●リプレイ本文
終の棲家。人がそこで一生の終わりを無狩る場所。
「‥状況を詳しく教えていただきたいのですが‥」
セシリア・ディールス(
ga0475)は依頼人である老夫婦の長男の家で話を聞いた。
「母さん、傭兵の皆さんが来てくれたよ。‥キメラが山に出るという噂は山を下りた町の住人から聞きました。野犬のようなキメラが数匹いたようです。母さん、こっちだよ」
奥から姿を現したのは年老いた夫婦。夫らしき男性が女性に手を貸しながら椅子に腰掛ける。
「わざわざすみません、私たちのために‥‥軍の方に相談したんですが、忙しいといわれてねぇ‥‥」
白髪の女性が申し訳なさそうに話す。
「詳しい数はわかりますか?」
年齢の割に童顔な青年宵藍(
gb4961)がキメラの情報を詳しく聞きだす。老人の長い話と長男夫婦の話によれば、その犬型のキメラは狼のような大きさで、目撃されたときは常に4匹ほどだったという。
「4匹ね‥‥ペアでいけば何とかなるわね」
夢姫(
gb5094)は老夫婦の孫よりもまだ幼いほどの年齢の少女である。
「明日にはまた同じ生活に戻れますから、あと1日だけ、お子さん達と団欒の時間を過ごしてください」
シャロン・エイヴァリー(
ga1843)は微塵も心配を感じさせない笑顔で、老夫婦の手を握ってそう言った。
ちょうど同じくらいの歳の孫がいる老夫婦は、思わず涙をにじませた。
「無理しないでいいのよ、怪我をしないで、必ず帰ってきて頂戴ね」
老婦人はシャロンの手を握り返して言った。
「絶対ェ取り戻してやっからな」
この老夫婦が最期の地と決めた場所。ヤナギ・エリューナク(
gb5107)はそのか弱いが二人支えあいながら生きようとする夫婦の姿を目の当たりにして、改めて決意を固めた。
トリシア・トールズソン(
gb4346)と浅川 聖次(
gb4658)の二人は、山のふもとにある小さな町で情報収集をしていた。
そこで得られた情報はやはり、キメラは犬型で集団行動をしていること。数は3〜5匹。聞き込みによれば4匹が最も可能性が高いだろう。
●山にて、誘き出し
「静かに最期を迎えたいという老夫婦の願い‥‥空気の読めないキメラには、思い知らせてあげないとね」
非常に整った顔立ちをした青年、今給黎 伽織(
gb5215)がつぶやく。彼の手には持ってきたサラミと、ラスト・ホープを出る前に調達した食用の肉。
そのほかの面々も持参したハム、サラミなどを犬型キメラを誘き出すための餌として撒いている。
セシリアは自身らが戦いやすく、キメラに逃げられにくいと考えた小屋の前の平らな地面にハムをちぎり置いた。
「セシリア、夢姫、今度は戦いになるけど、よろしくね」
共に依頼をこなしたことのある二人に声を掛けながらシャロンも畑に肉を置いていく。畑の作物は無残にも食い荒らされていた。
ヤナギも畑の中へ、伽織は畑の手前にサラミと肉を置いた。戦いやすい場所や畑がこれ以上あれないような場所を考えている。
餌を撒きながら、それぞれ地面の足跡や荒らされ具合を調査。
「この足跡、集めた情報のとおり、中型犬サイズの犬だな」
トリシアが畑にベタベタとつけられた足跡の大きさを見ながらつぶやいた。
「此処を通って畑に向かっているようだな」
かすかな足跡から、宵藍が小さな獣道を見つけた。その付近に重点を置いてキメラがやってくるのを待つことになるだろう。
聖次は周辺の地形を調べ、それを全員に伝えた。どこへキメラが逃げそうか、どこが死角になるか。
「あー‥‥俺も腹が減りそう」
畑にまかれたハムやサラミを見ながら、宵藍が腹をさすった。
「落ちているものを‥食べるのは‥‥よく、ないです‥‥」
