●リプレイ本文
――攻撃を受けた町に到着、高速艇から飛び降りた能力者たちはUPC軍と合流する。一人は都合が付かなかったようで到着したのは七人だ。
「キメラの数は確認できただけで五、六体だ。飛び回っているんで正確なところは分からないが‥‥」
建物の残骸に隠れていた兵士は、能力者たちに呟きながら煙舞う空を見上げた。
「キメラをおびき出せそうなポイントはないか」
アンジェラ・ディック(
gb3967)は兵士に町の地図を申請したが――。
兵士はかぶりを振る。
「キメラとは単なる遭遇戦でな。手元にここの地図はないんだ」
「そうか‥‥」
偶然起こった遭遇戦。だが町一つに壊滅的なダメージを与えるには十分だったようだ。
「市民の避難状況はどうなっている? すでに民間人の避難は済んでいると聞いてはいるが‥‥」
麻宮光(
ga9696)の問いに兵士の表情が曇る。
「実を言えば、全員を逃がすことが出来たわけじゃない。避難誘導する間も無かったのが正直なところだ。キメラの攻撃でパニックだったからな」
「それでは‥‥まだ住民の方がどこかにいる可能性もあるのですか?」
石動小夜子(
ga0121)は懸念を表すが、兵士は思案顔で吐息した。
「いや、少なくともこの区域からの避難は済んでいる。キメラも町全域に攻撃を仕掛けるには至っていない。この区域に攻撃を仕掛けた後は辺りを飛び回って近付く者を手当たり次第に襲っている‥‥」
兵士は一旦言葉を切った。
「こいつは予想だが、前線が近付いているから、ここにも更に大きな攻撃が来るかも知れない。キメラの大部隊か、ワームでもやってくるか‥‥」
「何にしても、キメラが戦闘区域に止まっているって言うなら探す手間が省けるってもんだよ。ここから先はあたしらに任せて、UPCにはサポートを頼みたいね」
覚醒して燃えるような真紅の髪色のミア・エルミナール(
ga0741)は、腕組しながら戦闘区域となっている市街地へ目を向ける。
「前線が近いか‥‥押せ押せのバグアを何とかしたいものだが。それは後日の課題としておこう」
麻宮の言葉に一同頷く。九州情勢も予断を許さない状況が続いている。バグア軍の攻勢は日を追うごとに増している。
――市街地、戦闘区域。破壊された家屋が痛々しい。
家屋のベランダに身を潜めたリュドレイク(
ga8720)はSMGを構えながら上空を見渡した。
「さて、高速飛行とは厄介な相手ですがね‥‥」
リュドレイク、覚醒すると普段よりかなり冷静な男になると言う。父親の形見のペンダントにキスすると、冷たい瞳を虚空に向け、キメラの出現に備える。
「‥‥こちら麻宮、配置に付いた」
「デイム・エンジェル‥‥配置についた」
デイム・エンジェル――アンジェラのコールサインだ。
三人は銃火器による遠距離攻撃主体。高所に身を潜めている。
能力者たちは開けた場所にキメラを誘い出し、迎え撃つ作戦を立てた。接近戦を担当する小夜子、ミア、シャーリィ・アッシュ(
gb1884)、赤崎羽矢子(
gb2140)らは地上の防壁などに隠れてキメラを待ち受ける。
「それじゃおっぱじめようか――行くよみんな! ここが奴らの居場所じゃないってこと、思い知らせてやろう!」
羽矢子はキメラの注意を引き付ける為にクルメタルP38を一発上空に向かってぶっ放した。
‥‥死の様な沈黙が落ちる。能力者たちは敵の出現を待った。手当たり次第に襲ってくると言う割には反応が無いが‥‥。
いや――。
「来たぞ、真正面から飛んでくる」
リュドレイクの言葉が無線機から届くのとキメラの出現はほぼ同時であった。
もの凄い速さで空を駆け抜けていく人型キメラ。ぶううん‥‥という残響が耳障りだ。昆虫のような薄い羽根を生やしたグロテスクな姿をしたキメラはまさにモンスター。
麻宮は家屋の屋根から銃を連射した。キメラも凄まじい速さだが能力者の反応も尋常なものではない。麻宮が放った弾丸は高速で旋回するキメラを捕らえた。
リュドレイク、アンジェラ、小夜子、羽矢子も射撃開始。弾丸の嵐がキメラを打ち抜く。
攻撃の初手は能力者たちが取った。
だがキメラたちも態勢を立て直すと、上空を舞いながら炎の弾丸を連発してきた。低空飛行からの絨毯爆撃。
炎弾が炸裂して家屋をなぎ倒す。
