほとんど決まったようなものである。
 オペレーターであるランクは会議の内容をまとめ、進行するのが役目であるので、議論に口を挟むことは出来ない。
 すると残るは佐渡川の意見であるが、これ以上新しい案を出すつもりはないらしく、ヴィーザル、ドレイクの両案に対しても否定するつもりもなさそうであった。
「多数決だとドレイク、だな。報告書の方にはヴィーザルも案として載せておくけど、まぁ混乱しないように、今この場ではドレイクと呼ぶようにしてくれ」
 メモを取りながら、ランクが名称案についてまとめた。

●名称案まとめ
 以下二点のアイデアが出た。
 ヴィーザル。北欧神話でフェンリルを討伐した神の名に由来。提案者は守原有希。
 ドレイク。母体となったフェンリルの、さらにベースとなったワイバーンにあやかり、竜の名を継承。提案者はロジャー・藤原。周防 誠が賛同。
 便宜上、本報告書内では新機体をドレイクと称する。

●固定兵装案意見出し
 次に、固定兵装についてである。簡素に整理しなおせば、練剣か、盾である。
「練剣は翼に仕込めれば‥‥。で、人型時脚に格納する形なら主翼の長さを確保しつつ形態問わぬ武器になれそうですが‥‥」
 守原が出した意見は、恐らく飛行形態でも使用可能な練剣、というもののようである。
「ただ、宇宙は練力消費型だと厳しいですし、初めからこの練剣使用分のエネルギーを別枠で設けておくのはどうでしょう?」
「それだったら、練剣を使用しない戦い方をした場合、ちょっともったいないかもな。むしろエネルギーパック方式にして本体の練力を使わない様に出来ないか? 少々威力は落ちても、回数を多く使えるといいな」
 練剣に関する意見を出す佐渡川。
 その対案を示したのがロジャーだった。
 これまでの練剣の仕組みは、KVを動かすエネルギーを変換して出力することで武器として成り立っていた。しかしこれを固定兵装とする上では、この練剣使用におけるエネルギーをどのように確保するか、という問題が発生する。
 そこで佐渡川が考えたのが、練剣用のエネルギーを別個に用意しておくこと。
 ロジャーの意見はこれをブラッシュアップし、練剣自体にエネルギーパックを取りつけ、練力を機体に依存しないようには出来ないか、というものだ。
 では、盾の方はどうであるか。
「飛行形態でも使えるとか、強化変形機構にして即座に人型になれるなら便利かもしれんけど、地味じゃね?」
 ロジャーの評価はこうであった。
 しかしこれに、資料に於いて想定された用い方を少々外した見解を示したのが、守原であった。
「盾はアリスシステム系と好相性と思います。このシステムを使えば、盾を正確に運用することが出来るでしょう。問題は盾自体の性能ですが‥‥」
 本報告書の「●はじめに」で簡単に整理したように、アリスシステムは練剣を採用した場合に搭載しようと想定されたもの。これを盾にも用いられないか、というのが守原の考えであった。
 一つ可能性は示された。しかし、全体の流れは練剣へと向いていたようである。
「それでも、練剣を推したいですね。ただし最低でも総合能力でフェンリルのグレイプニルを上回る性能を保持して欲しいですね。それが無理なら価格上昇等に繋がりますし‥‥」
「固定兵装なし、という選択肢もある」
 周防の言葉を、ロジャーが引き取る。
 これにはその場の全員が目を丸くした。
 英国から送られてきた資料には、提示された固定兵装のいずれかを選択してほしい、とはあるが、そもそも固定兵装は必須のものではない。選択肢としては、十分にありである。
「えっと、概ね練剣を採用する方針で、場合によっては固定兵装なしにする、って感じでいいか?」
 ランクが全員に確認する。
 するとロジャーと周防はしっかりと、守原と佐渡川は戸惑いがちに頷いた。

●固定兵装案まとめ
 固定兵装に関しては練剣を選択したいとの方針。ただし、フェンリルの固定兵装であった機牙「グレイプニル」を上回る性能を保持。不可能な場合は固定兵装を搭載しない選択肢も示された。
 固定兵装なしの場合、機体の特殊能力にはアリスシステムを用いるのが妥当か。
 また練剣を用いるのであれば、武器にエネルギーパックを取りつけ、機体のエネルギーに依存しない設計が提案されている。この際、使用回数の方を重視したいとのこと。

●その他
 英国より求められた意見聴取は以上で終了し、報告するものである。
 しかしながら、本会議に於いてはこれ以外の視点からの意見交換もあったので、参考としてまとめておくものとする。

