タイトル:西安攻略マスター:安原太一

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 15 人
サポート人数: 2 人
リプレイ完成日時:
2009/10/12 21:41

●オープニング本文


 中国南部、重慶UPC軍本部――。
 室内のスクリーンに映し出される映像に、集まった百名以上の軍属傭兵たちは説明を受けていた。スクリーンの横には、UPC中国軍の若い士官が立っていて、淡々と作戦に関する解説を行っていた。
「――敵の戦力が判明した」
 士官は言って、カシャッ、と映像を切り替える。先の西安偵察任務において、傭兵たちが高感度カメラによって撮影したものだ。
「西安周辺二百キロ以内にある四つの基地、西安桃村空軍基地、西安咸陽国際空港、西安戸県空港、西安閻良空軍基地を中心に、敵のワームが展開している。今回、これら敵の戦闘能力を直接叩き、西安を奪還する」
 西安の奪還‥‥かつてアジア決戦の際に、ジョージ・バークレーのラインホールドが行きがけの駄賃に占領して行った西安は、現在バグアの支配下にある。これによって南北の兵站は寸断され、ゴビ砂漠のUPC軍基地GDABへの補給率が四十パーセントにまで低下している。
「GDABの補給が脅かされている件については、現在軍の総力を挙げてこれを回復せよとの司令が下っている。そのためには、西安のバグア戦力を叩き、かの地を解放せねばならない。無論、言うは易しであるが」
 士官は相変わらず淡々とした口調で、作戦の困難さを伝える。重慶から西安まではおよそ六百キロ、KVなら一時間足らずの距離だが実質敵地を縦断することになる。
「偵察の結果、西安周辺に展開する敵の戦力は五百機近いヘルメットワームに三百近いKV用キメラ、百機近いゴーレムに支援機のタートルワーム、キューブとメイズリフレクターが計千近く確認されている。敵の反撃は苛烈を極めるだろうが、軍が諸君らの奮戦に期待するや切である」
 士官は言って、傭兵たちの顔を見やる。傭兵たちはそれぞれに思案顔で敵の戦力を推し量った。暫しざわめきが広がって、それが収まるのを待って、士官は本題に入った。
「まずは、軍属傭兵の諸君には敵の航空戦力の排除に臨んでもらう。敵も黙ってはいまい、いずれ迎撃に出てくるであろうが、それに対して正面からぶつかってもらうことになる。激戦は必至、危険な戦いである。そのつもりで臨んで欲しい」
 だが――と士官は言葉を紡いだ。
「敵の大規模戦力に対して、西安の戦闘力が明らかになったことから、上層部からも我が軍の戦力を本格的に投入する目算が付いた。諸君ら、投入される友軍の総数は六百に達する。これらを四つの空戦集団に分割し、西安に向けて西と南方向から半包囲攻撃を仕掛ける。第一集団は西安西部から、第二集団は西安南西部から、第三集団は西安南部から、第四集団は西安の南南東から、それぞれ西安に向けて進入してもらう」
 士官は目の前の傭兵たちに向けて、所属する集団を明らかにする。
「私からは以上である。次いで、所属する空戦隊の隊長から個別の説明があると思うので、各員それぞれの持ち場において全力を尽くして欲しい。以上である」
 士官はそう言うと、傭兵たちは慌しく立ち上がり、それぞれの持ち場に向かって走り出す。

 中国軍の規模は例えば日本軍とは比較にならない。広大な戦域に莫大な戦力が展開しており、それゆえに大きな作戦となると、戦闘の規模も日本では考えられない規模となる。
 凄まじい数のKV――ほとんどが奉天製であるが――は西安の西から南方面にかけて展開し、バグア軍に対して攻撃を開始しようとしていた。
 沈黙する傭兵たちはコクピットから晴天の空を見つめる。やがてレーダーに反応が現れる。
「来たか」
「おいでなすったと言うべきだな」
「盛大に歓迎してやろうぜ。いや、歓迎されているのは俺たちかな」
「行くぞ。全機敵機との遭遇に備えよ。戦闘隊形を取れ」
 こちらもとんでもない数のヘルメットワームが出現する。レーダーを埋め尽くす無数の光点。
 ――西安南部で、大空中戦の幕が上がる。