「わ、わかってるよ、ちょっと美味そうだと思ったからさ」
静かにセシリアに諭され、宵藍が胸の前で両手を振って見せた。
餌を仕掛け、現地の調査を終えると8人は小屋の影に身を潜めてキメラがあわられるのを待った。
「‥‥良い景色。この世界には、まだこんな場所があるんだね。この景色を護るのが、私達の戦いなんだ」
トリシアは一面緑の山を見渡しながら、チンクエディアをぎゅっと握り締めた。
●戦闘開始
スキル『探査の目』を発動させていた伽織が、キメラの気配を捉えた。獣の臭い、静かな足音。
「獲物がきたようです」
そっと小屋の陰から畑のほうへ目をやる。4匹の犬型キメラが畑周辺のサラミや肉類のにおいを嗅いでいる。どうやら他に仲間はいないようだ。
「いきましょう」
シャロンの小さな掛け声で、全員が小屋陰から飛び出した。
セシリアとトリシアは小屋の付近、聖次は『竜の翼』を発動して一気に畑の向こう側へ、シャロンもその後へ続く。
宵藍は左方向へ内回り気味に走り、その外側を夢姫が走る。ヤナギと伽織は右側へと回り込む。
8人は完璧に計算された動きで畑ごとキメラを取り囲むことに成功した。
ばら撒かれた肉を食い散らかしていたキメラはぎょっとその顔を上げる。狼をまがまがしくしたようなキメラが4匹、見事に取り囲まれている。
「‥‥一匹も、逃しません‥‥」
セシリアは超機械ζを発動し、『練成超強化』をトリシアにかけた。
トリシアの体に力があふれ出す。小柄な体躯を活かし、二本の剣を手にキメラに思い切り飛び込み間合いを詰める。
左手のチンクエディアがキメラの足元をすくう。気を取られたキメラはその攻撃をかわすが、待ち構えていたのは右手の蛇剋。『円閃』を発動、華麗に舞うようにキメラの喉元をかききる。
「これが練成強化‥‥初めて受けたけど、すごい力だ。セシリア、ありがとう」
身体能力の向上であふれ出る力の一撃は強烈だった。キメラの攻撃など受ける暇もなく、トリシアはキメラをしとめた。
対面のシャロンはシグナルミラーで仲間に合図をすると、『先手必勝』を発動しキメラが先に動くことを封じた。ガラティーンを振るいながら、タイミングを計る。
「この一撃、受けてもらいます」
シャロンの援護に回っていた聖次が隙を見計らい、パイルスピアを振りキメラに攻撃を加えた。キメラは繰り出された槍を避けようとしたが、そこにシャロンの『紅蓮衝撃』が襲い掛かる。
ガラティーンは見事にキメラの腹を突き破った。もはやキメラに息はない。
「他のペアはうまくいったかしら」
小銃S−01を構えながら、シャロンが畑の四方を見渡す。聖次もキメラの絶命を確認すると、援護を必要としているペアはないか辺りを見渡した。
畑の左側に回りこんだ宵藍はキメラを夢姫と挟撃に持ち込んでいた。
キメラは自分の不利を悟り逃げようとするが、宵藍はたくみにその行く先を阻む。
夢姫は機械剣『莫邪宝剣』で『二連撃』をキメラに加える。素早く、正確に。レーザーの刃がキメラの体を焦がす。
「‥‥成佛(成仏しろ)」
ひるんだキメラに向けて、飛剣『ゲイル』で『円閃』の一撃を叩き込む。夢姫が作った隙がその大振りな一撃を当て、致命傷にした。
刈り取られたキメラの首が宙を舞い、地面に転がった。
右側では伽織がヤナギの援護に、真デヴァステイターの銃口をキメラに向けていた。ヤナギの振るうイアリスにキメラが気を取られた一瞬の隙に、伽織が『影撃ち』を発動。一度に発射された3発の弾丸がキメラの足に当たり、その動きを封じる。
「これでも食ってな‥‥っ!」
大きく口を開けたキメラに、ヤナギのイアリスが突き入れられた。体の内部から刃を受けたキメラは成す術もなく絶命した。
●戦闘後のケアも傭兵のお仕事ですっ!
