●リプレイ本文
戦闘開始前、まだ傭兵たちはいつもの高揚感に包まれていて、饒舌だった。
堺・清四郎(
gb3564)もオープンチャンネルで、バグアに呼び掛ける。
「こんな所まで出張とはご苦労なことだな、キングスレー! マハラジャの不興でも買ったか!?」
その言葉に、アレン・キングスレー(gz0472)は笑って答えた。
「堺清四郎、まあそんなところだよ。あのマハラジャへの忠誠心などないがね」
「ふん、言うじゃないか。インドで戦っていると思ったら中国へ出張とはご苦労なことだ。だが人類の新たな月への一歩を邪魔はさせん! 勝利を我らが手に!」
「そうはいかんぞ。簡単には月へは行かせん」
「キングスレー、俺はお前を追ってきたがいつまで逃げる気なんだ。いい加減決着を付けようじゃないか」
「我々の関係は、単純な敵と味方で測れるものでもないだろう。バグアにとって、地球人は貴重なヨリシロだ。貴重過ぎるほどに」
「キングスレーの奴、今度は中国に出現か。本当にあっちこっちに出てくるね。まあ、アーちゃんも、インドや宇宙を行ったり来たりしているけど」
と呟いているのはアーク・ウイング(
gb4432)。傭兵たちのかわいい妹の代名詞的存在だ。
「アーク・ウイング、か。お前と戦うのも何度目か。我々にとってはヨリシロ候補だな。お前も人気が高い」
「そんなこと聞いたってアーちゃんは嬉しくないよっ」
アークはぷりぷりと怒った。
「アーちゃんにとって、キングスレーは許せない敵なんだからねっ」
「まだ子供かアーク? 随分と可愛らしいもの言いだな」
「子供で悪かったね。キングスレーにはそんな可愛らしい時代は無かったんだろうけどね」
「バグア人には地球人的な外見の可愛らしさはないのでな」
キングスレーは言って笑った。
孫六 兼元(
gb5331)は適当に無視しながら、ウィル隊長と話していた。
「それにしても、月面基地とは、随分と大胆な計画だな! だが、成功すればバグアを打ち倒す為の、大きな一歩となるのは間違いない! 何としても守り抜こう!!」
ガッハッハ! と笑う孫六。
「ワシは陸戦での迎撃に当たろう! 奴等の目的が、基地建設の資材を破壊する事に有るのなら、ワシ等との交戦を避け資材破壊を優先してくる可能性も考えられる! 夢守氏に、敵の位置情報や移動パターンのデータを送って貰い、資材へ向おうとする敵機を最優先で攻撃するぞ!」
そこで孫六は回線を開いた。
「月面基地は、地球人類のバグア反攻作戦への大きな一歩だ! 貴様等如きに潰させはしない! インドから遥々と御苦労な事だな! 資材の搬送でも手伝いに来てくれたか? キングスレー!」
「相変わらずジョークの冴えわたる孫六だな。まあ、俺たちが手伝うとすれば、強化人間の兵隊でも送り込んでやろうか」
「ガッハッハ! そいつは大歓迎だ! 銃と刀でお迎えせねばならんだろうな!」
「そんなところだろうと思ったよ」
バグアの思いもしばしば刻み込んできたソーニャ(
gb5824)は、そんなやり取りを聞きながら、口を開いた。
「拠点攻撃にはずいぶんと少数だね。アレンならその気になれば一気に防衛ラインを抜け拠点にパス攻撃ってのも不可能じゃないと思うけど、決定力がね。それに、そんな素直じゃなわよね。意外に遊びに来たってのが正解だったりして」
それからソーニャは言った。
「ねぇ、アレン。ボクたちはここにいるよ。飛べない鳥が翼を羽ばたかせて跳ねるようにそれでもまだ見ぬ地を目指すように。そんなボクたちを見にきたのかな。空に浮いてる白い月、あれがどのくらい遠くにあるかなんてボクは知らない。だから手を伸ばす。背伸びをする。飛べない翼をはためかす」