●西安解放の空戦、戦力比
UPC中国軍:
基本的にH−114岩龍×2、HA−118翔幻×2、H−223A斉天大聖×4、H−223B骸龍×4を一つの空戦隊とする。他メガコーポレーションの機体も多少見られるが、大半は奉天製である。全軍の総数は50個空戦隊である。
第一集団西安西部は12個空戦隊、第二集団西安南西部は13個空戦隊、第三集団西安南部は13個空戦隊、第四集団西安南南東は12個空戦隊から成る。
奉天の機体が主力である。ラストホープでは少ないようだがそれなりに改良されており中国戦線を支えている。

バグア軍:
西安西部方面:ヘルメットワーム×100 キューブワーム×150 メイズリフレクター×100
西安南西部方面ヘルメットワーム×125 キューブワーム×150 メイズリフレクター×100
西安南部方面:ヘルメットワーム×125 キューブワーム×150 メイズリフレクター×100
西安南南東方面:ヘルメットワーム×100 キューブワーム×150 メイズリフレクター×100
ヘルメットワームは半数以上に強化人間が搭乗しており、エース機も存在する。強化型も多数。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
クレア・アディ(gb6122
22歳・♀・SN
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN
氷室 昴(gb6282
19歳・♂・SN

●リプレイ本文

 出撃前――。
 本部のUPC中国軍の士官たちは、ラストホープの傭兵たちから支援要請を受ける。西安攻略において出撃予定の600機のKV以外にも、さらにこの作戦に投入予定の待機戦力があると聞いた。
 今回は空戦が主だが、万が一西安周辺のタートルワームが動き出し場合の陽動に、武功空軍基地に対して敵タートルを誘引して欲しいと。
「それは構わんが‥‥」
 士官はちらりと皇流叶(gb6275)を見やる。皇は何ゆえかバニーちゃんの服装をしており、それを取り巻くようにスーツ姿の砕牙九郎(ga7366)にUNKNOWN(ga4276)、学らんの依神隼瀬(gb2747)がいた。
「可愛い隊長、いいだろう?」
「戦闘に相応しい格好とは思えんが」
「味方の士気に関わる。花があれば兵は潤いますぞ」
 そういうものか、と士官はUNKNOWNの言葉に頷いた。
 それから傭兵たちは、四つの班に分かれて、A、B班は第1集団と合流し、西部から南西部へ侵攻すること、C、D班は第4集団と合流し、南南東から南部の戦域へ侵攻することを伝える。
「では幸運を祈る」
 傭兵たちは重慶から出撃する。

