●リプレイ本文
●奇襲?
「ゴーレム12機による奇襲って言われて文字通り飛んで来たけど‥‥敵さんはどのあたりに‥‥」
戦線に近いというポイントに着陸、KVを陸戦形体へと変形させたエリアノーラ・カーゾン(
ga9802)がレーダーに目を降ろす。まぁここからしばらくKVを歩かせるのだろう、おおよその方角でも確かめられれば、と思ってのことだった。
「もう着陸前から敵の姿をレーダーに捉えてましたよ。妙ですね、ここまで接近を許すなんて」
金城 エンタ(
ga4154)はポイントへ到着する前から敵を捕捉していたことをはっきりと報告した。
幾人かがそれに首肯する。
「え? ちょ、何よコレ‥‥ちょ、えぇ?」
レーダーを見るまでもなかったのだ。
もはや、目視出来る距離。そこで、事前情報があればこそだが、敵はゴーレムだとうっすら識別出来るほど間近で、戦闘は行われていた。
あまりにも近すぎる。エリアノーラが目を白黒させるのも無理はなかった。
「索敵に手を抜く訳ないと思うけど、何と無く違和感が有るね」
疑問を抱きつつも、仕事は仕事と切り替え、誰よりも先に歩みを進めたのは地堂球基(
ga1094)。
考えるより先にやるべきことがあるはずだ、というのが彼の考えだ。
「色々大変な気がするのねえ‥‥」
しかし、それでも思わず頭を掻いてしまう。
疑問を抱いたのは彼らだけではない。
「‥‥ここまで敵の接近を許すなんて、ここの基地の監視態勢はどうなっているのかしら?」
小鳥遊神楽(
ga3319)は地堂とは逆にここに常駐するUPC軍の働きぶりを疑う。
毒舌を持って小鳥遊に同意するのはロシャーデ・ルーク(
gc1391)だ。
「住民が逃げ出すぐらい近付いていた敵を発見出来なかったなんて、ざる警備も良いところね。感心するわ」
「職務怠慢だよUPC軍」
同様に呟く御剣 薙(
gc2904)。
一同がほぼ同じような疑問を抱く中、何を感じ、何を考えたのだろうか。斎(
gc4127)だけは一言も口を開かず静かにKVを歩かせていた。
●挨拶・急襲
『傭兵の到着か! すまない、こちらは損傷具合、また残弾からも、これ以上の戦闘は困難だ。申し訳ないが後は頼んだぞ』
「本来は連携して叩くのが一番いいのにな、軍の連中は早々と退場か」
飛び込んできたUPCからの通信にぼそりとニーオス・コルガイ(
gc5043)が呟く。
それだけではない。ここまでの敵の接近を許したことを責める声も上がった。
『だから言っただろう、申し訳ないと。誰が好き好んでここまでの接近を許すものか! 向こうの勢いに押され、ここまで追いやられてしまっただけだ!』
「奇襲を受けたのでは?」
斎の突っ込みに、半ば開き直りとも取られる軍人は空気音で笑いを漏らした。
『いかに奇襲をうけたとはいえ、もっと先に布陣しておったわ! 我々の訓練不足がこの結果を招いてしまった。笑うならば笑え。おい、下がるぞ』
言い訳がましく聞こえるが、しかし、それ以上何かを疑う材料もなく疑問の追及はままならなかった。
UPCの隊長機と見られるKVがさっと腕を上げ、僚機の撤退を促す。
そこに、金城が待ったをかけた。
「後退せず、少し遠くで眺めていて下さい‥‥本物の急襲を、お見せします!」
自分で訓練不足と言い漏らした軍人に対し、戦い方を見せるつもりなのだろうか。
少なくとも、UPC軍はそう受け取ったようで、あぁ、という短い返事と共に、比較的損傷の軽い機体は後方で待機した。もちろん、中破以上の機体や戦車などは撤退してしまったが。
「さて、お仕事しないとね」
一番槍ならぬ一番弾をくれてやったのは地堂のシュテルン、一番星だ。
ずらりと並ぶゴーレム群の中でも、プロトン砲の大筒を携えたものを狙うつもりで強化型ショルダーキャノンのトリガーを引く。だが、敵まで遠い。
放物線を描いた弾は狙った敵の手前に落ちる、かに思えた。
――!?
