タイトル:【UR】KV、重機転用?マスター:山中かなめ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/11 16:30

●オープニング本文


●重機の代わりに
 茂木 孝也(gz0221)は友人のハイパーレスキュー隊の隊長、千石 修司からの連絡に飛び起きた。
「大規模な救助訓練ね‥‥で、俺にどうしろと?」
「いや、お前達能力者は、アレだ。何だっけ、ナイトなんとか‥‥」
「ナイトフォーゲル。略してKVな」茂木が机をコツコツ叩きながら答える。
「ああそれそれ。でかい土砂崩れとかを想定してだな。そのKVを土砂や倒木の除去に、使えないかと‥‥」
 茂木はため息をつくと、頷いた。
「‥‥つまり、KVで重機の代わりをしろと」
「平たく言えば、まあそういうこったな」
 なんと言うか、二人のやり取りは緊張感がない。長年の親友であることもそうだが、熟練のレスキューとしての力量なのだろうか。災害に対して必要以上に緊張しないように、身体が教育されているのかもしれない。
 茂木は千石からの電話を切ると、UPC本部への依頼を書いて、送信した。

●ブリーフィング
 集まった能力者達に、茂木は告げる。
「あー、今回は、アレだ。KVでの依頼って奴だ」
 能力者の中にはKVに乗りたくて仕方ない者もいる。場が一瞬沸いた。咳払いをすると、茂木は続けた。
「といっても、戦闘はないんだ。訓練だからな。陸戦形態で、その、救助現場を塞いでいる土砂や倒木を取り除いてもらいたい」
 明らかに落胆した表情の者もいる。茂木は苦笑した。
「だよな。気持ちは分かる。だが、土砂や倒木の除去と同時に、その近くに遭難者がいないかの捜索訓練も実施する。訓練とはいえ、能力者、KVのの新たな価値を見定める訓練だ。油断は禁物だぜ?」
 能力者の周囲に緊張が走る。訓練とはいえ、土砂崩れなどの災害を想定したKVでの撤去行動とともに、要救助者の探索、救助も可能であれば行う必要があるということで、数名は生身での探索に従事する必要があった。
「俺は探索側に回る。KV部隊の撤去作業が五割から六割程度片付いたら、探索部隊が捜索訓練に入るってことで、誰がどっちにつくかは自由に決めてくれ。割合としちゃ半々くらいがいいだろうな」
 KV部隊は単純な撤去作業がメインとなる。一方、探索部隊は捜索能力に優れた者が必要となる。役割に応じて分担するようにと告げると、茂木は能力者達の結論を待った。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
シエラ(ga3258
10歳・♀・PN
緑川安則(ga4773
27歳・♂・BM
真田 音夢(ga8265
16歳・♀・ER
孫六 兼元(gb5331
38歳・♂・AA
キヨシ(gb5991
26歳・♂・JG
ピアース・空木(gb6362
23歳・♂・FC
アーヴァス・レイン(gb6961
23歳・♂・FC

●リプレイ本文

●訓練――状況確認――
「倒壊家屋、土砂に埋まっている。ここに要救助者一名だ」
 茂木 孝也(gz0221)からの連絡を、孫六 兼元(gb5331)が復唱する。そして、メンバーへと確認ポイントを連絡した。
「土砂(斜面)の場所・現状の確認(規模・地盤の緩み・崖(斜面)の角度)、これは白鐘氏、キヨシ氏頼む!」
 リッジウェイに搭乗した白鐘剣一郎(ga0184)と、ペアで捜索を担当するキヨシ(gb5991)から了解の合図が返る。孫六は続ける。
「道路の位置及び、状態の確認(土砂の掛かり具合・その他の障害物・亀裂・陥没・(目視で分かれば)巻き込まれた車両等)、こちらは真田氏、シエラ氏にお願いしたい」
「はい。承知しました‥‥」
 シエラ(ga3258)が物静かに答え、KVに搭乗した真田 音夢(ga8265)へ手で合図する。
「こういう繊細な場面での救助活動というのは、ほとんどありませんでしたね。もっとも、戦場ではそうもいかないのかもしれませんが」
 真田がシエラへ無線を返す。二人は亀裂の入った舗装路を慎重に進んでいった。
「付近の建物の状態(配置・土砂への巻き込まれの有無・倒壊状況)、これはアーヴァス氏、ピアース氏に頼んだ!」
「おぅ、任せときな」
「了解しました。何かあれば孫六さんへ連絡します」
 ピアース・空木(gb6362)と、アーヴァス・レイン(gb6961)が返事を返すと、ピアースを掌に乗せたナイチンゲールはゆっくり、慎重に周囲を探索し始めた。
 その様子を見て、にっと笑うと、孫六は最後に呟いた。
「さて、ワシと緑川氏は各班の連絡に応じて迅速に補助だ! よろしく頼むぞ!」
「KVの情報を事前にまとめておいてよかったな」
「ウム。助かったぞ!」
 緑川安則(ga4773)は事前にKV搭乗者から集めたデータを孫六へ伝えていた。それを元に、茂木、孫六の二人で活動範囲、班分けを決めて、各班へと指示を伝えているのであった。
 基本方針としてはKVが全体を俯瞰し、細かいところも見回せる生身の能力者が細部を確認する。重機を必要とする場面においては、各班のKV操縦者がうまく対応する。
「問題があれば、随時伝えてくれ」
 訓練とはいえ、救助活動へKVを転用する為の試金石だ。能力者として、KV操縦者として、下手な真似はできない。茂木の言葉に、全員が緊張した面持ちで頷いた。

