タイトル:【ODNK】Trial Battleマスター:山中かなめ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/14 11:34

●オープニング本文


「フム。やはり傭兵とはいえ、KVの扱いにはばらつきがあるな」
 UPC軍新兵の訓練を担当しているUPC下士官が髭を撫でながら呟く。呟きながら眺める空には、青空に白いラインを複数描いて飛ぶナイトフォーゲル(KV)数機の姿が見える。あれらに乗っているのは皆UPCの正規軍ではない。
 彼らは一般に「能力者」と呼ばれる。または下士官のように「傭兵」と呼ぶ者もいる。KVと呼ばれる変形機構を備えた戦闘機に乗り、バグアを討つ。時にはヒトの常識を超えた能力をもって、生身でも戦う。
 今、下士官が眺めているのは「傭兵」になりたてのまだ経験の浅い者達の編隊飛行だ。戦闘の勘か、それなりに統率は取れているが、過去に自らも戦闘機乗りであった彼の目にはまだまだ「甘さ」が見えた。
「しかし‥‥柔軟性の高さではやはり彼らに分があるな。経験ある者が後方指揮を執れば十分重用できるか」
 バグア側の主要兵器であるヘルメットワーム(HW)は可変機構こそないが、超低高度での移動や高高度での戦闘など、KVや戦闘機に比べて柔軟性に富んでいる。
 正規軍は統率こそ取れているが、いざという時の自由な判断ができない。それに対しての有効な解の一つが、能力者による遊撃戦闘であった。
 しかしKVの出撃にはUPC側の認可が必要なため、傭兵達の中でも経験にばらつきがある。一度もKV戦を経験したことの無いような者たちのため、下士官が教官となりここ佐世保基地で空中戦闘の訓練を催していたのだった。

 ビーッ! ビーッ! 

 突然、敵の接近を示すアラームが鳴り響いた。瞬く間に周囲に緊張が走り、下士官もまた、眼光鋭く周囲を見回す。
 程なくしてオペレータが事の詳細を告げた。
「敵、ヘルメットワーム接近! その数、5機!」
「目標地点は!」
「不明! しかしこのままですと当基地上空を通過し春日方面へ向かうと思われます!」
 下士官の目に光が宿る。やはり訓練よりも実戦だな‥‥やらせてみるか。
「本部に至急連絡を。訓練中の傭兵部隊を緊急措置としてHW迎撃の任に当たらせたい、承認求む」
「復唱! 訓練中の傭兵部隊を緊急措置としてHW迎撃の任に当たらせたい、承認求む!」
 オペレータの復唱。通信。それらが遅滞なく行われる。下士官は佐世保基地上空を飛び交うKVの姿を見ながら呟いた。
「さて‥‥腕試し、いや運試しか? いずれにしても、黙って通すわけにはいかないな」
 下士官は承認を待つ間、基地周辺に居合わせた傭兵達の確認をオペレータに命じた。

●参加者一覧

シェリー・神谷(ga7813
23歳・♀・ST
Anbar(ga9009
17歳・♂・EP
ミゲル・メンドゥーサ(gb2200
41歳・♂・EP
鈴木 一成(gb3878
23歳・♂・GD
橘=沙夜(gb4297
10歳・♀・DG
鳳由羅(gb4323
22歳・♀・FC
孫六 兼元(gb5331
38歳・♂・AA
長谷川京一(gb5804
25歳・♂・JG

