●リプレイ本文
「敵機動要塞エル=ジ=スを中核とするバグア遊星集団接近! 全艦迎撃態勢に入ります――」
「待機中の各KV隊、出撃に備えて下さい――」
オペレーターたちが慌ただしく状況を伝える中、ドクター・ウェスト(
ga0241)は紅茶を飲んでいた。
「けひゃ、いよいよだね〜」
「伊藤、間もなく出撃だ。奴らにこの宇宙を自由にさせるな」
「イエス・サー、アドミラル」
航宙機母艦「アドミラルTヤマグチ」所属、第36母艦航宙団――VF380・VF320・VFA456・VFA442――司令、伊藤 毅(
ga2610)中佐は、コクピットの中で回線に響き渡る提督の声に答えた。
「人類の興亡はこの一戦にあり‥‥か‥‥」
第五艦隊の司令官、堺・清四郎(
gb3564)は四十代後半、勇猛な指揮官として知られる。旗艦は巨大戦艦ロイヤルガード。常に危険な戦いへと赴く猛将である。
KV乗りから出世し、艦隊司令となり幾戦もの戦いをくぐり抜けてきた‥‥。だが、どれほど出世し、戦い方は変われど人類への思いは変わらん。この戦い‥‥勝つぞ!
猛将の思いは熱い。
「あの巨大要塞が奴等の切り札か‥‥あんなものを地球に近づけられるか!」
二年前の遭遇戦以降、遊撃艦隊として銀河系外縁部を転戦していた巳沢 涼(
gc3648)提督は、この決戦に召集されていた。これまでに十一のバグア遊星を葬り、その功績で中将に昇進している。年齢三十歳、二個艦隊の指揮官として参戦している。率いるは盟友亡き後も共に戦い続けた双璧艦隊、旗艦はとある戦艦の余剰パーツを組み込んだ巨大戦艦「白波」である。
「第五艦隊より入電!」
「スクリーンに出せ」
涼が言うと、清四郎の顔が映った。
「巳沢提督――」
「堺提督か」
「バグア人との戦争は、連邦にとって危機的だった」
「ここで連中には付けを払ってもらおう。犠牲となった同胞たちのことを思えば‥‥」
「ああ、幸運を」
清四郎は敬礼して通信を切った。
涼は、軍帽を正すと、逝ってしまった同胞の顔を思い浮かべる。
「いつもの如く‥‥ですか‥‥」
BEATRICE(
gc6758)は、KVに向かいながら呟く。
「BEATRICE! ミサイルは満載にしてやったからな!」
整備士の青年が、コンテナをスパナで叩いていた。
彼女のKVは飛行形態にコンテナミサイルの集合体を搭載した状態である。イメージ的には打ち上げ時のスペースシャトルであり、スペースシャトルがKV、タンク部分がコンテナミサイルの集合体となっていた。実際には大きさのバランスはもっと極端であり、一見では戦艦に見える程度の巨大なものである。KVはロングボウ2だ。
「ロングボウはばっちりしておいてやったぜ!」
「乗り慣れた機体が一番ですよ‥‥」
コンテナミサイルはマルチロックで多弾頭。大量に搭載しており、趣味的デザインコンセプトの機体である。
「宇宙と言ったら‥‥大型のアー○ドベースに‥‥大量のコンテナミサイルでしょう‥‥」
「敵遊星からヘルメットワームが放たれました」
「我が方もナイトフォーゲルを出せ。KV隊、出撃せよ」
「第36母艦航宙団、全機発進せよ」
「了解イーグル、こちら伊藤。これより発進する」
伊藤は戦爆連合を形成し、敵艦船群に攻撃を仕掛けるつもりである。
「伊藤機、出たところで警戒しろよ。撃ち落とされるな」
「了解」
「オールグリーン――各機、切り離します。幸運を」
星々の世界へ、KVたちが切り離されていく。
「ブルードラゴンズ、ブラックタイガース、グリーンセイバーズ、レッドメイセス、各隊上がったな」
「隊長! 今日もばっちり決めて行きましょうぜ!」