●シエラ、真田組
「っと、訓練とはいえよくこの規模の災害を想定した環境を作ったものですね」
 道路の状況を確認する真田が呟くと、シエラは静かに答えた。
「それだけ私たち能力者、そしてKVへの期待が大きいのかもね‥‥」
 ゆっくりと進んでゆくリッジウェイ。と、その先を行くシエラが手で止まれの合図をした。研ぎ澄ました彼女の耳に、瓦礫の転がる音が聞こえてきた。そしてわずかに大気に混ざる埃っぽい匂い。
「Einschalten」
 言葉とともに見開いた瞳に深い朱色と、視力が宿る。真田がKVから見た状況を伝える。
「隊長の前方3メートルくらいに、瓦礫のかげに倒れて転がってきたと思われる木が数本あります」
「‥‥そう。厄介な事に、手前の道路が陥没している」
 ピッ。無線のチャネルが開く。孫六からの通信だ。真田とシエラは状況を伝えた。孫六から、指示が入る。
「茂木氏の話では、その道路上に要救助者が一名いるということだ。引き続き、探索と撤去作業を頼む!」
「了解です。大掛かりな撤去を先に終わらせて、探索に入ります」
 真田が答えて通信を切る。さあ、作業を開始しよう。いったんシエラを肩に載せる。まずは手前の道路の陥没。これを補修して、道路を元の状態に戻して、そこを足がかりに倒木の除去、そこまでやったら捜索としよう。
 シエラの指示に従って、真田はKVを操作する。ピックで中途半端に砕けた道路を砕き、陥没した地面に並べなおす。余分な土砂は廃棄し、ハンマーで軽く圧力をかけて道路を修復していく。
「完全な修復はさすがに無理ですね」
「まあ、それは、ね‥‥」
 修復した道路を足場に、倒木の除去を行う。と、しばらくして、シエラが真田の作業を止めた。
「見つけた。下ろして」
「あっ、はい!」
 取り除かれた倒木の下、瓦礫の陰に、要救助者を想定したダミー人形を発見した。シエラは素早く進み、状況を確認する。あまり芳しくはなさそうだ。
「瓦礫を取り除けばいけそうだけど、崩れてくる前に救助できるか微妙ね」
「KVで支えてましょうか?」
「ダメ。同時に瓦礫の除去は難しい。孫六さんに連絡して」
 シエラはそう言うと、目の前の状況を真田へ細かく伝えた。それを真田が孫六へと伝える。
「わかった、すぐに向かう!」
 孫六の言葉に無線を切ると、二人は道路の補修、撤去可能な瓦礫や倒木の除去を行いながら、彼らの到着を待つ事にした。

