●リプレイ本文
第七区画へ到着した傭兵たち――。
その中心に怪物がいた。
盛り上がった筋肉に、人間の姿をしたヨリシロから漆黒の肌を持つグロテスクな巨人と化したバグア人――ウィンザー。
「ふふふ‥‥人間ども、貴様らは一人残らず殺しやる」
と、一人の強化人間が踏み出して来る。
「UPC、この怪物はバグア人のウィンザー、そして私は彼の副官のワグナーと言う。これから我々14人が貴様らを、全員殺す」
上空を舞うサイレントキラーから、分析官のフローラ・ワイズマン(gz0213)が無線を通して言った。
「敵は残るはこの14人です。恐らく死ぬ気でしょう。みなさん十分警戒して下さい。道連れにならないように」
「‥‥‥‥」
須佐 武流(
ga1461)は洋弓を構えると、強化人間目がけて解き放った。
「ふざけるなよバグア野郎が。全員殺せるか」
須佐は怒りを封じ込めて、撃ち抜いた。
矢は敵を一体吹き飛ばした。
「中東にインドに、と。フローラも大変だな。身体を崩しては、いかんよ?」
「UNKNOWN(
ga4276)さんも気をつけて下さいね。頑丈な体でも、油断しないように」
「それはどうも、だよ」
コート裾を翻し戦闘区域に踏み込む。
「まずは、立て直そう、か」
知覚銃をバグア側に連続して叩き込みつつ牽制する。
「軍の能力者は私たちとの連携をよろしくだよ。それから、正規軍の諸君には、後方でサポートを。適度な距離を保ち、包囲をお願いするよ」
UNKNOWNは手早く指示を出していく。軍能力者には各々の傭兵と連携するよう。
「手の空いている者は、強化人間を押さえてくれ。牽制や相手行動阻害を主に前に出すぎず、だね」
それから負傷している正規兵に駆け寄る。
「大丈夫かね」
治療を施すと立ち上がる。探査の目で不意突かれるのを押さえると準備万端。
「さて、と。行くか」
比良坂 和泉(
ga6549)は短剣と盾を構えると、須佐に言った。
「大勢は決したようですね、ですが‥‥気は抜かずに行きましょう」
「ああ」
愛想のない須佐の答えに、和泉は肩をすくめる。須佐が言葉少ないのは有名だった。
「それにしても、不死身のUNKNOWNさんと戦えるとは光栄ですよ。俺は今年に入ってから復活したんですけど‥‥UNKNOWNさんは相変わらずの活動ぶりですね」
「おお、まあ学術との両立が大変なんだよ」
「そうですか‥‥ま、今回は、決死の相手ほど怖いものはありませんし警戒して掛かりましょうか」
それから、軍傭兵のエクセレンター二人とダークファイター二人とチームを組む。
「エクセレンターの方は銃火器を、ダークファイターの方は近接武器をお願いします。前衛および後衛の役割分担ははっきりさせておきたく思います」
「了解した」
「承知しました」
「和泉の兄ちゃん、頑張ろうぜい!」
「俺達の役割は基本的に防御や援護。一団の連携戦闘を重視し行動します。宜しくお願いしますよ」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)は、ばしっと拳と手のひらをぶつける。
「久しぶりの白兵戦だな。よし、暴れてやるぞ」
「いやいやユーリさんハーモナーでしょう。後方支援ですよ」
和泉の突っ込みを受けて、小首を傾けるユーリ。
「‥‥え? 支援担当? そっか‥‥残念、何てな。分かってるよ」
言って、敵の様子を確認する。
「前衛に混じっての支援担当だな。任せてくれよ。乱戦になる前はスナイパーとタイミング合わせ、弓の射撃で牽制だ。効果範囲に入った敵はほしくずの歌で混乱を狙ってみる。一般人が歌って踊れるんだから、能力者なら戦いながらでも歌えるぜ。息継ぎのタイミングに気を付けていれば大丈夫、と」
