タイトル:【弐番艦】大陸横断マスター:柳高 ぱんな

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/19 14:12

●オープニング本文


 ――ラスト・ホープにあるドローム社。
 緑溢れる敷地には、ナイトフォーゲルの整備工場を兼ねた社屋を挟むように、ハの字に滑走路が延びている。
 ハの字の右側の長い滑走路に、武装巨大輸送機ガリーニンとS−01Hが停められていた。
「ブラッド准将のお力添えには感謝の言葉もありませんわ」
 青いビジネススーツに身を包んだミユ・ベルナール(gz0022)は、整備工場からガリーニンへ運ばれるメトロニウム製のコンテナを、感慨深く見つめていた。
「主力であるUPC北中央軍の戦力が大幅に増強されるのであれば、本部も協力は惜しみません」
「ようやく未来研から届いた重力制御エンジン。これをオタワまで運ぶのは、高速移動艇では心許ないですからね」
 メトロニウム製のコンテナの中身は、未来科学研究所より提供された一機の重力制御エンジンだ。これをハインリッヒ・ブラット(gz0100)がチャーターしたガリーニンでUPC北中央軍の本部オタワまで運ぶのだ。
「流石に3機のガリーニンをこちらへ回すのは容易ではありませんでしたが」
 彼の口振りから、UPC北中央軍のヴァレッタ・オリム中将もUPC本部へ何らかの圧力を掛けたと思われた。
「指示通りに、1機のガリーニンはサンフランシスコ・ベイエリアへ回しましたが、重力制御エンジンの他のパーツも、同時にオタワへ運ばれるのですね」
「ええ。サンフランシスコ・ベイエリアで開発した艦首ドリルと、製造プラントで完成させた副砲、これにオタワで復元を終えたSoLCを搭載すれば、『ユニヴァースナイト弐番艦』は完成します」
 これらのパーツは、オタワでバグア側に秘密裏に建造されているユニヴァースナイト弐番艦の主武装だ。
 ユニヴァースナイト壱番艦は各メガコーポレーションの共同開発だが、弐番艦はドローム社とUPC北中央軍とで開発している。その為、大きさは壱番艦の4分の1程度であり、重力制御エンジンも一機のみの搭載だ。
 オリム中将からすれば、UPC北中央軍の戦力を増強する事が最優先であり、だからこそドローム社がユニヴァースナイト弐番艦の建造を打診した時、二つ返事で承諾したのだろう。

 ラスト・ホープより重力制御エンジンがオタワへ運ばれると同時に、サンフランシスコ・ベイエリアより艦首ドリルが、ドローム社の製造プラントより副砲もオタワへ向けて輸送される。
 ドローム社はこれらの輸送隊に能力者の護衛を付ける事とした。

●本任務、副砲輸送
「『ユニヴァースナイト弐番艦』。UPC北中央軍とドローム社が秘密裏に開発してきた艦だ。これが完成すればUPC北中央軍の戦力が増強されることは間違いない」
 オペレーターが今回の作戦について説明を続ける。いつもより心なしか硬い表情である。
「キミたちにはドローム社の製造プラントからオタワまで、北米大陸を横断するルートを取ってもらう。すなわち、最短ルートを突っ切るのだ」
 オペレーターは北米の地図上、サンフランシスコ近辺からオタワまでをスッと指でなぞる。赤いマーカーで記されたルートは、まさに大陸横断である。
「最短とはいえ長旅になることは間違いないが。副砲はトレーラーで輸送、これを護衛する装甲車が4台、ジープが2台。ジープを先遣隊として偵察に使うのもいいだろう。また休憩用に『ベッド車(停車時に内部を三段ベッドに組み立て20人程度まで眠ることができる)』を用意した。これは副砲輸送のトレーラーとまったく同じ外見に偽装してあるので、囮に使うことも出来る」
 高速移動艇で現場まで行ける任務と違い、長旅となるため特殊な車両も用意されているようだ。もちろんこの任務がそれだけ重要であるということなのだろう。
「陸路を取るので輸送中にワームが襲ってくることはないだろうが、キメラとの戦闘は避けられないだろう。道程が長いので休憩を取りつつ、なおかつ緊張を緩めることのないよう任務に当たってくれ」
 オペレーターからの説明は以上である。

