●リプレイ本文
●AM11:00
「こんにちは!」
子供達の大きな声が「ほしのいえ」に響き渡る。天気は快晴。初夏の日差しにリゼット・ランドルフ(
ga5171)は目を細めつつ、元気の良い子供達を優しく眺めていた。
「皆さん、今日はお忙しいところこんなに集まって頂き本当にありがとうございます」
経営者の郷田が子供達より一歩前へ進み出て能力者達に頭を下げる。と、彼は前に見たことのある顔がそこにあることに気づくと、嬉しそうに皺のある顔をほころばせた。
「おや、君はリオン=ヴァルツァー(
ga8388)君、だったかな? また来てくれて嬉しいよ」
「あっ、本当だ! リオンさんだ!」
天本美樹がリオンを見つけると嬉しそうに彼の名を呼び、手を振った。リオンは美樹に手を振り返して笑う。
「この前は‥‥何も言わずに帰っちゃって‥‥ごめんね?」
クレア・アディ(
gb6122)は子供達を見て静かに微笑んでいる。
「楽しい一日になりそうだな。それじゃあ、今日はよろしくな?」
須佐 武流(
ga1461)の言葉に子供達は皆嬉しそうに目を輝かせる。能力者達のささやかな一日はこうして始まった。
●AM11:30
結城沙耶がとてとてと歩き、全員の顔がよく見えるようにと用意された台の上に登る。えへへ、と笑うと沙耶はこの日のために書いた手紙を取り出すと、読み上げた。
――能力者のお兄ちゃん、お姉ちゃんへ――
いつもありがとう。私達「ほしのいえ」の子供達だけじゃなくて、世界を守る為に戦ってくれているお兄ちゃん、お姉ちゃん達を、沙耶はとっても尊敬しています。「星降る丘」でみんなで一緒に星を見たとき、とても楽しかったです。大きな蝙蝠が沙耶に向かってきた時に、ずっと守ってくれたお兄ちゃん、ありがとう。
それから、毎晩嫌な夢を見る様になった時も、みんなを助けてくれてありがとう。みんなとっても怖がっていたけど、お兄ちゃん、お姉ちゃん達が来てくれたから、私は平気でした。今日はみんなでお礼をしたいと思っておじいちゃんに頼んで能力者のお兄ちゃんとお姉ちゃんをここに呼んでもらうことにしました。みんなお兄ちゃんお姉ちゃんが大好きです。
「感謝される仕事をしたんだな」
呟くと、ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は拍手を始める。同調するように、能力者の一同から拍手。そして子供達からも大きな拍手が返ってきた。
ストレガ(
gb4457)は沙耶に歩み寄るとかがみこんで言った。
「心のこもったお手紙をありがとう」
そして、ぎゅっと沙耶を抱きしめた。拍手が大きくなる。リュウセイ(
ga8181)などは拍手しながらちょっと涙ぐんでいる。
「信頼できる能力者に巡り会って、感謝してくれてるんだな。良い話だな」
その姿に浅川 聖次(
gb4658)は自身の妹のことを思い出していた。堺 清四郎(
gb3564)がその横で呟く。
「この子達が夢を追える未来を作りたいな」
●PM11:45
――子供達が考えた能力者への質問――
Q1:どうして能力者になろうと思ったんですか?
「私は倒れていた所を助けられたんです。それで病院で検査を受けた時に能力者になれる体だという事が判ったので、私にも出来る事があるならと、能力者になる事にしました」
ストレガの回答に子供達がほうほうと頷く。能力者になろうと思う動機は人それぞれだが、自分にできることがあるなら、という言葉に共感したようだ。
Q2:どうやって能力者になったんですか?
