●リプレイ本文
ハロウィンのために貯めていたかぼちゃをキメラに食べられてしまった町。
その町にやってきた、奇妙な仮装をした面々。どこからどう見ても『ハロウィン』な一行である。
「さーて、さくさく倒して今回もばっちり稼いじゃうわよ! 今回の任務、よろしくボス!」
お化けの目のついた白い布を頭の上からバッサリとかぶったいでたちの女性はゴールドラッシュ(
ga3170)。そして彼女にボスと呼ばれたのは魔女の格好をした赤い髪の少女、鯨井昼寝(
ga0488)である。
「今回もお宝目当て? 報酬はそんなに高くないけど」
「まぁ、相手が昆虫型で弱いなら楽に倒せるし、リスクが少ない割にはいい仕事かなぁ、と」
ゴールドラッシュは清楚なシスターの外見を持つが、実はお金至上主義の賞金稼ぎ女王なのである。二人はどうやら兵舎からの知り合いらしい。
「こ、これ〜、重いのですけど〜」
黒猫の着ぐるみを着てかぼちゃを積んだリアカーを引くのは御坂美緒(
ga0466)。そしてリアカーを後ろから押すのは端正な顔立ちの細身の男性、ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)である。
「NINJAというのもなかなかいいだろう?」
「なるほど、それがジャパニーズ・ニンジャか」
ハロウィンお決まりのジャック・オ・ランタンの被り物をかぶり、相槌を打つ少女はレティ・クリムゾン(
ga8679)。
「重いのです〜!」
美緒がうーうー言いながら引くリアカーには、かぼちゃが20個ほど乗っている。彼女の提案でかぼちゃを食べられてしまった町のために、事情を話して近隣の町から頂いてきたものだ。
●聞きこみ調査
「とりっく・おあ・とりーと♪」
「ぬぅ?」
美緒がドアをノックすると中から町長と思しき老人が出てきた。が、どうやら美緒の第一声と一同の仮装に少々驚いているようだ。
「キメラの件で派遣されてきた傭兵です。町の人々に余計な不安を与えぬよう、ハロウィンにふさわしい格好で参りました」
すかさず昼寝がフォローを入れる。そこで町長も大きく頷き、一行を家の中へと招きいれた。
美緒、昼寝、ゴールドラッシュの3人は昆虫型キメラの特徴について町人に聞きこみ調査を開始した。
「私たちはハロウィンを邪魔されて怒っているお化けだ! 悪いキメラをやっつけるためにお化けの国からやってきた!」
魔女の格好をした昼寝のセリフに、子供たちがわあっ、と声を上げた。
「悪いキメラがどんな奴か教えてほしいのですにゃん!」
黒猫の格好をした美緒が両手を猫の手の形にして顔の横にくっつける。
子供たちが一斉に集まり、二人に昆虫型キメラの特徴をああだこうだと説明した。顔くらいある大きい昆虫キメラを見た、飛んだのを見たけどすぐ落ちた、捕まえようとしたけどすごくすばしっこい。
「ふふ、このマジカルウィッチが全て解決してあげるわよ」
自信ありげな表情で言う昼寝。二人はお礼にとレティがUPC本部で調達してもらったお菓子を子供たちに振舞った。
一方ゴールドラッシュは大人たちから情報を集めていた。子供たちの話に加えて、かぼちゃ以外の作物はほとんど食べられていないことがわかった。
「なるほど、かぼちゃを調達してきて正解だったわ」
その頃、ホアキンとレティは町の作物倉庫に来ていた。
「残ったかぼちゃは30個か、まったく50個食われてもこれだけ残っているなんて、どこからこんなにかぼちゃを集めたんだ?」
かぼちゃの数を確認しながらホアキンが言った。
「本当に。でもこれだけ残っていてよかったな、調達してきたかぼちゃを囮に使ってもこれだけ残るならハロウィンは楽しめそうだ」
レティが答えた。
●キメラホイホイ
それぞれ入手した情報を交換し合った一同は、作戦のため借りた町の外れにある大きな廃倉庫に集まっていた。
「大分古い倉庫だな、これはやはり修繕が必要だ。俺と美緒、レティで応急処置をしよう」
各々町にあったセメントやレンガなどで倉庫の隙間をふさいでいく。