 西武線域――。
 レーダーが砂嵐のように乱れて全く役に立たない。莫大なキューブとメイズリフレクターの壊滅的なまでの妨害電波。
 眼前の空には百機近いヘルメットワームが接近してくるのが見える。
 UPC軍のKV、傭兵たちも戦闘隊形を取って操縦桿を傾ける。
 A班のアルヴァイム(ga5051)はバンクサインを送ると、クレア・アディ(gb6122)、氷室昴(gb6282)、大神直人(gb1865)らも戦闘隊形を取って機体を傾ける。
「敵、目視で確認、これより攻撃に移る‥‥」
「さて、連中を十万億土に送ってやるとしようか」
「こちら、大神機! 敵機を確認。これより戦闘を開始する!」
 B班の鳴神伊織(ga0421)、ソード(ga6675)、アンジェラ・ディック(gb3967)たちも、互いにバンクサインを交換すると、操縦桿を傾けた。
「コールサイン『Dame Angel』、当該戦域にてHW群を目標として速やかに殲滅を完遂するわね」
「さて、この戦いを有利に進めて、これからに繋げて行きましょう」
「解放戦‥‥ですか、ここで勝ちを収めれば事は優位に動きますし気を引き締める事にしましょう」
 大空中戦の幕が上がる。緒撃でHWとすれ違うKVたちはライフルやバルカン、レーザーで応戦する。
「メイズリフレクターには気をつけないと‥‥」
 ソードは機体を旋回させながら凄まじい数のキューブやMRを視界に捕らえる。
 アルヴァイムは正面のHWと向き合うと、これをライフルで撃破する。
「まず一機‥‥」
 飛び交う友軍機と敵機が視界を埋め尽くしている。アルヴァイムは友軍の奮戦を信じて仲間達とともに敵の撃滅に専念する。
「‥‥アリスシステム‥‥起動‥‥敵機‥‥殲滅‥‥する‥‥」
 クレアはHWとの間合いを一気に詰めた。レーザーバルカンのトリガーを引く。
ズキュウン! ズキュウン! とレーザーがHWの装甲を貫く。ワームは反撃のプロトン砲を打ち込んでくる。
「‥‥この程度で‥‥」
 クレアは操縦桿を傾けると、ローリングで敵機の砲撃をかいくぐる。
「これだけいれば撃てば当たるな。此方にも言える事だが」
 氷室はライフルでHWを粉砕すると、右前方にいるキューブにライフルを向ける。
 と、そこで下方からHWのプロトン砲が飛んでくる。直撃が機体を揺らす。
「ちっ、くらったか。だがまだ堕ちはしない」
 氷室はスロットル全開で逃げたがHWは追撃してくる。後方から飛んでくるプロトン砲をローリングでかいくぐって逃げる。
「有人機か。やるな、格上の相手はしたくないんだが、そうも言ってられない、か」
 そこへアルヴァイムが援護する。敵の側面から攻撃を加える。
 氷室は後方に首を動かし、アルヴァイムのディスタンがバンクサインを送っているのを確認する。
「助けられたか」
 氷室は体勢を立て直すと、逃げていくHWに逆襲を加える。
「逃がすものかよ。これでも‥‥食らえ」
 氷室はミサイルを叩き込んだ。爆発轟沈するHW。
 大神はD2ライフルで僚機の援護を行っていたが、大乱戦に敵の接近を許す。
「AEC起動! 悪いな‥‥そう簡単にやられるわけにはいかないんだよ!」
 シラヌイの機体特能AEC。HWのプロトン砲を跳ね返してバルカンで反撃する。
 砲撃を雨あられと受けたHWは距離を保つ。大神も距離を保つと、D2ライフルによる攻撃に切り替えて敵のプロトン砲はローリングでかわす。
 アルヴァイムのディスタンは戦場で猛威を振るい、敵ワームを次々と落としていく。スコープを覗き込みながらメイズの核を探していた。
 形の異なるメイズの核を発見すると、一気に接近してライフルで粉砕する。
 一方、伊織、ソード、アンジェラは三機一体で編隊を組んで飛び、HWを迎撃する。相変わらずレーダーは壊滅的で、有視界内での戦闘が続く。
「さすがに‥‥これだけの敵を押し返すのは至難ですね」
 伊織は言いつつHWを捕らえると、ミサイルを放った。ミサイルは直撃してワームを爆発で包み込む。
 アンジェラは味方の上方に位置取りし、接近してくる敵機に対して打ち下ろす形で迎撃していた。
「味方も中々に頑張っているようね‥‥それにしてもこの頭痛は‥‥これだけのキューブがいると厄介ね」
 時折キューブの密度が濃いところへ入り込んでしまうと味方の攻撃が全く当たらず、かつ敵の攻撃はしばしば直撃した。
「よし‥‥ここで行くぞ」
 ソードは味方にバンクサインを送ると、必殺のレギオンバスターの発射を伝える。
 伊織とアンジェラはバンクサインで答えると、ソード機の支援に当たる。
 ――レギオンバスターとは、ブースターとPRMを起動。練力を状況に合わせた能力に使用しミサイル1500発を全弾発射するソード機フレイアの空戦必殺技である。
「兵装1、2、3発射準備完了。PRMをAモードで起動。マルチロックオン開始、ブースト作動」
 照準に次々と15機のHWがロックオンされていく。
「ロックオン、全て完了!」
 そしてソードは1500発のカプロイアミサイルを放出する。
「『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
 ドドドドドドドドドドドドオオオオオオオオン――! と凄まじい轟音とともに、放たれたミサイル群が逃げるHWを追尾する。
 そして次々と命中するK−02ミサイルの嵐。空中で火球が炸裂し、空を紅蓮の炎で染め上げる。
 その弾幕の間隙を縫って、追い討ちをかけるようにアンジェラが飛び出す。8.8高分子レーザー通称アハトを叩きつけながら接近。SESエンハンサーを起動させると、レーザーガンオメガレイでHWを叩き落していく。
 ソード機は伊織の支援攻撃を受けながら前進する。伊織はコクピットから周囲を見渡していた。
「お見事です‥‥ソードさん。敵機は壊滅‥‥まだまだ油断は出来ませんが」
 戦闘が進んで、キューブが多少排除されたことで僅かに通信が回復する。それでもレーダーは壊滅したままだが。
 そうして西部戦域はUPCが優勢に戦闘を進めていく。が、完全に征圧するには至らず、南西部の戦域に進むにはさらに時間を要することとなった。

