●リプレイ本文
南米上空を飛ぶ八機のKVと四機の爆撃編隊は、順調に敵基地へ向かっていた。
「こちらケナ、哨戒班異状はないか」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は雷電を操りながら哨戒班に呼びかける。
「こちらソード(
ga6675)、今のところ敵影無し。‥‥噂の新型機が気になりますが。どんなものですかね」
「澄野よ、敵の姿は無いわね‥‥」
澄野・絣(
gb3855)はレーダーに目を落としつつ僚機のソードに軽くバンクサインを送った。
「こちら無月だ、異状はない。敵地だというのに不気味なまでに静かだな。エミタ・スチムソンが北米に戦力を割いた影響だろうか」
終夜・無月(
ga3084)は思案顔で呟いたが、確かにそれもあるかも知れない。
「アンジェリナ(
ga6940)機、異常なしだ‥‥」
ミカガミを操るアンジェリナは、レーダーから目を離すと、冷たい瞳で前方を見やる。
爆撃機の前と後ろを飛ぶ哨戒班、前方をソードと澄野が当たり、後方には無月とアンジェリナが当たっていた。
爆撃機の直衛には左翼にユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)、麻宮 光(
ga9696)。右翼にホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)と番場論子(
gb4628)が当たっている。
巨体に爆弾を満載した爆撃機はダイヤモンドを組んで飛び、傭兵たちと交信しながら粛々と敵地へ向かっている。
傭兵たちの二機、ユーリのイビルアイズと論子の斉天大聖は、万が一新型機と遭遇した場合に備えて、偵察用の高感度カメラを搭載している。
と、その時である。ソードと澄野のレーダーに三つの光点が浮かび上がって、こちらに猛スピードで接近してくる。
「どうやらお出迎えがきたようですね」
「敵機来襲よ、各機とも迎撃用意を」
編隊を組み直して展開する傭兵たち。
「頼んだぞ傭兵たちよ。一機たりともこちらへ近づけるな。敵さんも必死だろうがな、奴らを叩いて、例え小さくてもエミタの頬っぺたに平手打ちを食らわせてやる」
「あなた方の護衛を受けた以上は全機撃ち落としてやりますよ」
ホアキンは言って、スロットルを全開に吹かせる。
「行くぞ」
ユーリら、残るナイトフォーゲルも突進し、敵の迎撃に向かう――。
‥‥戦いは程なくして終わった。傭兵たちは大した被害も無く三機のヘルメットワームを撃墜。
「間もなく敵の基地に到達しますね。どうやら新型機の邪魔はなさそうですが‥‥」
論子はレーダーに目をやりながら、操縦桿を傾ける。
「こちら護衛機より、爆撃機へ、敵の抵抗を排除した。予定のルートから目標に向かって進入せよ」
ユーリはコクピットでレーダーを操作しながら爆撃機をナビゲートする。
「了解ワイバーン、予定の航路から敵基地に侵入する」
バグア軍基地上空――。
「よし、作戦地域に到達、爆撃を開始する」
爆撃機から次々と爆弾が投下されていく。
傭兵もロケットやフレアで爆撃を支援する。
地上からは散発的な対空砲火が反撃してくるが、さしたる意味はないに等しい。タートルワームかプロトン砲でもあれば話しは別だが、いずれにしてもUPCの爆撃機の高度に届く武器は無い。爆撃機は高高度から周辺一帯に爆弾を投下していく。
地上を彩る紅蓮の炎。火球が炸裂し、バグア軍基地を吹っ飛ばしていく。
傭兵たちは粛々と爆撃が基地を破壊していく様子を見守った。
「これで少しでも南米のバグア勢力に打撃を与えることが出来ればな」
ホアキンは地上の様子をみやりながら、レーダーと周囲の空を見渡す。
かくして、爆撃自体はさしたる抵抗も無く無事に終了する。
論子は速度を落とすと、低空飛行で地上の様子を撮影しておく。爆撃は成功、地上の基地は全くの残骸と化している。
「敵基地は完全破壊、無事任務は終了ですね」
「任務完了、傭兵諸君、ご苦労だった。作戦は大成功だ。敵の基地は壊滅した。これを以って我々は帰還するぞ」
バグア基地を紛れもなく完全に破壊して、爆撃機と傭兵たちはその場から離れるのだった‥‥。
それから一時間ほど飛んで、競合地域から抜け出そうという時、異変は起きた。
背後から、もの凄いスピードで何かが接近してくるではないか。
「後方より未確認飛行物体接近、全機警戒せよ。爆撃編隊、先行して基地へ戻れ」
無月は言って、機体を旋回させる。
「ヘルメットワーム、でしょうか?」
光るの問いにホアキンは眉をひそめる。
「だとすると不自然すぎるな、たった一機で、しかもこんな境界地帯へ突撃してくるとは‥‥まさか噂の‥‥」
次の瞬間、レーダーから未確認物体の光が消えた。
「消え、た?」
「光学迷彩か‥‥!」