●参加者一覧

五十嵐 薙(ga0322
20歳・♀・FT
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
荒巻 美琴(ga4863
21歳・♀・PN
水無月 魔諭邏(ga4928
20歳・♀・AA
暁・N・リトヴァク(ga6931
24歳・♂・SN
緑川 めぐみ(ga8223
15歳・♀・ER
巽 拓朗(gb1143
22歳・♂・FT
ミスティ・K・ブランド(gb2310
20歳・♀・DG

●リプレイ本文

●出発前ミーティング
「ほう、あんたたちが今回の任務に当たる傭兵か。いいねぇ、美女が勢ぞろいだ」
 集合した傭兵8人を見渡して、30代前半と思しき体格のいい男が言った。男の言葉に反応して思わず想い人、五十嵐 薙(ga0322)を守るように体を動かしたのは暁・N・リトヴァク(ga6931)。銀色の瞳で粗雑な男を睨み付ける。
「いや、すまんすまん。傭兵に手は出さねぇよ、こっぴどくやられた思い出があるんでな。さて、俺は副砲のトレーラーのドライバーだ、スティンガーって呼んでくれ。ほかのドライバー連中のことは全部俺に任せてくれていい。あんたたちはとにかくこのでかい荷物がやられないようにすることだけに集中してくれ。ドライバー希望の奴もいるようだが、こっちに任せてくれ。もしものときの体力温存のためだ」
「運転してみたかったんだけどな」
「またの機会に頼むぜ、恋人思いの兄ちゃん」
 暁の言葉にスティンガーが返した。思わず薙が頬を染める。
「じゃ、ミーティングね」
 そう言って軽く挨拶したのは荒巻 美琴(ga4863)。笑顔が実にチャーミングな女性である。
「はい、これが昨日までの作戦会議で決めた班割りその他になります。念のためプリントアウトしてきました」
 プリントを配るのは美琴の友人でもある水無月 魔諭邏(ga4928)。おっとりとした色白の女性だ。
「そっちのお嬢さん、大丈夫なのか?」
 スティンガーの視線の先にいるのは、全身の包帯が痛々しい三島玲奈(ga3848)。先の任務で重傷を負ったが、その体に鞭を打ってこの任務に参加した。
「包帯を交換し易い様に、寝巻でなく縫合痕が痛々しいブルマ姿をおして出撃したんだ」
 そう言って彼女はニッ、と笑った。おいおい、自分の怪我すらネタにするか? とスティンガー。
「彼女だって傭兵さ、できることがあるからこの任務に就いた、そうだろう」
 ミラーシェイドで素顔を隠したグラマラスな美女、ミスティ・K・ブランド(gb2310)。彼女の言うとおり、自分が必要であると感じたからこそ皆この任務に参加することを決めたのだ。
「そうっすよ、要は気合っす!」
「お料理や旅の雑用だって、傭兵の任務ですものね」
 巽 拓朗(gb1143)と緑川 めぐみ(ga8223)もそれぞれ言う。皆の決心は固い。それはスティンガーをはじめとするドライバーたちにもしっかりと伝わったようだった。
「じゃ、車載と携帯のトランシーバーの周波数を合わせて。チャンネル1に固定してこれを本作戦用連絡回線『弐回線』とするよ。車に乗ったらラインチェックだ」
 玲奈の言うとおり各自回線を開き固定、先頭のジープから発車する。
 長い旅がこれから始まるのだ。

●長い旅路
「大陸横断か‥‥アメリカはでかいな。まぁ、敵が出ない間は景色でも楽しんでいればいいか」
 装甲車の助手席で暁がひとりごちる。広い道では装甲車が2台のトレーラーを挟むように走る。狭い道に入れば前後でトレーラーを守る。
 その前を走るのがミスティのリンドヴルム。バイク形態で赤い髪をなびかせながら、早期警戒に努めている。
「本物か‥‥偽者か‥‥そんなことは、関係ないです‥‥ただ、守りきる‥‥それだけ、です」
 後方のジープで双眼鏡を手にしている薙、そして一見深窓の令嬢にも見える少女めぐみ。その他の面々もそれぞれの車両に乗り込み、警戒を怠らない。
 悲惨なのが副砲を積んだトレーラーの助手席に乗った美琴である。彼女は大陸横断の間、スティンガーの雑多な話にハイハイと相槌を打ち続けることになってしまった。