 南南東戦域――。
 C班の皇流叶(gb6275)、砕牙九郎(ga7366)、UNKNOWN(ga4276)、依神隼瀬(gb2747)らは、綿密な打ち合わせの末に、幾つかのコードを皇が発令し、それに従ってチームが行動を行うという策を立てた。
 厳密には四つの主コードとそれに付随する九つのコードの組み合わせである。
「C班各機‥‥に通‥‥達、コード1−α‥‥目標12時方向。‥‥行くぞ」
 雑音の中、皇の通信が伝わると、砕牙とUNKNOWN、依神は皇機の護衛に回る。コード1−αは皇が他機に護衛を任せ、メイズリフレクターのコアを探索する。
 飛び交うプロトン砲と敵機の中、味方に守られ、皇はリフレクターのコアを特定する。
「よし、コード1−β。目標‥‥2時方向だ‥‥特大のひし形ワームを撃て」
「了解」
 三機のナイトフォーゲルは皇を守りつつも、2時方向にいるリフレクターのコア集団に集中攻撃を仕掛ける。瞬く間に粉々に砕け散るコアの集団。傭兵たちはそのまま周辺の分身も粉砕する。
 皇を中心としたトライアングルを形成し、戦闘空域を移動する四人。
「コード2−α‥‥目標‥‥9時方向‥‥攻撃開始だ」
 対有人機コード発令。すると、依神がUNKNOWNと砕牙の横からスライドして飛び出し、敵HWに弾幕をばら撒いて牽制する。
 そこへUNKNOWNと砕牙が突撃、一気に勝負を掛ける。砕牙がライフルを叩き込めば、UNKNOWNがガトリング、ソードウイングの連続攻撃を仕掛ける。
 爆発轟沈するワーム。敵を葬り去れば、すぐさま元の隊形に戻り、皇の護衛に三人が付く。
「しっかしキューブも尋常な数じゃないねえ」
 依神は手近なキューブを叩き落しながら頭痛に眉をひそめた。キューブの怪音波が密集しているところではほとんど攻撃が通用しない。
 雑魚ワームはUPCに任せ、指揮官機やエース機を狙う四人だが。と言っても敵も味方も大軍なので好き放題に動き回ることが出来るわけではないが。大量のキューブやMRなどに遭遇すると足止めを食う。何とか乱戦を制しつつ、少しずつ敵のエース級と対峙する。
「‥‥行くぞ‥‥コード3−β‥‥6時の方向へ攻撃‥‥開始‥‥」
 皇が再びコードを発令する。依神は敵の注意を逸らすべくG放電ミサイルを発射。敵指揮官機周辺で放電が炸裂し、傭兵たちは魚鱗の陣で突撃する。
「ぬう‥‥!」
 強化人間はHWの中で閃光に手をかざしていた。
 UNKNOWNを先頭に猛進する傭兵たち。HWの反撃を跳ね返してUNKNOWNのソードウイングが切りつける。大爆発するHWに、砕牙のライフルと依神のレーザーが叩き付けられる。敵の反撃を回避して連続攻撃を浴びせるUNKNOWN。
 ドゴオオオオ‥‥! と指揮官機は爆発消滅する。
 そうしてまた、派手に塗装された敵エース機を捕らえてコード4を発令する皇。
「コード4−β‥‥全機‥‥攻撃開始‥‥3時の方向‥‥行こうか」
 皇、砕牙、依神がエース機を半包囲して攻撃し、上空から迂回したUNKNOWN機が強襲――。
 ソードウイングがエース機を貫通する。激しく爆発するエース機。
「ここまで大規模な攻撃を仕掛けてくるとは‥‥西安の偵察で人間どもに戦力を暴露されるとは何たる不覚‥‥」
 強化人間のエースは猛追を受けたが最高速で逃げ切った。
「この作戦が成功すれば、他方面への補給が行き届くように、また中国奪還への足がかりに成る筈‥‥! でも、相手もそれが分かっているならば‥‥厳しい戦いになりそうです」
 D班のフィルト=リンク(gb5706)はソーニャ(gb5824)とロッテを組み、前方のセレスタ・レネンティア(gb1731)とアンジェリナ(ga6940)を援護していた。