「さて、ご夫婦は明日迎えるとして‥‥今日のうちに戦いで荒らした畑、もとに戻しておきましょ。アフターサービス、ね?」
シャロンは小屋から農具を拝借し、皆に手渡した。全員、ここに来る前から戦闘後の畑や小屋の整備して帰るつもりだったのだ。
「畑仕事なんてしたことねぇけど、整備はしときてーな。老夫婦には気持ちよく戻ってきてほしいし、な」
ヤナギはバンドマンらしいその格好に似合わず、シャベルなどを使って丁寧に畑の足跡を消し、食い荒らされた作物を片付けていった。
「うーん、素人が扱っても大丈夫かな?」
血の跡を土で消しながら夢姫が首をひねった。もっとも、畑仕事の経験の有るものはこの中にはいない。
「‥戦闘の跡を消して‥その後できることがあれば‥‥ご夫婦にうかがいましょう‥」
「うん、そうですねっ!」
セシリアに同意して、夢姫はせっせと畑の修復を進めた。
「この戦争が終わったら‥‥私もここみたいな、静かで綺麗な場所で暮らしたいな。大好きな人と一緒に」
畑の作物を片付けながら、トリシアがぽつりと言った。
「大切な人?」
「う、うん」
シャロンに顔を覗き込まれたトリシアは、頬をほんのり赤く染めてチンクエディアを握り締めた。
小屋の修理の合間に一息ついていた聖次は周りの広大な自然を見渡し、しばらく見ていなかった景色を堪能していた。先に逝った自分の両親に思いをはせ、大切な妹の写真の入ったペンダントをそっと握る。
「静かに過ごせると‥‥いいな」
宵藍は大きな剣の代わりに鍬を振るいながらつぶやいた。
伽織も薬莢などこの土地に似合わない戦闘の跡を拾い、キメラの残骸は森の奥に深く埋めて老夫婦が安心して戻ってこられるように周りをきれいに片付けた。
全員の心のこもった後片付けのおかげで、激しい戦闘があったとは思えないほど、山の小さな小屋と畑の周辺は平和な風景を取り戻した。
●終の棲家
翌日、老夫婦は山の小屋に戻ってきた。長男夫婦も出来る限りここに通い、両親が最期まで大切な地で暮らせるようにしたいと言う。
「おじいさん、おばあさん、よかったら山の話を聞かせてくれませんか? 私は海に囲まれたところで育ったので、山に囲まれたところってとても新鮮なんです」
夢姫が老夫婦に向かって言う。
皆、老夫婦が山に戻るまで手伝いに残ったのだ。自分たちの成すべきことは戦闘だけではないと誰もが思っていた。
「いいわよ。この山はね、私たちが子どもたちを育てた大切な場所でね、秋になると柿やきのこが取れるし、山菜もたくさん取れるのよ」
「畑ではこんにゃく芋を育てておってな、自分たちで作ったこんにゃくは美味いんじゃ。山で取れたものでばあさんが作る鍋もそれは美味くてな」
夢姫と、まだ幼さの残るトリシアは老夫婦の話を夢中になって聞いていた。そのほかの面々も温かいまなざしで老夫婦を見守っていた。
「みんな本当にありがとう。また必ず、遊びに来てちょうだいね」
「ばあさんの鍋をみんなで食べたいのう」
老夫婦の心からの笑顔と平和な自然が、何よりの報酬だった。
皆それぞれ、最期を迎える場所がある。
どうかそこが、幸せで平和な場所であるように‥‥。