「ハーモナーの効果絶大ですからお願いしますねユーリさん」
「まあ、歌で戦いを左右できるなんて夢みたいな話だよなあ‥‥」
アーク・ウイング(
gb4432)はいつものように気合を入れて呟いていた。
「最後の悪あがきだろうけど、覚悟を決めた敵は厄介極まりないからね。こっちも覚悟を決めないとね」
それから、ウィンザーに接近して呼び掛ける。
「アーちゃんの名前は、アーク・ウイング。一応、ダム・ダルを倒したメンバーの一人だよ。最後の相手としては悪くないんじゃないかな」
と声をかける。行為の理由は、ウィンザーの注意をこちらに向けるため。
「ダム‥‥ダル‥‥奴は屑だ。人間を理解しようと努め‥‥馬鹿な奴だ。最後にはあんな辺境で果てるしかなかった。俺様はあんな雑魚と同じようには死なん。貴様らを殺す」
「駄目だこりゃ。何言ってんの。君はダム・ダルには遠く及ばないよ。ダム・ダルが残した軌跡は、アーちゃんにはしっかり心に刻んでいるよ。孤高で、高潔なバグア人だったよ彼は」
「ふざけるな‥‥俺がここでは世界一だ! いいだろう! ナラシンハのために死んでやる!」
ウィンザーは咆哮した。びりびりと大気が震える。
ゼクス=マキナ(
gc5121)は仲間達に挨拶する。
「ゼクス=マキナと言う、宜しくな。それにしても、強化人間ども必死と言うことか」
ゼクスは、軍属サイエンティストの二人に声を掛ける。
「連携して練成スキルで支援に務めるぞ。宜しく頼む」
「はい。お互い様ですね。今回は強敵ですかね。あの怪物バグア人が相手ですから」
「怪物は苦手じゃないですけど、気をつけませんと」
「ふむ‥‥未来研にサンプルでも持ち帰るか。まあヨリシロが跡形も無く消え去ることも珍しくないことだが」
(今回に限っては後方からの支援に徹したほうが良さげだ、下手に前に出たら迷惑なだけだからな)
ゼクスは言って、胸の内に呟き、日差しから守るようにマスクを整えた。
「前衛はただ攻めろ。後方や隙は、俺達がカバーする!」
高坂 永斗(
gc7801)は言って、小銃「NL014」に銃弾を込める。
「狂戦士か、奴等は‥‥戦場で死ねるならそれも本望、か」
「全く厄介な奴らだ。死ぬ気で掛かって来る相手とはな」
「協働に感謝する。共に勝利を」
「俺達に相手は選べませんしね。止めを差してやりましょう。それからビンドを制圧しましょう」
和泉が言うと、高坂は肩をすくめる。
「ここまでインドを取り戻すことが出来たのは、多くの試練があったことだろうさ。和泉君、俺たちの手でそれが台無しにならないようにしないとな。実際、限界突破したバグア人に俺たちだけでは勝てないからね」
ルーガ・バルハザード(
gc8043)は抜刀すると、軍属ファイターたちに呼び掛ける。
「さあ! 奪い返すぞ、我々人類の街を!」
ルーガは刀をバグア軍に突き付ける。
「我が親愛なる戦友、ファイター諸君!」
UPC軍属傭兵のファイターたちに、ルーガは呼びかける。
「我らは行く手に立ち塞がる剣、仲間を襲う牙を退ける盾! 共に、あのバグア軍を滅そうではないか!」
「お、おー!」
何とも古風な呼び掛けに、ファイターの野郎たちはそろそろと拳を突き出した。
「何だお前たち! 気概が見えんぞ! やる気があるのか!? さあもう一度! あのバグア軍を滅ぼそうではないか!」
「おおおおおおおー!」
「ブラボー!」
ルーガからアイスブルーの殺気のこもった眼差しを向けられて、ファイター野郎たちは気合を出した。
「行くぞ! 突入! 私に続け!」
ルーガは先陣切って加速した。
ゼクスは超機械を持ち上げると、拡張練成強化を飛ばす。
「武器を強化する、少しは楽になるはずだ」