●ピアース、アーヴァス組
「さぁてとぉ? 家屋はどうかねぇ?」
「いや、目の前にあるじゃないか」
「あ、アハハ。ほんとだな。んじゃ、取り掛かっちまうかァ!」
 ピアースの暢気な口調にアーヴァスはやれやれとため息をつく。だが彼は数分後、ピアースの口調はのんびりだが、的確な指示に驚くことになる。
「あ、それこっちな‥‥っと、一旦そこでストップ! 瓦礫が引っ掛かってる。排除するから少し待ってくれ」
「あ、ああ‥‥」
 ピアースは事前に現場の状況を足で確認し、作業前にも事前に全体像の確認を取っていた。さらには周辺の安全確認にも常に注意を払っており、自身も借り受けたスコップやワイヤーを使って、瓦礫を纏めて廃棄する手はずも整えていたのだ。
 見る見るうちに瓦礫は取り除かれ、KVで大掛かりな作業を行う。あらかた片付いたところで、KVによる熱源の感知を行う。しかし、熱源反応はない。
「ありゃ? あてが外れちまったかな?」
「ピアースさん、相手はダミー人形だ。そもそも熱を持ってないってことはないか?」
 ぽん、と拳を掌に打ち付け、ピアースが納得する。
「そうだったそうだった。んじゃちょっくら目視で確認するとするか」
 そう言うと綺麗に取り除かれた土砂、瓦礫の隙間をぬって、家屋の中を確認する。
「ダミーじゃ無理だが、生きてりゃそれ(熱源感知)で見つけられそうだしな‥‥おっと、確認した」
 家屋の陰に人形が横たわっている。その上に柱が置かれていた。素早く柱にワイヤーを引っ掛けると、ピアースはアーヴァスに指示を出した。
「オーケイ。ゆっくり‥‥ゆっくり‥‥そのまま真っ直ぐ上に持ち上げてくれ」
 柱が取り除かれたのを確認すると、ピアースはその場で要救助者へ駆け寄り、応急処置を施した。形だけではあるが、訓練だ。やっておくに越したことはない。
 その後、要救助者とピアース本人を掌に乗せて、アーヴァスの操るナイチンゲールはゆっくりと、静かに本部へと向かった。その道でアーヴァスがピアースに話しかける。
「なあ、さっきの手腕、見事だった。何か経験でもあるのか?」
 ピアースが手をひらひらと振りながら答える。
「いやいや。単に事前に自分の目で、足で、現場を確認できたからってだけサ」
「なるほど‥‥」
「でも、あんたの操縦の腕がなきゃあそこまでうまくはいかなかったと思うぜ? あと、実際の現場じゃ事前確認なんてできねえし、どうなるかわかんねえしな」
 二人はその後もあれやこれやと話しながら、茂木の待つ本部へと向かった。

●キヨシ、白鐘組
「こりゃあ、一番厄介なとこに来てもうたかな‥‥」
 キヨシが呟く。目の前にはトンネル。そして覆いかぶさる大量の土砂。更にトンネルは若干下りになっており、いつ土砂が崩れてくるか分からない。
「少なからぬ規模での作業だ。二次災害だけは起こさないようにしないとな」
 リッジウェイを駆る白鐘がそう呟いて、作業に取り掛かる。まずは緩んだ地盤を固める。状況を本部の茂木に伝え、キヨシも作業の補助に取り掛かった。KVでは行えないような繊細な作業を担当する。二人は黙々と作業を行う。
 事前情報によれば、トンネルの中に要救助者一名がいるという。実際の災害を想定して作られた仮想環境は、かなり大掛かりな代物だったが、白鐘の乗るリッジウェイが作業の負担を大幅に軽減しており、思ったよりも作業ははかどった。規模の小さな障害物はヘッジローで砕き、シャベルで廃棄する。道具を使えない局面では人型の利点を活かし、両手で作業を行う。
「障害物を破壊する。一度下がってくれ」
「はいな」
 ガキン。硬い岩を砕いたところで、トンネルにぽっかりと穴が開いた。キヨシが駆け寄って、鋭角狙撃で視覚を強化する。しかし、思ったほどの効果は得られなかったようだ。
「あれ、おっかしいなあ。使えると思ってんけど‥‥」
「スナイパーのことはよく分からんが、そいつは明確な敵の弱点を突く為の技じゃないのか?」
「‥‥あ」
 言われてみれば確かに。キヨシは頭を掻いた。改めて、懐中電灯で中を照らす。ぽっかり空いた穴の上方は、白鐘がしっかりと支え、追加の崩落を防いでくれている。
「ちょっと、奥まで入ってみるわ。白鐘はん、退路の確保は任せましたで」
「ああ、了解した。気をつけろよ」
 ひょいと瓦礫を乗り越え、トンネルの奥へと進む。懐中電灯に照らされたトンネル内は崩落などで洞窟の様相だ。慎重に歩を進めるキヨシの目の前に、人影が見えた。
「発見。どうやら瓦礫なんかは被さってへんから、このまま抱えて脱出できそうや」
「承知した。出口まで来たら、いったんリッジの掌へ載せて移動して、その後、車体に戻って搬送しよう」
「そやね」
 無事出口までダミー人形を引っ張り出すと、二人は変形したリッジウェイに乗り、本部へと戻った。