「じゃ、あたしとボス(昼寝)で囮のセッティングね。もちろん残りのかぼちゃは食べられないよう、厳重な保管場所に移動するわ」
こうしてキメラを倉庫に追い込む作戦が着々と進んでいった。
倉庫の目張りを終え、中央にかぼちゃを置いてセット終了。後はこれにキメラがかかるのを待つだけだ。
その間見張りはほしいが大勢では目立つのでキメラを警戒させる‥‥というわけでホアキンが倉庫の横に残ることになった。
「なぜ俺なんだ?」
「だって一番場数を踏んでいるし、男はホアキン一人でしょ? それとも女の子を一人こんな町外れにおいていくわけ?」
「‥‥了解した」
昼寝にビシリと言われ、ホアキンは特に返す言葉もなくNINJAスタイルで倉庫の見張りについた。ホアキンがチョイスした黒装束は、見事に見張りにうってつけの衣装だった。
その間女性陣はハロウィンの飾り付けやご馳走の用意を手伝っていた。黒猫美緒に「キメラは私たちがやっつけるから大丈夫ですにゃん♪」と言われると、大人も子供もなんだか安心してしまったらしい。これがのんびりとした美緒の魅力の一つでもある。
●害虫キメラ一掃
「‥‥集まってきたわね。準備は良い?」
グラップラーの武器である爪、『シュナイザー』の最終点検をしながら昼寝が言う。
「すべて集まったようでござる」
ござる口調で返すホアキン。戦いの用意は整った。
「では、行くのです!」
美緒の掛け声でそれぞれ倉庫の中へ飛び込む。4人が倉庫に入ったのを確認して昼寝が倉庫のドアを蹴り飛ばすように閉めた。
ホアキンが倉庫の電気をつけると中央に虫の群れが照らし出された。
全身に黄金色のオーラを纏ったゴールドラッシュが虫キメラの群れに小太刀『夏落』で流し切りを叩き込む。さらに浮き上がったキメラにソニックブーム。
ほぼ同時にホアキンが『先手必勝』でかぼちゃにまとわりついていたキメラをつぶす。逃げるキメラにはゴールドラッシュと同じくソニックブームを食らわせる。
レティはやや後方より流し切りでキメラを打ち払い、外へと逃げようとするものにはエネルギーガンを打ち込む。
美緒は飾りのついでに作ったハリセンで虫を叩いてみるが、「やっぱり効かないにゃ〜」と超機械で一匹ずつ破壊する戦法に切り替えた。
「結構やるわね、ホアキン君」
流し切りとソニックブームの二段攻撃を続けながらゴールドラッシュが言う。
「まあ、ね」
余裕の表情でこちらも剣を振るうホアキン。盾でキメラをつぶし、剣で止めを刺す姿はまさに闘牛士である。衣装はあくまで忍者であるが。
「どうだ? 数は減ったか?」
後方からレティの声が飛ぶ。ダークファイターでありながらスナイパーのような銃捌きで確実にキメラを捕らえる。覚醒の証である黒い片翼は黒髪と相まって美しい。
「ハリセンでバシバシはダメでしたが、超機械でビリビリなのです」
フラフラと宙を舞うキメラが、ビクビクと痙攣して床に落ちる。瞳の色を真紅に変えた美緒の攻撃だ。
倉庫内で戦闘を繰り広げる4人と離れて、昼寝は1人倉庫の外にいた。目張りの隙を抜けたキメラを逃がさず攻撃するためだ。さすがに短時間では固まりきらなかったセメントを潜り抜けて、何匹かのキメラが顔を出す。そこに深みを増し色濃くなった赤髪をなびかせ疾風脚を叩き込む。
生命が感じられなくなるまで徹底的に破壊すると、視界の端に逃げようとするキメラが映った。
「逃がすかっ! 必殺、マジカルクロー!!」
とんがり帽子にマントを翻して爪でキメラを引き裂く姿は、言ってみれば接近戦型魔女である。
「意外と時間がかかっているみたいね、でも焦ってはダメ。確実に倒さないと」
ダメージはほとんど受けないが、逃げられることのほうが厄介だ。せっかく調達してきたかぼちゃもだめにされてしまう。
「ハロウィンを壊す悪いキメラは、マジカルウィッチがおしおきよ!」
壁のひび割れから這い出してこようとしていた虫キメラに爪を叩き込む。その勢いで壁の一部にボカンと穴が開いた。
物陰からマジカルウィッチこと昼寝の戦いを見ていた子供たちが、小さな歓声を上げる。