●夜営
 夜はすべての車両を停め、休憩用のベッド車で食事や睡眠をとる。組み立て式の三段ベッドになっており、食料や毛布など必要なものが積んである、長時間の移動には欠かせない車両だ。
「今夜はお好み焼きだよ」
 怪我を負って戦闘に参加できない玲奈が食事を作る。
「これから夜警だね、その前にキリマンジャロコーヒーを入れたから、飲んでいきなよ」
 そう言いながらA班の薙とミスティにスチール製のマグカップを渡す。
「ふぅ、目が覚めるね」
「おいしい‥‥です‥‥」
 ミスティと薙はそれぞれコーヒーを飲み干して夜警に当たる。過酷な旅路に、嬉しい心遣いだ。
 その間、残りのメンバーはしっかりと睡眠をとる。
「あ、待って待って! 間に仕切りのカーテンを引いて、奥が女子! 男性陣は手前を使って」
 こういうことはちゃんとしておかないとね、と美琴がカーテンを取り出した。
「判っていると思うけど、覗いたらダメだからね!」
「着替えを覗いたら、承知しませんからね‥‥」
 美琴と魔諭邏がダメ押しをすると、ヘイヘイ、とドライバーを含めた男性陣が答えた。
「覗いたりしたら、遠慮なく撃ちますから。それだけは覚えておいてくださいね」
 おとなしそうな顔で、めぐみが恐ろしいことを言う。
「の、覗かないっすよ!」
「そ、そうだよ」
 拓朗と暁がそれぞれ両手を挙げて答えた。
「幼女趣味はねーよ」
「むっ!」
 余計な一言でめぐみに睨み付けられたスティンガーが首をすくめた。

「交代の時間だな」
 暁がゴソゴソと起き出すと、カーテンの奥から魔諭邏が顔を出した。二人は玲奈が保温カップに入れておいたコーヒーをすすると、外に出て夜警の交代を告げた。
 ミスティと魔諭邏に見えない位置で、暁と薙がそっとハグをする。大切な人がそばにいるからこそ戦いぬける任務もあるのだ。
「星が綺麗だ‥‥だが寒い!」
「本当ですね。でもおかげで目が冴えますわ」
 体を震わせながら暁と魔諭邏が周囲の警戒に当たる。見渡しのいい場所に設営したせいか、空が広く見える。ラスト・ホープのそれとはまた違った星空だ。
 やや外が明るくなりはじめる頃、二人はC班と交替をする。
「ん、もうそんな時間か〜」
 大きく背伸びをしながら美琴がベッドから起き上がる。
「よく休めましたか?」
「バッチリよ、後はボクたちに任せておいて」
 魔諭邏と美琴が言葉を交わす間に、めぐみも体を起こして装備を確かめた。女性二人がベッド車の奥から出てくる間、拓朗はすでに外で銃の点検をしていた。
「そういや、あんまり銃って使ったことないっす」
「え? 大丈夫なの?」
「そりゃあファイターたるもの、武器なら何でもこいってもんすよ!」
 美琴の言葉に元気に返す拓朗。
「暗視スコープがあればよかったのですが、今回は用意できませんでした」
 めぐみはランタンに火を灯し、手元を明るくする。
 冷暖房完備の意外と快適なベッド車のおかげで、一行は体力の消費を最小限に抑えて旅をすることができた。高速移動艇で現場まであっという間にたどり着く今、このような車両を利用する機会は非常に少ないだろう。しかしこの経験は作戦に参加した若い傭兵たちのサバイバル能力を大きく成長させるに違いない。
 そして夜明けとともに、副砲輸送行軍は出発した。
 これを何度も繰り返し、オタワへ向かう。