 フィルトたちが瀋陽攻略に向けてUPC軍が大規模作戦を展開しようとしていることを知るのは、この戦いが終わって、ラストホープに帰還してからのことである。西安攻略はその前哨であり、瀋陽攻略のために開始されることになる、GDABからのハルピン攻撃任務への支援という事情があったのである。ここで勝ってGDABの補給を回復させることは、ハルピン攻撃の稼働率を上げるためであった。
 ‥‥次々と迫り来る敵機を、C班とともに迎撃しながら、フィルトは操縦桿を握る手に力が込もる。飛び交う閃光の嵐、プロトン砲の中をローリングしながら駆け抜け、セレスタとアンジェリナを後方から援護する。
「やってみせる、ボクがこの戦域を支配する」
 ソーニャはロビンを操りながら飛び交うプロトン砲をバレルロールで抜ける。
「α、戦況膠着、敵右側面からの切り崩しを進言」
 敵陣を見やりつつ、壊滅的な通真に声を向ける。
「我等、天秤を傾ける最後の一欠けらとならん」
「セレスタ、FOX2」
 アンジェリナのウイングマンを務めるセレスタは前方のHWに向かってAAMミサイルを発射する。
 回避行動を取るHW。アンジェリナはライフルで突進してソードウイングで切り付ける。
 平行してフィルト、ソーニャは周辺のキューブを潰していく。
「敵集団‥‥接近‥‥注意を‥‥」
 フィルトは前方からやってくる敵機に警戒を呼びかける。
「ロックオンアラート、ブレイク!」
 セレスタはミサイルを次々と放出する。散開する敵集団。
 きゅん! と鋭角軌道で接近してくる白いHW。敵エースである。雑魚ワームから反撃のプロトン砲が飛んでくる。
 セレスタはローリングしながら回避し、ガトリングで牽制する。
 フィルトもAAEMミサイルを放出すると、ロールしながら敵エースに狙いを定め、ドゥオーモミサイルを放つ。100発のミサイルがエースを襲う。
 逃げるエース機に、アンジェリナが突進する。
「空戦コード“SS”認証。銀の流星‥‥仕掛けるぞ、ADVENT」
 そしてミサイル発射。空戦マニューバ「流星」。ミサイルを放ち、ブースト加速でその軌跡を辿るように敵に接近してソードウイングで切りつける。敵機はミサイルもウイングも十分引きつけてから回避しなければ避けづらい。だがミサイルを重点に避ければ後発の剣翼はまだ操縦桿を切る余裕があり、逆に剣翼を重点に避けようと引きつけるなら先発のミサイルが当たる事になるという試みのマニューバである。
 果たして、エース機はミサイルに対して回避行動を取った。ブースターで加速するアンジェリナのミカガミが逃げるエース機に切りつける。
 直撃を受けて爆発するエース。だが体勢を立て直して反撃してくる。アンジェリナは数発食らったが、セレスタが援護に入るとエースは後退する。
「ん‥‥後方より機影接近、散会して牽制します。迎撃体勢よろしく」
 最後尾についていたソーニャは首を後ろに巡らせると、インメルマンターンで背後に向きを変えると、ミサイルを連発した。
「ボクに奇襲は利かないよ。後ろにも目がついているんだから」
 D班のフォルト、ソーニャたち四人は前後の敵をC班とともに撃退する。
 こうして、南南東地域は比較的早めにUPCが有利に戦況を進めていく‥‥。

「‥‥敵ワーム、撤退します」
 キューブのジャミングから解放されたUPC軍の回線に、敵が撤退していくとの知らせが流れる。
 想定ではバグア軍は百機以上の撃墜を出して後退した模様。半数以上に大打撃を与えたようである。
 一方UPC軍には30機ほどの撃墜があり、戦死者も出た。
 基地に戻った氷室は、最初にコクピットから下りると、西安の空に向かって敬礼した。散っていったUPC軍の戦士に‥‥。
「空しいな、人の死は‥‥」
 こうして、西安攻略はひとまずの成果を上げ、GDABへの補給は改善されるだろう。
 そして、ラストホープへ帰還した傭兵たちは、中国で瀋陽攻略に向けた大規模作戦が始まることを知る。