「僕が育った施設の先生に、能力者になりたいって言ったら‥‥適正試験を受けさせてくれて。それで、だめもとで受けてみたら‥‥運良く、適正が見つかったんだ‥‥」
リオンがそう答えると、茂治は一瞬だけ三郎の方を見て、視線を戻して言った。
「て、適正検査ってどんなものなの?」
「来てみればわかるよ。適性検査を受けて適正があれば見てみるといい。それはもう‥‥ねぇ?」
茂治は須佐の言葉にびくりとする。その姿をみて須佐が笑うと、みんなも笑い出した。
Q3:いままでで一番すごい戦いを教えてください
「一番辛かったのは、五大湖解放戦かな。一部隊を率いていたんだが、仲間の頼みを叶えようと、少し無理をしすぎてね。撃墜されて、危うく死に掛けたっけ」
ホアキンの言葉には影があった。敏感な子供達はそんな彼の姿に不安そうな顔を覗かせる。そこへリゼットがKVのぬいぐるみを手にやってきて言った。
「能力者といっても戦いばかりじゃないんです。私はこうやって橋の上の輸送部隊を救出したんですよ〜」
リゼットは手に持ったぬいぐるみを巧みに動かしながら、その時の事を話して聞かせる。ぬいぐるみの動きやリゼットの語り口に、子供達は先の不安な顔はどこへやら、再び目を輝かせる。その様子を見て、ホアキンが軽く手をあげてリゼットに「ありがとう」のサインを送る。リゼットは微笑みながらそれに応えた。
Q4:キメラとかバグアって怖くありませんか?(女性向け)
「キメラもバグアも‥‥戦う事も怖いですけど、でも逃げようとは思いません。守りたいものの為、あと、一緒に戦う仲間がいるので大丈夫です」
「怖いかもしれない。今度こそ死ぬかもしれない(でも、私にはもう夢も希望も何もないから‥‥)。でも坊やたちが私みたいになってしまったら悲しいわ。だから、そうならなくても良いように、私は戦うのだと思う」
リゼットもクレアもともに、何かを守る為に戦うと言う。それは女性にのみ強く刻まれた母性の証か、子供達には安らぎの言葉に聞こえた。
Q4:能力者になるとモテますか?(男性向け)
「それはないね」
須佐の即答に男子全員が嘆息する。子供達は声を上げて笑った。堺が頭を抑えながら言った。
「能力者がモテるならあんなこと起きないしな‥‥」
彼の頭の中にはバレンタインデーの大騒動の事が思い出されていた。ストレガはその様子を見ながら苦笑した。
「あははは‥‥うーん、どうでしょう? モテる人もいますしそうでない人もいますね。でも、本当にモテる人は大切なモノが何かを知っている人だと私は思いますよ」
大切なモノ。それを知っているから皆戦っている。ストレガの言葉は軽かったが、皆一様に頷いてそれを肯定した。
番外編:のうりょくしゃって、うまいごはん食べられるんですか?
「折角だから、この質問にも答えるぜ、この質問をくれたのはええと‥‥」
「はいはい! 俺です! 俺俺!」
真田太一が手をあげて飛び跳ねる。須佐は軽く笑うと食いしん坊の質問に答えた。
「まぁそうだな‥‥生活の保障はされているし、能力者はいろんな人種や職業をしているものがいる‥‥そう考えるとそこは食べられるかな?」
須佐の言葉に太一は自分も能力者になる! と言い出した。
何かを失ったから、とか何かを守らなければならない、とかそういう理由ではなく、うまいごはんを食べる為に能力者になる。そんな者がたくさんいる世の中にしたいものだ。ホアキンはそう思った。
●PM12:00
「いただきまーす」
テーブルの上には子供達の作ったハンバーグ、餃子、野菜炒めが載っている。その周りに、ホアキンの焼いたKVを象った菓子パン。そしてシェパードパイ。こちらはリゼットの作だ。
「シンプル・イズ・ベスト!」