キングスレーは笑った。
「戦う前と言うのはいいものだな。地球人の文化には実に心引かれる。その思い、心に響く感情を揺さぶる言葉。我々は母性を旅立ち、宇宙を飛ぶまでになったが、文化的であるとは言えない」
「君からそんな言葉を聞くのは意外かもね」
ソーニャは言ってから、呼び掛けた。
「ねぇマリア、滑稽に見えるかな。君たちから見るとボクたちの技術なんか子供だましかな。でも、滑稽なほどいとおしくならないかい。ボクは本気で君を殺そうとしてるし、君も本気だよね。それでも一緒にあの月まで行ってみたいな。案外、38万4千キロ先にある石ころが偽物で、ほんものの月がすぐそこにあるかも。蒼い空。白き幻の様な月。別の世界に続いているのが本当の月。くだらない戯言。くだらない幻想。うん、楽しい。では、始めよう。思いっきり飛んで、思いっきり殺しあおう」
「ソーニャ傭兵‥‥お前は相変わらずだわね。私はねえ、アレンほどに洗練されてるわけじゃないのよ」
流浪の旅人だった傭兵、夢守 ルキア(
gb9436)は、セカイを見る。ウィル隊長と確認する。
「ディアブロ2機は、私の護衛と、管制補助に回って貰っていいかな。如何に、突破する力を削ぐか。攻撃は皆に任せ、私達は警戒と牽制を行おう」
「まあ、今日は数では余裕があるからな。サポートさせよう」
「ありがとう。マリア君は、上に来るだろうな。私だったら、アレン君にマークが付いてるコトを想定するけどね。敵は、一人でも突破させればいいんだ。空陸の連携と、連絡も怠らないでいこう。抜かれそうになったら、ブーストで攻撃もお願いね」
それから、回線を開いた。
「敵との対話も面白いよねー。敵に愛着が持てる、かも?」
ルキアは言った。
「好奇心がヒトの文明を作りあげたのなら、バグアはどうなんだろ。きみ達の文明は、発展できそう? あ、つまらないって切り捨てないでね。科学も文化も、好奇心の賜物さ。考え方を知る、答えや問いかけを交わすと、セカイが見える」
「夢守ルキア、か。我々の文明が発展できるかどうか‥‥。それは我々の生き方に問題がある。我々はヨリシロを集め、その知識と情報を手に入れることで生きてきた。今のところ我々より高度な科学を持つ文明とは接触したことはないが、我々は、言ってみれば文明泥棒なのでね。文明を食いつくしていくだけの存在かもしれない‥‥」
「ふーん‥‥」
キングスレーの答えに、ルキアはうなった。
ゼクス=マキナ(
gc5121)は、短く言った。
「この作戦が成功すれば月は再び人類の手に戻るのだろうな。空の敵は残らず叩き落すか」
「ゼクス、月までは行けるかどうか分からんぜ。何しろ、バグアの抵抗が来れば、な」
ウィルの言葉に、ゼクスは淡々と答える。
「バグアの抵抗はあるだろうが、俺だって、実際カンパネラが打ち上げられただけでも驚きだがね。UPCには密かに期待してる」
「まあそうだよな。宇宙に上がったのが昨年末だからな。宇宙は最先端の戦場だが、実際バグアが圧倒的に有利だからなあ」
「この戦争が、バグアとの駆け引きにもなるのなら、やりようはあるんじゃないのかね」
ゼクスは言って思案を巡らせる。バグア人への理解は、実際難しい。
「必要な攻撃を行う‥‥貴方達は敵ですが‥‥嫌いではありません‥‥だからと言って‥‥戦わないわけにはいきませんが‥‥」
BEATRICE(
gc6758)が言うと、キングスレーは笑った。
「BEATRICE、か。砂漠の星作戦以来だな。懐かしいものだが、俺も今の状況を予測出来ているわけじゃなかった。まさか、ここまで事態が発展するとはね。驚きではあるね」