●リプレイ本文

●火蓋
「こちらAnbar(ga9009)。目標確認。先頭向かって左のHW1へ向けて一斉掃射いくぞ」
 無線で仲間へ連絡を取りつつ、Anbarが特殊電子波長装置を稼動させる。バグア側のジャミングを中和させる特殊な波長が周囲に発生する。
 Anbarの搭乗する岩龍の隣を並行するように、シェリー・神谷(ga7813)の乗るR‐01改が空中を滑る。シェリーから全員へ向けて通信が入った。
「アグレッシブ・ファング、いくわよ!」
「こちら遠藤。全敵機レーダーに捕捉したで。ロックオンキャンセラーもいつでもいけまっせ!」
 ミゲル・メンドゥーサ(gb2200)――発音の聞き間違いで本名とは異なる名前を授かったジャパニーズ訛りの英語が通信に乗る。遠藤の駆るイビルアイズの少し前を飛ぶ鈴木 一成(gb3878)のS‐01からテンションの高い返答が返ってきた。
「了っ解っですよぉぉ!」
「ちょ、鈴木はん、やたらテンション高いでんな‥‥」
「イヤーッハァ!」
 そんなやり取りを続ける二人の機体の前をごう、と空気を切り裂きながら走るもう一機。「フツノミタマ」と名づけられた孫六 兼元(gb5331)の愛機、ミカガミである。大きく左へ弧を描き、孫六機は敵の拡散を防ぐ為に突出する。
「鳳氏! お互い気張っていくとしようか!」
 豪快な叫びが反対側を駆ける鳳由羅(gb4323)に届く。白を基調に深紅のトライバル模様を描いた彼女のアヌビスが孫六のミカガミに追従する程のスピードで、孫六とは真反対の右側へ大きく展開する。
「空戦訓練がとんだことになっちゃったね」
 コクピット内で鳳が苦笑する。その後ろに陣取る二機のKV――橘=沙夜(gb4297)のアヌビスと、長谷川京一(gb5804)の駆るR‐01が青空に白線を引きながら目標を確認する。
「全機、一斉掃射! 目標はHW1だ!」
 Anbarの言葉と同時に、空に戦いの火蓋が切って落とされる。爆音とともに放たれるミサイル、ロケット数々の火器が空を赤黒く染め上げた。
「さ、ちゃっちゃと終わらせよっ!」
 橘の気楽な言葉とは裏腹に、響き渡る轟音は重く、戦いが激しくなることを予感させる。集中砲火を浴びたHW1とナンバリングされたワームが、炎に包まれながら斜めに空を墜落していった。巻き起こる黒煙を切り裂くように、左前方へ孫六のミカガミ、右前方へ鳳のアヌビスがブーストを発動し高速で突き進んでいった。