●孫六、緑川組、シエラ、真田組
「待たせたな」
 緑川がそう言うと、さっそく状況を確認する。報告されたとおり、瓦礫の下に要救助者が埋まっている。その上には更に瓦礫が積み重なっており、崩れる前に救助することは難しそうだった。
「フム。確かに厄介な状況だな」
 孫六も目視で状況を確認しなおして頷く。四人はしばらくの間、救助の方針について協議した。時々茂木のアドバイスを受けながら、KV二機のうち一機、真田の駆るリッジウェイで要救助者に覆い被さっている瓦礫の除去作業を、そしてもう一機、緑川は上方の土砂、瓦礫の崩落を防ぐ為、瓦礫をカバーする事にした。
 生身組は、先行してシエラが状況を確認し、孫六がバックアップに入る。二人で迅速に要救助者を引っ張り出し、脱出するということにした。
「再崩落は救助隊も巻き込む二次災害になるからな。これで豪雨が来ていたら雷電でも持たぬな」
 緑川の言葉に緊張が走る。シエラが先行して飛び込むと、真田に瓦礫除去の指示を出す。その状況を孫六は腕組みをして見守る。もちろん、不意の崩落やトラブルに対処すべく、周囲の注意は怠らずに。
 ガラガラという音を立て、上方にある瓦礫が崩れ落ちてきたが、緑川が咄嗟に楯でそれを受け止め、被害を防いだ。
「ふう、訓練とはいえ、さすがに緊張するものだな」
「すみません。助かります」
 シエラが礼を言うと、散らばった破片の処理を真田に指示する。その隣に、孫六が立っていた。様子を見ていたが、頃合と判断したのか、シエラに告げる。
「よし、このくらい撤去できれば、後はワシらで撤去できるだろう。先ほどの崩落もある。急いでやってしまおう」
「そうですね」
「では、いったん私は下がって、搬送の準備をしておきますね」
 真田が下がり、後方で車形態に変形する。緑川の雷電が上方を支えている中で、シエラと孫六の二人は協力して残った瓦礫を取り除き、要救助者を搬出した。
 車両に乗せる前に、孫六が応急処置を行う。皆がその様子を目で見て確認する。
「まずは止血や応急処置だな。おっと、そうだった。これを試してみるか」
 取り出したのは【OR】AED。心肺蘇生の訓練ということで、皆で順番に作業を確認した。もちろん、相手はダミー人形だが、操作を確認する事が重要であるということで、皆が一通り作業を行ってから、リッジウェイに要救助者を乗せ。本部へと戻る事にした。

●報告書
 ――タイトル:ナイトフォーゲルの重機転用に関する作業報告――
 ――ハイパーレスキュー隊 千石修司――
 ――訓練環境。
 倒壊した家屋、崩落の発生したトンネル、土砂崩れの発生した道路を想定し、各所に要救助者を配置。
 ――所要時間。
 全救助の完了に約一時間。
 ――参加者。
 能力者9名。うち一名は作業統括として本部待機。実質の作業者は8名。半数がKVへ搭乗。
 考察1――能力者による救助活動の効果について。
 元々覚醒後の身体能力に優れる能力者には、救助隊のスキルを補う活動が可能である。同時に戦場での救助を想定した場合、キメラ、バグアとの不意の戦闘にも備える事ができるという利点がある。
 ただし。救助活動に必要な個々のスキルには当然ながら大きなギャップがあるため、それを底上げ、あるいは一定水準へと引き上げる活動が今後必要であると考える。
 考察2――ナイトフォーゲルの重機としての有用性。
 ナイトフォーゲルは人型として大型の災害に対する適応力が高いと判断する。特に規模の大きな災害で一般的に用いられる重機(ドーザー、シャベルカー、クレーン等)と比較して、柔軟な作業が可能である点は評価に値する。
 細やかな作業は人間による指示、補助が必須ではあるが、大まかな作業を迅速に行える点では、重機の代用として必要十分な条件を満たしていると考える。
 また、一部のKVについては変形後の形態が車両型であるものも存在し、これは救助後の搬送に役立つと考える。垂直離着陸可能なKV等、変形後の形態の活用については個々のKVの仕様を熟知し、適切に運用する能力が必要となる。
 ――所感。
 能力者および、KVの救助活動への効果は有り余る可能性があるが、適切なスキルの習得、運用コストを考えるとまだまだ現実的とは言えず、人命救助に適した組織作り、能力者の養成が急務であると感じた。また、一般人によるハイパーレスキュー隊との提携により、能力者不足を補うなど、協調、連携することで効果を十分に引き出す事が可能であると考える。
「ふう‥‥」
 一息ついて、ハイパーレスキューの隊長であり、茂木の友人でもある千石は報告書をまとめあげた。前々から茂木に能力者による救助の有用性を説かれており、実際にKVを使った救助訓練を行ってみて、その効果に驚いたのは事実だった。しかし、現実的には乗り越えなければならない問題がまだまだ山積み、といった所か。彼の報告はまさにその通りに記述されていた。
「戦争さえ終われば‥‥もっと人手が割けるのかもしれんな‥‥」
 千石の言葉には、祈りと憂慮の両方の響きが含まれていた。