幸運にもその手前にいた巨大な剣を引っ提げたゴーレムの1機に命中。射程ギリギリだったが故に大きなダメージとはいかなかったが、一瞬ゴーレム達が怯んだように見える。
これに続け、とばかりに他の傭兵達も次々に構えた銃器から弾を吐きだした。
「てめぇらは此処でスクラップにしてやるぜ」
一番星のキャノンに負けずとも劣らない巨大な弾、対戦車砲を雷鳴ことニーオスのNロジーナが撃ちだす。
が、次の行動を予測していたゴーレム達はその物理法則を無視したような機動で砲撃をかわした。
そこを、ロシャーデのサイファーが狙う、が、敵はそうそう当たってくれない。
しかし回避に回避を重ねれば流石に隙も出来るというもの。
「これで終わりじゃないわよ」
小鳥遊のガンスリンガー、カサドールがスナイピングシュートを発動させた正確な狙いで1体のゴーレムを撃ち抜いた。装甲に空けられた穴から火花が迸り、その足が止まる。
恐るべき機動力を誇る金城の真・韋駄天と名付けられたディアブロにとって、接近までの時間を稼いでもらうにはこれで十分だった。
「これが‥‥本物の急襲です!」
ゴーレムの群れにマシンガンをばらまいて駆け抜け、最奥にいた2体のゴーレムに回転の勢いを乗せてハイ・ディフェンダーを叩きつけた。
攻撃された、という認識はあっただろう。しかし振り抜きの速度は光のようで、その身を刃が通過しているという認識はなかっただろう。
胴と下半身とが離れ離れとなって倒れたゴーレムを見たUPC軍が、どよめく。
『あいつ、一瞬で2体やっつけちまったぞ!』
『俺達ぁ当てるだけで精いっぱいだったってのに、なんて女だ!』
『あんな可愛い声が、男のはずがねぇや。女神様ぁ〜!』
「僕、男なんですけど‥‥」
軍人たちの歓声に、心でしくしくと涙を流す金城だった。
挨拶の一撃を終えたロシャーデらが反動の小さい銃器を放ちつつ前進する中、エリアノーラは既に攻撃の体勢に入っていた。
シュテルン、空飛ぶ剣山号の手に握られたセンチネルが、損傷が激しいと見られるゴーレムに突き立てられる。
その隙を狙わんとするゴーレムが背後に迫ったが、センチネルを抜くと同時にぐるりと向き直った反動で、背中に広がる翼が、その胸部装甲を引き裂いた。
金城に、2体のゴーレムがプロトン砲の照準を合わせる。一瞬で2体も斬り伏せられては、黙っているわけにはいかない。急襲により先手は取ったものの、結果として金城の孤立を招いていた。
ゴーレムにとって、あの真・韋駄天を落とすにはまたとない機会だ。
「く‥‥っ」
斎のワイズマン、蒼穹がゴーレムの1体に高分子レーザー砲を放つ。
「助かりました!」
1体のプロトン砲が、蒼穹の一撃で逸れたおかげで、金城の真・韋駄天は危機を脱する。
それにとどまらず、体勢を崩したゴーレムに接近した金城はお返しとばかりにゴーレムを真っ二つにしてしまった。
プロトン砲を持つゴーレムは、早くも残り3体となっていた。
敵の前衛は健在ながらほぼ全機がダメージを受け、明らかに挙動が鈍っている。
そんな中、1体のゴーレムが大きく剣を振り上げた。狙いは、ニーオス・コルガイの雷鳴。
「ちぃ‥‥っ」
咄嗟にヴィガードリルを回転させて突きだす。
本来盾代りに使うような代物ではないが、無我夢中だった。
だがそれが、功を奏す。
鼓膜をひっかくような金属音と共に、ゴーレムの剣がドリルの回転に弾かれた。