「確かに‥‥私はあなたたちが嫌いではありませんが‥‥宇宙へと道が開けるのは誰にも想像できなかったでしょう‥‥」
「そうだ。お前たちの映画も見させてもらったが、現実になるとはね。それはともかく、俺だってお前たちが嫌いってわけじゃない。バグア人に愛や友情は理解できないが、人間は実にヨリシロとしての価値が高い。俺は地球に降りることが出来て良かったと思ってる」
「キングスレー‥‥それはちょっと調子に乗り過ぎじゃなですか‥‥」
BEATRICEが辛辣な口調で言うと、キングスレーは笑った。
「冗談だよ。こんなやりとりはお互いを知るという以外に何もない。尤も、俺は攻撃の癖を少しの傭兵に読まれたところで構わんのだがね」
「何とも‥‥嫌味のあるバグア人ですねあなたは‥‥」
BEATRICEの言葉に、キングスレーは小気味の良い笑声を上げる。
「バグア軍、防衛線に来るよ――みんな、そろそろ準備はいいかな」
ルキアが言うと、傭兵たちは操縦桿に手を掛けた。
「行くぞ――!」
ソーニャは加速した。駆け抜ける蒼い閃光エルシアン――。
「アリスシステム起動――ボクに続いて」
バレルロールで突撃すると、プロトン砲をかいくぐってGP−02ミサイルを叩き込み、初撃でレーザーでタロスを撃墜、離脱していく。
「各機、エルシアンに続いて。マリア君の攻撃トカ、注意しながらね。カスタムタロスはこっちで捉えておくからね」
ルキアは【OR】アルゴシステムを起動させており、友軍各機とデータリンクを図っている。アルゴシステムは、イクシオンに搭載された管制システムであり、把握した敵、味方の座標・相対距離、味方機の索敵情報を統合、自機のレーダーに合成表示する。手動入力可能であり、通信機を介して戦場の状況を友軍各機のレーダーに映し出す。
ゼクスは、初撃にロングレンジライフルを叩き込む。カスタムタロスは散開する。
「ふむ‥‥」
それからゼクスは複合式ミサイル誘導システムII及び誘導弾用新型照準投射装置を起動させると、MM−20ミサイルポッド×2でのミサイル弾幕攻撃を行う。ロングボウの長射程の強化ミサイルが打ち込まれる。さらに、ミサイル弾幕攻撃3回に1回の割合でUK−10AAEMを混ぜて発射する。
直撃を受けて炎上するカスタムタロス。反撃のプロトン砲を受けて爆発する奮龍。
「流石タロス改と言うところか、だがパターンは読めた」
「来たね、マリア」
「ソーニャ君を援護して」
「ソーニャ傭兵、今日は止めを差してやろう」
「マリア、君にその言葉、返すわ」
ソーニャは、マイクロブースターに通常ブーストを併用起動させると、シュナイダーのプラチナタロスへ向かっていく。プロトン砲をかいくぐり、GP02ミサイルポッドからのレーザー攻撃がプラチナタロスを直撃する。さらにバレルロール、スリップで回避する。ターン機動を少なく、高速を維持。
「食らえヨリシロ」
ゼクスは、練力の続く限りミサイルを叩き込んだ。
「ちい‥‥!」
回避していくプラチナタロスのプロトン砲が直撃する。
「むう‥‥」
ゼクスは、思わず綺麗にコンソールを斜め45度で殴ってしまう。だがもちろんそれはプチロフ機の伝説とも言える特性だ。
「プチロフ製でないと無理と言う事かー」
後退するゼクス。
「アマンダならボクを捉えたよ」
ソーニャは言いつつ、高機動で舞い、ミサイルとレーザーを叩き込んでいく。
「アマンダなど、私の足元にも及ばん」
マリアは機体スキルで加速すると、エルシアンの攻撃を回避していく。プロトン砲をばらまき、エルシアンを追う。
「今だよ。各機、プラチナタロスを撃て」
ルキアのナビゲーションに、傭兵たちはミサイルを叩き込む。爆発炎上するプラチナタロスは後退する。