「全機後退、敵の奇襲に備えろ!」
傭兵たちは編隊を組んで上空を旋回するが、その背後で次々と爆発が起こる。
「う、うわああああああ‥‥! 何だ! 敵襲だ! 敵の攻撃が!」
爆撃機が次々と撃墜されている。
そして姿を現した紫色の機体、バグア新型機。高感度カメラに、空中で静止する四枚の翼を前後左右に広げた、見たこともない機体がはっきりと捕らえられる。
「これが新型機‥‥と、何だ!」
ユーリは自身の操縦桿が効かないことに焦った。
他の傭兵たちも同様だ。KVや逃げる爆撃機がどんどんと何かの力で新型機に吸い寄せられていく。
「馬鹿な‥‥引き寄せられる‥‥!」
新型機は空中で静止したまま、獲物が引き寄せられてくるのを待っているようだった。
まずは手近な爆撃機が餌食となる。
無数の怪光線が新型機からほとばしり、瞬く間に爆撃機を沈めていく。
「た、助けてくれ‥‥! 逃げられない!」
「一体何が! 操縦が効かない! う、わあああああ!」
爆撃機は新型機の前に空の藻くずと消えた‥‥。
「あれが件の新型機‥‥まるで昆虫のようだな」
アンジェリナは冷静に新型機のシルエットを見つめていた。
「とにかく、論子とユーリ、どちらかの機体だけでも逃がさないと‥‥」
「ああ、俺たちが囮になる。ヴェルトライゼン機と番場機はとにかく逃げろ。ブースターでこの引力? を引き離せないか」
ホアキンは言ってブースターを起動させるが、不可視の引力はみるみるKVを引き寄せていく。
そして全ての機体を集めたところで、新型機は攻撃を仕掛けてきた。
その瞬間、操縦桿が元に戻ったので、傭兵たちは新型機と距離を取って離脱するが――。
バシュウウウウ! と光線がホアキンの雷電を貫通する。大爆発して一撃で壊滅的なダメージを受ける雷電。
「何だと‥‥ここまで強化した俺の雷電がたった一撃で‥‥!」
ホアキンは粒子砲にレーザー砲を新型機に叩きつけ、反撃を試みたが、続く第二撃を受けて、雷電は行動不能に陥って墜落していく。
「馬鹿な‥‥すまんみんな! こいつは怪物だ、逃げろ!」
「ホアキンの機体がたった二発で‥‥」
無月は機体を旋回させると、仲間達に呼びかける。
「ユーリと論子の機体を逃がす。こいつの戦力は不明だが、二人のどちらか、基地まで辿り着かせよう。残りの機体は新型機へありったけの攻撃を叩きつけろ」
「了解‥‥」
散開する傭兵たちは空中で不気味なまでの沈黙を保つ新型機に次々とミサイルを叩き込んでいく。
「ミサイル‥‥全弾発射!」
「発射!」
流れるような軌跡を描いて、ミサイル群が新型機に向かって飛んでいく。
新型機の大きさはKVより一回り大きい程度、大量のミサイルの直撃を受けて爆発と炎に包まれるが――。
「‥‥どうだ」
傭兵たちは静かに見守る中、新型機は悠然と態勢を整え、ゆっくりと舞うように移動する。そして一気に加速する新型機――。
ズバアアアアア! と無月のミカガミを新型機の怪光線が連続して貫く。
「く‥‥論子、ユーリ、映像を本部へ届けろ。この怪物はあるいはシェイドを越えるぞ」
墜落していくミカガミ。
「論子さん、もう十分だ。逃げるぞ」
「そうですね。ここまで映像を記録すれば、あとは本部に届けるまで」
論子とユーリはブースターを起動させると、一気に戦線を離脱していくが――。新型機も二人の後から瞬く間に接近する。
「論子さん! ユーリさん!」
ソード、アンジェリナ、光、澄野はブースターで新型機を追うと、食らい付いて近距離のバルカンやレーザー、砲撃を叩き込む。
「ユーリさん! 分かれましょう! 私かあなた、どちらかでも基地へ帰ることが出来ればそれで十分ですから!」
「了解! 論子さん‥‥幸運を」
論子とユーリは再度ブースターを起動させると、二手に分かれて脱出する。
新型機は‥‥攻撃をものともせずに論子の斉天大聖に向かって加速する。
論子は機体をロールさせながら回避を試みるが無駄だった。新型機の怪光線一撃で斉天大聖は撃墜され、ジャングルに落ちていく。
だがその間にユーリは逃げ延びる。
そして新型機は反転すると、残りの四機のKVに突進してくる。
「もういい、俺たちも逃げましょう。新型機、こんな怪物だったとは‥‥」
ソードは操縦桿を傾けると、ブースターで戦線離脱する。
「南米にこんな化け物が潜んでいたとは‥‥」
アンジェリナも脱出を図る。
「く‥‥こちらへ向かって来るわね‥‥」
澄野はブースターを起動させていたが、迫り来る新型機の射程内に捕らえられようとしていた。
「澄野さん‥‥!」
「行ってちょうだい光、私のことは構わずに‥‥!」
「畜生‥‥澄野さん‥‥すまない。必ず回収に戻ります」
光は苦渋に顔を滲ませて、脱出するが――。
そこで新型機はぶううううん‥‥と唸るような軋むような不明な音を出して、突如として失速する。何かの不調か?