「浮かれるなよ。敵迎撃機とのお遊戯は戦闘機部隊に任せ、戦闘攻撃隊は敵艦への攻撃に専念せよ、そういうわけだ、ブルードラゴンズ。ブラックタイガース、グリーンセイバーズ、レッドメイセス、各チーム、俺に続いて敵機の迎撃」
「了解!」
BEATRICEは、マルチロックミサイルの猛威を振るっていた。
「ロートルは‥‥フォローに徹するとしましょう‥‥」
複合式ミサイル誘導システムIIと、誘導弾用新型照準投射装置を使い、猛烈な火力でヘルメットワームを撃破していく。ロングボウから放たれるのはマルチロックのミサイルパーティである。
「BEATRICE機! 援護を頼む! 後ろに入られた!」
「了解しました‥‥すぐに追いつきます」
BEATRICEはブーストを吹かせると、ヘルメットワームの集団をミサイルで蹴散らす。
「バグアもしぶといですね‥‥簡単には落ちませんか‥‥」
レーダーに捕えるワームの集団を、次々と撃破していくBEATRICE。
「こちら第87KV隊! 援護を請う! 敵の火力が半端じゃない!」
「伊藤隊長! こっちも危ないです! レッドメイセスが‥‥うわあああああ!」
「レッドメイセスが3機やられたか‥‥やるな」
伊藤は言って、目の前のバグア戦艦に加速する。
「ウロウロするな、ここは戦場だ、そこらじゅうにいる敵に食われるぞ!」
「敵戦闘艦を撃破!」
「更に敵艦、大型クラス!」
「敵さんはやる気満々だね」
「敵主砲! 来ます!」
「そういう時は、身を隠すんだ! 慌てるな!」
「伊藤隊長! ワームが潜り込んできます!」
「左に追い込め、ブルー4、撃墜しろ」
「間に合わない! 敵大型兵器、前進してきます! 危ない!」
「伊藤隊長! ここは危険です!」
「持ち堪えろ! あっさり突破されるようじゃ、ヤマグチ提督に合わせる顔も無いぞ!」
「大型プロトン砲、来ます!」
「回避せよ!」
閃光が宇宙空間を貫く。
「くそ、突破された、ブラック各機、母艦の支援に回れ、管制、周囲の味方も誘導してやれ」
「こちらイーグル、伊藤KV隊の補給に備えます。一度戻って下さい」
「了解ーグル。一時帰艦する」
帰還した伊藤は、BEATRICEと顔を合わせた。
「伊藤司令‥‥その様子だと‥‥今回は手痛くやられましたか‥‥」
「BEATRICEさん、部下を失いました‥‥。敵も必死と言うことですか」
「バグア人はもっと死んでいるはずですからね‥‥今日は長い一日になりそうですね」
「伊藤司令、いけます!」
「BEATRICEさん、幸運を。よし各チーム! もう一度出るぞ――!」
ドクター・ウェストは、忙しくなっていた。医療室は負傷兵で満杯になり、ドクターはぎりぎりの決断を即座に下していく。
「ドクター! こっちに来て下さい!」
「全く‥‥みんなもう少し吾輩の仕事を減らして欲しいものだね〜。ん?」
ドクターは、その患者を見るなり、目を凝らした。
患者の名はLEGNA(
gc1842)と言った。ある依頼で仲間共々捕まってしまい、バグアに改造された。脳改造もされたがあるバーデュミナス人の手によって正気に戻り、バグア軍の特別な機体で脱出した。その後は独自行動し、栄養等は機体から補給していた。
「ドクター‥‥僕の機体は損壊がひどいが、再生能力がある」
「ふむ」
ドクターは思案顔。それを聞き、艦の工場へ送るように指示する。
「例のアレがあったろう〜、高起動ブースターと一緒に取り付けておきたまえ〜」
アレとは、長射程高出力レーザーカノンと高起動ブースターのことである。
「整備班、LEGNA君の機体に例のアレを取りつけておいてくれたまえ〜」