そしてルーガは全速で強化人間と激突する。強化人間は憎しみの眼差しで牙を剥いてくる。
一撃二撃と打ち合い、ルーガは敵を蹴り飛ばした。
そこへ味方が殺到する。強化人間はジャンプすると、回転しながらルーガに撃ち掛かって来る。
「何を――!」
ルーガは凄まじい衝撃を盾で受け止めると、相手を押し返した。
「紅蓮衝撃――!」
ルーガの一撃が強化人間を直撃する。強化人間は吹っ飛んだ。
「ちい‥‥!」
ルーガは痺れる腕に力を込めて、踏み出した。
「ルーガさん!」
和泉は突撃して来る強化人間に相対する。
仁王咆哮を用いて、自身に敵の動きを引き付けると、格闘戦に移行する。
短剣で刀を弾き返すと、四肢挫きで敵の動きを封じる。
「おっとっと、好き勝手やらせるわけには行きませんね」
仁王咆哮で引き付けられた敵が続々と向かってくる。
「支援を宜しく!」
和泉は、堅い守りで相手を引き付けると、味方にそこを衝いてもらう形で撃破する戦法をとっていく。鉄壁のガーディアンの見せ場である。
「超機械での攻撃で援護する」
ゼクスは超機械を振るうと、和泉に群がる強化人間たちを攻撃。
「さすがはガーディアンと言ったところだが」
ユーリは、ほしくずの唄で強化人間たちを混乱に陥れて行く。
「あーあーあ〜、あーあーあーあ〜、あーあーあーあーあーあ〜! ほーほーほーほー、ほーほーほーほーほー!」
歌が物凄く上手く、女性並みの高音も出せるユーリは、オペラ歌手さながらに美しい声で歌い上げる。
強化人間は苦しそうな声を上げると、「わああああああ!」と自分の味方に攻撃を開始した。バッドステータス「混乱」。
ユーリはそのまま歌い続けると、ランク3の混乱に敵を陥れ、次なる標的に狙いを定める。
高坂は、後方から友軍と支援攻撃を開始する。基本は援護射撃で味方をサポートする。スナイパーの精密な射撃が味方の命中と回避を上昇させる。前衛で戦かう和泉、ルーガ、須佐達をメインにサポートする。
ルーガたちは強化人間と激しい打ち合いになっており、高坂のサポートで助けられる。
敵の高速の一撃が来る瞬間に、高坂らの支援銃撃が行われ、ルーガは後退しつつ回避した。
「スナイパーの領分は、的確な射撃にあり‥‥とでも言っておく」
高坂は言って、照準を合わせる。
「残念だが、あんた等に全力は出させないぞ」
そして、急所突きを叩き込む。
「これでも受けてみろ‥‥と。隙は作った。後は任せる」
高坂の急所突きに合わせて、ルーガは一撃を叩き込んだ。
「これでも食らえ!」
ザン! と、刀身が強化人間の鎖骨を砕いて肉体にめり込む。
強化人間は、ごぼごぼと血を吐いて、崩れ落ちた。
「‥‥この化け物が」
須佐は言って、ウィンザーに接近する。
止まって標的にならないように一撃離脱で常に動き回り、超至近距離では後ろに頭をそらしてかわす、前にかがんでかわす、膝と腰を使って頭を8の字のように動かして的を絞らせない、小さいステップ、これらを組み合わせて回避する。
「‥‥ふん」
須佐はスコルを叩き込んだ。凄絶な衝撃がファースフィールドを貫通して、ウィンザーの巨体を揺るがせる。
「ぐふふふ‥‥これしきの攻撃で‥‥俺様に効くか!」
ウィンザーは咆哮して拳を振り回した。
須佐は回転舞で回避すると、降り立ってミスティックTで牽制する。
ウィンザーは咆哮して突撃して来る。
「‥‥ならば」
須佐は残像斬で攻勢に転じる。ウィンザーの攻撃をカウンター攻撃で捌いていく。それでもバグア人は堅い。
「ふむ‥‥なるほどね」
UNKNOWNは知覚銃で攻撃を加えて行く。限界突破には虚実空間で解除対抗して見るが、限界突破を解除することは出来ない。
軽やかにステップを踏みながら、スーパーエレクトロリンカーさながらに、ウィンザーの攻撃を回避しつつ、銃撃を浴びせて行く。