「――地上班、アレン君も出て来るよ。防衛線までの距離1000。迎撃をヨロシクね」
ルキアは、地上のマップを見やりながら、各機に伝える。
「ミカガミ部隊! 奴らの鼻っ柱に一撃加えるぞ!」
清四郎はミカガミ部隊とともに敵に突撃、敵の先頭に一撃をかまして勢いを削いでからユルユルと引きつつ味方との合流を図る。
だが、ゆるゆると後退出来るほどにバグアの攻撃も穏やかではない。突進してくるキングスレーを中心に、プロトン砲を叩き込んで来る。
アークは、P−120mm対空砲で迎撃。後退しつつカスタムタロスを撃ち抜いて行く。プロトン砲を機盾「レグルス」で受け止める。
「ナラシンハにこき使われていると思ったら、今度は中国まで出張?」
とキングスレーに声をかけてから、ガトリング砲「嵐」で攻撃する。
「俺は何かと多忙でね。邪魔しないでくれるか?」
「軽口が出る間はアーちゃんもまだまだだね」
アークはブーストで一気に接近。練剣「白雪」で攻撃するように見せかけて、兵装をガトリング砲「嵐」から変えずに、ティターンの装甲の破損個所めがけて、ほぼ零距離で銃撃を叩き込む。
「むう――」
キングスレーは意表を突かれてうなった。
アークは次のタイミングで練剣「白雪」で攻撃を仕掛ける。
キングスレーは一撃二撃と弾いて、後退する。
BEATRICEは、複合式ミサイル誘導システムを起動させると、ホールディングミサイルを連射する。カスタムタロスは直撃を受けて傾く。
「数の有利を保つ……被害を最小限に……」
「撃て!」
友軍各機はミサイルを叩き込み、加速する。
「BEATRICE! 援護をよろしく!」
「気を付けて下さい‥‥」
ヘルメットの奥で左の赤い瞳が妖しく光る。
スラスターライフルで支援銃撃を行う。命中しやすい胴部への攻撃を中心に。
孫六は、八双の構えにて機剣を振るい、キングスレーをその場に押し止める。機剣のリーチを活かし足元や顔面への攻撃を繰り返し、仲間と連携する。
キングスレーは孫六の八双の攻撃を捌いていく。
「これでも食らえ!」
メガレーザーアイをぶつける。
清四郎は威嚇射撃から加速し、機刀と雪村を使い至近距離戦闘を仕掛ける。キングスレーのプロトン砲に警戒し、奇策として初撃でいきなり身をかがめて相手の足に雪村で斬り付ける。
「宇宙への道! 貴様に閉ざさせん! 幕末時代の剣術の技の味はどうだ!?」
「何、俺の剣技は宇宙の剣聖仕込だ」
キングスレーは言って、レーザーブレードを垂直に立てて弾いた。
傭兵たちはやがてキングスレーを包囲し始める。
BEATRICEは友軍各機と接近戦に加わり、カスタムタロスを後退させる。
「どうにか‥‥持ち堪えられそうですか‥‥」
キングスレーは戦況を見やり後退を図る。
孫六は「いつも容易く逃げ果せると思うなよ!」と牙を剥いた。温存しておいた練力を使い、ブーストと同時にストライクACを使い急速接近し、更に超伝導アクチュエータを起動し、至近距離から種子島を叩き込む。
高出力レーザーがカスタムティターンを貫くも、キングスレーは態勢を立て直して急速離脱する。
バグア軍は撤退した。孫六はそれを見届け、司令部との回線を開く。
「こちらOgre! 無茶してガス欠だ、回収を要請する! ガッハッハ!」
「了解Ogre。支援を送ります。しばらくお待ちください」
「ガッハッハ! よろしく頼む――!」
「アレン君は逃げたか。中々やるね」
ルキアは言って、バグア軍が撤退した地平線を見やるのだった。
「数年前まで掴めないと思っていたが‥‥掴めるところまでようやくこれたか‥‥」
清四郎は、空に手を伸ばして月を掴もうとするのだった。