大きなおにぎりがいくつもどかんとテーブルに載る。それを持参したリュウセイが腰に手を当て胸を張る。
堺がその大皿の横に唐揚げを盛り付ける。白い握り飯の横にきつね色の唐揚げが居座り、香ばしい匂いを漂わせる。須佐が口笛を吹いて、子供達に目配せした。
「な? 能力者になるとこうやって美味い物が‥‥」
「っただきまーす!」
須佐の言葉を遮って、太一が料理を頬張り始める。負けてなるものか、とばかりに須佐も料理に手を伸ばす。
「と、とりあえず食べましょうか?」
クレアの言葉に一同は皆座って料理を味わい始めた。
「ん‥‥おいしい‥‥ね」
リオンが両隣の美樹と茂治に声をかける。
「リオンさんと一緒だから特別おいしい」
美樹が嬉しそうに笑う。茂治はそれに頷きながら、喋る暇もなく料理を口へ運んでいる。その様子にリオンも嬉しそうに微笑んだ。
「おねえちゃん! このパイ、おいしいね!」
沙耶が笑うとリゼットの皿にパイを載せた。リゼットは嬉しそうに笑うとありがとう、と言った。えへへ、と沙耶も笑い返す。二人は笑いあいながらパイを味わった。
子供達の一人、山下雄二が皿を前に黙っている。目の前の皿には野菜炒め‥‥のピーマンだけが残っていた。ストレガがそれを見とめて食べるように促す。
「好き嫌いのある子は能力者になれませんよ?」
むー、と唸る雄二。クレアが助け舟を出した。
「あら? 私も好き嫌いはあるわね‥‥日本のナットウ‥‥だったかしら?」
「私も苦手なもの、ありますね」
浅川が雄二のピーマンを見ながら言う。ストレガが慌てて言った。
「い、いやそれはそうなんですけどっ」
「俺も好き嫌い、あるといえばあるな‥‥酒とか?」
堺が言う。須佐はそんなものなどない、と言わんばかりに料理を平らげていたがその様子を見てにやにやとしている。
「俺は! 好き嫌いはないぜ! でっかくなれないからな!」
リュウセイはがつがつと料理を平らげながら口に物を詰め込んだまま喋った。その様子に皆が腹を抱えて笑った。
●PM3:00
小さな子供達の昼寝の時間を挟んでから、一同は庭で長縄跳びをすることにした。ホアキンの持ってきた長縄を、彼と須佐が持ち、他の者は皆並んで飛ぶ。
「ほら。縄の動きを良く見て。皆で息を合わせないと、上手には跳べないからね」
はーい! と元気な声が返る。ホアキンは幸せな気持ちで微笑んだ。須佐に目配せすると、大きく腕を回して縄を回す。ひゅう、と空気を切る音がして、縄が大きくしなり、回る。
いち、にい、さん‥‥と数を数えながら、皆は息を合わせて縄を飛び越える。
「長縄飛びはタイミングが大事だ、皆でこんな風に声を掛け合ってジャンプするんだぜ?」
リュウセイの言葉に子供達の声は大きくなる。負けじと彼も声を張り上げ、縄を飛んだ。
「この前のお守り‥‥皆を守ってくれたみたいだね‥‥」
リオンが縄を飛び越えながら茂治と美樹に話しかけた。二人は嬉しそうな顔で頷きながら、縄を飛んだ。
「リオンさんみたいな強い能力者に、俺もきっとなるよ!」
「あはは、茂治、まだ言ってる!」
「僕は‥‥そんな強くないかもしれない‥‥けど、茂治君ならきっとなれるよ‥‥」
「ほらみろ! リオンさんはこう言ってるじゃんか!」
「ほんっと、茂治は単純なんだから!」
「なっ‥‥とっ、ととっ、うわっ!」
言葉に集中しすぎたのか、バランスを崩して茂治が縄に引っかかる。小さな子供達が一斉に茂治を見る。
「あ、あはは‥‥ごめんごめん」
茂治は頭を掻いた。その様子を見て、皆が笑った。この日の「ほしのいえ」には笑い声が溢れていた。
長縄跳びに飽きた後は、皆思い思いに時間を過ごしている。茂治は堺とチャンバラをしている。堺は巧みに太刀筋を変え、茂治が疲れすぎないように、そして実戦で鍛えた腕を少しだけ披露し、茂治に剣術を教えていた。