しぶとく前に居続け、相手に圧を与え続け、攻撃は基本射撃。
「この後のフローラとのデートも考えねばならんから、服が汚れぬ回避を優先だね」
「何だと‥‥ふざけるな!」
ウィンザーは咆哮して衝撃波を解き放った。
「ぬ‥‥とと」
UNKNOWNは衝撃波をかろうじて回避した。
「危ない危ない」
「ぐふふ‥‥ならば、これでも食らえ!」
ウィンザーは口から光の神弾を連続して吐き出した。
UNKNOWNはばく転の連続で回避すると、銃撃で反撃。ウィンザーの片眼を潰した。
ウィンザーとの戦闘では、電波増強を使用して威力を上げてから攻撃する。アークも超機械とエネルギーガンでこのバグア人を攻撃する。火力をウィンザーの頭部や胴体に集中して、味方の損害が増える前に仕留めるつもりで。
「やっつけアーちゃん!」
アークはエネルギーガンでウィンザーを撃ち貫く。
ウィンザーは胴体に激しい損傷を受けてよろめく。
「おのれい――!」
ウィンザーは加速した。
だが、それを追い抜く早さで、UNKNOWNが回り込み、アークを抱き上げて離脱する。
ウィンザーの追撃に、アークはタイミングを見計らって閃光手榴弾を投げつけた。
「閃光手榴弾です!」
フラッシュが炸裂して、ウィンザーは目を押さえて後退した。
そこへ須佐が加速する。ペネトレータ―のスキル「真燕貫突」。
スコルを装備した蹴り足に付与しドリルのように回転を加えての飛び蹴りで、ウィンザーの肉体を撃ち貫き、続けてミスティックTを装備した拳に付与。一撃目で拳を叩き込み、二撃目で電磁波を至近距離から直接叩き込む。
凄絶な破壊力がバグア人のフォースフィールドを貫通する。吹っ飛ぶウィンザーの肉体に、風穴が開く。
「何‥‥だと‥‥おおおおおお‥‥!」
「止めと行こうアーちゃん」
「はい!」
UNKNOWNとアークは銃撃を立て続けに浴びせかける。
ウィンザーの肉体が崩れて行く。
そして――。
ウィンザーは最後に咆哮して、灰となって消滅していった。
「終わった、な――」
それが最後だった。
ワグナー始め、強化人間は全て撃破され、ここにビンドの完全制圧が為る。
戦闘終結後――。
ゼクスは、吐息して眩しそうに冬の空を見上げた。
「今回は何気に激しく疲れたよ、そう、とても‥‥」
「大丈夫ですかゼクスさん?」
和泉の心配そうな言葉に、ゼクスは軽く手を上げて頷いた。
ルーガはエマージェンシーキットで負傷者の救護に当たり、それから軍とともに近辺の調査を行う。何か情報源になるようなもの、コンピュータのデータ、書類などを探す。
バグア軍の司令部で、ルーガはコンピュータのデータを見つける。地球仕様のコンピュータであったので、ルーガも確認することが出来た。
「デリー攻略戦」と題されたデータに、近郊のバグア軍の基地が記載されていた。そして、一枚の設計図を見つける。そこには、巨大な砲塔を持つ陸戦仕様の兵器が記載されていた。ルーガは軍に報告し、そのデータを回収してもらう。
‥‥敵の手から、再び人類の地を奪い返す。如何ほどに小さくとも無意味ではない、自分の力は――ルーガは再び、心に強く思った。
南部の都市、レストランにフローラとUNKNOWNの姿があった。
「仕事、順調かね」
「大変なことばかりですけど、順調ですよ。でも、本当に忙し過ぎて、ちょっと疲れちゃったかな‥‥」
フローラの吐息に、UNKNOWNは肩をすくめる。
「今日はご馳走するよ。まともに食事もしてないんだろう。駄目だよ」
「ありがとうございます。何だか得した気分ですね」
フローラは嬉しそうに笑った。
それからもりもり食べたフローラは、すっかりUNKNOWNのご馳走になったのであった。