「ん‥‥どうしたのかしら‥‥?」
「構うな澄野さん、ここは逃げよう。とにかく、いったん基地へ戻って、ホアキンさんに無月さん、論子さんの回収にもどらないと」
「それにしても、厄介なことになったな‥‥新型機がこれほどの機体だとは‥‥」
光の言葉に続いて、アンジェリナは思案顔で呟いた。
かくして、傭兵たちは命からがら、南中央軍の基地へ帰還するのだった。
‥‥一足先に逃げ延びたユーリは、ことの次第を基地の士官に伝える。
「何? 例の新型機が‥‥それほどの戦闘能力を?」
「ああ、まだ分からないことだらけだが、映像は俺の機体カメラに録画されてるはずだ。新型機のシルエットだけでも確認は出来ると思う」
「そうかご苦労。早速本部に解析を頼もう」
「それから、撃墜された仲間がいるんだ。まだ生き残っていればジャングルで助けを待っているはずだ。救助隊を出してくれ」
「分かった、サイレントキラーを飛ばそう。君はどうするか、捜索に協力できるなら同行してもらうが」
「ああ、行くよ。仲間を放ってはいけないからな」
そうこうする間に残りの四人が戻ってくる。ソード、澄野、アンジェリナ、光ら。
「新型機は何かの不調か、急に失速して、俺たちは何とか脱出した」
士官は傭兵から新型機の戦闘能力を聞いて、思案顔で頷く。どうやら新型機の戦闘能力はかなりのものらしい。これからの戦いにどう影響してくるか‥‥士官達は顔をつき合わせて厳しい顔つきだった。
‥‥ジャングルの中、ホアキンはかろうじて機能していた救難信号を出して、不時着した機体にもたれかかっていた。
自身の雷電は凄まじい強化をしているはずだが、それを容易く撃ち落とした新型機に、ホアキンは驚嘆していた。
やがて、上空にヘリが飛んできたので、ホアキンは無線機を使って呼びかける。
「助けに来てくれたか、待っていましたよ」
ヘリから梯子が下ろされてきて、ホアキンはそれを掴んで脱出する。
「無事だったか」
「何とかね。あの機体、まさかあんな怪物だったとはね」
ユーリから状況を聞くホアキン。
それから無月と論子の救難信号を受信して回収するサイレントキラー。二人とも何とか無事だった。
「厄介なことになったな‥‥あの新型機、バグアエース級の機体だろう」
「映像は持ち帰ることが出来ましたか‥‥私も危ないところでしたが」
無月と論子はとにかくもお互いの無事を確認して吐息する。
「傭兵の皆さんは無事で何よりでした。北米の戦いもありますので休む間もありませんが‥‥」
パイロットはそう言うと、サイレントキラーを旋回させる。
南米の空を見渡す傭兵たち。新型機の実力の一端を垣間見た彼らは、新たな強敵の出現に、更なる激闘の予感を覚えるのだった。
ユーリが持ち帰った映像はすぐさま本部で解析される。そこにははっきりと新型機の映像が記録されていたのである。圧倒的な戦闘力を誇るバグア新型機、その実力の一端は、UPCの警戒を呼び起こすのに十分なものであった。