あらぬ方向へと力が働き、それに耐えきれずゴーレムが倒れてくる。
その胸を、ヴィガードリルが貫いた。
「ふっ、死ぬかと思った」
冷や汗に額が濡れたのは、無理もないだろう。
しかし一息ついている暇などない。
先にエリアノーラにより装甲を抉られたゴーレムが、雷鳴の背後から襲いかかる。
それを阻止したのが、ロシャーデだった。
「早く離脱しなさい」
振り上げられたゴーレムの腕。その肘には、ロシャーデのサイファーが持つレイピアが突き立てられていた。
「すまない、助かった」
ニーオスがその場を離れるのを確認するや、ロシャーデもレイピアを引き抜いて一度下がる。
「お願いね、小鳥遊」
「任せなさい」
合図を受けた小鳥遊がバレットファストの機動力で動きつつライフルを叩きこむ。
「狙撃だけがこの子の得意技と思わないで欲しいわね。イェーガーとしてのあたしの戦い方を再現出来るこの子を操るあたしは結構手強いわよ」
「行くよ、ブレイクエンド。其の名の如く、全て打ち砕く!」
トドメとばかりに踏みこんだ御剣のブレイクエンド。その爪がゴーレムを深く抉り、燃料なのか何なのか、どす黒い液体を派手に噴出させて青の巨人は倒れこんだ。
この時点で敵の前衛は残り4体、後衛は3体。早くも数で敵を上回った。
●巨人に退路なし
思わず剣を盾にしたゴーレムだったが、地堂の一番星が振り下ろす杖によってゴーレムが1機、剣ごと頭を潰されて倒れた。
たまに反撃を試みるゴーレム達だが、傭兵のKVにとってみればかすり傷程度にしかならない。
勝機はない、そう判断したのだろう。残り6機となったワーム達はじりじりと後退を始めた。
「深追いはしない方がいいだろう」
倒れるゴーレムに追い打ちをかけながら地堂は言う。
逃げてくれるなら幸い。無理に戦う必要もないと彼は考えていた。
「深く追わなければ、いいわけですね」
「いや、そういうわけでは‥‥」
ニッと笑みを浮かべたのは、金城。彼は真・韋駄天のブーストを吹かして突撃した。
たった数秒の間にハイ・ディフェンダーが4度閃き、ゴーレムが2機、スクラップとなる。
「じゃあ、追いかけなければいいのね」
足を止めた小鳥遊が、カサドールのトリガーを引く。足を撃ち抜かれたゴーレムが、いかに慣性制御があるとはいえ、支えるものが貧弱となっては体勢を保てず、膝をついた。
チャンスとばかりにニーオスが戦車砲を撃ち出すや、そのゴーレムはあっけなく爆散した。
残りは3体。
一斉にフェザー砲を発射してきたが、しかしKVに掠るだけ。当たらない。
それは逆に、隙を作るという結果を生み出してしまった。
「残念ね、もう勝負あったわ」
ロシャーデのレイピアに肩を貫かれたゴーレムへ、斎と小鳥遊の近距離射撃が叩きこまれる。あっという間の沈黙。
まさに蹂躙。
「チャンス、もらうよ!」
そうこうしている間に、また別のゴーレムが金城に腕をもがれ、御剣の爪によりまた1機地に伏した。
「やれやれ、追いかける必要すらなかったわけね」
もはや残るは1機。深追いも何も、ここまできて逃がす必要もない。
地堂がウアスを振り上げたその時。
「が――ッ!?」
勝利も逃亡も諦めた、ゴーレムの最後のあがき。
プロトン砲が放たれたのだ。
その一撃は、斎の蒼穹を掠めた。照準を定める暇がなかったのか、その光線は蒼穹の足をこげつかせつつ、大地を抉って消える。
「でぇい!」
一番星のウアスに叩きつけられたゴーレムが凹む。
「これでトドメにしてあげるわ」