●補修? 演習?
「長谷川兄ちゃん、先いくよ〜!」
 能天気な声で橘のアヌビスが先行する。集中砲火で撃墜したHW1の後ろから前進しようとするHW4(Anbarのナンバリングによる)の足止めの為、長谷川と橘は二機一組の状態でHW4の行く手を塞ぐように前後に展開する。
「ったく‥‥これは遊びじゃねえんだぜ?」
 やれやれと呟きながら、長谷川はレーダーを確認する。自分達の前方に一機、その右に一機、これは鳳が突出して抑える手はずになっている。
 右側に展開しているのは残り二機。鳳が一機を抑え込んでいる間に決着を付けなければならない。空戦の経験が浅い自分達にとってこれはかなりの重責だ。なのに‥‥。
「いやっほーう!」
 嬉々として銃器を放つ橘のアヌビスを見ていると、軽い頭痛がしてくる。長谷川はこめかみを軽く押さえると言った。
「橘さん! リロードのタイミングで交代するぞ!」
「交代って言われても〜、KVは急には止まれない〜!」
「ああいやそういう意味じゃねえっての!」
 橘の放ったライフルの弾丸がHW4の縁をかすめる。ワームたちは戦闘を継続することよりも、この場を離れて移動する事を狙っているようで、反撃は薄いが、それでも経験の浅い傭兵達を翻弄するように、右に左にとその機体を大きく揺らして、二人を振り切ろうとしている。
「そら! 左に避けろ!」
 動きを塞ぐようにガトリングを放ち、敵の動きを制限しようとする。長谷川の機体の横を、大きく縦に旋回して戻ってきた橘のアヌビスが交差する。ガトリングを避けたHW4が続いて抜けようとするが、長谷川の判断は早かった。
 体当たりして止める訳にはいかない。ならばと長谷川はホーミングミサイルを発射しHW4の行く手を遮った。
「逃がすかっ、南無三!」
 発射されたミサイルがHW4を追いかけて飛ぶ。ワームは大きく軌道を上昇させミサイルをかわそうとするが、ホーミングの効いたミサイルはワームのボディに命中し、激しい爆発音を鳴らした。構わずに上昇を続けようとするワームの前方には橘のアヌビスがいた。
「ナーイス! 長谷川兄ちゃん!」
 上昇するワームの横っ腹にライフルを放つ。そのまま接近すると、短距離用に装備したガトリングが火を吹いた。上昇していたワームの動きが突然変わる。ぐるんと小さく旋回すると橘に向けて突進を始めた。その先端が変化し、特殊なドリルとなり橘の機体に襲いかかろうとしていた。
「ひゃあっ!」
 橘が悲鳴を上げる。しかしHWと異なり戦闘機としての形態をとっているアヌビスはHWのように急旋回することはできない。このままドリルが橘の機体を貫くかと思われた。
「させねえっ!」
 ブーストを発動し、長谷川がワームと橘の間に割って入った。ガガガガガガ、と鉄の削れる音が響く。R‐01の機体がドリルに削られようとしていた。
「長谷川兄ちゃん!」
 橘が叫んだ。大きく機体に溝を掘りながらも、ブーストの勢いのおかげか、そのまま飛行するR‐01を追いかけるワームの横を、橘のガトリングが捉えた。衝撃にワームの機動が落ちる。
「ありがとうよ相棒‥‥あんまり乗ってやれなかったってのに、ごめんな」
 愛機に詫びながら機体を大きく旋回させ、長谷川は怒りに震えながらライフルの照準を合わせた。橘のガトリングのおかげでバランスを失っているワームの中心にサイトが重なると、彼はとどめの一撃を放った。
「これでも‥‥食らいやがれっ!」

●疾風怒濤
 鳳はワームの重力を無視したかのような動きに舌打ちした。右、左、すれ違いざまにブレードウィングを叩き込もうと試みるが、縦横無尽なワームのボディには、まだ傷一つ付けられていない。
「厄介ね」
 短く呟きながらも、鳳は戦闘空域からの離脱を阻止すべく奮闘した。操縦桿を握る拳に自然と力が入る。いったん距離を取って、スナイパーライフルを放つ。一発、二発。ワームの動きに視線が追いつかないのか、有効なダメージは少ない。
「鳳。こちらAnbar。これからそちらを援護する」
 背後からシェリーの乗るR‐01改と、Anbarの岩龍が近づいてくる。鳳は目だけで笑い、再び視界に広がる空を眺めた。
 岩龍からホーミングミサイルが放たれる。ミサイルはワームを追いかけて飛んでいく。その後ろを鳳が追いかける。ミサイルを追い抜かないように、適度な速度を保ち、敵機を追った。
 ミサイルを回避するように逃げ回るワームと交差するように、シェリーのR‐01改が飛ぶ。Anbar機を守るような形で前進すると、シェリーはバルカンとガトリングを一斉に掃射した。
「元戦車乗りに空戦はちょっと掴みづらいけれど、やらなきゃね!」
 シェリーはそう呟くと射線を確保するようにワームの動きに追従する。銃口からは大量の熱の発生を表すように白煙が漏れ出ていた。
 突然ワームが旋回し、シェリー機の真上をかすめた。抜きざまに衝撃がR‐01改を襲う。
「きゃっ!」
 ガクンガクンと体を揺らす衝撃にシェリーは短い悲鳴をあげた。しかしすぐに気を取り直して敵機を追う為に旋回する。
 二発めのホーミングミサイルが岩龍から放たれる。二本のミサイルがワームを追う。
「‥‥追い詰めたぞ」
 Anbarは呟きながら戦況を確認する。管制役としての仕事も忘れないところが彼の冷静さを物語っていた。
 ワームは地面に垂直に向きを変えると大きく上昇し始めた。ミサイルの追尾を振り切るための動作だ。ミサイルが角度の変化に対応しきれずに空中に弾けて破片となる。
「もらった。戌神、噛みついてあげなさい」
 ワームの上昇に対してまっすぐに飛び込んだ鳳のアヌビスの翼が、ワームの胴体を切り裂いた。ふらふらと揺らめくワームに向けて、シェリーが滑腔砲を叩き込み、敵機は火の玉と化して落下していった。
「全員無事だな。孫六たちが心配だ。援護に向かうぞ」
 Anbarの通信に、シェリーと鳳は頷いた。