アンジェラは炎の嵐が過ぎ去るのを身を潜めて待った。高鳴る鼓動。間近で炸裂する爆風が体内のアドレナリンを活性化させる。
「1‥‥2‥‥3‥‥!」
再び壁から身を乗り出したアンジェラは上空のキメラ目がけてアサルトライフルの引き金を引く。ライフルを食らったキメラは空中でもんどりうって後退する。
麻宮も両手の拳銃を連発する。ドウッ! ドウッ! ドウッ! ドウッ! とラグエルとS−01の弾丸がキメラを打ち抜いていく。
キメラの反撃は炎弾の連発。麻宮は態勢を崩しながらも炎弾をかわす。と、背後からキメラの一体が体当たりを試みるも、麻宮はそれもかわした。だがバランスを崩して屋根の上から落ちた。地面に叩きつけられる麻宮。
「ちっ、やってくれるな怪物」
すぐさま起き上がると、麻宮は手近な民家に飛び込み、二階に上がった。
「落ちろよ‥‥化け物が‥‥!」
リュドレイクはベランダからSMGでキメラを攻撃。小夜子、羽矢子は地上の物影からキメラを撃っている。
能力者たちが張り巡らせた弾幕に、キメラは一旦後退し、町中に姿を消した。
「キメラは‥‥逃げた?」
ミアの問いかけが無線機に響く。
「分からない‥‥油断するな」
麻宮は銃の具合を確かめながら仲間達に警戒を呼びかける。
ミアは戦斧タバールを握りながら吐息した。さっきまでの銃撃と炎弾の応酬が嘘のように静寂が支配している。キメラは逃げたのか‥‥。
その時である――。ミアの背後に二体のキメラが姿を見せた。獣さながらに音もなく忍び寄るキメラ。
キメラは手を振りかざすと、ミアの背後から炎弾を浴びせかけた。
爆炎がミア包み込んだ――だが。
炎の中からミアは姿を見せた。無傷で。
「この程度か、なら、いける!」
ミアはキメラに踊り掛かってタバールを叩きつけた。
タバールの刃がキメラの肉体を切り裂く。キメラは咆哮を上げて体当たりしてくる。
「くっ‥‥にゃろう!」
体当たりを跳ね返したミアはタバールを振り回した。
しかしキメラは再び上空に飛んだ。
「ええい降りて来いっての! あたしも翼が欲しい気分だし! ――みんな! キメラは地上から奇襲攻撃をかけてくるよ! 背後を取られないように気をつけて!」
小夜子は無線機から響いてくるミアの声に後ろを振り返った。
「こちら石動、異常な‥‥!」
前を向いた小夜子にキメラが襲い掛かってくる。小夜子は間一髪でよけた。
「こちらにもキメラが!」
小夜子は蝉時雨でキメラに応戦。キメラの攻撃をかわしながら蝉時雨を叩きつける。切れ味抜群の刀身がキメラを切り裂く。
キメラは炎弾を吐いて後退する。小夜子は何とか炎弾をかわしてキメラを追う。
シャーリィもキメラから不意打ちを食らった。炎弾の連発を食らうが、それには耐える。
「炎を操る悪魔‥‥確か、バルログというのがいましたが‥‥まぁ、そんなことは些細なことですね‥‥!」
バスタードソードを叩きつけるシャーリィ。キメラは苦悶の叫びを上げて飛びのくと、体当たりで反撃。
AU−KVの装甲で体当たりを受け止めるシャーリィ。
「何のこれしき!」
反撃するもキメラは飛んだ、しかし――。
「逃がすものか‥‥その邪悪な翼が空を翔けることは二度と無いっ!!」
竜の翼――AU−KV専用の加速スキルで追いかけたシャーリィは家屋を踏み台にして飛び掛り、キメラの羽を切り裂いた。墜落したキメラは獣のようなしなやかさで着地すると、逃げ出した。
「待て!」
シャーリィはキメラを追いかける。
羽矢子も複数のキメラから炎弾の奇襲攻撃を食らったが、炎弾の威力は羽矢子の防御を貫くには至らない。
炎の中から、覚醒して鋭さを増している羽矢子の瞳がひたとキメラを見据える。炎を払いのけるように、羽矢子はキメラに向かって踏み出した。
キメラたちは上空に舞い上がると、空から体当たりを仕掛けてくる。
羽矢子は高速の体当たりを完璧に見切ってキメラたちの連続攻撃をかわす。
「こっちの方が危ないね‥‥!」
家屋を一撃で破壊するその威力は炎弾より勝ると見た。
立ち上がるキメラに羽矢子はハミングバードを一閃する。
「ミア、行くよ! 食らえ獣突!」
獣突、敵を後方に弾き飛ばす能力者のスキルだ。その一撃で吹っ飛ぶキメラ。
ミアは飛んできたキメラにタバールを叩きつける。
「今度は逃げんなよ空飛ぶ怪物!」