「ド、ドクター、それはちょっと無茶なんじゃ」
「けひゃ、よろしく頼んだよ〜」
それからドクターはLEGNAの体を見る。
「コノ足ではもう駄目だね〜。義肢と交換だね〜‥‥ふむ、コノ体は?」
レグナの改造跡に気づく。
「君はどこでこんな改造を受けたのかね」
LEGNAは、手短に事情を話した。ドクターは「成程」と頷く。
それからドクターは、足の義肢にネジ一本で取り外せる時限式爆弾を仕込む。
「非常時に使いたまえ〜。フレームは残っているから、移動には不自由しないはずだ〜。バランスは悪くなるかもしれないけどね〜」
「ありがとう‥‥」
「本来マダ治療中だが、ソノ体なら大丈夫だろう〜」
そして、LEGNAは戦線に復帰する。
「‥‥遂に戦う事以外を忘れたか、この体は。まぁ良い、この体‥‥精々有効活用させて貰う」
幸福を害する者を倒す為に戦う。
「僕は、守りたいんじゃない、許せないだけだ」
その機体はエクスターミニオと言った。試作型終末兵器キメラである。登録者のみ操作可能。心臓部に膨大なエネルギーを生み続ける炉心を持つ。思念で操作されるが、設定された脳波とズレている為性能が落ちている。
全天周モニターの煌めきを見やり、LEGNAは吐息した。
「行くぞ」
全身黒の生物的フォルムが加速する。炎の様な赤黒いエネルギーの翼が発生する翼型ブースターが煌めき、両手のマニピュレーター――Xクルジェスが動き出す。
「コート・オブ・オディオ――!」
翼の出力を上げて広範囲に広げ、対象をエネルギーの波に巻き込む。機体全体がエネルギーに包まれ、突撃攻撃でバグア戦闘艦を貫通する。
「貫け‥‥マイ・ミーニング」
炉心活性化により性能を上げる。この状態で気を抜いたり乗者が行動不能になると機体が独自行動開始する。その行動は野性的で単純。脳波不適合気味なので今回はすぐ暴走を開始した。
「うむ‥‥何を‥‥ちっ」
暴走する機体に翻弄されつつも、LEGNAは敵戦闘艦を撃破していく。
「押さえろよ‥‥! オムニ・バニシュ」
機体胸部にエネルギーをチャージし放つ、小規模な疑似ビッグバン。閃光がほとばしり、周囲のワームを薙ぎ払う。
「‥‥制宙圏の確保は五分五分か‥‥」
清四郎はうなるように言うと、全艦に命令を下した。
「よし、まずは横に薄く陣を敷いて、相手の先頭に対して一点集中砲火を浴びせて出端をくじく! 全艦、ロイヤルガードを中心として横一列に陣形を組み、相手の先端に砲火を集中させる‥‥撃て!」
「ファイア!」
第五艦隊の猛烈な砲火が、バグア軍の先端に叩き込まれる。ビームの光条が貫通して、バグア艦隊が閃光とともに消失する。
「第五艦隊が攻撃を開始したか‥‥よし、我々も攻撃を開始する! 奴等を徹底的に叩くぞ! 向こう百年連邦に関わりたくないと思わせる程度にはな! 全艦微速前進! 艦隊は突撃隊形の陣形を取れ! 我が白波は突撃の最先端に置く! KV隊、各艦、各個撃破に専念せよ」
涼は∧型陣形の頂点部で闘い、押されているように見せて後退する。
「光子魚雷発射!」
「対艦ミサイル来ます!」
「CIWSで迎撃せよ」
「3連ビーム砲撃て!」
「他艦隊と連携を取れよ!」
清四郎は右翼にあり、逆に前進しつつ、涼が敵をV型の縦深陣に引きずり込む様子を確認する。
「敵要塞表面に高エネルギー反応! 主砲来ます!」
「シールド全開! 受け止める!」
直後、連邦艦隊にバグア軍からの主砲による衝撃が走る。
「ちい‥‥!」
「やってくれる‥‥!」
その時である、オープンチャンネルで敵味方に向けて、勇壮なクラシックを流しつつ、一隻の戦艦が火砲と回転衝角でバグア軍を薙ぎ払っていく!