●剛健なる戦鬼
「なめるなぁっ!」
 野太い叫びをあげて孫六が機体を大きく右へ揺さぶる。その左すれすれの位置を先端を尖らせたワームが通り過ぎていく。一対一。孫六の望むところであったが、敵はあまりにも想像の域を超えすぎていた。
「むぅ。話には聞いてはおったが、まさかこれほどまでとはな!」
 レーダーを確認すると敵機は残り二機。自身の戦っている一機と、遠藤、鈴木の抑えている一機だ。既に戦闘開始から15分は経過しただろうか。遠藤、鈴木の援護はまだない。
 通り過ぎたワームが急停止すると、くるりと向きを変えて襲ってくる。おいおい、そりゃ反則だろう! 孫六はそう思いながら追っ手を振り切るためにブーストをかける。ぐん、と背中がシートに押し付けられ、後ろへと引っ張られる。重力に抗うように背中を前のめりに起こすと、孫六は操縦桿を手前に引いた。
 ブーストの速度を保ったまま一気に上昇し、そのまま一回転してワームの後ろを取る。一般の戦闘機乗りからすれば、こんな激しい旋回も「反則」だ。
「孫六機、聞こえるか。こちらAnbar。これからそちらに鳳とシェリーが向かう」
「おう、そりゃ心強いわい!」
 ガハハと笑いながら目の前の照準を合わせてトリガーを引く。高分子レーザー砲から放たれた光条が、ワームの背中とも言える部分を焦がした。
「ワシからは逃げられん!」
 衝撃に速度を緩めたワームに近づき、レーザーバルカンとレーザー砲を交互に発射する。何本もの光の筋が、フォースフィールドを突き破り、ワームの機体を焼いた。
「お待たせ。孫六さん」
「迎撃開始します」
 シェリーと鳳から通信が入る。孫六は一気に加速するとワームを追い越して旋回した。シェリー、鳳機が後方から、孫六機が前方からワームを挟む形だ。
「これでどうっ!?」
 シェリーのバルカンとガトリングの火花が散る中を、鳳のアヌビスが駆ける。左右へ一度ずつ機体を揺らした後、高速で敵に向かって突撃する。翼が、敵の右脇を切り裂いた。そのまま孫六の機体とすれ違う。
「これでぇっ! とどめだぁっ!」
 鬼のような眼差しで敵を照準内におさめると、孫六は高分子レーザー砲を発射し、真っ直ぐに放たれた光がワームの機体を見事に貫いた。
「お見事!」
 シェリーと鳳が同時に喝采した。コックピットで大きく息を吐き出した孫六の口許は大きく吊り上っていた。