羽矢子は続いて体を回転させながら遠心力の一撃をキメラに叩き込んだ。「円閃」の一撃でキメラの翼を切り飛ばす。
麻宮は時折無線機から聞こえてくる仲間達の声に地上を見据えていた。仲間達の力を信じ、麻宮は動かなかった。
リュドレイク、アンジェラも同じく。
格闘戦には地上の四人に分がある。バックアップできないのは歯がゆいところだが、全てこちらの思惑通りに進むとは限らないのも戦いの常だ。
と、その時、シャーリィが迎撃ポイントにキメラを追いかけて姿を見せた。
「シャーリィ、麻宮だ。そっちの姿を確認した。バックアップする」
「了解、バックアップお願い」
「リュドレイク、デイム・エンジェル、バックアップを開始するぞ」
「了解」
「よし‥‥撃て!」
麻宮、リュドレイク、アンジェラはキメラに集中攻撃を浴びせた。
シャーリィが見ている前で、キメラの動きが鈍っていく。
「リロード! シャーリィ殿、逃がすなよ!」
「こいつは翼をもがれた怪物よ! 逃げられはしないわ!」
シャーリィは試作型機械刀――レーザーブレードを握り締めると、その刃をキメラに叩きつけた。レーザーブレードがキメラを切り裂き、キメラは遂に動かなくなった。
ミアは圧倒的な攻撃力でキメラを追い詰めていたが、まともにやりあっては勝ち目が無いと悟ったのか、キメラは飛んで逃げた。ミアは舌打ちして上空のキメラを見つめた。
「空に手が届かないのが残念だが‥‥」
一方羽矢子は羽をもがれたキメラを射撃班の前に追い詰める。
「赤崎、目標を確認した。バックアップを行う」
「了解、バックアップをお願い」
「バックアップ開始‥‥撃て!」
集中攻撃を浴びたキメラは、それからミアとシャーリィ、羽矢子の一斉攻撃の前に沈んだ。
その頃‥‥小夜子は上空からの炎弾攻撃を右に左にかわりしながらS−01で上空のキメラを狙い打っていた。
何とかキメラを仲間達の方向へ誘い出そうと小夜子は苦心していたが、キメラも高度を保って一撃離脱を繰り返していた。
だが、やがて上空に他のキメラたちがやってきて合流すると、編隊を組んでぐるぐる旋回した後、キメラは空の彼方に飛んで消えた。
少し時間を遡る。
二体のキメラを倒したあと、地上のミア、シャーリィ、羽矢子たちに、集まってきた残りのキメラが一斉攻撃を開始する。
体当たりの連続攻撃だ。地上の三人はキメラの攻撃を凌ぎながら反撃を加えていく。
「怪物も本気で怒ってるか?」
「そんなことは知りませんが‥‥向こうから出てきてくれる分には構わないでしょう」
「最後のあがきでしょう‥‥そう思いたいところですが」
麻宮、リュドレイク、アンジェラは飛び交うキメラに銃弾を叩きつけた。
だがキメラも麻宮たち援護チームを発見し、体当たりで突進してくる。
リュドレイクは壁を突き破って侵入してくるキメラを前に逃げる。二階から飛び降りて後退しながらSMGを撃ちまくる。
「さすがにいつまでも隠れてはいられないか‥‥」
麻宮、アンジェラも家屋から脱出し、キメラの攻撃から逃げる。
家屋を破壊したキメラはのっそりと起き上がり、獰猛な瞳で逃げた相手を探すが、能力者はあっという間に脱出している。
「食らえ流し切り!」
ミアの一撃がキメラのフォースフィールドを突き破り、シャーリィはレーザーブレードでキメラに痛撃を与えていく。羽矢子は体当たりをかわしながら円閃を叩き込む。
射撃チームも遮蔽物から反撃。そして、遂にキメラたちは後退する。
一体のキメラが遠吠えのような咆哮を上げると、残りのキメラたちは次々に空へ舞い上がる。
そして、逃げたキメラたちは小夜子と交戦していたキメラを回収して町から撤退したのである。
離脱するキメラと、戦闘区域から戻ってくる能力者たちを確認して、UPCの兵士達は立ち上がった。
「やったのか‥‥?」
能力者たちは戦闘の終結を兵士達に告げる。
「二体のキメラを倒したが、他は逃げたみたいだ」
「中々、完勝とはいかないものだが‥‥」
いや、と伍長は能力者たちの労を労った。
「よくやってくれた。こんな小さな戦いでも、勝利には違いない。まあ、ささやかな勝利ではあるが‥‥」
かくして能力者たちはラストホープに帰還する。
「無事に終わったのもこの指輪のおかげでしょうか‥‥ふふ‥‥帰ったらお礼を言わなければ‥‥」
小夜子の指には謎めいた指輪が光っていた。