「銀河連邦のお歴々! こちら正義と自由を愛する宇宙海賊! 村雨 紫狼(
gc7632)! 面白い祭りじゃねーの、俺たちも一枚噛ませてもらうぜ」
「宇宙海賊だと‥‥?」
「あの野郎‥‥」
村雨は元・銀河連邦宇宙艦隊所属のエースだったが、とある事件で軍を追われる。そのどさくさで、銀河重工の試作型特殊戦艦『スサノヲ』を仲間らと強奪。今はお尋ね者の宇宙海賊の船長として、自由に宇宙の海を往く男だった。
宇宙戦艦『スサノヲ』――標準的戦闘艦より一回り小さいが、推力や火力は桁違いである。漆黒のボディに海賊旗が豪快にはためいている。艦首の回転式螺旋衝角――いわゆるドリル――「ゴウテン」を利用した突撃殺法が得意である。さらに、ある秘密があった。
「行くぜ皆の衆! 連邦艦隊の皆さんがお困りだぜー!」
「おー!」
「敵拠点への内部侵攻を援護する為の露払いとして、ド派手に前進だ!」
圧倒的な火力でバグア遊星を突き破ったスサノヲは、エル=ジ=スに突進。猛烈な反撃に遭うが‥‥。
「野郎ども!! スサノヲ、大武人モードに変形!」
実はスサノヲ、宇宙戦艦型の超巨大KVであり全長50mの人型に大変形! ゴウテンを腕に装着し、大武人スサノヲとして大暴れする! 必殺技は右脚部にゴウテンを装着、そのまま錐もみしながらキックをかます。
「男の魂完全燃焼! 必殺、大宇宙ドリルキィィィック!!!」
ゴウテンがエル=ジ=スの一角に穴を開ける。
「海賊め‥‥やる!」
‥‥ドクターは、提督の元へ歩み寄った。
「ドクター?」
「コンナこともあろうかと『超重力空間爆弾』を作っておいたよ〜」
超重力空間爆弾を10個作っていたドクター。
「詳しい説明は省くが、この爆弾から半径100km圏内は重力が約10倍となり、バグア遊星は自重で自壊するというわけだね〜。マイクロブラックホールとかではなく重力が強くなるだけだ〜」
「それは‥‥」
「すでに発射態勢は整っているんだね〜」
「砲塔、ドクターの爆弾はあるのか?」
「いつでも撃てます!」
「よーし、超重力空間爆弾とやらを撃ち込め!」
放たれた重力爆弾は、次々とバグア遊星を沈めていく――。
「よーし今だ! 相手の動きをミサイルで牽制しつつ紡錘陣形を取れ! 奴らに我ら武士の勇猛を見せつけてる! 」
清四郎は、敵の勢いが止まったのを見計らい戦艦を外側におき、空母や装甲を薄い艦を内側にした紡錘陣形を展開し、KVを露払いとして突撃を仕掛ける。
「目標はエル=ジ=スの首ただ一つ! 全艦‥‥突撃!」
「白波! 突入部隊の直掩につきシールド全開で突撃! 回転衝角付揚陸艦と満載のデストロイヤー部隊を突っ込ませろ!」
涼も全艦に突入を命じる。
エル=ジ=スは激しく抵抗する。
清四郎は、ロイヤルガードのラムで要塞に突っ込みKV部隊の突入口をつくる。
「外からでは倒しきれんか‥‥総員対ショック用意! 本艦はこれより敵要塞に対してラミングを仕掛ける!」
「提督! それは無茶です!」
「今無理をせずいつを無理するか! 指揮官が臆病では兵士がついてはこない! 我らは常に彼らを照らすのだ! 道をな!」
LEGNA、伊藤らもエル=ジ=スに突入し、巨人ヨリシロと相対する。
「こちら伊藤、エル=ジ=スを発見、これより撃破する」
「バグア、ここで終わりだ」
LEGNAはXクルジュスを構えた。
「おのれえ‥‥地球人‥‥わしを‥‥このわしを倒せると思うか!」
「撃て!」
「ファイア!」
エル=ジ=スは凄絶に打ち抜かれた。断末魔の叫びとともに、崩壊していくエル=ジ=ス。
連邦艦隊は勝利を収める。
「皆‥‥良く無事でいてくれた。それが私のかけがえのない勲章だ‥‥」
清四郎は、全艦に向けて言った。
「よーし! 俺達は全速逃げるぞ! またなー!」
村雨達は、逮捕から逃れる為にスモーク噴射して全速力でトンズラするのであった。
これが、決戦の顛末である――。