●響き渡る高笑い
「敵ぃ! ぅるっさいんですよっ黙ってもらえませんかねぇぇ!」
「す、鈴木はん‥‥やったらテンション高いなぁ」
 叫び声と轟音。遠藤と鈴木のペアは派手な音を立てながらも、実に冷静に基本に忠実に仕事をこなしていた。鈴木のS‐01がガトリングとロケットランチャーでワームを追い詰めると、それをフォローするように的確に遠藤のイビルアイズが動き、挟撃するようにロケットランチャーを放つ。
 しかし二人の戦術は対戦闘機としては完璧だったがワーム相手には少々真面目すぎる部分があった。それ自体は決して悪い事ではない。予想できない事態に瀕しても基本を抑え、着実に対処する二人の態度に何も問題はない。問題はワームが人類の予想も付かないような空中での制動を苦もなく行えるところにあった。
「どわっ!」
 バレルロールで左へ大きく回転した機体の右端をワームのプロトン砲がかすめる。挟撃していたつもりが急停止、旋回、攻撃と戦闘機にはできない動きを見せたワームに遠藤が面食らう。
「ひゃはははははは!」
 高笑いとともに鈴木が突撃する。ワームの攻撃を自分に向けさせる為の陽動だ。コックピット内には変わらず高笑いが響いていたが、握られた操縦桿の動きに無駄はない。高分子レーザーの照準を定めると、立て続けに放つ。
「助かったで、鈴木はん!」
「ひゃーははははは! お任せ下さいですよおお!」
「や、やかましいわ‥‥」
 耳に甲高く響く高笑いに苦笑い。遠藤は額の汗を拭うと気合を入れなおした。高笑いを遮り叫ぶ。
「いくで、ロックオンキャンセラー発動や!」
「了っ解ですよおお!」
「わ、わかったて‥‥かなんなァホンマ‥‥」
 ロックオンキャンセラーが展開され、重力波が乱れる。初撃でも効果をあげた支援攻撃だ。プロトン砲が放たれるが命中力の落ちた波動を二人はともに見切っていた。
「っしゃあ! いくでいくで!」
「いやぁぁぁっほおおお!」
 テンションの高い二人の機体が右へ左へと入れ替わる。鈴木がレーザーを放ち、遠藤がロケットランチャーを撃つ。交互に位置を入れ替えながら、二人は巧みに敵を追い詰めていった。
「ぶち込んだるわ!」
 ズガァァァン! 最後に放たれたロケット弾がワームの胴体を見事に砕いた。同時にAnbarから通信が入る。
「こちらAnbar‥‥どうやら‥‥終わったようだな?」
「おう、やったったで!」
「イヤーハッハァ!」
「あ、ああ‥‥レーダーに敵影もない。戻るとするか?」
「了解!」
 Anbarの指示に全員が応えると、全機並んで旋回し、佐世保基地へと向かって飛んでいった。

●訓練終了
「おう、お疲れさん」
 下士官が右手を小さくあげて一行を迎える。鈴木はコックピットを降り、覚醒を解いた瞬間、その場にへたり込んでしまった。遠藤が肩を貸して歩く。
「お、お疲れ様でした‥‥」
「アンタ、ホンマにさっきの鈴木はんと同一人物かいな‥‥」
「ガッハッハ! いい訓練になったわい!」
 孫六がぶんぶんと腕ごと肩を回しながら近づいてくる。その後ろを控えめに歩く鳳は微笑んでいた。
「空戦の勘を養うだけのつもりがとんだ訓練だったわね」
 シェリーとAnbarがそこへ歩み寄る。鳳は二人に向かって軽く手を振った。シェリーが頷くと言った。
「お疲れ様。孫六さんも、いい汗かいたみたいね」
「うむ!」
「しかしワームの動きを捉えるのは難しいものだな」
 Anbarの言葉に、遠藤と孫六が頷く。電子支援機の指示なしに、思い思いに戦っていて勝てたかどうか。今回は作戦と運が良かっただけかもしれない。Anbarはそう言うと小さく背伸びをした。
「それは違うな。俺達は確かに勝ったんだよ」
 ――そう、俺達はまぎれもなく自分達の力で勝利をもぎ取った。でなけりゃ相棒に失礼ってもんだ――長谷川は愛機の横に刻まれた傷を見ながらそう呟いた。
「ま、これで訓練もしゅーりょーってことで! 補修終わりー! でいいんだよね、おじさん?」
「あ、ああ、そうだったな。では学園にその旨連絡しておくよ」
「うわーっ! やったーっ! こ、れ、で、自由だっ!」
 下士官の言葉に橘が喜びながらその場をはしゃぎまわる。一行は戦いの余韻に浸る間もなく、そんな彼女を見て苦笑いしていた。