 多くの機動力重視の機体に関して、共通して言えることは、積載量の問題である。速度、小回りその他を維持するため、機動力を求めるならばどうしても身軽である必要があるからだ。これは宇宙に於いても例外ではなく、質量が大きければ、それだけ機動に大きな力を必要とする。無理矢理にでも物を詰めこめば、戦闘に堪え得る能力を維持出来なくなるのである。
 この点をいかにしようかと考え、守原は以下のように提案した。
「これは、質量移動の慣性を利用する方法です」
 全身の可動ウェイトを高速移動させ、慣性を生む。これを利用した加速や旋回力を得ようというのである。
 これをドレイクに当てはめて考えるならば、まずはノズルを大型化し、ノズル可動時の質量移動における慣性を利用して機体の機動力を底上げしようというのである。
 しかしこの仕組み、担当オペレーターのランクには少々理解しきれない部分があった。
「えっと、どうまとめればいいかな‥‥」
「しかし、コスト的にどうなのでしょう。ノズルを大型化すればそれだけ費用がかかりますし、エネルギー効率の問題も出てきます」
 守原の提案を理解出来ないランクが唸っている横で、周防が声を上げた。
 宇宙戦闘では簡易ブーストが必須となるので、燃料効率は非常に悪い。こうした中でも継続して戦闘行動を行えるようにと、固定兵装案の練剣に関しても議論が行われたことから、ノズルの大型化を素直に肯定することも難しかった。
 そして周防が上げた問題点としてもう一点、コストに関することもある。
「英国は既存KVの生産ラインを流用して新機体を組み立ててコストダウンを図っているらしい。わざわざフェンリルをドレイクの母体にするってのもこの辺に理由があるんだろうから、あまり新しい機構を取り入れたりしたら、予算に収まるかどうか心配だな」
 これはロジャーの言葉。
 大型KVであるアッシェンプッツェルやリヴァイアサンはある程度独自の生産ラインを持つが、そうでないものは、それまでに開発してきた機体を流用していることが多い。新しく何かを取り入れる、ということは、コストを引き上げる要因になりかねない。
 だがこうした問題点を抱えつつも、決して頭ごなしに否定出来る案でもない。
 何かに利用出来る可能性も否定出来ず、ランクはペンで頭をつつきながら、やっとこさといった様子でメモを取っていった。
「まぁ、それはそれとしまして‥‥」
 話に一区切りがついたところで、今度は佐渡川が口を開く。
「宇宙では活動時間の関係上、母艦が近くに居るので、狙われた母艦を守るために機動性の必要な場面が多いです。なので、ある程度の速度が必要かと思いますが」
「機動力に重きをおけば、他社の機体とも差別化出来そうですね。マイクロブーストを起動しながら、ブースターの方向などを修正して高速移動と旋回性を重視した形態を取ることは可能では?」
 こうした周防の提案に、守原はピンときたようだ。
「クルメタルのディアマントシュタオプにあった、HBフォルムですね」
 HBフォルムとは、高機動と旋回性を重視した形態のこと。可変翼、可変ノズルの技術が光るクルメタルだからこそ作りえた機構である。
 これを英国のマイクロブースターと合わせることで、今まで以上の機動力を得ることが出来ないだろうか。そこにはやはり、新たな可能性がある。
 ランクがメモを取った。
「それと、推奨装備。射程の長い知覚ミサイルや、プラズマライフル‥‥。バランスが良くて使いやすいものがいいですね」
 話はどんどん膨らむ。佐渡川がそんな案を出した時だった。
「装備と言えば、ドレイクの兵装の積載量や搭載数は、フェンリル並にはあるのか?」
 ロジャーがそんな疑問を口にしたのである。
 そういえば、といった表情の一同。固定兵装のことを考えた時に、真っ先に把握しておくべき事項でもあった。
 しかし、配布された資料には、そこについて言及するものはない。
 これについては、ランクが口を開いた。
「実は、分からん。ただ多分、フェンリルより多くなることはまずないんじゃないかな。予算がフェンリルより少ないし」
 飽く迄ランクの予想である。が、素直に考えればそうだろう。販売想定価格は、フェンリルよりも安く設定されている。兵装の積載量などについては、良くてフェンリルと同等といったところだろう。むしろ、積載量が減る可能性の方が高い。
 これをいかにクリアするか、という点については実際に販売されてから搭乗者が考えるべき点ではあるのだが、開発の段階からある程度打てる手は打っておきたいもの。
 そこでロジャーが提案したことは、こうだ。
「さっきの固定兵装の話。練剣を使うなら、足に内蔵しないか? 人型で武器を扱う場合、だいたいは手を使うから、固定兵装を足にくっつけることで持てる武器の枠を確保出来るんじゃないかと思うんだが」
「面白いですね」
 周防が賛成する。
 練剣は、対象に触れるだけでその威力を発揮する。実刀のように、ある程度正しい角度で斬りこまなくてはダメージを与えられない武器とはそういった点で大きく違う。ならば、人型形態では相手を蹴るだけで効果を発揮するよう、足に取りつけてしまうのは面白い案と言えた。機体そのものに内蔵するために、外付けの武器もより多く持てるというもの。
 このアイデアも、意見の一つとしてランクがメモに書き留めた。

●その他まとめ
 機体内部の慣性を利用した加速機構を取りつけられないか、とのアイデア。ただしコストやエネルギー効率に対して不安がある。
 また加速に関しては、英国のマイクロブースターとクルメタルのHBフォルムを組み合わせることは出来ないかとの案。これによる、今まで以上の機動力が得られないかと期待される。
 推奨武器にはこれまで英国が生産してきたような、バランスが良く扱いやすいものを。また兵装の積載量・数を確保するため、固定兵装として練剣が採用された場合、それを脚に仕込んで内蔵兵器化するのはどうだろうか。

●おわりに
 以上を以て本会議の内容を取りまとめたものとする。
「●〜まとめ」の項目を参照していただければ、本会議に於いて提案された意見がおおよそ把握出来るようになっている。
 傭兵達の期待に応え、未来ある開発をここに祈るものである。

 以上。