「中央終了! そっちはどう?」
小太刀『夏落』にこびりついたキメラの残骸を振り落としながら、倉庫の端にゴールドラッシュが目をやった。
「オッケーなのでーす!」
美緒の声とともにキメラがバチンとはじける。
「こちらもキメラの気配は感じない」
レティが別の方角から答えた。黒い片翼がすっと消える。
「キメラは殲滅したようだが、しかし‥‥」
両刃刀『イアリス』を鞘に収めながら、ホアキンがなにやら不吉を含んだ言葉をつぶやく。
パラパラと壁からコンクリート片が落ちる。
「みんな逃げて―ッ!!」
外からの昼寝の叫び声とともに、倉庫の壁が崩れだした。
「聞いてないです!」
「誰も言っておらん」
盾でガードしながら美緒の襟首をつかんで脱出するホアキン。まるで黒猫を捕まえた忍者である。
「ボス、何も倉庫まで破壊することないと思うけど?」
こちらもレイシールドで身をかばいながら脱出したゴールドラッシュが呆れたように言った。昼寝は「ゴメンゴメン」と皆に頭を下げる。
「しかし、これで完全にキメラは撃退できたわけだ」
瓦礫と化した倉庫跡を眺めながらレティが言った。
「すげー、今のどうやったの?」
物陰に隠れていた子供たちがぞろぞろと出てきて、崩れた倉庫を見て驚いたり歓声を上げたりした。
「東洋の魔術‥‥忍法『一網打尽』でござる」
覆面の下でぺろりと舌を出すホアキン。もちろん、その姿は誰にも見えてはいない。そして、はじめて見る『忍法』に感歎の声を上げる子供たち。
「さて、仕上げに戻るか」
子供たちを見て笑みを浮かべるレティ。仕上げとはもちろん‥‥
「ハロウィンのパーティーですね!」
美緒がぴょこんと跳ねる。
●取り戻したハロウィン
「かぼちゃはどこに隠したんですか?」
町長の家に戻った美緒が尋ねる。
「安全な場所にしまっておいたわよ。町長、金庫を開けてください」
ゴールドラッシュの声で町長が皆を地下の巨大金庫に案内した。こんなご時世だ、有事にはシェルターにもなるという金庫を開けると、中からかぼちゃがゴロゴロと転がりだした。
「すごい場所に隠したな」
レティが半ば呆れたように言った。金庫に入っていたはずの金や書類は別の場所においてあるらしい。しかし金庫にかぼちゃとは。
「それだけハロウィンにかぼちゃは大切ってことです♪」
黒猫姿の美緒が楽しそうに言う。まあな、とレティも笑った。
町人たちは総出でかぼちゃをくりぬき、ジャック・オ・ランタンを作り始めた。もちろんかぼちゃを守った5人もそれに倣った。
「できた!」
得意げにジャック・オ・ランタンを掲げるゴールドラッシュ。
「できてないし」
それを見てくすくすと笑う昼寝。確かに、ゴールドラッシュの作ったジャック・オ・ランタンはなんともいえない微妙な顔をしている。というか、勢いあまって目がつながってしまっている。
「い、いいでしょ、あたしあんまり器用じゃないんだから、よくできたほうよ」
「実に個性的だ」
「それは褒めてないよね? ホアキン君」
「あなたの思うように取ってくれ」
ホアキンの手元にはよくできたジャック・オ・ランタンがあった。こちらは実に王道のジャック・オ・ランタンである。
「うまいな」
レティがホアキンのジャック・オ・ランタンを見てつぶやいた。彼女もかぼちゃと格闘中だ。
「あなたにあげよう」
「えっ?」
「誕生日はすぎていたかな? 任務を共にする者のことはある程度調べてあるのでな」
「あ、ありがとう‥‥」
思わぬプレゼントに、レティのクールな顔に朱がさす。
「さ、私も出来たのです!」
「私も出来たよ、ゴールドラッシュのよりはマシ」
「ち、ちょっとボス!」
5人と、集まった町人たちの間に笑いが起こる。
舞い戻ってきたハロウィンは、その町の人々に笑顔を与えた。
そしてこの町の子供たちが大人になったとき、「奪われたハロウィンを取り戻しにやってきたお化けが、東洋の魔術『忍法』で悪い虫を退治した」と語り継がれることになるのだが、このとき5人には知る由もなかった。