クレアとリゼットは小さな子供達を膝に乗せて話を聞いている。時々寂しそうな顔が幸せそうなクレアの顔にのぞくのを、リゼットは感じた。
「クレアさん。私には分からないけれど、今はただ目の前の幸せな気持ちを大切にしましょう」
「そうね‥‥その通りだと思うわ。リゼット。あなたは強いのね」
「いえ、私も弱い人間です。だけど、皆が笑ってすごせる世界を守る為に、できる事からやればいいと思うんです」
二人は微笑みあうと、子供達の頭を撫でた。気持ちの良い風が、周囲を緩やかに流れた。
●PM6:00 ――引き裂く者――
それは、突然だった。轟音とともに飛来したヘルメットワーム。そのうちの一機、カスタマイズされたワームから飛び出した影が「ほしのいえ」を覆った。
能力者達は経験から完全には警戒を解いてはいなかった。しかし、子供達と過ごす柔らかな時間が、彼らの心に、わずかな隙を作っていたことは事実だった。有り体に言えば、それは彼らの油断であったのだろう。だが誰もそれを責める事はできない。それほどまでに「ほしのいえ」で過ごす時間は優しく、幸せに満ち溢れていたのだから。
「させるかっ!」
突然の襲撃に子供達は混乱し、能力者達の覚醒、行動は遅れた。いち早く冷静さを取り戻したリュウセイと須佐が飛び出す。無手でも子供達を守る時間を稼ぐ事は出来る。そう考えたのだ。
「なめるなよ、人間!」
影が呟くと両手の爪を振るう。突進する二人を同時に相手にしつつなお、影の主、強化人間となった片桐ユウトは余裕をもっていた。須佐が爪をかわすと蹴りを放つ。同時にリュウセイもタックルを仕掛ける。
「どわっ!」
須佐の放った蹴りは空を切り、そこへ勢いあまったリュウセイがぶつかった。片桐は高く跳躍し、リオンの目の前に立った。リオンの背には茂治と美樹がいる。二人を護る。護りの獅子は包帯を解くとその牙を剥いた。
「どけっ!」
「退かない!」
ガキン! 爪とヴァジュラが打ち合う。しかし、混乱の中での戦いが、リオンの判断を鈍らせた。背中には守るべき子供もいる。周囲は騒然としており状況が見えない。敵はこいつ一人なのか。それとも他にいるのか。皆は? 他の子供はどうした? 短い時間の間にたくさんの混乱と焦り、不安が生まれ、リオンの剣を鈍らせた。
「邪魔だ!」
シュッ、と爪を突き、その場にかがんで強烈な足払いをかける。リオンの視線は空を捉えた。その上を通り過ぎる影。
「頂いていくぞ! ハハハハハ!」
両脇に茂治と美樹を抱えると、片桐は自身のHWへ搭乗し、飛び去った。後を追いかける数体のワーム。砂埃が舞い、落ち着いた時には既に敵の姿はなかった。
「‥‥クソッ!」
ホアキンが拳を握り締める。その目には怒りが光っていた。それは自分自身への怒りか敵への怒りか。彼自身にも分からなかった。そっとその背中をクレアが撫でる。振り向くと、クレアは悲しい目で頷いた。
「何ていうことだ。私達がいながら‥‥っ!」
「浅川さん‥‥」
浅川の言葉に、ストレガがゆっくりと首を振った。その腕にしがみつく子供が二人。
リゼットは、目に涙を溜めそれでも泣くのを我慢している沙耶の事をしっかりと抱きしめていた。
「大丈夫。私達が必ず助けてあげるからね」
「うん‥‥」
一行は怒りに燃え、ワームの飛び去った空を睨んだ。美しい夕焼けが雲の切れ間に夜の訪れを告げていた。
「必ず‥‥助け出す! 助けてみせる!」
リオンの言葉に、皆は頷いた。今はともかく傷ついた子供達を安心させる必要がある。「UPC本部へ通信。俺は堺清四郎。依頼中の能力者だ。九州方面のワームの追跡を。出来る限り急いでくれ」
堺が通信を入れる。その片方の手には茂治と一緒に作ったチャンバラの刀が握られていた。