続いてエリアノーラの空飛ぶ剣山号によりその装甲を貫かれ、最後のゴーレムもとうとう沈んだ。
攻撃を受けた斎の蒼穹も、大きな被害はなさそうだった。その様子を見てエリアノーラが胸を撫でおろす。
『す、すげぇぜあいつら』
『あぁ、俺達があんなに手こずったゴーレムをあんなにあっさりと‥‥!』
背後に待機していたUPC軍が湧きたつ。
もちろん、この力の差はある程度自由にKVを弄ることの出来る傭兵故の特権あればこそ、というのは大きい。
しかしセオリーを踏襲しつつもあの思い切った動きは、少なくともここにいる彼ら軍人には思い付かなかったようだ。裏を返せば、軍人であるからこそ、そういった動きをしなかったのだろう。
だからこそ、驚き、目を見張る。これが傭兵の戦い方か、と。
●追跡調査依頼
「市民たちよ、軍の連中の不甲斐無さを目の前にしてどう思う」
戦場から引き揚げた傭兵達の中には、それぞれが胸に抱いていた疑問をぶつける者がいた。
その中でも最も大きく動いたのが、ニーオス。
彼は戦闘が終わったと聞いて出てきた市民達の前で、KVの外部スピーカーを用いた演説を行いだした。
「我々傭兵は貴方達の為に命を賭して闘い、決して貴方達が避難を完了していないのに撤退する事はない。我々は決して貴方達を見捨てる様な事はしない、我々は剣となり盾となって闘う。何かあれば軍ではなく傭兵に要請してくれ、我々は直ぐに駆けつける」
ポカンと呆ける市民。
避難が完了していないのに軍が撤退した? 確かに、都市の方では避難が完了していなかったかもしれない。奇襲を受け、急いで避難を開始したが、戦闘までに間に合わなかったことも、知っている。だが、軍が撤退したなどという話は全く知らない。
「じゃあ、誰が俺達を守ってくれるってんだ?」
誰かの言葉。
それは不安となり、波のように広がっていく。
にわかに市民達がざわつきだした。
「何のための軍だ? じゃあ、世界中で戦争してるUPCってのは、自分達だけ助かって、他の一般人はどうなってもいいって、そう考えてるのか‥‥?」
曲解。
だが、不安な心の民衆は、まるでそれが真実であるかのように錯覚してしまった。
「君、早く帰還したまえ。これ以上は暴動が起きる可能性がある」
ニーオスのKVに、UPCから通信が入る。
彼にとってもこれは計算外。不安を掻き立てるつもりなど、なかったのだ。
だから、この場を収める良い案も浮かばず、渋々その都市を離れた。
「あれはまずかったわね」
その帰途、ロシャーデがニーオスに言葉を投げる。
「ちょっと反省しているさ」
それは苦虫を噛み潰したような表情で発せられた言葉だと、顔を見ずとも分かった。
しかし疑問を抱いたのはニーオスだけではなかった。
「ひとまず然るべき機関には調査依頼出しておいたから、その結果を待ちましょ。私達だけじゃどうしようもないしねー」
「僕の方からも、レーダーの索敵範囲やフライトデータなどを提出しておきましたので、良い方向へ転ぶことを祈りましょう」
エリアノーラ、金城の両名は、ニーオスが演説をしている間に既に調査の依頼を出していた。
これが、上手く行くといいのだが。
いずれにせよ、ひとまず街の危機は去った。大成功と言ってもいい。
しかし帰還した彼らの胸には、しこりのようなものが残ったままだった。
それは何となくわかっていたからなのかもしれない。これで終わるほど、単純ではないと。