●シカゴを目前にして
 前後をジープで挟み、左右を装甲車で固める陣形を取って進む一行。
「もうすぐシカゴだね」
「おう、ここまで来れば着いたようなもんだぜ」
 長旅でスティンガーにもすっかり慣れた美琴。オヤジと美少女という不釣合いなペアが完成されてしまっていた。
「スティンガーより全車両、シカゴで一服しようぜ!」
 だがしかし、残念ながら事はそう簡単に運ばないものである。
 先頭のジープのさらに前を走るミスティのリンドヴルムから弐回線へ通信が入った。
「ミスティより全車両へ。キメラを発見、中型四足獣型が4体だ。こっちへ向かってくる」
「お客さんのお出ましっすか」
 先頭ジープの拓朗が刀『蛍火』の柄を握る。その手にじわりと汗がにじむ。
「強行突破‥‥できますか‥‥?」
「止まれるなら止まって倒したほうがいいかもしれんな」
 最後尾の薙の問いにミスティが答える。
「スティンガーさん、止まれるかな?」
 オヤジの顔を心配そうに見る美琴。トレーラーにとって急ブレーキは命取りであることを彼女はこの道程で知った。
「任せとけ! 全車両緊急停止!」
 無線を通してスティンガーが吠える。トレーラーは絶妙のタイミングで前後のブレーキをかけ、キングピンを軋ませながら止まる。後方ベッド車も見事なステアリング捌きでトレーラーを折ることなく停車した。
「装甲車でトレーラーを囲んで!」
 暁の声で装甲車はトレーラーの盾になる位置で止まる。
「ほんと、何で情報は漏れるんでしょうか? 上層部に裏切り者がいるという定番でしょうか?」
 つぶやきながらめぐみがイアリスを手にジープから降りる。
 前方からはUターンしたミスティがキメラを引き連れて走ってくる。
「暁! こいつで迎撃してくれ!」
 ベッド車の上に固定されたアンチマテリアルライフル。その横に玲奈。暁は装甲車から飛び出すとあっという間にベッド車の上に駆け上がった。
「玲奈さんは車両の中へ」
 暁が手を貸し、玲奈は装甲車へ退避する。
 照準にキメラを捕らえた暁がアンチマテリアルライフルを発射する。弾丸はキメラ1体の頭部を抉り取った。
 トレーラーを降りた美琴は自動小銃『スコーピオン』でキメラを迎撃する。
 装甲車を盾に、魔諭邏もスコーピオンを放つ。その雰囲気は普段とはがらりと変わり、暗殺者のごとく冷たい空気を纏っている。
「こいつら、素早いッ」
 リンドヴルムを全身に装着したミスティはゲイルナイフに竜の咆哮を乗せてキメラへ斬撃を繰り出す。衝撃で吹き飛ばされるキメラ。
「絶対近付けさせない!」
 弾幕を縫って薙が夕凪を両手に走る。普段のおっとりとした言動と対照的に、風のような動きでソニックブームを放ち、肉食獣の足取りでキメラに刃を向ける。側面から切り込んだ刃はキメラの足をえぐり、血しぶきが薙の白い肌を汚すが気にも留めない。覚醒により髪の色を赤く染めた姿はさながら赤い疾風である。
 拓朗も蛍火を手に『紅蓮衝撃』で自身の能力を引き上げ、キメラへ斬撃を加える。対ワーム用の刀は怒涛のインパクトでキメラを襲い、銃撃により傷ついていた1体を瞬時に肉塊へと変えた。
 ベッド車の上では、反動の強いアンチマテリアルライフルから取り回しの良いアサルトライフルへ持ち換えた暁が確実にキメラに弾丸を撃ち込んでいた。
 ミスティはキメラの背後を取り、エネルギーガンで応戦する。電磁波で形成された弾丸がキメラを捕らえ、肉を焦がす。不意にミスティの方へ体を捻じ曲げるキメラ。一瞬、獣と視線が交錯する。が、しかし。
「必殺の一撃です、沈んでください」
 武将のように堂々としためぐみの振るうイアリスがキメラの腹を割いた。
「助かった」
 ミスティはリンドヴルムの下に冷や汗をかいていた。
「後1体!」
 美琴のスコーピオンから空弾倉が滑り落ちる。ポーチから弾倉を取り出し装填する隙は魔諭邏と暁の銃が埋める。
 魔諭邏のスコーピオンがが33発目の空薬莢を吐き出し、スライドが口を開けて止まったところで最後のキメラが倒れた。
 装甲車の中で安堵する玲奈。同時に、自分が戦闘に参加できなかった悔しさに唇を噛んだ。
「終わったよ、スティンガーさん」
 トレーラーのすぐ横で銃撃を行っていた美琴が運転手を振り返る。
「さすがだぜ。しかしおまえ‥‥」
 胸の大きさが変わったよな? と言い切る前に音速ビンタがスティンガーを捕らえた。

●オタワへ
 シカゴで軽く休憩をした一行は再び進路をオタワへ向けた。このルートでは高レベルのキメラに出くわさなかったため、トレーラーを守りぬくことが出来た。
 もちろんキメラを撃退できたのは長旅で培われたチームワークの成せた業であったかもしれない。
「めぐみより全車両。無事に着いたらケーキでもどうですか?」
「賛成」
 装甲車にリンドヴルムを積んだミスティを筆頭に、次々に返事が返ってくる。
「俺は煙草を一服やりたいね」
 装甲車の小さな窓から入る風に黒髪をなびかせながら暁が言った。
 視界に入ったオタワの街が、任務の成功を告げる。